笑えない少年のヒーローアカデミア   作:兵庫人

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光仙にとって大事な話だと思いましたから、サブタイトルをつけてみました。


第十六話 雷田光仙:オリジン

 雷田光仙の実の両親は、電気を発電してから指向性を持たせて放つ「放電」と、自分と自分が触れたものの速度を上げる「加速」という強力な個性を持つが、ヒーローではない平凡なサラリーマンと専業主婦であった「らしい」。

 

 らしい、というのは両親が死んだ時に光仙が表情と一緒に両親の記憶を失くしたからだ。

 

 光仙の両親は今から十年以上昔に、ヴィランによって殺害された。彼らはオールマイトの遠い親戚ということもあって秘密裏にだがプライベートな付き合いもあり、それをどこからか知ったオールマイトに恨みを持つヴィランの標的とされたのだ。

 

 両親を目の前でヴィランに殺され、自分自身も危うくヴィランに殺されそうになったことで光仙は心に傷を負い、表情とそれまでの記憶の全てを失った。

 

 光仙が覚えている最も古い記憶は、身体をバラバラに切り裂かれて殺された、自分の両親である二人の男女の死体。

 

 次に古い記憶は、自分をヴィランから助けてくれた後、自分を抱き締めながら涙を流し、何度も謝罪の言葉を口にするNo.1ヒーローの姿。

 

 家族、記憶、表情。人として生きるために大切なものの殆どを奪われてしまった光仙はその後、唯一の親族であるオールマイトに養子として引き取られることになった。

 

 光仙を引き取ってもヒーローとしての活動を休む訳にはいかなかったオールマイトは、かつての先生とサイドキックであるグラントリノとサー・ナイトアイに、光仙の面倒を見てもらうと同時に戦闘訓練を見てもらうように頼んだ。グラントリノもサー・ナイトアイも最初はオールマイトに無責任だと激怒したが、結局は光仙の面倒と戦闘訓練を見て、最後には光仙を弟子と呼ぶようになる。

 

 オールマイトがグラントリノとサー・ナイトアイに光仙の戦闘訓練を頼んだのは、光仙に自分の身を守れるだけの力をつけてもらうつもりで、オールマイト自身は光仙をヒーローにするつもりはなかった。だが幼い日に自分を救ってくれた義父に憧れを懐いた光仙は幼い頃からヒーローになる事を決め、今日までヒーローになる為に様々な厳しい訓練に耐えてきた。

 

 ……だからこそ、今日の緑谷出久がオールマイトの後継者となったという話は、光仙の心を大きく揺るがした。

 

 

 

「………」

 

 オールマイトの話を聞いた後、光仙は一人で自分の控え室へと向かって会場の通路を歩いていた。

 

 オールマイトの話によるとワン・フォー・オールを受け継いだ者は強大なる敵と戦う宿命にあるらしく、その存在を知っただけでも戦いに巻き込まれる恐れがあるため、ワン・フォー・オールの存在を知っているのはごく少数だそうだ。義父は光仙が戦いに巻き込まれるのを避けるために今日まで自分の個性を秘密にして、それは秘密を知る数少ない人物であるグラントリノとサー・ナイトアイも同様であった。

 

 だが今日の障害物競走でオールマイトが光仙を自分の義息子だとうっかりバラしてしまったせいで、彼がワン・フォー・オールの継承者達が戦ってきた「敵」に狙われる危険性が出てしまい、その警告をする為にオールマイトは光仙に自分の個性と継承者である緑谷出久の事を話したのである。

 

 しかしそれは、もしオールマイトのミスがなければ、光仙は今もワン・フォー・オールの存在も、緑谷出久のことも知らなかった事を意味していた。

 

 正直な話、光仙は今日までヒーローになる為の訓練に耐えてきて、自分がすでに並のヒーローを超える実力を持っていると自負している。

 

 オールマイトが自分の個性の後継者の話をした時、「自分がその後継者に選ばれるのでは?」と期待しなかったと言えば嘘になる。

 

 だが実際は違った。オールマイトは、血は繋がっていないが義理の息子であり強力な個性を持って今日まで努力してきた雷田光仙ではなく、かつての自分と同じ「無個性」だった緑谷出久を自分の後継者に選んだのだ。

 

 その事実に光仙は……。

 

「悔しいな」

 

 と、歩きながら小さく呟く。その言葉には今まで自分だけ蚊帳の外であった寂しさと、緑谷に対する嫉妬が込められていた。

 

 だが、光仙は自分の中にある醜い感情に気付いていても歩くのをやめなかった。

 

 何故なら雷田光仙はすでにヒーローを目指してここにいるのだから。

 

 過去の出来事により心が傷ついて歪んでしまい笑う事ができなくなった光仙は、自分が義父や他の人々を本当の意味で笑わせるヒーローになるのは難しいだろうと思っている。

 

 ならば苦難に遭った人々をこれ以上悲しませないヒーローになろう。かつて幼い自分を救ってくれた義父のような、どんな困難にも立ち向かい、皆を守れるヒーローになろうと光仙は思った。

 

 自分をしっかり見てくれず大切なことを話してくれなかった義父への苛立ちや、自分ではなく後継者に選ばれた緑谷出久に対する嫉妬は確かにある。しかしそれは自分の夢や憧れ、これまでの努力を投げ捨てる理由にはならない。

 

 そこまで考えた光仙は、とにかく今はこの雄英体育祭で全力を出して、自分という存在を皆に見てもらおうと気持ちを切り替えて前に進んだ。

 

 これはオールマイトの義息子である雷田光仙が、偉大なる義父を超えるヒーローとなる物語である。

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