カオ転三次 転生者がガイア連合山梨支部を作る話 作:カオス転生三次っていいよね
「これは・・・?」
「お兄さん?」
佐渡島金山大異界を探索していると、妙な術式の痕跡を見つける。
追跡妨害、匂い落としに気配落とし・・・徹底している、それにこれは明らかに悪魔ではなく人間の術式だ、使われてる幾つかの式に何度か見た覚えがある。
「・・・かなり古いが、実力者だな、葵。ついてきてくれ」
「うん」
入り口で待機させている支援チームに式を飛ばし、じりじりと警戒しつつも術を辿る。
俺が間近で見てやっとわずかに掴める程度・・・遠隔だと佳乃でも掴めないのは無理はないか、ガイア連合として発展させてきた術式とは別物だが洗練の度合いで言えば同等、何者だこいつは?
草を分け入り、岩を避け、幻覚を解き、結界をすり抜ける。
じりじりと1時間、ようやく何かが・・・死臭?いや、まだ生きているか。
脇道の小さな小さな洞、小柄な人が座り込んでようやっと収まる程度の中にじぃっと、何年そうしていたのか分からない老婆がいた。
「お兄さん、これ」
「あぁ、落ち着け、俺が対応する・・・下手な刺激を与えたらその場で死ぬぞこれは」
回復を準備しつつ声をかける・・・不味いな、術で随分と生命活動を緩めていたみたいだが、20年・・・いや下手をすれば30年か?
こちらが二の足を踏んでいると、向こうが先に気づいたらしい、いや、元々結界を抜けた時点で気づかれてはいたのだろう。動けるようになったのが今と言うだけで。
「あぁ・・・何と眩しき力・・・あなたは・・・その服、ヤタガラスの者でありましょうか・・・?」
「いや、それを継がんとは思っているがな。未だ日本の半分程度しか守ること叶わない未熟な身だ。
そういうあなたは葛葉か」
「・・・何と言う僥倖・・・託すことができる・・・」
「おい待て、明らかにあなたは死にかけている。聞こえるか?気をしっかりと持ち直せ、これを含むんだ」
虚ろな目でぼそぼそと力なく言葉を漏らす老婆に霊薬を与えんとするも、老婆は拒否して懐に仕舞った小さな桐箱を取り出す。
「雷堂様を・・・頼みます」
「あぁ、受け取る、任せろ、だから・・・」
言い切る前に老婆の力が抜ける、霊の気配すら感じられない・・・本当に力の一筋を絞り切ったのが今なのだろう。
「・・・その人」
「あぁ、すぐ埋葬してやる・・・それにしても、ライドウだと?」
小さな桐箱からは、じりじりと力が漏れ出していた。
―――――――――――――――――――
「それで、渡されたのがこれってわけ?」
「あぁ、流石にこれは俺から直接お前に渡すべきだと思った」
「多分正解ね・・・鳥羽!60代以上、大規模異界を管理していた家の元当主級の人間を呼び出せるだけ呼び出しなさい!!」
ライドウ・・・いや雷堂、その名の意味は恐ろしく重い。
帝都守護、いや、日本のすべてを守り続けて来た葛葉四天王の中でも最強の名。
メシア教の姦計によって国を質に取られ滅んですでに30年は数えた今ですら霊能者の家に生まれたものならば誰もが知っている。
「葛葉四天王が自害を強要された後、遺体は返還されていない、全てメシアが持ち去ったまま。
・・・これ以外はね」
小さな桐箱を開けると、切り離されて尚霊的な力に満ち溢れ、瑞々しさを保つ足の指が入っていた。
感じる力は恐ろしく強い、義孝が鍛えぬけば至れるであろう果てに指を掛けているとすら思える。
間違いない、本物だ。
「これが日本をずっと守ってくれた方の・・・お葬式、上げてあげなきゃね、確かまだできていないんでしょう?」
「えぇ・・・きっちりと弔ってあげなければね、けれどその前にすることがあるわ」
葛葉四天王の死後、葬儀は誰のものも行われていない。
メシア教の介入によりカルトの一員として国をたぶらかしたA級戦犯であり、極悪人とされた人間の葬儀など真実はどうあれ行えるものではない。
なにより奪われた肉体の行方すら知らぬ間に下手な儀式をすれば本当に魂すら奪われることになるかもしれない、それが恐ろしかった。
だが、ここには指がある、確かな導がある・・・私の占術であれば行けるはずだ。
「河口、三木、姉小路、仰せにより只今罷り越しました」
「来たわね、単刀直入に言うわ、集められるだけ、手が空いているものを全員動員体制に移しなさい、半数はメシアへの警戒に回して」
「お待ちください、いったい何事が起きたというのです、流石にそれを聞かねば動けませぬ」
「あぁ、ごめんなさいね、けれどあなた達もこれを見れば・・・聞けばこうなるわ」
不穏にも聞こえる言に三人の顔が曇る、あからさまな変事。
ましてこの三人は保守派も保守派、戦後のメシア教による乱暴狼藉を見ていたからこそ殻にこもる様にしていた者たちだ・・・葛葉を、ヤタガラスを、心底慕い、国の安泰を信じていたからこそそれが覆されたときに誰よりも先を悲観し守りに入った者たちだ。
「これなるは先の大戦でメシア教の陰謀に散った葛葉四天王、葛葉雷堂の指。
葛葉の忠義者が異界に潜伏し、守り続けていた正真正銘の遺体・・・私はこれを用いて占を行う。あなた達には行方知れずの葛葉四天王を取り戻してもらう、葵と義孝も別件でかなり派手に動いてもらうことになるわ」
――――――――――――――――――――
メシア教の教会に悲鳴が響く。
ガイア連合のうわさは聞いていたが全く意識していなかった、所詮は小さな島国のこれまたちっぽけな地方の組織。
その組織に今、アークエンジェルが、パワーが、それらを呼び出した司祭が、片端から殺し尽くされていた。
「河口翁!一階の制圧完了しました!」
「では地下と敷設された孤児院を抑えよ、何が施されておるやらわからん、子供と言えども油断するなよ。
天使を孕まされていたとしても可笑しくはない、それがメシア教だ」
「ははぁ!!」
「それと・・・手抜かりがあるぞ」
言うと同時に刀を抜き打ちに、薄壁ごと隠し部屋に召喚された鎧の天使を切り捨てる。
司祭の死を切っ掛けに仇討ちのために召喚する機構が仕込まれていたのだろう、司祭の死体から明らかに精気が失せていた。
「申し訳ありません、お手を煩わせました!」
「構わん、だが心せよ。奴らは老いた猿のように狡猾で、蛇よりも執念深い。
殺したと油断すればその隙に仲間の体を爆弾にするのが奴らだ、残心を忘れるな」
「心に刻みます」
今度こそ掃討に出かけた部下を尻目に、盟主より預かった式を頼りに求めるものを探す。
ガイア連合としてメシア教と事を構える気は無い、それは事実だ。
だが、そうもいっていられない理由がそこにはあった。
優れた霊能者の体や血は全てが優れた霊的素材となる、そしてそれぞれの適性により様々な特性を得る。
護国にすべてを捧げた葛葉、その身は当然優れた素材であり日本との相性が良い、国内で使えば恐ろしく強力な結界の媒介となり日本人の心を安らげることのできる特性を持つだろう。
汚れた悪魔使いの身の浄罪として、戦争に疲弊しきった異教徒がメシアへ帰依し心を安らげる助けとする。
メシア教が躊躇う理由などなかった。
高々と掲げられた、教会を覆う結界の発生源である十字架の救世主像・・・葛葉四天王を探索する力を与えられた式神はそこにぴたりと吸い付いていた。
即座に銃で固定を撃ち抜くと、救世主像が教会を破壊しながら倒れこむ。
支えの十字架の裏、僅かな空洞を刀の柄で砕き、中身を取り出す。
「・・・雷堂様・・・遅く・・・本当に遅くなりました・・・・・・
申し訳ありませぬ・・・我らが不甲斐ないばかりに・・・申し訳ありませぬ・・・」
河口家の長老である健之翁は、あふれ出る涙が止められずにいた。
メシア教により自害させられた葛葉四天王、十五代目葛葉雷堂が右手薬指・・・メシア教の結界の起点となり、これまで心ならず日本の民を天使の傀儡と変えて来た教会を守り続けていた肉体のひとかけらが、数十年の時を経て今、解放された。
―――――――――――――――――――――――――――
「焼けぇい!!猊琳様の遺体を辱めておった罪じゃ、この地の全てを灰に帰せい!!」
姉小路の長老が吠える。
天使を、司祭を、助祭を、全て切り捨て、撃ち殺し、それでも収まらぬとばかりに猛り狂う。
普段恐ろしく慎重であり、臆病とすら称されていた彼は最早メシア教との敵対は絶対に避けねばならぬという事すら頭から抜け落ちメシア教のすべてを滅ぼさんと猛っていた。
「おぉぉ・・・猊琳様、いま、貴方方の後を継ぎこの国を守る若者があなたに相応しき墓所を用意して待っております・・・
それまではどうか、どうかこの爺の懐にてご辛抱ください・・・」
懐に収まった葛葉猊琳の目を収めた箱を撫でつけ、笑みを浮かべていた次の瞬間。
目すらやらずに抜き放たれた銃が怪しげな光を見せていたメシア教の経典を撃ち抜き、弾丸からあふれ出た炎が発動しかけた術ごと焼き尽くす。
「あなた様が守り続けていた国の一欠けらとて白羽根どもには渡して置けませぬ、どうか我らの行いをご覧ください」
最後に一撫でし、箱をしっかりと収めなおすと、爺は再び鬼に戻る。
「この教会を燃やし尽くせば次は信者どもじゃあ!
洗脳されておった者や薬を使われた者のみ生かし、それ以外は骨の一欠けらすら残すなぁ!!」
――――――――――――
ばさりと音を立てて干からびた右腕を供物として呼び出されたエンジェルが真二つに分かれて落ちる。
「小僧、あれが今までお前が信じておったメシア教よ。
儂が切り離しておらなんだら全身を供物とされておっただろうなぁ」
「は・・・あ?え、てん・・・し?腕が・・・」
「っち」
ばしゃりと霊薬を干からびた右腕にぶちまけ、今も血を吹き出す断面に着けるとぴたりと吸い付く。
「これで正気に戻ったか」
「あ・・・あ、貴方は何なんです!
急に来て祭壇を壊して、私の右腕を切り飛ばして、天使様も切って!」
「当たり散らすな、信じたくなかろうがな、これが真実よ。貴様は子らを洗脳するための駒でもしものとき天使を呼ぶための生贄だ・・・おぉ、ここに居られたか」
がさがさと砕いた祭壇から目当てのものを取り出す。
「え?いや・・・なんで、人の顎みたいな・・・なんでそんなものが」
「結界も解けた、頭も冴えていよう。
来い、貴様にはメシアの奴原をごまかす手先になってもらわねばならん、聞きたいことは今から全て教えてやる」
――――――――――――
「やはり・・・」
「まさかそんな・・・いやしかし、確かにこれほどの結界を貼るとはどのような技術をと思っておりましたが・・・」
「教義とは人を導き、癒すものですが、時に人を狂わせもします。あなたは、どう思われますか?」
穏健であり、天使も知り、愛を与えんと努め続けていたメシア教の司祭。
彼は今、同胞の成した罪を目の前に突きつけられていた。
「彼らは私達がこれを取り戻し、弔ったと知れば喜々として私達を神敵であると糾弾し、この日本の民に剣を、銃を、砲を向け、心を惑わす香や術によってその尊厳を汚すでしょう…
バチカンの手も借りてどうにか戦争は防ぐつもりです、あなたも、どうかその一助となってはくれませんか?」
「私は神の僕なれば、その正しきを信じて動くのみです・・・そして、私はこのような蛮行を為すは神を騙る悪魔に誑かされたが故と信じております。
微力なれど、異端による殺戮を防ぐため、この手、この立場、この言葉、いかようにもお使いください」
――――――――――――
「きょ・・きょ、キョウジ様!!ガイア連合が突如乱心!国内のメシア教教会へ襲い掛かり、片端から灰に返しております!」
「あぁ、知っている」
今代葛葉キョウジ・・・いや、戦後、主を失おうとも国を守らんと根願寺に寄り集まったヤタガラスと葛葉の残党を纏めるためにそう名乗っていた男は静かに手紙を見ながら返事を返す。
使命に燃えていた、力不足に嘆いた、それでもやらねばならぬと思った、そして今・・・
「正当なる霊的国防機関として絶対にやらねばならなかったことだ、我らとて力があればやっていただろうな」
「何を仰っているのです!いくらガイア連合と言えど把握する限りメシア教と表立って戦える力はありません!核が落ちるのかもしれないのですよ!」
「メシア教とて他国との戦に手を割かれている、面倒で強力な敵の存在する宗教観念の薄い日本にこれ以上手を掛けまいよ」
「キョウジ様?どうなさったと言うのです、キョウジ様」
あまりにも様子の可笑しいキョウジの様子に根願寺の僧が逆に冷静になり、問いを投げる。
「あぁ・・・キョウジか、そうだな、私はキョウジだ・・・
不甲斐なく、力なく、術なく、それでも私はキョウジだ」
ぼそぼそと言葉を零し、一拍置いて力のこもった声が響く。
「ヤタガラスと葛葉に連なる者を全て集めよ!
我らはこれよりガイア連合へ降る!!!」
老人組が強いのは霊能者として才がなく、家からも期待されずに守られなかったから普通に徴兵されて、徴兵先で覚醒者兵士やってたのばっかりだからですね、本来の当主候補とか才あるのはメシアに潰されたので
カタカナ表記のほうが馴染み深いとは思いますが、現地人が呼ぶとなると漢字表記だよなぁと