真女神転生 IFIF   作:やまもとやま

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2、ガイアとメシア

 イデオは繁華街に出て、軽子坂高校に向かうターミナルを目指した。

 相変わらず、人の数は多かったが、今日はそんな人の混雑を上回る喧騒が響いていた。

 

 イデオが見上げると、大きな街宣テレビが見えた。政治家が街宣テレビで声高々に演説をしていた。

 

 いまは衆議院選挙期間中であり、週末の日曜日に投開票が行われることになっていた。

 選挙権は18歳以上の者が有する。

 

 イデオはちょうど選挙権を手に入れたばかりだった。そのために、イデオのもとにも選挙権が届いていたが、イデオは政治にはあまり関心がなかった。

 なので、イデオは街宣の政治家の演説には聞く耳を持たず、速足でターミナルを目指した。

 

 街宣テレビには、野党第一党である「ガイア教団」の党首「ゴトウ」が演説をしていた。

 

「諸君、おはよう」

 

 ゴトウはもと軍人であり、熱心なガイア教徒として恐れられていた。

 軍隊で鍛えられた肉体と剣道の心得、科学に精通した知能をもとにカリスマ性を発揮し、いまや世界中のガイア教徒を従える男だった。

 

「いま世界は危機的な状況を迎えようとしている。このままメシア教団を与党にのさばらせておくことはできない」

 

 ゴトウは熱く語り始めた。

 

「メシアの犬どもは諸君らから自由と権利と富を奪い、羊のように支配しようとしている。このままでは、諸君は為政者にとって都合のいい従順な羊にされてしまう。それでいいのか? 否、人類がこの地に降り立ったのは、自由と権利を勝ち取るため。力ある者がその力によって世界を変えるため。人はそのために志を得たのだ。我々は自由のために戦う。どうか、諸君らも目覚めてほしい。メシアの都合のいい世界、そしてメシアに都合のいい羊に成り下がってはならん。諸君らの一票が世界を変える」

 

 非常に多くの人がゴトウの演説に聞き入っていた。ゴトウのカリスマ性はすさまじく、ゴトウが党首になる前は、ガイア教団の議席は7議席に過ぎなかった。

 日本のガイア教徒の数も推定500万人程度だった。

 

 しかし、いまやガイア教団の議席は108.今回の選挙では143議席を獲得するとメディアは予想していた。

 日本のガイア教徒の数も1500万人を超えるまでになった。

 ガイア教徒やゴトウを支持する者たちが、ゴトウに熱い声援を送った。

 

 しかし、イデオには興味がなかった。宗教にも興味がなく、メシアもガイアもどうでもよかった。

 

 ゴトウに続いて、メシア教団の演説が始まった。

 

「皆様、おはようございます。今日も神の御加護がありますように」

 

 メシアの正装をした神父が静かに演説を始めた。熱い演説のゴトウとは対極的だった。

 

「いま、世界は混沌に包まれようとしています。世界中で醜い争いが起こっています。争いの火種を蒔く者たちの黒幕はわかっております。そう、ガイア教団です」

 

 メシアの演説は静かだが、主張自体は過激だった。

 

「アメリカフロリダ州より起こったガイア教は悪しき宗教です。力ある者が正義という恐ろしい主張です。彼らは世界から自愛の心を消そうとしています。日本にもその悪しき邪教の足音が近づいてきております。ガイア教団を支配するゴトウは皆さまの心に邪悪をもたらそうとしています。彼は年金、生活保護、国民皆保険など皆を守る制度をすべて廃止し、ゼロ法人税を掲げています。しかし、それでいいのでしょうか。力ある者、富ある者だけが生きることを許される優生思想に染まった世界が、人間が目指した楽園なのでしょうか? そんなはずがありません。生きとし生ける者すべてが神のもと平等に生きることが許されているのです。我々はガイアの闇を振り払い、皆様が安心して暮らすことのできる社会を実現してまいります。どうか、皆様。ゴトウの唆しに騙されないでください。彼が与党になれば、必ず戦争に突き進みます。日本に再び戦争の火を落とそうとします。決してそれを許してはなりません」

 

 メシアの演説は終始静かに行われたが、熱心なメシア教徒らからは絶大な支持を集めていた。

 メシア教団は230議席を持つ日本の第一党である。しかし、もともと330議席あったことを考えると、大きく勢力を落としていた。

 

 ガイア教団が140議席を獲得しそうな勢いに対して、メシア教団の予想獲得議席は210議席にとどまると予想されている。

 

 また、ガイア教団の仲間である「オザワ第一党」も5議席を獲得すると言われている。

 オザワはゴトウと同じガイア教徒であるから、勢力をあげることになれば、ガイア教団の影響力はさらに高まることになる。

 

 そんな不安定な選挙情勢が続いているが、イデオは一切に関心を寄せずに渋谷ターミナルから電車に乗った。

 

 ◇◇◇

 

 イデオにとって、学校の授業は退屈だった。

 イデオは並外れた頭脳の持ち主であり、高校レベルの学問はすべて完全に掌握していた。

 そのため、授業を受ける価値はほぼなかった。

 

「すべてはプラズマだ。世界はプラズマで出来ている。プラズマ説を否定する科学的根拠などどこにもないのだ」

 

 物理の授業では、教師の大月が熱弁していたが、イデオは話半分に聞いていた。

 

 午前中の授業が終わると、イデオは一人教室を離れて、体育館の裏口に向かった。

 イデオには友達がいないから、昼休みはだいたいそこで過ごしていた。

 

 そこは誰も寄り付かない静かな場所だから、イデオは昼休みが終わるまでそこで時を過ごすのを日課にしていた。

 

 今日はSTEVENから送られてきた謎のファイルを解析するという仕事があったので、暇を持て余すことはなかった。

 イデオはアームターミナルを取り出して、STEVENから受け取ったファイルを色々と触ってみた。

 

 オートマッピングプログラムはすぐに使い方がわかったが、その他のプログラムの使い方がどうしてもわからなかった。

 

 特に悪魔召喚プログラム。

 

 これに何かファイルが圧縮されていたので、あれこれ解凍しようとしたが、なかなかうまくいかなかった。

 

「ダメだな。このアプリでも開かないか……」

 

 イデオが夢中になっているうちに、まもなく昼休みが終わろうとした。

 イデオはとりあえず作業を後にして校舎に戻るために立ち上がった。

 

 ◇◇◇

 

 放課後、イデオはいつもどおり直帰することにした。クラブ活動なんかには一切参加していなかったから、学校が終わったら、学校にいる理由はなかった。

 

「くそ、チャーリーのやつ、勝手におれのチャリを持って行きやがって」

 

 男子生徒が困ったように自転車置き場で嘆いていたが、イデオは一切かかわらなかった。

 イデオは自転車置き場を横切って、校門に出ようとした。

 

 そのとき。

 

 イデオは地面の何かに足をぶつけた。

 足元を見ると、フロッピーディスクが1枚落ちていた。

 

 今時フロッピーディスクは珍しかったので、イデオはそれを取り上げた。

 

「今時、こんなもん使うやつがいるんだな」

 

 イデオは何となく珍しさを覚えたので、それを懐に収めた。

 その足で、ターミナルに向かった。

 

 だが、ターミナルの電車はかなり遅延していた。

 

「乗客の皆様、大変ご迷惑おかけしております。ただいま人身事故が発生したため、渋谷環状線の運転を見合わせております。ご迷惑おかけしております」

「なんだよ」

 

 イデオは毒づいた。誰がどこで死のうが知ったことではなかったが、こっちに迷惑を被るのは腹立たしかった。

 仕方なく、イデオは近くのアーケード街に向かった。

 

 別に行きたいところはなかったが、運転が再開するまでは家に帰ることができないので仕方がなかった。

 市バスを使ってもよかったが、わざわざ使い慣れないバスを調べるのも面倒くさかった。

 イデオは近くの本屋に向かった。

 

 いまさら、イデオが読むのにふさわしい本などなかった。イデオにとって一般書籍は駄文の連なりでしかなかった。

 立ち読みもむなしいので、イデオは裏路地を通って、北口に向かって歩き出した。

 

 裏路地の人通りは少ない。

 その路地を進行中、イデオは突然、女性の悲鳴を聞いた。

 

 顔を上げると、目の前から女性が悲鳴を上げながらこちらに向かってくるのがわかった。

 何かに追いかけられているようであり、女性は恐怖におびえていた。

 

「誰か助けてぇぇぇ! ぎゃああああああ!」

 

 イデオのちょうど目の前。そのところで、女性が後ろからやってきていた男に掴まった。

 

「じね、じねええええええ!」

「ぎゃああああああ」

 

 男は手に持っていたアタックナイフで女性の背中を容赦なく突き刺した。

 

 一突き、二突き、三突き………。

 

 そのたびに、血が飛び散った。あまりに生々しい殺人現場。

 イデオは初めて見る殺人の瞬間に畏怖して動けなくなった。

 

「メシアの穢れた血を皆殺しにしてやる。お前もだ!」

 

 男は女性の息の根を止めると、イデオに目を向けた。その目は人間とは思えないほどの狂気に染まっていた。

 イデオはしりもちをついてあとずさりした。

 

「よ、よせ、僕はメシア教徒じゃない」

 

 イデオは弁明したが、男には通じなかった。

 どれだけ頭脳があっても、突然のこの局面を解決する方法はすぐには思いつけなかった。

 イデオは目を閉じた。

 

「ぐ、ぐえええええ!」

 

 次の瞬間、何かを殴打するにぶい音が3度響いた。

 イデオは自分の体に何も降りかかってこないのを感じて目を開けた。

 

 すると、目の前には少女が一人いて、少女のその先には先ほどの男が頭から血を流して倒れていた。

 

 一見では、何があったのかわからなかった。

 

 少女は右手に金属バットを握りしめていた。状況を考えると、どうやら、少女がその金属バットで狂人の男を殴り倒したものと思われた。

 

 イデオは少女の顔を確かめた。

 制服が軽子坂高校2年生のものだった。どうやら、同じ学校の女子生徒と思われた。

 イデオは顔が広くなかったので、下級生のことはまったく把握していなかった。

 

「間に合わなかったか」

 

 少女は金属バットを投げ捨てると、倒れた女性の息を確かめた。

 男に何度も背中を刺されており、すでに息はなかった。それでも、少女は救急車を呼ぶために懐からスマホを取り出した。

 こんな状況でもしごく落ち着いている様子から、普通の女子高生ではないことは明らかだった。

 

「ちぇっ、こんなときに電池が切れてるなんて」

 

 少女は舌打ちすると、スマホを懐に戻して振り返った。

 

「あんた、動ける?」

「え、あ、ああ」

「なら、救急車。早く呼んで。あとこれ、正当防衛だから、あんたが立証者よ」

 

 少女の前には男が倒れている。少女の金属バットの殴打を何度も受けたために、意識を完全に失っていた。死んだかどうかはわからない。

 イデオは言われたとおり、119番を押した。

 

「貸して」

 

 少女はさっとイデオからスマホを取り上げて、慣れた様子で応答した。

 イデオはやることがなくなったので、地面に転がっているものを順に見た。

 

 男と女、アタックナイフと金属バット。あたりに血だまりができていた。

 

 どこかシュールな光景だった。これまで、平和な世界で生きていたイデオには目の前の光景がドラマの撮影現場としか映らなかった。

 

 少女がてきぱきと救急隊の受け答えをしている間に、救急車が到着した。

 救急車がやってきて、その後を追うように、警察も駆け付けた。

 

 救急隊はすぐに女性の遺体と倒れていた男を収容した。

 一方で、警察は少女とイデオを取り囲むようにして、厳しい目つきをした。

 警察というより、やくざのような目つきだった。

 

「お前たちがやったんだな?」

 

 警察はやってくるなり、少女にそのように尋ねた。そう尋ねた警察隊からは、警察らしさがまったく感じられなかった。

 少女はそんな状況でも冷静に対応した。

 

「違います。その前に警察手帳を見せてくださいますか?」

「ふん」

 

 警察は警察手帳を出す代わりに、懐からニューナンブを取り出して、少女に銃口を向けた。

 少女はそれでも平生を崩さなかった。

 イデオは少女の後ろでしどろもどろすることしかできなかった。これは刑事ドラマの撮影に違いないと思っていた。

 

「お前たちは高校生に扮したメシア教徒のクーデター部隊だな? トルーマンの使いだろう?」

「そんなわけないでしょ。メシア教徒というのは間違いないけど」

 

 少女はそう言うと、懐から学生手帳を取り出して示した。

 

「軽子坂高校2年生の白川ユミ。正真正銘の高校生よ。あなたたちこそ、そんなもの向けないで警察手帳を見せてよ。法律で決まってるんでしょ」

 

 少女はユミと名乗った。

 イデオはユミのことを具体的に知っていたわけではないが、2年生の女子ソフトボール部に白川ユミという世界レベルの選手がいるということはどこかで聞いたことがあった。

 どうやら、その生徒と見て間違いなかった。

 

 繰り返し警察手帳の提示を求められた警察隊だったが、それには応じず、次のように言った。

 

「お前たちを殺人事件の現行犯で逮捕する」

「はあ?」

「動くな。抵抗するなら撃つぞ」

 

 警察はやってくるなり、すぐにユミとイデオを強引に逮捕した。

 イデオも手に手錠をかけられ、身動きが取れなくなった。

 

「ま、待ってください。僕は何もしていません」

「しゃべるな。黙って歩け。ここに乗れ」

 

 ユミとイデオはパトカーに収容され、パトカーは音を立てずに走り出した。

 パトカーが向かったのは警察署ではなく、近くの病院だった。

 

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