カオ転三次 転生者がガイア連合山梨支部を作る話   作:カオス転生三次っていいよね

13 / 15
義孝の組織 交渉 人事 実働

「どうだろう、悪い条件ではないと思うがね」

「確かに、こちらとしても受け入れるに否はありません」

 

 ある程度転生者による民間での転生者救援団体兼互助組合としての評判を作り上げられた頃だった、財産を作り上げた転生者が接触してきたのは。

 30少々の恐らく戦後ほぼ間もなく誕生したであろう年でありながら、前世の知識と恐ろしいまでの相場眼により名を馳せた日本財界の怪物。

 彼が接触してきた理由はあまりにも単純だった。

 

 メシア教はじめとする荒事、ダークサマナーや最近の変事からの護衛、霊的知識による防衛強化、自身の覚醒、はっきりいって転生者でなくとも求める類のことだ。

 それに対しての報酬は自身で動かせる限りの金銭と、表向きの身分であるダミー会社への援助や投資、自身の同類の転生者富豪への繋ぎ。

 

「しかし、このような零細を選ばずとも日本にはそれなりの組織もあると思いますがね」

「分かっているだろうに」

 

 無言で肩をすくめることを返事とする。

 まず日本で接触できる霊能組織の代表である根願寺は表の人間が踏み入れるのを嫌う、精々が資金援助による護衛までで結び付くには弱い上、技術提供なども渋られるだろうから流した金は会社への得にもならない宗教団体への献金としか映らない。

 地方霊能組織はそもそも余裕がない、金銭援助である程度どうにかならないこともないが一から育ててずぶずぶになる覚悟がいる、地元の名士への賄賂扱いになるのも避けられないだろう。

 ガイア連合はまだ資金調達や近代技術の取入れに柔軟さが残っているように見られているだろうが、元々地方の地主などを兼ねていた有力者が組織内に多いだけあって地元の会社と結びつきが多すぎてすぎて旨味が薄い。

 大和産業や拳母自動車、最近は日本の半分近くの霊地異常活性変事を抑えた事を契機に根願寺の仲介を経て政商としての顔の強い四菱、新規に参入しようにもお手上げなのが本音だろう。

 

 会社として投資するなら勢いのいい成長が予期されつつも柵がなく、恩が着せられるだけ未熟なところが良い、当たり前の話だ。

 答えを知っているという絶対的な技術におけるアドバンテージを持つのが転生者だ、大量に集めて自由にさせられるだけの縛りの緩い会社と金を与えられれば、なんていうのは子供でも分かる。

 まして覚醒の方法も握っている以上、情熱が健康問題で押しとどめられるなんてことも基本的にない、至れり尽くせりだ。

 その上で霊的な防護についても保証してくれる警備会社も兼ねる、唾をつけない方がおかしい。

 

「さて、それではさっそく一つ、見せましょうか」

「ん?おぉ、随分と質のいい…あぁ、成程、オカルトとしては定番だな」

 

 くっと持ち込んだ万年筆に自らの血を流しいれ、書類にサインをすると、赤いインクで書かれた署名が光を上げ、しばらく間を置いて収まる。

 演出だが、こっちの方が受けがいいだろう、実際目をきらめかせている。

 

「これでこの契約は破棄できない、書類自体も破ることもできませんし、上書きもできない。

 気になる様ならお試しを、ペーパーナイフを突き立ててみても構いませんよ」

「では遠慮なく」

 

 にやりと笑みを浮かべてざくざくとナイフを差し込み破れないと笑い、インクツボをひっくり返しても一つのシミもできないと笑う姿は子供っぽい。

 まぁ彼からすればようやく手に入れた本物のオカルトへの切符だ、はしゃぎたくもなるだろう。

 

「ふはははは!凄いなこれは、あぁ、良いものを見せてもらった、ありがとう。

 ところで一つ聞きたいんだがね?」

「どうぞ」

「これを見せてもらった代金をこの契約に上乗せするにはどうすればいいのかね?」

 

 悪戯っぽい笑みはなるほど社長をやるだけあって、どこか人を引き付ける魅力があった。

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

『仁藤浩司…じゃあ、今度もニコくんだね、けど普通の名前になっちゃったねー、虎太郎ってかっこよかったのに』

 

 会えるはずもないと思っていた幼馴染が、知らない顔をしてそんな事を言っていた。

 俺は…なんて言ったんだっけな、確か、すごく怒らせたことだけは覚えているからデリカシーのないことを言ったんだろう。

 

『えぇ…ネットで知り合った人と会うのぉ?

 やめときなよ、危ないって』

『お前こそ、母さんが教会行ったりしてるんだろ?

 メシア教ってすげぇ怖いんだぞ、そりゃ表向きは立派だけどさ、離れるように言っとけよ』

『うへぇ…無理無理、神父さんに心酔してるもん、言ったら怒られるどころじゃすまないって』

 

 その後も散々言ったけれど、結局翻意させることはできなかった、家出するなら来てくれるって約束だけは出来た。

 そしたら同棲だなって、少し浮かれたからそれを見せたくなくって余計に抑えてぶっきらぼうに対応したのを覚えている。

 

『頼む!俺の町でメシア教がなんかやるみたいなんだ、多分ろくでもないことだ、力貸してくれ!』

『構わない、そのためのこの組織だ。

 あぁ、ただ…後悔はするなよ』

 

 トロワは多分分かっていたんだと思う、覚醒者としての、人間を越えた力を人の目の前で振るうって事の意味を。

 …そして敵でも人でなしでも、なにかを傷つけることが出来るやつは”ふつう”の奴らにとっては恐いんだって事を。

 

 ざぁざぁと、雨が降っていた。

 

 妙なにおいが漂う中で並ぶ、虚ろな目にどこか薄く恐怖を漂わせたメシア教の服を着た見知った顔と、生贄のように捧げられたいつも河で釣りをしてた爺さん。

 もらった泥臭い魚を母さんがやりづらいと文句を言いながら捌いて、家で不味い不味いと言いながらよく食べたのを覚えている。

 爺さんの血が流れる中にぽつんとたたずむ天使と、メシア教の教徒。 

 

『ここか!助けに来たぞミナぁ!』

 

 怒りに任せて切りかかる俺は、それでも転生者故の才能か、その時すでにトロワからそれなりに鍛えられていたからか、あっさりと天使とメシアン共を切り捨てていた。

 そして…あぁやめろ、やめてくれ

 

『は…は…ふぅ、さぁ、もう大丈夫だぞ!

 ほら、みんなもう生贄に捧げられることもないんだ、家に帰ろう!』

 

 戸惑う俺に向けられるのは正気に戻った町のみんなの色濃い恐怖と怯えが浮かぶ目ばかり、それに気づかない様に…いや、気づきたくない様にあいつに近づく俺を避けるように人垣が割れる。

 

『あ、ほら、ミナ、もう、大丈夫だから、ほら』

 

 伸ばした手の返事は、心底怯えた顔と、顔に投げつけられた銀の燭台だった

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 布団を蹴り飛ばすようにして起き上がる。

 いやな夢の後味を忘れるために枕元に置いておいた寝酒を煽る、最初は未成年飲酒だと気の引けていた事なのに今ではもう手放せなくなってしまった。

 ぐいぐいと喉を通るままに流し込み、頭の鈍る感覚を享受する、不健全だとは思うが辞められない。

 

「がふっげほっか、ふ…はぁ」

 

 飲み干した瓶を投げ捨て、壁に背中を預けてずるずると座り込む。

 ようやく、多少トンでくれた。

 

「ったく、嫌な夢ぇ見ましたねぇ。

 もう2年も経ったんですから忘れていいと思うんですがねぇ、我ながら女々しいことで。

 あぁ、勿体ねぇ、高い酒だってのに全部味も分かんねぇまま飲んじまった」

 

 やりたい何かを見つけることもできないまま、トロワに言われるがまま色々やった結果溜まった仕事の報酬で買った、御幾ら十万円の酒が割れた瓶から少しこぼれているのを見ながら、ぼんやりと今日やることを組み立て始める…仕事で忘れるために埋め尽くそうとする。

 

「あぁっと、ネットの風聞作りと…あぁ、シバキグループとチャットで誘い込まにゃならんか。

 後…後何があったかな、あぁそうだ、追い込まれ組のフリャァ達をメンタルケアして、救出のも転がってたな、あれもやるか…」

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 手甲に刃を取り付けた武器で、悪魔どもを片っ端から斬り捨てる。

 小さな氷の妖精を相手の出す吹雪を突っ切って真二つに切り捨て雪に戻し、ひょろひょろとながいイタチのような狗神が噛みつきに来るのを避けて足で踏みにじって叩き切り、レオタード姿の淫魔の飛ばす雷を避けてそのまま顔を叩きつぶすように脳に爪をぶち込む。

 

「くそっくそっくそっ!」

 

 依頼をこなす中でも分かる、これで強くなれてはいない、足踏みをしていると。

 俺を好き勝手にいじくり回したメシアンの後ろにいる天使、奴らを倒すにはまだ足りない、そして俺が足踏みをしている中でも犠牲者は出ている。

 実力が足りない、時間が足りない、組織力が足りない、何もかもが足りない。 

 

 

「----!?」

 荒れる心のままに闇雲に戦う中で、いきなり背筋が凍った。

 バケモンみたいに強いのがいる、そしてそいつはこっちを見ている。

 

 はっはっと犬のように荒れる息を必死で静めて構えを取る。

(逃げる…無理だ、戦う、無理だ、どうすればいい、どうすれば)

 かつり、と音が鳴り、そいつが姿を見せた。

 

「おや?人間…あぁ、そう言えば民間へも依頼を出していたと言っていましたね、引き下げ忘れでしょうか。

 怯えさせてしまってすいません」

 

 姿勢も、顔も、肌も、表情も、何もかもが美しい少女がひどく穏やかな声で、心の底からこちらを思いやっていると分かる笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

「なるほど、あなたが例の組織の、うわさは聞いております」

「は、ガイア連合の大物様に知られているなんて光栄なことで」

 

 情けなくへたり込んだ俺を心配したのか、彼女が持ち込んだ救助用だという小規模結界の中で軽食を貰っていた。

 ずるずるとカロリー補給用の甘ったるいココアを啜る俺の顔を見る彼女は…なんというか、ひどく、戦いが似合わなく見えた。

 俺が悪態をつけるくらいに回復したことの方を嬉しく思って、きつい口調なことも何も気にせずにこにこと穏やかに笑みを浮かべて慣れた手つきでクラッカーに切ったチーズを載せている姿は、武装を除けばあまりにも日常の香りがした。

 

 だが、分かっている。

 刃はあるのだと、俺など足元に及ばないほどに強いのだと。

 だからこそ、その平和な在り方にひどく腹が立った。

 

「なぁ…あんた、強いよな、戦えるんだよな、そんでガイア連合で、日本人守ってんだよな」

「えぇ、強いですよ。まだまだですが」

「なら!なんでメシアのクソ共に切りかからない!あいつらのせいで傷ついてるのがどんだけいると思ってる!」

 

 言ってしまった後に、少しだけしまったと思った。

 力不足を悔いるような、ひどく悲しそうな顔をした彼女に、一瞬言葉が止まった。

 

「本当に、ごめんなさい。

 私の力不足です、今の私では…私達では彼らを排した後、怒り狂って襲い来る彼らから日本を守れない。

 だから穏便に変事を収め、治安を取り戻して彼らの蛮行を抑え込むのが限界なのです。

 私の力不足の犠牲になったであろう方々には…あなたにはどのように侘びても足りません」

 

 俺に頭を下げる彼女には一欠けらも八つ当たりを疎むような気持が感じられなかった、見た目からして俺と同年代か年下か…なんにせよ俺を守れなかった責任なんて筋違いだろうに。

 

「……だったらぁ!なんで国防だの日本を守るだのと言う!力不足なんだろうが、期待させるなよ!」

「それもまた、期待を抱いていただきながら裏切ってしまったことを謝るしかできません。

 本当に申し訳ありません。

 私達の掲げた旗に集う方々の力を借りてより多くの人の平穏を守るため、傷つき疲れ切った方々にすこしでも安心と希望を与えるためにと掲げた未だ道半ばの名目です。

 しかし、守れなかった方の絶望を深めた事は………詐術にかけてしまったことには、本当に…申し訳ありません」

 

 はたはたと、涙が垂れて地面を濡らす姿にたまらず、逃げるように走り出していた。

 

「くそっくそっくそっくそったれがぁぁぁぁ!!」

 

 分かっているのだ、あいつが正しいことも、必死に頑張って人の平和を守ろうとしてくれていることも、心底俺たちを慈しんでくれていることも、短い間でも痛いほどに伝わった。

 分かっているのだ、俺がやったのがあいつを傷つけるだけの最低の八つ当たりだって事も、今はメシアに手を出すべきでないって事も…やったら大勢死ぬって事も。

 

 それでも我慢できずに言った、言ってしまった、被害者を笠に着て。

 守りたくって力が足りないなんて俺も一緒なのに、その情けなさが、悲しさが分かるはずなのに。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 怒りなんかなく、どこまでも誰かを守る為に…俺達を守る為ことだけを純粋に考えているあいつと比べて、ひどくちっぽけな自分が惨めで、叫ぶしかできなかった。




義孝居ない影響として異界攻略の遅れや高精度アナライズで葛葉の隠匿を見抜ける戦闘力もある実働員がいなかったりでガイア連合の方に葛葉ライドウの指が行かないままただでさえギリギリだった付き人が力尽きてます
後々まだ穏健なメシア教通じて探るときに発覚したりはしますが、しばらくは懇願寺が霊的国防組織ですね
あと葵が2話時11→15アンチくんが現在16です

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。