──その話を、私が聞けたのは偶然だった。
神話に残る伝説のポケモン、ギラティナとダークライを仲間にしたトレーナーの話。
私の先生とも呼べるナナカマド博士からその話を聞いた私は、居ても立っても居られずトゲキッスに乗ってきてしまったのだ……。
──まだ小さな男の子だった。
6〜7歳位のヒトモシをくっつかせた子供だ。長めの黒髪に血のような紅の瞳。黒の大きめのパーカーを羽織った、顔立ちの整った──とてもじゃないけど、伝説を連れているとは思えない。
だが、そんな私の第一印象は彼と話して崩れ去った。
子供とは思えないほどの理知的な会話、冷たい人を見定めるような目つき。
どう見ても、普通の子供には見えなかった。まるで大人が子供のふりをしているような、そんなイメージを私に抱かせた。
──彼には普通に、大人と接するように振る舞うべきだ。
そう感じた私は、彼にお願いごとをするのではなくて、頼み事をすることにした。
──世界には、まだまだ私の知らないことが沢山ある。
それは隣人達、ポケモンの神話の研究をしている私にはとっくのとうにわかっていたこと、の筈だ。
だけど私は、それでも自惚れていたのだろう。歴代最速でジムバッジを集めた天才トレーナーという肩書きに、考古学者としてのプライドと積み立てた実績に。
──目の前に広がる、私の常識を粉々にしてしまうような世界。
どこまでも静かなこの世界には、今彼──クロと彼のポケモン、私だけが存在していた。
物理法則なんて存在しない。まさしく伝説のポケモン──ギラティナのための世界。
「……ここが、彼の──ギラティナの世界なのね」
「そうですね。まぁ俺は何回も此処には来てるんで慣れちゃいましたけど。最初は感動しますよね」
そう言った彼の元に、この世界の主──ギラティナが近づいてくる。
ギラティナを見て笑ったクロは、ふわりとギラティナの上に飛び乗った。モンスターボールから、もう一匹のポケモンが出てくる。
ダークライだ。
「シロナさんも飛んでみたらどうですか。綺麗ですよ」
そう言ったクロの言葉に、腰についたボールを投げる。トゲキッス。シロナの大切な家族は、その背中にシロナを乗せて浮かび上がった。
「……不思議な世界ね。重力が逆さまになっているように思いきや、普通に空は飛べる。息も出来てるから、酸素もあるってことよね」
「後はポケモンがギー……ギラティナ以外いないってのも特徴かもしれませんね。ここは地上だと、もどりのどうくつって所に繋がっています。おくりのいずみ、の場所は知っていますか?」
「知ってるわ。……そんな所に繋がっていたの」
──おくりのいずみ。
名前からして何かありそうな場所だ。私もあの場所には何かあるんじゃないかって踏んでたんだけど……まさかここに繋がっているなんて。
私はクロを見つめる。
……このまま手放していいのか?
この様子だと、他にも沢山私の知らないことを知っているのだろう。何せ伝説のポケモンを仲間にしているトレーナーだ。
ネックとなるのは彼の年齢──だけど、私には積み立てた実績と肩書きがある。ナナカマド博士も、彼の扱いには悩んでいる様子だった。
なら──私が入る隙はある。
「ねぇ、クロ。ちょっと提案があるんだけど、いいかしら?」