多分、ウマ娘の二次創作   作:ゆるた

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三話

 拝啓。天国にいるだろうお父様、お母さまへ。

暦の上では四月となり、気候も穏やかで過ごしやすくなりました。

 

 最近のボクですが、人生の儘ならなさを痛感しています。

二十歳も半ばになりますが、今でも発見の続く日々です。

 

 追伸。何故か日本トレセン学園に来ています。

不肖の息子では有りますが、どうか不幸が降り掛かって来ない様、天国から祈って頂けると幸いです。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 先日の、怪しげな依頼を持ち込んできた探偵との出会いから、特段何もないまま一ヶ月ほど経過した。

 

 何故あそこまでボクの内情を彼女が知っていたのか。尽きない疑問を緒方さんへ問いかけようと思ったが、電話が繋がらない上に直接会おうともしても、向こう側の不在が続く日々。

 

 

 これ以上自分から問いただすのも藪蛇かもしれない、なんて考えていたのが一時間ほど前で、丁度そのタイミングで、緒方さんから一本の電話が入った。

 今から迎えを一台寄越すから、軽く食事でも取りながら話をしよう、という内容だった。

 

 そのあと車に乗った所までは良いんだ。運転手も、緒方さん絡みの今まで何度か会ったことのある顔馴染みの人だったし、車に乗り間違えたなんて事はないだろう。

 

 

 ――如何せん、目的地が不可解過ぎる。

車から降りた僕を出迎えたのは巨大な校舎と運動場だった。

 

 

 見覚えのある光景を自分の記憶と照らし合わせ溜息をつく。なんでまた、トレセン学園の門前が降車場所なんだ。

 嫌な予感に恐怖していると携帯に通知が入る。緒方さんからのメッセージだった。

 

『悪い。先約との話が続きそうやから、少し出るの遅れそう』

 

 こんな場所で誰と話してるんだと、目を細めると、メッセージがもう一通届く。

 

『入校の許可は取ってあるから、暇つぶしに校内でも散策しとってや』

 

 

 …………。

 

 案内されたのがトレセン学園って事は、緒方さんの先約というのはこの校内の誰かを指すのだろうか。

 

 いや、考えるのは辞めておこう。どの道この後会って直接話をする訳だし、何も分からない状態であれこれと考えて気分をナーバスにさせる必要はないだろう。

 

 

 しかし時間が空いてしまったな。あの人の用事がいつ終わるかも分からない以上、あまり離れた場所まで行くのは辞めておいた方が良いだろうし。

 そうなると、近場で時間を潰す必要が有るが……。

 

 腕時計に目をやると時刻は大体17時半頃だった。構内へ視線を向けると、運動場のトラックで練習をしている生徒達が片付けを始め、帰り支度をしている姿が目に入る。

 

 ふと喉が乾いている事に気づき、取り合えず何か飲み物でも買おうと自動販売機へと向かう事に決めた。

 

 かつてトレーナー業を目指していた頃、オープンキャンパスに参加した程度の記憶を頼りにすれば、確か購買に設置されてあった筈だ。

 大体の学校内の自販機の設置事情といえば、購買か食堂に置いているのが相場と決まっている。

 

 入口近くに掲示された構内地図を確認したところ、購買は運動場からすぐ目の前にある建屋の一階に入っている様だ。

 

 足を進めていると目的の棟まで辿り着く。外部からの入校者用に受付が用意されていた為、首からかけるストラップと来客と書かれた腕章を身につけ購買を目指す。

 

 

 

 暫く歩いて、次の角を曲がれば購買だなと思っていると、曲がり角から、強烈なスピードでこちらへ走って来るウマ娘の姿が視界に飛び込んできて、ギョッとする。

 

 ウマ娘の時速を考えれば、公道を走行している自動車と変わらない速度だ。まともにぶつかれば大惨事になってしまう。

 

 彼女もこちらに気づいた様だが、慌てて減速しているが急には止まれない様だ。

 

 ヤバい、こっちが避けないと――

 

 両脚に力を入れ、すんでの所で身を躱し回避に成功する。大事にならなくて良かったと、胸を撫で下ろしていると、急な減速で転んでしまい地面に突っ伏した彼女が目に入る。

 うわっ、痛そー。

 

「だ、大丈夫……? 怪我とかしてない?」

 元を辿れば廊下を疾走していた彼女が原因だろうけど、無言で立ち去るのもと思って心配の言葉を掛ける。

 

「――フフッ、普段のリサーチから、この時間帯のこの廊下は人が居ない事を想定していたんだがねぇ。いやはや、皆、いつも通りのルーチンワークを意識して動いてほしい物だね」

 

 立ち上がって膝の埃を叩きながら、悪びれもしない言葉が返ってくる。なんだ、コイツ。

 

「ん? ――って、あぁ! すまないね。よく見てなかったよ。腕につけている腕章、キミ学園の人間じゃないのか。少しばかり急いでいた所でね。ぶつかる所だった、悪い事をしたよ」

 一応の謝罪が返ってきた。

 

「学外の人間が居る居ないとか、皆のパターンが分かってるからって問題じゃなく、廊下であまり速度は出さない方がいいと思うけど……」

 

「この学園の校則の一つに、廊下は静かに走れ、と言うものが有ってね。校則に則ってはいたつもりなんだけどねえ。いや失敬失敬、今後は見通しの悪いところでは気を付けるとするさ」

 そう言うと彼女は高らかに笑う。

 

 しかし流石は天下のトレセン学園というべきか、校則一つとってもスピードに狂っている。世間一般では、廊下は走るな、だ。

 

「結果的に何が有ったって訳じゃないから別に良いんだけどさ。それより君」

「アグネスタキオンー! 何処にいるー!」

 

 遠くから誰かを呼ぶ声が聞こえてくると同時、眼の前にいる子が肩をピクリとさせた。もしかして。

 

「ええっと――、アグネスタキオンって君のこと?」

 

「あれ?キミに名前を名乗ったかな」

 

「いや、君急いでたみたいだし。もしかしてあの声の主から逃げてたりする感じなのかなって」

 

「フフッ……、フゥ〜ハッハッハ! 大した洞察力だねえ? そうさ、私こそがアグネス家が寵児、アグネスタキオンさ。そしてあの声が此方に来る前に退散させて貰うとするよ、キミ、迷惑掛けてすまなかったね」

 

 アグネスタキオンが高らかに自己紹介をする。別に大した洞察力ではないが。

 

 って、あ。

 

「見つけたぞ、アグネスタキオン」

 アグネスタキオンの後ろからウマ娘が二人現れ、その内の一人が彼女の肩を両手でがっしりと掴む。

 

「うわぁっ」

 

「酷いじゃないか、今日の放課後に一度だけならと、併走してくれるという話にYESを出したのは、他でも無い君自身だろう」

 カーキ色をしたミリタリー的な服に数々の勲章を付けた女性が、アグネスタキオンを掴みながら話しかける。

 

「辞めてくれよぉ会長殿。あまり力を入れられると肩が脱臼してしまうじゃ無いか」

 

 何処かで見たことある顔だと思っていたが、そうだ。会長。トレセン学園の生徒会長と云えば、シンボリルドルフだ。彼女が、栄誉溢れる名バが集うトゥインクルシリーズの中でも最強と名高い七冠ウマ娘か。

 

「さあ、約束通り併走に行こうじゃないか」

 

「ハァ……、分かったよ。もう逃げないから腕を放してくれたまえよ」

 

「ああ、すまないね。それじゃあターフへと向かおうか」

 

 シンボリルドルフが、タキオンの肩から手を離し、ターフの方へと二人で向かう。

 

 巻き込まれ気味に一部始終を聞いてしまったが、まあ別にボクには関係ないことだ。当初の目的を果たしに購買へ向かおうとすると、黙ってシンボリルドルフの後ろに控えていた、黒い髪をポニーテールに束ねたウマ娘が話し掛けてくる。

 

 「アンタ誰だ? こんな時間に来客なんて聞いてないが」

 

 ぶっきらぼうな喋り方の子だった。初対面の人へアンタ呼びは辞めた方がいいよ……。

いや、そんな事よりも目を惹く部分が彼女にはあった。年頃の女の子のファッションなんて分からないけれど、最近の流行りなのだろうか。

 

「なんだ、人の顔をじろじろと。何か文句が有るのなら、ハッキリと言ったら良いだろう」

 

 いや、顔じゃない。綺麗な顔立ちだなとは思うが、僕が目を離せなかったのは、

 

 ――彼女、口から枝を咥えているのだ。

 

 ただ、今の自分の感想を伝えてた所で、碌な事にならないとボクの勘が告げている為、口を噤む。

 

「いや、知人に呼ばれてきただけだよ。今は少し喉が乾いたから、その先にある自販機で飲み物を買おうかと歩いてた所」

 

「そうなのか? しかし残念だったな、購買の自動販売機は今修理中だ」

 

「あ、そうなの」

 

「ターフの近くにある、倉庫横の自動販売機なら問題なく使えるぞ。アタシも近くまで用事があるから、アンタが良ければ着いて来るか?」

 

 口は悪く聞こえたが性格は良い子なのかな。いや気風が良いというべきか。

引っ掛かるのは枝を咥えている事位だ。

 ボクの知る限り、枝を咥えて良いのは矢吹ジョーやドカベンの岩鬼くらいだ。年頃の女の子がするものじゃない、と思う。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

「まあタキオンが迷惑かけてた様だしな。詫びじゃ無いが案内くらいしよう。――私の名前はナリタブライアンだ。アンタは?」

 

 さすがはトレセン学園、ビッグネームがポコポコと出てくる。ナリタブライアンといえば、クラシック路線の三冠ウマ娘だ。

 となれば、もしかすると枝を咥えていることにも何か意味が有るのかもしれないと思えてきた。

 

「それはどうも。ボクの名前は、志村賢治だ」

 キミの走りに金を賭けた事もあるクソ野郎だ、宜しく。

 

 

 

 

 建物を出てストラップと腕章を返却し、自動販売機の方へ向かいながら、雑談をする。

 

「そういえば、彼女。アグネスタキオンだったっけ。なんでシンボリルドルフ会長に追われてたんだ?」

 

「なに、本格化を迎えたウマ娘は選抜レースに出走して、トレーナーとの契約を結ぶのが普通だろう」

 

「ああ」

 

「それをアイツ、研究時間の無駄だ〜なんて選抜レースの殆どをすっぽかしてるんだ。お陰で上はカンカンでね、最後通牒として、今日の選抜レースに出走しなければ退学だ!――なんて話になってたんだけどな」

 ナリタブライアンは喋りながら、どんどんと残念そうな顔になっていく。

 

「出なかったのか、彼女」

 

「ああ出なかった、研究の遅延を受け入れる位なら、退学も覚悟の上だとさ。それでウチの会長が大慌てでね、何とか学園に繋ぎ止めようとしてる訳だ」

 

「退学ね、それがどうして併走に繋がる訳なの?」

 

「上をも黙らせるタイムを出せば、直ぐの直ぐに退学にはならないだろうとの考えらしい。まあ会長としては、レースを通じてアイツにこちらの思いが伝われば……、なんて考えてるみたいだがな」

 

「会長さんや君が、残念に思うほどの資質が彼女には有るって事?」

 七冠、三冠ウマ娘が、消えるには惜しいと考えるだけの逸材なのだろうか彼女は。

 

「そうだな、今年本格化を迎えるウマ娘達の中で、彼女は恐らく別格だ」

「そいつは又」

 

「まあ、今後走らないんなら意味はないがな――。志村、私はレースの計測を行うからここまでだ。自販機はその先を曲がって直ぐだ。」

「分かったよ、案内有難う」

 話を終えると、ナリタブライアンは背を向けながらこちらへ手を振り、ターフの方へ向かっていく。

 

 

 しかし、アグネスタキオンか。

ボクを呼びつけた緒方さんからの連絡は未だない上、折角トレセン学園に来ているんだ。

 

 どうせ時間を潰すなら、レースでも見ていようか。

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