多分、ウマ娘の二次創作   作:ゆるた

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四話

 自動販売機で飲み物を購入してターフに戻ると、丁度併走が始まった所だった。

今は、第一コーナーを曲がった所か。計測を担当しているナリタブライアンへと声を掛ける。

 

「横で見ていてもいいかな」

 

「ああ志村か。別に構わんぞ」

 

「有難う。ねえ、併走って云ってもさ。今回は何m走る予定なの?」

 

「ん、2000だな」

 

 手元のストップウォッチを弄りながら、ナリタブライアンが返事する。

 

「中距離レースを想定しての距離指定か」

 

 芝の2000m。レース場ごとに坂路の高低差も有るから全く同じ条件という訳ではないけれど、G1でいえば、大阪杯・皐月賞と同条件といった所か。

 

 併走をしている二人に目を向ける。前評判に違わず、アグネスタキオンの走りは綺麗なものだった。力強く見えてその実、一歩一歩からペース配分を感じさせる緻密な走り。均整の取れた体躯から繰り出される、大幅なストライド。

 併走相手のシンボリルドルフと比べると、未だ荒削りな面を感じられるが、今年本格化を迎えたばかりのウマ娘の走りだとは到底思えない。

 

「凄いな……、予想以上だ」

 思わず、呟いていた。

 

「だろう。アイツがトゥインクルシリーズに出走すれば、中々面白い事になりそうなんだが」

 遺憾せん、本人に出走の意思がなければな……、とナリタブライアンは愚痴を溢す。

 

 しかし併走と聞いていたから、もっと流す様な走りになると思っていたが、想像以上にハイペースな展開になっている。

 実際の2000mでのレースのペースと遜色ない。となると仕掛け所は最終コーナー手前か――。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 脚が軽い。気分が高揚していくのが分かる。やはり走るという行為は、我々ウマ娘にとって天からの贈り物(ギフト)の様な物だと、私アグネスタキオンは考える。

 

 先を行くシンボリルドルフからは、事前に鳴らし程度の走りだと聞いていたが、まるでそんな配分には思えない。

 ふと、彼女がこちらを一瞥し、ふふと笑った。

 

 ――試されている、ということかな?

 

 フフッ、良いだろう、会長。

今の生活のまま、この学園で過ごし続けていれば、この学園には居られなくなる事は予想している。ならばこそ、己の全てをぶつける事が出来るのは今を持って他に無いッ!

 

「アグネスタキオンーー」

 ふと、前を走る彼女から声を掛けられる。

 

「フッ、ハッ――どうしたのかな、レース中に、お喋りとはッ」

 

「いや何っ、疑問の答えを一つッ、答えてもらおうと思ってね」

 第三コーナーを曲がりながら、質問を投げかけてくる。水平方向からの強烈な横Gが身を襲う。

 

 

「君程に頭が回るウマ娘が、何故敢えて遠回りの道を選ぶッ」

 

「最高速度の限界を、求めるにあたっては、これ一点。最短距離を選び続けているつもりだがねッ」

 

 息を入れながら問答を続ける。走りながら会話とは、随分と会長様は余裕のある事だ――。

 

「トレーナーからの指示の元では、研究の進捗が進まないという訳かっ、だが、結果としてこの学園を去る事になったとして、それは最短距離と言えるのかな」

 

 少しばかり痛い部分を突かれる。

 

「正直、最高峰の設備と人材が揃ったこの学園を、去ることは惜しいがねッ。私個人の自由な時間と束縛を鑑みた場合、多少の遅滞は微々たる物だよッ」

 

「全て、織り込み済みという訳か。君の場合、そこまで考えていない訳がない、か」

 

 会話しながら、少しだがまたペースが上がる。置き去りにされない様、両の脚へ力を籠めて地面を蹴り上げる。

 

 

「説得だとしたら、悪いね――。私の決意が揺るぐことはないよッ」

 

「ふっ、賢い君の事だっ。そこまで考えていたのなら、他の実力者が集まるレースへと、早々に切り替えた方が、なんて考えにも辿り着きそうな物だが、」

 

「言葉巧みに、動揺を誘う、番外戦術という奴かなッ! これは、研究しているだけでは得ることの出来ない知見だねッ」

 

「いやなに、そんなつもりで喋ったつもりはないよ。

 ただ……、『担当トレーナー』という、君がいう『邪魔者』から決して逃れ得ぬこの学園に――、何故君が残ってくれていたのかを考えていてね」

 

 

「なに私も年頃の少女だ。もしも、君のいうこと何でも聞いてくれる『王子様(モルモット)』みたいな存在が現れて、全部都合よく進んでいく。なんて事を夢見たりなんてしているのかな、等と想像してしまうと、少し君の事が理解出来た気になってしまってねッ」

 

 ……、ハ、ハぁあーーーーー?! 何を馬鹿な事を言ってるんだ彼女は……!

 

 馬鹿な事と言いつつ、レース中の運動による体温の上昇とは別に、自分の顔が赤面していることを感じた。

 んんッ!……落ち着け私、さっき自分で言ったばかりだろう。今のも動揺を誘う手練手管の一つだぞ。

 

 

 第四コーナーを越え、最終の直線へ差し掛かった所で、シンボリルドルフは伝えたい事は伝えたとばかりに顔を綻ばせると、末脚を繰り出す。

 

 

 ーー落ち着け、今はレースに集中しろ。何のために走っているかを思い出せ……私が目指すのは最高速度のその先!

 

 トップスピードに向けた加速の為、より大きくストライドを取ると、軋みを上げる身体。それに鞭を打つ。

 

 

 そうだッ、この脚に眠る可能性の果ては! この肉体で到達し得る限界速度は!未だ影すら見えぬ程、遥か彼方なのだから……!

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 両者ともに凄まじい走りだった、お互いの鍔迫り合うレース。しかし、序終盤にかけてリードを常に取り続けていたのは、シンボリルドルフであった。

 最終コーナーから抜け出す際の瞬時の加速には、アグネスタキオンも反応できていなかった様だ。

 

 しかし最終直線に差し掛かった所で、アグネスタキオンの眼が変わった。それと同時、凄まじい程の加速を見せ、最後はどちらが一着か怪しい程の接戦へと持ち込んだ。

 

 計測係のナリタブライアンでも判別が着かず同着判定で良いんじゃないか、なんてボヤいていた所、アグネスタキオン本人から、ハナ差で私の負けだよとの申告が有った。

 

 

「……疲れた! ここまで全力を持って走る事が出来るとは。心底惜しいよアグネスタキオン」

 

「勝利した側から、そういって貰えるのは光栄なのだろうね、会長」

 

 二人が会話をしていると、ナリタブライアンがタオルを二人へと差し出す。

 

「ほら、タオルだ。二人とも汗を拭いておいた方がいい」

 

「ありがとう、ブライアン」

「感謝するよ」

 

 タオルで汗を拭きながら、こちらに気づいたアグネスタキオンが話かけてくる。

 

 

「そういえば、君はさっきの来客君じゃないか。今のレース見ていたのかい」

 どうやらレースに集中していた様で、観戦していたボクには気がついていなかったらしい。

 

「あぁ、ごめんね。勝手に見学しちゃって、気を悪くしたかな」

 

「いや別に構わないさ。ここでのラストランになるだろうしね。観客が一人増えてくれたのは嬉しいくらいさ」

 

 ラストラン、そうか。あんなにも凄い走りを見せた彼女でも、上が納得をしない以上は、このトレセン学園を去りゆく立場が変わる事はないのか。

 部外者の自分が気の利いた事を言えることもなく、推し黙る。

 

 

「いや、アグネスタキオン。君の退学が決定事項になった訳ではない。レース中に要らない言葉を口に出したかもしれないが、我々も最善を尽くす。」

 口を噤んだボクに代わり、シンボリルドルフが言葉を投げかける。

 

「ーー?……ッ! あ、ああ、そうだね。ここを離れれば研究が若干の後退を余儀なくされるのは、免れられない事実だしね」

 シンボリルドルフに話し掛けられた彼女は、なぜか一瞬顔を赤くするも、直ぐに素面に戻りどこか寂しげに返事をする。

 

「一番は、君がほんの少し折り合いをつけてトレーナーと契約してシリーズに出走する事なんだがね」

 シンボリルドルフが残念そうに話す。

 

「そのほんの少し、が私にとっては大きな問題なんだよ。研究の遅延はやはり見逃せない」

 

 そう言い放った後、さて、そろそろ自室に戻って研究の再開をしようかな、失礼するよ――と言うやいなや、アグネスタキオンは一目散にターフから帰って行った。

 

 

 アグネスタキオンが去った後、この場にいるのは、残った二人とボクだけになった。

 

 レースを見ていただけだが、そこそこの時間が経過していた。

 そろそろ緒方さんから連絡も来る頃だろう。部外者が何時迄も居座っているのも良くないと思いこの場を立ち去ろうとすると、シンボリルドルフに呼び止められる。

 

 

「先程から一部始終見ていられていた様ですが……、もしや志村賢治さん、で間違っていないでしょうか?」

 

 んん? 最近やけにボクの名前が初対面の相手に認知されている事が多いな。嫌な予感がする。

 

「違います」

「ハ? おい、お前、さっき私に志村と名乗っただろう?」

 

 ナリタブライアンから、眉を顰めながらの指摘を受ける。

クソッ、そういえば先ほど彼女には名前を告げてしまっていた。失策だ。

 

「……志村です。どうも初めまして」

 

「アハハ、中々愉快な人柄とお見受けします。私の名前はシンボリルドルフ。どうぞよろしく」

 

 こちらの誤魔化しを、向こうは冗談と受け取ってくれた様で、笑みを溢しながら挨拶される。

しかしまた何でボクなんかを、天下無敵の七冠ウマ娘が把握しているのか、問い掛けた所――。

 

「うん? 本来であれば、今日の昼過ぎ頃に二名で来校される予定だった方の一名が志村トレーナーという方の筈でして。事情で少し後から来校すると伺っていました」

 

 え、事情も何もさっきここに呼び出されて、ここに着いたばかりだよ。

いや、それよりもこの娘、ボクの名前に凄い不穏な単語つけてなかった?

 

「しかし就任前から、生徒の抱える問題・状況の把握から入られるとは……。なるほど外部から誘致されるだけの事はある筈ですね」

 

「なんだ、志村。お前トレーナーだったのか。だったら来校者だなんて言わず先にそれを言えば良いだろう」

 

 シンボリルドルフからの情報に、ナリタブライアンが驚きつつ、突っついてくる。

違う。ボクそんな称号身につけた覚えない、怖。

 

 

「志村さん、走りを見れば分かって頂けたかと思うが、彼女の才能は本物です。ただ遺憾せん本人の拘りが強くて……。在籍しているトレーナーからのアプローチも全て跳ね除けてしまって、正直彼女を取り巻く環境はあまり宜しくはない」

 

 へえーそうなんだ。でも流れ的に、ボクを取り巻く環境も多分宜しくないと思うな。

 

「学内のトレーナーは基本、複数人のウマ娘を担当している。既に複数人の担当を受け持った状態で面倒毎を受け入れる人間は多くない。――そこで外部からのトレーナー誘致という訳か。フッ、学園側も策は打っていたという訳だ。面白い」

 全然、面白くないよ。置いてけぼりにしないでよ。

 

ナリタブライアンが合点がいったとばかりに目を輝かせ始める。

 

 最早、ボクがトレーナーという前提で話が進んでいる。言い出しづらいが、誤った認識はきちんと正すべきだろう。

 

「いや、ボクは」

「こんな所にいたんですかお二人ともー!」

 

 あぅッ――、意を決して放とうとしたボクの声は遠くからこちらを呼ぶ声に遮られてしまう。

声の聞こえた方に振り向くと、緑色の制服を着た女性と見覚えのある長身の男性が、こちらへと向かって来ていた。

 

 近くまで歩いて来た所で、女性がボクに気づくと話し掛けて来る。

 

「あ、もしかして貴方が」

 

 女性の問いかけにボクではなく、隣の男性が言葉を返す。

 

「あぁっと! すみません。今日の細かい事情まではまだコイツに話しとらんのですよ。――賢治、こちら学園の理事長秘書のたずなさんや。挨拶と自己紹介したってや」

 

 どこか胡散臭く聞こえる関西弁に、短く切り揃えた髪を金色に染めた男がボクに話を振りながら詰め寄って来る。

 

「近い、近いです。緒方さん。少し離れて」

 

 キス一歩手前まで寄って来た緒方さんを手で押し退けようとすると、緒方さんから小声で耳打ちされる。

 

「賢治分かるで、言いたい事いっぱいあるんやろ? 後でぜーんぶ話聞くさかいに。その前に挨拶、な。お願い、な」

 

 手のひらをさすりながら懇願してくる。

……言いたいことは山ほどにあるけれど、こちらを不思議そうに見つめる女性を放っているのも気が引ける。

 本日何度目になるだろうかと思いながら、自己紹介を行う。

 

 

「ええっと、どうも始めまして。志村と言います、宜しくお願いします?」

 

 ボクの、疑問符混じりの自己紹介から一拍置いて、朗らかな笑顔で挨拶を返される。

 

 

「はい初めまして。ご紹介に預かりました、理事長秘書の『駿川たずな』と申します。

 宜しくお願いします。トレーナーさん」

 

 呼び名から、自分の名前すら消えちゃったよと慄いていると、隠れて笑いを堪えている緒方さんと目が合う。

 

 本当にこの人は………

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