事の始まりは中国、軽慶市。「発光する赤児が産まれた」というニュース。
以降各地で「超常」は発見され、原因も判然としないまま、時は流れる。
世界総人口の八割が何らかの特異体質である超人社会となった現在。
世界では一つの職業が脚光を浴びていた。
生まれ持った超常的な力「個性」を悪用する犯罪者「
ヒーローが誰もが一度は憧れる「理想」から「職業」へとなった現在、多くの少年少女が次代のヒーローを目指しているのだった。
それは彼、「
☆
「……やっぱり無理か」
ある日の夜。浴室でシャワーを浴びていた光仙は浴室にある鏡を見て呟いた。
鏡に映っているのは長年見慣れた自分の顔。しかし顔の中の光仙の顔は、感情が完全に抜け落ちた無表情であった。手で口の両端を持ち上げて無理矢理笑顔を作っても、手を離せばすぐに元の無表情になってしまい、しばらく鏡を見ていた光仙は諦めたように首を横に振る。
光仙は今から十年以上前にとある事件で両親を亡くしており、それが原因で顔に一切の表情が出なくなっていた。これまでに何人ものカウンセラーに相談したのだが結果は出ず、今では光仙自身も自分が感情を出した顔を忘れてしまった。
「あれ? お義父さん?」
「………あっ!」
光仙が浴室から出ると、玄関に一人の痩せた男が光仙を見て驚いた顔をしていた。痩せた男は光仙の遠い親戚で、実の両親を亡くしている光仙は今、彼の養子となっていた。
「お帰り、お義父さん。今日は早かったんだね?」
「え、あ、いや……。じ、実はまた出掛けないといけないんだ」
義理の父親を出迎える光仙に義父は気まずそうに答える。
光仙の義父は以前から仕事が忙しく中々家に帰ってこなかったが、この半年くらい前から更に家に帰ってくる回数が減って、帰ってきてもすぐにまた出掛けることが多くなった。
「そうなんだ」
「ああ……。すまない、光仙……」
光仙がそう言うと義父はますます気まずそうな顔となる。光仙自身は義父の仕事の大変さを知っているため特に怒ってはいないのだが、完全な無表情で話していることが義父を追い詰めているのだろう。
そこまで考えて光仙は内心でため息を吐く。
(やっぱり駄目だな、俺は……。せめてお義父さんには笑ってあげたいのに、作り笑いすらできやしない……)
光仙が大切な人に笑ってあげられない自分に対して自己嫌悪の感情を懐いていると、それに気づいたのかそうでないのか、義父が話を変えようと光仙に話しかける。
「そ、それより光仙。今日のところは早く休みなさい。明日は『雄英高校』の受験日だろう?」
雄英高校。
それは将来のヒーロー候補を育成する学科「ヒーロー科」を有する高校の中で最高峰とされている高校である。
日本だけでなく世界中でも知らぬ者がいないNo.1ヒーロー「オールマイト」の外、燃焼系ヒーロー「エンデヴァー」や「ベストジーニスト」等、数多くいるヒーローの中でも上位陣にいるヒーローの多くは雄英高校の出身であった。
その確かな実績から日本全国から雄英高校を受験しようとする者は大勢いて、光仙もまた雄英高校に受験すべく今日まで受験勉強に励んでいた。
「雄英高校の入試は一筋縄ではいかないぞ。頑張るんだぞ、光仙」
「うん。分かった。ありがとう、お義父さん」
正直な話、義父は光仙が雄英高校に受験、というかヒーロー科のある高校に進むことに最後まで反対していた。しかし今では光仙のヒーローになりたいという気持ちを認めて応援してくれていた。
光仙は明日の入学試験について助言をしてくれた義父に礼を言うと眠ることにした。
☆
「なるほど。確かに一筋縄ではいかないな」
翌日。雄英高校の校庭にある都市を模した演習場で光仙は呟いた。
雄英高校の入学試験は筆記試験と実技試験の二つあり、実技試験は光仙が今いる演習場で行うヴィラン役のロボットを相手にした模擬戦であった。演習場にはヴィラン役のロボットが無数にいて、ロボットを倒した際に強さに応じたポイントが与えられ、その合計ポイントが実技試験の得点となって、将来ヴィランと戦うヒーローを育てる雄英高校らしい実技試験と言えるだろう。
『『……………』』
演習場にいる光仙を含めた受験生達は実技試験ということで動き易い格好をしており、ほとんどは学校のジャージなのだが、光仙だけは他とは少し違う格好をしていて周囲の受験生達の視線を集めていた。
光仙の格好は鮮やかな青のスーツの下に赤のシャツ、白いネクタイというもので、とても今からロボット相手に模擬戦をするようには見えなかった。
「おい、そこのお前! 何だよ、そのふざけた格好はよぉ!」
受験生の一人、金髪で目つきの悪い男が話しかけてきてそれに光仙が答える。
「ふざけた格好とはご挨拶だな。これは俺の勝負服で、将来プロヒーローになった時もこれをコスチュームにするつもりだ」
「ああん! もうプロヒーローになったつもりでいるのか?」
馬鹿にしたように言う金髪の男に、光仙は特に気にした様子もなく頷いて答える。
「当然だ。俺はプロヒーローになるためにこの雄英高校に挑んだんだからな。君はプロヒーローになるつもりはないのか」
「……!? あるに決まってんだろうが、クソが! よく聞けよスーツ野郎! 俺は絶対に将来プロヒーローになって、あのオールマイトを超える男! 爆「ハイスタートー」……何っ!?」
「行くか」
金髪の男が自分の名前を言おうとしたその時、実技試験の担当官が実技試験の開始を告げる声が聞こえてきた。そのあまりの突然さに金髪の男だけでなく他の受験生達も戸惑うが、光仙は即座に行動に移った。
光仙が自分の両手を地面に向けて掌を開いた瞬間、掌から強風が生じて反動で彼の身体が空高くまで飛び上がった。
【個性】荷電粒子砲
掌と指先にある発射口から荷電粒子を高速で発射する。荷電粒子砲の反動に耐えるために、腕全体の強度は鋼を超えている。
本来は荷電粒子を放つ個性だが、今回光仙はその応用でイオンを発生させて掌から噴出させたのである。
「この野郎! 待ちやがれ!」
完全に先を越された金髪の男が怒声を上げるが光仙は聞いておらず、空を飛びながら先程金髪の男が言っていた言葉を思い出す。
「オールマイトを超える、か……」
演習場の上空に到達した光仙は演習場にいる無数のロボットに狙いを定めて両腕を下に向けて差し出す。すると次の瞬間、両手の指先と両掌から無数の光線が発射されて演習場のロボット達を寸分違わず貫いた。
「悪いがオールマイトを超えるのはこの俺だ」
光仙はここにはいない金髪の男にそう言うと、再び両掌からイオンを噴出して次のロボットを探して空を飛んでいった。
その後、光仙は空を飛びながら地上にいるロボットを次々と狙撃して破壊していき、そろそろ試験終了時間が近づいてきたと思った時に「それ」は現れた。
現れたのはビルよりも巨大で、立ち塞がるビルをまるで玩具のように破壊しながら進んでくる巨大ロボットの姿。その外見は今まで光仙が破壊したヴィラン役のロボットに似ていた。
「もしかしてあれが『お邪魔キャラ』ってやつか?」
突然現れた巨大ロボットを見て、光仙は実技試験が始める前に受けた説明を思い出す。この実技試験で戦うヴィラン役のロボットは四種類あり、その内の一つに強力な上に倒してもポイントが得られない「お邪魔キャラ」と言うべきロボットがいる、と。
この巨大ロボットがそのお邪魔キャラだと確信した光仙がふと下を見ると、演習場では受験生のほとんどが巨大ロボットから逃れようと走っていた。このまま巨大ロボットを放置していたら今逃げている受験生達から怪我人が出るかもしれないと考えた光仙は、演習場を破壊しながら進む巨大ロボットに視線を向ける。
「………やるか」
両掌からイオンを噴出して巨大ロボットの頭上まで飛んでいった光仙は、空中で右腕を腰だめに構えると勢い良く右掌を巨大ロボットに向けて突き出し、同時に叫んだ。
「DETROIT SHOT!!」
「…………………………!?」
光仙が叫びと共に右掌から放った荷電粒子砲の一撃は巨大ロボットの頭部を吹き飛ばし、頭部を失った巨大ロボットはその場で倒れて行動停止となる。そのあまりの光景に演習場にいた受験生の全員が空にいる光仙を見上げ、その中には歯を食いしばって目を見開く、実技試験開始前に光仙に食ってかかった金髪の男の姿もあった。
それから数秒後、実技試験終了を告げるブザーが演習場に響き渡った。
これが彼、雷田光仙のヒーローとしての第一歩。
これは「オールマイトの義息子」である雷田光仙が、偉大なる義父を超えるヒーローとなる物語である。
「雷田光仙」
個性:荷電粒子砲
誕生日:8/19
血液型:B
出身地:東京都
好きなもの:オールマイト、コメディー
性格:走り続けるマイペース
十年以上昔、とある事故により両親を亡くし、遠い親戚であるオールマイトの養子となる。
No.1ヒーローであるオールマイトは仕事が忙しく中々家に帰ってこなかったが、それでも義父であるオールマイトを心から尊敬しており、将来は義父を超えるヒーローになろうと雄英高校に受験した。ちなみにオールマイトは最初、光仙がヒーローになることを反対していた。
実の両親を亡くした際に感情が表に出なくなってしまい、それがオールマイトを追い詰めていると考えており、何とか表情を取り戻そうと頑張っているのだが結果は今のところ出ていない。
十年前からオールマイトのかつてのサイドキックや師匠から面倒を見てもらうと同時に戦闘訓練も受けており、現段階でも並のプロヒーローを超える実力を持っている。
……続く?