個性把握テストが行われた翌日。今日は学校は休みで、光仙はある人物から喫茶店に呼び出されていた。
「急に呼び出してすまなかったね」
「いいえ。気にしていませんよ、先生」
光仙を呼び出したのは、彼のテーブルを挟んだ向かい側の席に座っている、黒髪に所々金色のメッシュをいれたサラリーマンのような格好をしている男だった。サラリーマンのような男はプロヒーローである光仙の義父の元サイドキックであり、昔光仙は彼からヒーローになるための指導をしてくれたことがあり、そのことからサラリーマンのような男を先生と呼んでいた。
「遅れながら雄英入学おめでとう。『彼』の義息子であり、私自身の生徒である君が雄英生になれたことは本当に嬉しい。正直、仕事が忙しくなければ三日三晩、君の合格を祝うパーティーを開きたかったのだが……」
「あの……? 祝ってくれるのは嬉しいのですが、三日三晩のパーティーはちょっと……」
先生の言葉に光仙はどう反応したらいいか分からずにいると、先生は小さく笑って光仙を見る。
「冗談だ。いつも言っているだろう? ヒーローは常にユーモアを持っていないといけないと。……君は優秀な生徒であったが、ユーモア関連だけはまだまだだな」
「……すみません」
先生からの言葉に光仙は謝罪する。表情が全く出ないことを抜きにしても、自分にユーモアのセンスがないことは光仙自身も気にしていた。
「謝らなくてもいいさ。それで今日呼び出したのは、君に入学祝いを送るためだ」
そう言うと先生は二本の高級そうな万年筆を懐から取り出してテーブルに置く。
「以前君から見せてもらったコスチューム案に合わせて作ったサポートアイテムだ」
光仙は雄英高校から合格通知がきた日に先生にその連絡をして、その時の会話でヒーロー科の実技で使うコスチュームのデザインを言っていた。そしてこの二本の万年筆は確かに光仙が考えたコスチュームに似合う物であった。
「まずは右の万年筆を手に取ってみたまえ」
「分かりました……って、重っ!?」
先生に言われて右の万年筆を指で摘んで持とうとした光仙だったが、予想を遥かに超える重さに思わず声を出した。
「特注品の万年筆で重さが一キロある。普通の万年筆としてだけでなく、格闘武器や投擲武器としても使える。私のサポートアイテムと同じで、一見するとただの小道具だが武器としても使えるだなんて、ユーモアがあるとは思わないか?」
「確かにそうかもしれませんね」
光仙は先生が使っている重量が五キロもある印鑑を思い出して頷く。それを見て先生はもう一本の万年筆の説明をする。
「それで左の万年筆はカメラとボイスレコーダーが内蔵されている。ヒーローたる者、事件に遭遇したらできるだけ正確な情報を残しておくべきだからな」
「なるほど」
もう一本の万年筆の機能を聞いて光仙が素直に感心して頷くと、先生が何故か少し言い辛そうに光仙に話しかける。
「それで……何だ? 光仙、君は近いうちにヒーロー科の実技授業をするのだろう?」
「? はい。明日、実技授業がありますけど?」
「そうか。それでその実技授業にはオールマイトが担当するだろう? できればこの万年筆の機能を試すついでに、教師になったオールマイトを撮影してくれないだろうか?」
「アッ、ハイ」
ついでも何も、撮影機能付きの万年筆を渡した目的は、教師となったオールマイトを撮影するためだと理解した光仙を平坦な声で返事をした。
元々、先生が義父のサイドキックになったのは彼が義父の大ファンだったからで、仲違いをしてお互い距離を取った今でもこの会話から先生がまだ義父のファンであることは明確であった。それを理解した以前から気になっていた事を質問することにした。
「あの、先生? 先日、お義父さんから、お義父さんと先生が喧嘩をしたという話を聞きました。それは一体何故ですか?」
「………!?」
思い出すのは先日の、入学式の日にした義父との会話。あの時義父は、以前仲違いをしたのとは別の件で喧嘩したと言っていた。それが一体何なのか聞くと、先生は表情を強張らせる。
「………すまない。それは私からは話すことができない」
「………そうですか」
目を反らして申し訳なさそうに言う先生の姿に、光仙はこれ以上聞いても義父と先生が喧嘩した原因を聞けないと理解して、それだけしか言えなかった。
☆
翌日。午前の授業と昼休みが終わり、いよいよ午後の授業、ヒーロー科の実技授業が始まると光仙は自分がデザインしたヒーロー
光仙のコスチュームは入試の時と同じ、青のスーツの下に赤のシャツと白のネクタイ。そこに昨日先生から貰った二本の特別製の万年筆をスーツの胸ポケットに入れ、額にある「V」の字の形をしたアンテナが特徴的なヘルメットを被ったという格好である。
そして光仙を含めたB組生徒全員がコスチュームに着替えて演習場に行くと、そこには世界で最も有名なヒーローがB組生徒を待っていた。
「ハーハッハッハッ! ワーターシーが! すでに! 来ていたぁっ!」
演習場にいたのは「平和の象徴」と呼ばれているNo.1ヒーロー、オールマイト。
今年から雄英高校の教師として着任しており、実際にその目でオールマイトを見る者も多いB組生徒達は彼の姿を見て興奮を隠せなかった。
「スゲェ! 本物のオールマイトだ!」
「雄英の先生になったって噂は本当だったんだ!」
「オールマイトの授業を受けれるなんて雄英生なってよかったぁ!」
「ハッハッハッ! 喜んでくれているのは光栄だが、今は授業中だぞ、有精卵共?」
「………」
オールマイトは興奮するB組生徒達に笑いながら注意するのだが、光仙はその途中で少しだけオールマイトが自分の方を見た気がした。
「さあ、それでは早速授業を始めようか!」
こうして光仙の初めてのヒーロー科の実技授業が始まった。