「今日、君達が行うのは屋内での対人戦闘訓練さ!!」
オールマイトはそう言うと演習場にある五階建てのビルを指差す。
「いきなり対人戦闘!? 基礎練習なしでですか!?」
いきなりビルの中で対人戦闘訓練をすると言ったオールマイトにB組の男子生徒の一人、泡瀬洋雪が声を上げる。
「その基礎を知るための実践さ! 君達にはこれからヒーロー組とヴィラン組に別れて、ヴィランがアジトに核兵器を隠していてヒーローはそれを処理しようとしているという状況設定で二対二の屋内戦を行ってもらう!!」
「なるほど。確かにヴィラン退治は屋外でよく見るけど、監禁・軟禁・裏商売など凶悪犯罪はこういった屋内の方が多いからね。それを想定した訓練ってことか」
物間が今回の訓練の意図を理解して言うとオールマイトがサムズアップして頷く。
「その通りだ、物間少年! 訓練の制限時間は十分間。ヒーロー組はその間にヴィラン組が隠した核兵器……もちろんハリボテの偽物ね。それにタッチするか、この捕獲テープをヴィラン組に巻き付けたら勝利。ヴィラン組は制限時間まで核兵器を守り通すか、捕獲テープでヒーロー組を巻き付けたら勝利だ! それでチーム決めと対戦順はクジで決めるぞ!」
そう言ってオールマイトは用意していたクジが入った箱を取り出し、B組の生徒達は箱からクジを引く。そして光仙はヴィラン組となって最初の試合に出ることがクジによって決まったのだった。
「俺は第一試合でヴィラン組。……それは別にいいんだけどこっちが二人で相手が『三人』なのが厄介だな」
オールマイトは最初、二人一組だと言っていたがB組は二十一人いて、二人一組だと一人余ってしまう。そのため一組だけ三人となり、光仙はクジでその三人一組のチームと対戦することになったのだ。
「いや、それより厄介なのはこっちの方か……」
そう言って光仙が自分と同じヴィラン組となった女生徒、塩崎茨の方を見ると彼女は懺悔するような体勢で静かに涙を流していた。
「ああ……! 訓練とは言え私がヴィランに身を堕とすだなんて……。神よ、罪深い私をお許しください」
どうやら塩崎は非常に正義感が強い人物のようで、訓練とはいえヴィランとなったことが許せないらしい。それを見た光仙は少し考えてから塩崎に話しかける。
「塩崎、ちょっといいか? 俺達はヴィラン組だが実際はヒーローだと思えばいい」
「………?」
光仙の言葉に塩崎が泣くのを止めて彼を見る。
「俺達はヴィランから盗まれた核兵器を取り戻したが、ヴィランは狡猾な情報操作をして俺達にヴィランの汚名を着せた。だから俺達は外で移動するのを止めて、ここで信頼できる仲間が来るのを持っている。……そう考えたらやる気が出てくるんじゃないか?」
「……!? ええ! ええ! たしかにそれなら神もお許しくださいます! 雷田さん、がんばりましょう!」
「やる気が出て良かったよ。それじゃあ、俺の作戦を聞いてくれないか? まあ、作戦と言ってもシンプルでギャンブルの部分が大きいけどな」
自分達はヴィランではなく実はヒーローだったと思えばいいという雷田の意見に塩崎は目に見えてやる気を出す。それを見て彼は個性把握テストで知った彼女の個性を計算に入れて考えた作戦を説明するのだった。
光仙と塩崎が作戦会議をしてから五分後。光仙達の対戦相手である三人のヒーローチームが、彼らがいるビルに突入した。
「ヒャッヒャッヒャッ! 切り刻んでやるぜぇ!」
「やる気あるなぁ、鎌切! 俺も行くぜぇ!」
「鎌切氏! 鉄哲氏! 待ってくだされぇ!」
B組の男子生徒の一人、鎌切尖が先陣を切ってビルに突入して、その後を鉄哲と宍田の二人が続く。
鉄哲達三人は全員、近接戦闘に特化した個性持ちであり、更に宍田は獣化して嗅覚を強化して探索をすることも可能なため、今回の訓練にうってつけな組み合わせだと言えるだろう。
しかしその事は光仙と塩崎も重々承知でビルの内部には鉄哲達三人の対策が施されており、勢い良くビルに突入した鉄哲達はビルの内部を見て足を止めた。
「これは……何だぁ!?」
ビルの内部には植物の茨が無数に張り巡らされており、侵入者の行く手を遮っていた。
「この茨……まず間違いなく塩崎氏の個性ですな」
塩崎の個性は頭から茨を伸ばして操る「ツル」。
宍田の言う通り、ビルの内部に張り巡られている茨は塩崎によるもので間違いなかった。
「雷田と塩崎は籠城をするつもりか?」
「あり得ますな。数はこちらの方が有利ですが、塩崎氏の個性は見ての通り足止めに有利で、雷田氏の個性は戦闘ではかなり強力。こうして足止めをして時間を稼ぎつつ戦えば勝算は向こうの方が大きいですからな」
鉄哲の言葉に宍田が答えて前を見れば、上に続く階段には通路以上の数の茨が張り巡らされていた。
「はっ! 要するに上に雷田と塩崎が待ち構えているんだろ? 上等だ!」
そう言うと鎌切は自らの個性「刃鋭」で両腕に巨大な刃を出し、茨を次々と切り落としながら上に昇り、鉄哲と宍田もそれに続いて行った。
そして鉄哲達が三階に到着した時、突然通路の向こうから一条の光線が飛んできた。
「うおおっ!?」
間一髪。ほとんど偶然で光線を避けた鉄哲が通路の向こうを見ると、そこには右の掌をこちらに向けている光仙の姿があった。
「いやがったな! 貰ったぁ!」
光仙の姿を確認した鎌切は即座に走り出して彼に近づくと、彼に向けて両腕の刃を振るった。
(ここにはどんな傷も治せるリカバリーガールがいる! そんなに大怪我させないから耐えろよ、雷田。………っ!?)
ガキィン!
『『………!?』』
鎌切の刃を光仙は両手で掴んで動きを止め、その際に金属同士がぶつかり合う音が周囲に響いた。素手で刃を止めた光仙の姿に鎌切だけでなく、鉄哲と宍田も驚きで目を見開く。
光仙の個性「荷電粒子砲」は掌と指先から荷電粒子を発射できるだけでなく、荷電粒子の発射の反動に耐えるために両腕全体に鋼以上の硬度を与えている。だがそれを初めて見た鉄哲達は驚きで動きを止め、その隙に光仙は攻撃に移っていた。
「
「……………!?」
光仙が呟いた次の瞬間、鎌切の身体に電流が走り、一瞬で鎌切の意識が失われる。
「鎌切!?」
「鉄哲氏、やばいですぞ! ここは一度距離を取って……!」
攻撃をしたはずが一撃で倒された鎌切に戸惑う鉄哲と宍田に、光仙は両の掌を向けて呟く。
「
『『………!?』』
光仙の両の掌から高圧電流が放たれ、それを浴びた鉄哲と宍田は感電して倒れてしまう。もはや三人とも戦えるどころか、動くことが出来ないのは明白で、ビルのスピーカーから別の場所で戦いを見ていたオールマイトの声が聞こえてきた。
『ヴィラン組、Win!』