多分、ウマ娘の二次創作   作:ゆるた

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五話

 トレセン学園を離れたボク達は、当初の予定通りに、二人、居酒屋で食事を取りつつ話をする事になった。

 

 正直聞きたい話は山ほどに有る。道中何度も問い掛けようとするボクを、緒方さんは、そういえば……、ところで…、なんて具合に、別の話題へすり替えて煙に巻く。

 

 早く解答の欲しいボクだったが、するすると躱され続けるやり取りを何度も続けていると、ようやく店へと辿り着く。

 

 店内に入り座席へと座ると、注文を取りに来た店員へと矢継ぎ早に注文を終え、ずっと先延ばしにされていた話題へと踏み込む。

 

 

「さて、もう店内ですよ。飯も頼みました」

 

「……おー」

 

「はぁ……どうしてこんな話になってるのか、聞かせて貰えるんですよね」

 

 ここまで引っ張って、未だお茶を濁す事は無いですよね?と詰め寄る。

 

「ん、そうやなあ……」

 

 質問するボクへ、緒方さんから歯切れの悪い返事が返ってくる。苛立ちが募る。我慢しきれず声を荒げる。

 

「緒方さん!!」

 

「んおうッッ――」

 

「サクッと本題に入りましょうよ」

 

「おおっ、そうやなあ……」

 

 いやあどこから話したものか……、と頭を掻きながら、眼前の男がポツポツと口を開き始める。

 

「まあ飲みながら聞いてくれやーー。いや、今回の話な。最初は俺もそこまで大きい話に考えてなかったんや」

 

 始まりは、地元ならそれなりに顔の知れた、探偵業を営む顔馴染みの女性からの話だった。

 曰く、トレーナー業に少しばかり知見を持った人間を紹介して欲しいと。

 

「お前、ここ半年位からかな……、結構腐ってたやろ」

 

「……ん、 ああ――まあ、否定は出来ないですね」

 

「せやろ? まあその辺は、あんまし俺から干渉するんも違うなー思ってたんやけど。そこに今回の話が有ってな。ちょっとした気分転換になれば思ってお前の事紹介したんや。

 依頼人の愉子ちゃんも知らん仲とちゃうしな。あんまし悪い話にはならへんやろうとお前の所在を伝えたんやが」

 

 お前がここまで警戒するとも思って無かったわーと話す。

 

 おどけた態度で話す緒方さんだったが、アルコールの注がれたグラスを軽く煽ると、表情を真剣なものへと変えこちらに向き直る。

 

「ぶっちゃけで聞くけど、トレーナーすんの嫌なん?」

 

「はい」

 

「即答やなぁ……」

 

 お手上げだと手を振る緒方さんを見て、ため息を吐いた後言葉を返す。

 

「正直、別にトレーナー業が嫌って訳じゃないんですよ。誰かの悪意に晒されそうな、いやーな予感がしたので逃げたのが正解っていうか」

 

「おお……?」

 

「大体が、ボクの知らない所で話が進みすぎなんですよ。今回の一件は」

 

「そうかも知らんなー」

 

 悪い空気になってきたぞと、緒方さんは居心地悪そうに身体を揺さぶらせる。悪いけど、今日は徹底的に文句を言うつもりで此処に来ている。

 

 店員が注文していた品を持ってきたが、雰囲気の悪さを感じ取ると、商品を机に置き即座に立ち去って行く。うん、人の機微が感じ取れる人なんだろう。目の前のこの人にも少しで良いから分け与えて欲しいものだ。

 

「そうかも知らんなー、じゃ無いでしょう?! 大体が前にも言ったじゃないですか! 何かにボクを巻き込むのは良いけれど、せめて一言なり相談が欲しいって!」

 

 

「……(やしろ)グループ」

 

「は?」

 

「……恐らくやけど、今回の一件――、社グループが絡んでる」

 

 バツの悪そうな顔をしながら緒方さんは口を開く。

 

 

 社グループ。近年のトゥインクルシリーズ隆盛の一環で急成長を遂げた、イベント、アミューズメント業から、グッズの販売と流通

果ては土建から不動産までにも携わる集合産業会社の名前だ。

 

 ボクが……、ボクが今まで、陽の当たらない場所での違法ギャンブルなんかで金を稼ぐ理由の一端にも関わって来る企業の名前が――。

 

 その名前が、どうしてこんな所で出て来るって言うんだ。

 

 

「以前からずぅーと追っかけてきたな、賢治」

 

「……ッ――、そう、ですね……」

 

 グラス空になってるで、とビールの瓶を手で持ちこちらへと向ける。

 

 瓶を傾けると、ボクの持つ中身の空いたグラスへと注ぎ、小麦色に満たす。会釈とともにグラスを煽る。

 

「愉子ちゃんからはな。最初、ウマ娘の事に詳しい人を紹介して欲しい、としか聞いとらんかった。俺は」

 

「はい」

 

「最近のお前は随分と元気がなかったのを見とるしな。どんな話かは細かく聞いてなかったが、ええ気分転換になればな位にしか考えとらんかった訳よ」

 

「はい」

 

「ただ、お前と会った後に向こうから連絡があってな。どうにもお前をトレーナーとして雇い入れたいみたいな話やと知った訳や」

 

「はい」

 

 ……聞いとる?自分。相槌だけを打ち続けるボクに、緒方さんから心配げな表情を向けられる。

 聞いてますよ。かつてない程に人の話へと、真剣に耳を傾けてる自信がある。だから早く話の続きをして欲しい。

 

 

「そう? まあええわ、話続けるで――。なんやキナ臭っい話やなあと思った俺は、愉子ちゃんに依頼を投げかけた奴を探し出して、詳しゅう、それはもう丁寧に話を聞いた」

 

 この人がマトモに話を聞くわけがない。大方弱みでも握って強請ったのだろう。

 

 

「それで? 何が分かったんですか」

 

「そいつからは大した情報は出てこんかったよ。もっと上の人間からの依頼で動いとるだけの木端やったわ」

 

 残念とばかりに大袈裟に肩を竦ませる。

 

「ただ、そこから一月ほど。今回の一件、俺の伝手を使って調べ上げた結果、凄い事実が判明した」

 大事な部分はここからやと、緒方さんが興奮気味に話す。

 

「どうやら奴ら、今までにない大規模な裏賭博(ギャンブル)の場を開くつもりらしい」

 

「ギャンブル、……?」

 

「そうや……。政界、財界、大手企業の重役から、裏社会のドン。果てはこの国を牛耳る戦後復興からの大物フィクサーまでが絡んだ大ギャンブルや」

 

 そうか、なるほど。

 

「その話に噛んでるのが」

 

「そう、社グループや。……噛んでるなんてもんやないけどな。恐らくこの話の始動の一押しとなってんのは、間違いなく(やしろ)サンや」

 

「なるほど……、ボクはどうしたら良いんです?」

 

「目の色、変わってきたやんけ」

 

 なんせ十年越しの求めてきた答えに辿り着くチャンスな訳やもんな。と感慨深そうに、緒方さんは話す。

 

 何を分かった風に、とは突っ込まない。基本人の心情なんて気にしないこの人とも、長年の付き合いだ。ボクの内情を少しは理解しているのだろう。

 

 握る拳に、無意識のうちに力が入る。目をやると、肉へと爪が食い込み血が滲み出ていた。

 

「落ち着け落ち着け……、まあ言うても今回の話、具体的にじゃあ何をやるかっちゅう事までが決まっとる訳やないみたいや」

 

 そうなのか……。

 

「じゃあ当面の間ボクは何をしていれば良いんです?」

 

「そこはアレやな。(やっこ)サンの具体的な考えが分からん以上は、取り敢えず向こう側のレールに乗っかっといた方が得策っちゅう事で」

 トレーナー業務、よろしゅう頼むで。

 

 笑顔で、手に持ったグラスを向けてくる。

 

「やっぱし、そうなりますかあ……」

 

「まあ取り敢えずは、こっちで情報集めとくさかい。明日は取り敢えず学園に出向いて手続きからやな、幾らか方便使っとる所も有るから、明日は俺も一緒に着いて行くわ」

 

 思春期のケツ真っ青な娘っ子の面倒なんて碌なもんやないぞ。と、緒方さんはどこか彼方を仰ぎ観ながら、愉快そうにクツクツと笑っていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 賢治と緒方の二人が会話を終えて、明日も有るだろうと賢治を帰らせた後の席。

 

 時刻も遅くなり店内もある程度静かになったタイミングで、一人の女性が挨拶に来る。

 

「お疲れ様でーす」

 

 橙色のベレー帽を被り、茶色のトレンチコートを羽織った、全体的にふわりとした印象のコーデで身を固めた女性。

 

 

「あー、お疲れさん、()()()()()。スマンなあ待たせてもうて」

 

 緒方が申し訳なさそうに、頭の前で両手を合掌すると謝罪を入れる。

 

「いえいえお気になさらずー、上手い方向に話も進んだみたいで良かったです」

 

 そう私、()()()()()()、二人の一部始終をずっと座席の後ろで聞いていた。

 

 

「愉子ちゃん、変装しとるとパッと見じゃ全然分からんね」

 

「フフッ、そうでしょう。これでも探偵やらせて貰ってますからね、私」

 

 周囲へと溶け込んだ変装を褒められて、胸を張る。

私は、先ほどまで会話をしていた二人の座席の後ろでずっと、変装した状態で会話に聞き耳を立てていた。

 

「いやあスマンなあ、賢治が一目散に逃げたーって話を一度聞いとったから、隠れて話聞いて貰ったけど、あんまし気にせんでも良かったかも知れんなあ」

 

「いえ本当気にしてませんからー。しかし今回の一件。志村君よくOKしてくれましたね」

 

 私の話の際には、頑として聞く耳を持たず逃げ出した彼が、なぜああも直ぐトレーナーへの就任に首を縦に振ったのか?

会話の途中までは、つんけんとした対応を取っていた筈なのに……。先ほどの会話内に上がっていた内容に、恐らくその答えが有るのだろう。

 

「その……、社グループって奴が関係してるんですか?」

 

 ストレートに疑問をぶつけると、緒方さんが厳しい目に変わる。

 

「愉子ちゃん、あんましこの話には興味本位で首突っ込まんほうがいいよ」

 

「なんでです? そんなにやばいヤマだって事ですか。こんな職業やってるんです。それなら、有る程度の覚悟は持ってるつもりですよ」

 

 緒方さんは、違う、そうじゃないと首を振ると、話し始める。

 

「あー、いや……、覚悟の有無を問うてるんとちゃうよ」

 

「だったら」

 

「個人のプライバシーの話やからね、賢治と仲良くなって本人から直接聞いたりな」

 

 俺から話すのは筋違いやと、口を噤む。

 あ、そういえば。そっちの方は何か新しい情報はあった? と問いかけが返ってくる。

 

「いえ、特には。私の依頼人と同じような形で、全国各地でトレーナーへの就任者を探している人達が居る、って話を聞いた位です」

 

「ふーん、そうかい。やっぱそこからの先はおいおいになりそうやね」

 

 残念そうに、ため息をつく。

 

 

「ただ、こっちの話とは別に情報が一つ」

 

「おおっ、なんですのん?」

 

「今年、トレセン学園に新規雇用された人間が、志村さんの他に五人ほど居るという話を聞きました」

 

 緒方さんが、ほう、と感嘆の息をつく。新規に五人と言ったら例年を考えれば、大分多い数字ちゃう?と一言。

 

「多いですね、例年のデータを調べましたけど、基本は一、二名の様ですから」

 

「そうよなあ、賢治から聞いたけど、0人の年だってある位なんやろ」

 

 そう。例年の人数を考えると五人という数字は明らかに異例の数だ。

 恐らく、志村君同様に、何処かから集められ、送り込まれた人間もいるんだろう。

 

 何かしかの策略を感じると同時、そういえば、と、疑問を眼前の男へとぶつけようと決意する。

 

「緒方さん。志村君の、彼の過去についてじゃない質問なら答えてくれません?」

 

「うーん、ま別に多少のことなら別にええよ。俺が喋らんでも愉子ちゃんなら、嗅ぎ付けてきそうやし」

 

 知るタイミングが多少前後するくらいやろ。と

 

「ありがとうございます。……えっと、ですね。実は前、彼のレースの展開予想を聞いた事が有りまして……。あの予想って、何か彼なりの観察基準、になるものがあるんでしょうか?」

 

 先日の怪我を含めたレースについて説明し、質問をすると、緒方さんは困ったような表情を見せる。

 いきなり其処から突いてくるんかーとボヤく。少しの間、逡巡したのちに口を開きはじめる。

 

「うーん……、元々の観察眼、みたいなものもあるんやろうね。……ただ、アイツの場合はそれだけじゃない」

 

「と、言うのは」

 

「ああ……、賢治が昔語ってくれたんやけどな。曰く、『ある日から、嫌な予感が必ずと言って良いほど的中する様になった。』なんて言うてたなあ。

 結構レースの時なんかは、最後はその直感に委ねることもあるらしいで」

 

 虫の知らせ、とかいう言葉が有るけど、どちらかというとそんなオカルト的な話やなく、本人の経験値から来る、無意識下の予測みたいなもんやと俺は思っとるけどね? と言葉を締め括る。

 

 ふんふん、なるほどと聞いていたが、アカンあんましベラベラ喋ってたら賢治に怒られてまう。と緒方さんが話を打ち切ってしまう。

 残念。もう少し聞いてみたかった。

 

「まあ何にしても、細かな話は俺を経由して聞くよりも、本人と仲良くなってから聞いた方がええよ」

 

「そう、ですね」

 

 この一月近く色々と動いてみたが、彼自身どころか、社グループや、巨大な営利の絡んだギャンブル等色々な話が出てきて、何が何やら分からず仕舞いである。

 

 ただ、彼がトレーナーに就任する事になったのは僥倖だ。当初の目的は達成したのだから。

 

 今後、彼と仲良くなれば、面白い話も聞ける機会も有る筈ですし。

 なんなら、彼がトレーナーとして活動して行くのなら、記者の妹を経由して話を聞くのも良い。

 さて志村君。……これから楽しませてもらうとしましょうじゃないの。

 

 今後について思案していると緒方さんから話掛けられる。

 

「まあ、なんにせよ愉子ちゃん。今後ともよろしくやね。あ、そういえば俺から一つ相談なんやけど……」

 

 裏社会へのパイプも太い男からの、相談。……私が答える事が出来るものなのだろうか??

 生唾を飲み込み返事する。

 

「どうしました?」

 

「……持ち合わせある? ここのお店、カードも電子決済も無理みたいで」

 

 緒方さんは、空っぽの財布の中身をこちらに見せると、情けなさそうに眉を八の字にして、ハハ……と笑う。

 

 幸い、私の財布事情は今回の一件で依頼達成という事で、そこそこに暖まっていた。

 

「緒方さん、……これ。貸し一つ、ですよ」

 

「おおきに〜〜」

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