「さーて、それじゃあ早速第一種目、行きましょう! いわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!! 運命の第一種目!! 今年は…………コレ!!」
光仙の選手宣誓によって観客達が今も興奮している中、ミッドナイトが指し示した仮想ディスプレイに映し出されたのは「障害物競争」の文字。
「スタジアムの外周およそ四キロを走る、一年生全学科十一クラス、二百二十一人の生徒達による競争よ! コースさえ守れば他は何をしても自由! 上位の生徒達が予選通過よ!」
「ミッドナイト先生は何人が予選通過できるか言っていないけど、これで大きく人数が削られるね」
ミッドナイトが予選の種目を説明すると、物間がB組生徒を集めて自分の考えを口にした。
「例年の雄英体育祭では予選の種目は大体二、三種目あって、それから本戦となっていた。だからこの第一種目で一気に百人以下まで減ると僕は見ている。僕達の目標は五十位以内に入って全員で第一種目を突破することだ」
そこまで言うと取陰が意外そうな顔で物間を見る。
「あれ? それで終わり? 物間のことだから、ここで色々とコスいこと考えると思っていたんだけど?」
「そうだね。本当だったらここでは皆には力の温存とか頼みたかったんだけど……」
取陰の言葉に物間は苦笑しながら答えると光仙の方を見る。
「どこかの誰かが、僕達全員オールマイトを超えるヒーローになるつもりだって言っただろ? それで出し惜しみだなんてA組に負ける以上にカッコ悪いじゃないか?」
「それは……すまなかったな」
「気にすんなって! むしろ気合が入ったぜ!」
こちらを見てくる物間に光仙がそう言うと、鉄哲が光仙の首に腕を回して言ってきた。他のB組生徒も鉄哲の言葉に頷いてみせて、やる気に満ちているのが分かった。
そうしている内に第一種目、障害物競走開始の時間が迫ってきた。
「それじゃあ、そろそろ始めるわよ? 全員位置について……始め!」
「
『『……………!?』』
ミッドナイトが開始の合図を出した瞬間、光仙は両手から地面に向けてイオンを高速で噴出し、強い音と風が生まれた。これにはその場にいた雄英生徒だけでなく観客達も驚き視線を向けるが、すでにその場には光仙の姿はなく、彼の身体は会場の上空まで飛び上がっていた。
会場の上空に到達した光仙は掌の向きを変えると、自分を驚いた顔で見上げている観客達を見下ろしながら高速で空を飛んでいく。
『オイオイ! いきなりデカい音がしたと思ったら、雷田光仙が高速で空を飛んでいるぞ! まるでジェット機じゃねぇか! というかアレ、ズルくね?』
『ズルくはないだろ。自分の個性を使った合理的な移動手段だ』
解説席から聴こえてくるプレゼントマイクの言葉に、同じく解説席にいる一年A組の担任であるプロヒーローの相澤消太が答える。
プレゼントマイクと相澤の実況を聞きながら光仙が空を飛ぶと、地上では入試の実技で戦ったヴィラン役のロボットが雄英生徒達を襲っているのが見えた。恐らくアレが障害物競走の障害の一つなのだろう。ロボットの攻撃が届かない高度を維持しながら飛んでいく光仙に、何者かが高速で迫って来た。
「待てや、俺より先に行くんじゃねぇ! テメェ! 入試の時のスーツ野郎だろ!」
「君は……誰だっけ?」
光仙に迫って来たのは入試の実技試験の時に食ってかかってきた金髪の男で、その時に名前を聞いていなかったので聞くと、金髪の男は怒りの表情で大声を出す。
「俺の名前は爆豪勝己だ! 覚えとけクソが! 俺を差し置いて首席合格の上にオールマイトを超えるヒーローになるだぁ!? ふざけんな! オールマイトを超えるヒーローになるのは俺だ! ついでにこのレースでトップになるのもなぁ!」
「……そう。だったら追い越してみなよ」
「待ちやがれ、スーツ野郎!」
空を飛ぶ光仙の後を、爆豪と名乗った金髪の男は個性により掌から爆発を起こした反動で自らも飛んで追う。二人は最初、ほぼ同じ速さで空を飛んでいたが、それは長くは続かなかった。
光仙と爆豪。二人共、個性によって両手から推進力を得るという点では同じだが、ここで二人の個性の違いが出た。
爆豪の個性では爆発による推進力を得られる時間は一秒程度で、次の爆発までに速度や高度が落ちてしまう。
対して光仙がイオンを噴出できる時間は永遠ではないが爆豪よりずっと長く、そこで得られた加速により次の噴出までに速度も行動もほとんど落ちることはない。
この個性の違いにより光仙は爆豪より先に出て、ほんの数十秒の間に差を大きく開けるのだった。
「………!?」
背後で爆豪が何か言っていた気がするが、光仙はそれに構う事なく速度を上げて空を飛んでいく。
ロボットが襲いかかってくる地帯を抜けると、その先にあったのは断崖絶壁をロープで渡っていく地帯、更にその先には辺り一面に地雷が埋められた地帯があった。しかし空を飛ぶ光仙はそれらを何なく突破すると、他の雄英生徒の大半がまだ全体の半分の距離にいるのにもかかわらず、一人会場に戻り一位となる。
『ちょ……!? 他の生徒がまだコースの半分で頑張っているのにもうゴールした奴が出やがった! 一位は雷田光仙! 選手宣誓で大きなことを言うだけのことはあるぜぇ!』
プレゼントマイクの実況が会場に響きわたり、観客達が一位となった光仙に向けて歓声を上げる。そしてその中で一番大きな歓声を上げている者がいた。
「ブラボー! 光仙、一位おめでとう! よく頑張ったぁ!」
頭上で何度も手を鳴らして歓声を上げているのは、雄英高校の教師用の観客席にいるオールマイト。
突然立ち上がり我が事のように喜んで拍手をするNo.1ヒーローの姿に、教師陣だけでなく観客達、そして解説席にいるプレゼントマイクと相澤までも驚きながらも注目する。
『あの……オールマイト? 生徒が頑張っているのが嬉しいのは分かるんだけど、喜びすぎじゃない?』
「何を言うんだマイク君? 自分の義息子が一位になったんだぜ! ここで喜ばないと親じゃないだろう?」
「ちょ……!?」
解説席から聴こえてくるプレゼントマイクの声にオールマイトはサムズアップしながら言い、それを聞いた光仙が驚いた顔で観客席にいるオールマイトを見るが、驚いたのは光仙だけではなかった。
『『………………………………………!?』』
オールマイトの言葉に会場にいる全員どころか、障害物競走をしていた一年の雄英生徒達も驚きのあまり動きを止める。しかし当の本人であるオールマイトは何故皆が驚いているのか気づいておらず、不思議そうに周囲を見回していた。
「んん? 皆、どうしたんだい?」
『………オールマイト? ちょっと質問、オーケー?』
解説席のプレゼントマイクが心なしか震えているような声でオールマイトに質問する。
「何だい、マイク君?」
『今……「息子」って言った? 息子って誰が?』
「光仙だが?」
『誰の?』
「私の」
『『………………………………………!?』』
プレゼントマイクの質問に答えるオールマイトの言葉を聞き、再びこの場にいる全員が驚きで絶句する。そしてここでようやくオールマイトは自分が言った言葉の意味を理解した。
「あっ、ヤベ! これ言っちゃいけないんだった! ゴメン、今のナシで……」
オールマイトは慌てた顔でそう言うが時はすでに遅かった。
『ら、雷田光仙が……!』
『オールマイトの息子ぉ〜〜〜〜〜!?』
相澤の言葉を引き継いだプレゼントマイクの絶叫が会場の周囲に響き渡った。