笑えない少年のヒーローアカデミア   作:兵庫人

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第三話

「やあ、お帰り」

 

「っ!? ……ただいま、お義父さん」

 

 入学式の日、入学式(何故か一年A組だけ参加していなかったが)とガイダンスを終えた光仙が家に帰ると、家には義父がすでに帰っていて、光仙は久しぶりに会う義父に驚きながら返事をした。

 

「今まですまなかったね。新しい職場の手続きが忙しくて中々帰れなかったんだ。今日は光仙の入学祝いだ」

 

 テーブルの上にはケーキや光仙が好きな食事が沢山並べられていた。しかしそれらは全て一人分しかなかった。義父は過去にとあるヴィランとの戦闘で内蔵に大きな傷を受けており、食事は点滴でしか受け付けないからである。

 

 光仙はテーブルにある食事を食べて、義父をその様子を眺めていたのだが、やがて意を決したような表情となって自分の義息子に話しかける。

 

「……なぁ、光仙? もし……私がヒーローを続けられなくなったらどうする?」

 

「お義父さん?」

 

 突然の義父の言葉に光仙が食事の手を止めて義父を見ると、義父は彼から目を逸らして話を続ける。

 

「私の個性因子が減退していることは知っているだろう? それが最近になって急激に減退したことが分かって、きっと遠くない未来……私は個性を使えなくなるだろう」

 

 個性因子とは文字通り体内にある個性を発現させるための因子である。そしてそれが減退して個性が使えなくなると言うことは、プロヒーローとして引退することを意味している。

 

「………」

 

「光仙は……どう思う?」

 

 義父が恐る恐る聞くとそれに対して光仙は……。

 

「それは、仕方がないことじゃないですか?」

 

 と、相変わらずの無表情で答えた。

 

 正直に言えば「平和の象徴」と謳われた尊敬すべきヒーローである義父が引退するという事実には、少なくない動揺を感じている。しかし義父がこれまで数多くの危険なヴィランと戦ってきたことを知って、そして今こうして個性因子が大きく減退した事実を本人から知らされた以上、そう言うしかなかった。

 

「仕方がない、か……」

 

「はい。それに、引退したら先生とも仲直りできると思いますよ?」

 

 義父の元サイドキックである光仙が先生と呼ぶ人物は今から何年も前、義父がとあるヴィランとの戦闘で重傷を負った時。引退しても文句を言われない重傷を負いながらも、それでもヒーローを続けると言う義父の意見と反発して距離を取っていた。

 

 しかしそれでも義父とは最低限の連絡を取っていたし、光仙の訓練をみてくれたこともあって、光仙にとって義父と同じくらい尊敬すべき恩人なのであった。

 

 ヒーローを引退したならば義父と先生が仲違いする理由も無くなると思って光仙はそう言ったのだが、彼の言葉に義父は気まずそうな表情となる。

 

「あ……。その……彼とは……別の件で、また喧嘩をしてしまってね……」

 

「……………そうですか」

 

「うん。すまない……」

 

 義父の言葉に、義父と先生が仲直りできる日はまだ遠いと理解した光仙は無表情のまま残念そうに言い、それに対して義父は申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 結局それから光仙と義父との間に会話は無く、光仙は義父と先生が喧嘩をした「別の件」について聞くことはできなかった。

 

 ☆

 

 雄英高校ヒーロー科の授業は、午前は一般的な学科を学び、午後はヒーローとしての専門的な知識や技術を学ぶようになっている。

 

 入学式の翌日の午後の授業。光仙を含めた一年B組の生徒達は今日、初めてヒーローとしての授業を受けることになり、その内容とは……。

 

「今日は個性把握テストを行う」

 

『『個性把握テスト?』』

 

 グラウンドでB組の担任であるプロヒーロー、ブラドキングが今日行う授業の内容を口にすると、運動服に着替えたB組生徒のほとんどが首を傾げ、ブラドキングが詳しく説明をする。

 

「個性把握テストとは簡単に言えば個性を使った体力テストだ。中学までの体力テストは個性の使用が禁止だったが、ヒーローとしての訓練をするにはまず、個性を使用した際の能力を知ることが重要だからな」

 

 ブラドキングがそう説明するとB組生徒は面白そうだとばかりに早速個性把握テストを行うことにして、最初は50m走から始めた。

 

「ふはははっ! ここは私の独壇場ですぞぉ!」

 

 巨大な獣に変身する個性「ビースト」を持つ宍田獣郎太が、大声で笑いながらグラウンドを走り抜ける。彼の言う通り、今のところ他のB組生徒には高速移動に適した個性を持った生徒はいなかったらしく、中学の時の記録とあまり変わっていなかった。

 

 そして光仙が走る順番が回ってくると、彼はスタート地点で身を屈めると両腕を後ろへ向けて突き出した。

 

「……? 雷田、その体勢でいいのか?」

 

「はい。構いません」

 

 あまりにも独特な光仙のスタート体勢にブラドキングが聞くが、光仙は前を向いたまま頷く。

 

「そ、そうか。……では、スタート!」

 

New Hampshire(ニューハンプシャー) SHOT」

 

『『………!?』』

 

 ブラドキングが合図を出して光仙が小さく呟いた次の瞬間、光仙の後方で爆風が起こり、いつの間にか光仙の姿はゴール地点にあった。

 

『『……………!?』』

 

 一瞬でスタート地点からゴール地点に移動してみせた光仙にB組生徒は驚いた顔となり、ブラドキングは手元にある機械を見て信じられないといった声音で光仙のタイムを口にした。

 

「き、記録……一秒八」

 

『『……………………!?』』

 

 ブラドキングが口にした光仙のB組生徒は再び驚き、光仙が戻ってくると一斉に彼を取り囲んだ。

 

「ね、ねぇ! 今の何!? 今の爆風とか超加速とか!」

 

「何って、個性を使った高速移動」

 

「いや、そんな当たり前のような顔してないで、もっと詳しく説明してよ」

 

 B組の女生徒の一人、取蔭切奈の質問に光仙が簡単に答えると、長い髪をサイドポニーにした女生徒の拳藤一佳が呆れた顔で詳しい説明を求めてきた。

 

「それもそうか。……俺の個性の荷電粒子砲は両手から電荷した粒子を発射する個性で、これはイオンを噴出して推力を得るイオンエンジンと同じ原理なんだよ。だから俺は個性の応用で両手をイオンエンジンにして、あの超加速を得たんだ。昨日、鉄哲が言っていた俺が空を飛んだって話もこれだ」

 

「ああっ! あれか!」

 

 正直荷電粒子砲やイオンエンジンの原理を聞かされても全く分からなかった鉄哲だったが、入試の実技試験で空を飛んだと聞くとすぐに納得して、他の生徒達も同様であった。すると取陰はもう一つ気になったことを光仙に聞く。

 

「あっ、じゃあスタートした時に言ってたのは何?」

 

「あれはあの技……というか高速移動の名前。オールマイトの技の中にパンチの風圧で高速移動する『New Hampshire SMASH』っていう技があって、それをイメージしてみた」

 

『『それ知ってる!』』

 

 光仙が取陰の質問に答えると、やはりオールマイト関係の話題と言うべきか、彼女だけでなくB組生徒のほとんどが口を揃えて言った。

 

「あー……。盛り上がっているのは分かるが、まだ個性把握テストの途中だ。無駄話は控えるように」

 

 ブラドキングに注意をされて光仙を含めたB組生徒達は個性把握テストを再開したのだが、他の種目でも光仙は一位、あるいは上位の成績を出して総合成績一位という結果を出した。

 

「雷田。キミ、凄いね? 鍛えているだけじゃなくて、身体のキレとか個性の使い方とかが僕達とはだいぶ違う気がするんだけど?」

 

「小さい頃から師匠と先生に吐くくらい鍛えられたからな……」

 

 個性把握テストが終わってから話しかけてきた物間に光仙は簡単に答えると、師匠と呼ぶ方の人物に子供の頃、文字通り吐くくらいの戦闘訓練を受けた記憶を思い出してしまい思わず遠い目となった。

 

「師匠と先生?」

 

「お義父さんに紹介してもらったプロヒーローの二人で、基礎的なトレーニングから個性の使い方まで色々教えてくれたんだ。だから俺は師匠と先生と呼んでいる」

 

「プロヒーロー二人を紹介って、もしかして雷田のお父さんもプロヒーローなのかい? なんてヒーロー?」

 

「すまないけどそれは言えない。お義父さんが言ってはいけないって」

 

 質問する物間に光仙は首を横に振ってそう言った。

 

 プロヒーローとは本人だけでなく、その周囲にも危険が大きい職業である。

 

 プロヒーローとして活躍する以上、犯罪を犯したヴィランを退治する場面は必ず存在する。そして過去に撃退したヴィラン本人、あるいはその仲間や家族が、ヒーロー本人やその家族や友人に怨みをはらそうと襲撃をする事件も少なくない。その事からプロヒーローの中には、自分の家族に身内がプロヒーローであることを秘密にするように言う者もいる。

 

 加えて言えば光仙の義父は世界で最も有名なヒーローで、その事がバレれば彼を利用しようとする者は大勢現れることだろう。そのため光仙は義父から、ヒーローとしての義父の情報を話すことを固く禁じられているのだった。

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