萌えもん~wandering Journey~ 作:未来琴音
ポケットモンスター。
――――略称はポケモン。
その生物が発見されてから数年間、そのポケモンと隣合わせに暮らしていた。
ポケモンと交流し育てる人間や、捕獲してその生物同士で戦わせる者達のことをポケモントレーナーと呼ぶ。
また、その生物を研究する者達をポケモン博士と呼び、日々その生態について調べている。
ポケモンと共存する日常が当たり前になったある年のこと、人間が人里に来たある変異種を見つける。
人里に来たその姿はポケモンであってポケモンでなかった。
詳しく言えばポケモンであった証拠が残っている誰か。
当時は人語を解せる程の言葉は無く交流も難しく、人々が警戒をしていた。
しかし、人に警戒やその主であろうトレーナーらしき人物に懐いてた為、それをポケモンと判断できたのは容易だった。
そこから我々、ポケモン博士達はその変異種についてさらに研究を進めることとなり普段のポケモンとは違う呼び名を与えることとなる。
*
「――それが萌えもん。ということだってさ!」
「ふーん……」
目の前の茶髪ショートの童顔が目を輝かせてそれについての起源を高らかに語っていた。
リビングのテーブルに置いてある飲みかけのマグカップを手に持ちながら話半分くらい聞いている状態でブラウン管型のテレビを見る。
そこには人と桃色の両側に少し跳ねたロングヘアーの細目の女性が話していた。
そういえば、私の家にもその萌えもんというのはいる。
母の相棒だそうで、分類される種族は確かチルリタスで名前はリタ。
家族の一人として幼い頃から母と共に育ててくれた恩のあるお姉さんのような存在の萌えもん。
キッチンでセミロングの母の隣で家事を手伝っている水色の髪一つ後ろに束ねているポニーテールで柔らかそうな白い羽を定期的にパタパタと羽ばたかせながら行動している後ろ姿に視線を向ける。
視線に気づいたのであろうその羽付きポニテは手を止めてこっちを振り向いてきた。
藍色の瞳が私と目が合うと、隣で母に何か伝えた後、こちらに歩いてくる。
「萌えもんってこういう感じ?」
「そう! そうなんだよ。ミナのところにいるのが羨ましい」
ナズナが羨望の眼差しでリタ姉を黒い目で見つめると、恥ずかしくなったのか、頬を少しだけ赤く染めて目を逸らした。
「何かおかわりいる?」
「ナズナの方にはまだいないんだっけ? あ、リタ姉ココアおかわり」
「いるんだけど。母も祖父も博士だから研究所から中々でなくてたまにしか見せてくれないんだよ。僕はおかまいなく」
はぐらかすように飲み物のおかわりを聞いて答えると、はいはい、とため息混じりにテーブルに置いてある白いマグカップを二つ手に取り元の場所へ戻っていく。
マサラタウンの南西側に存在している建造物は、萌えもんの生態や調査などについて特化された研究所がある。
そこで仕事しているオーキド博士とリコさんはナズナの母と祖父。
カントー地方で有名な博士達の息子だ。
テレビの画面の切り替えを見えたので視線を向ければ、白色短髪で高齢の男性が今日の萌えもんの紹介について話していた。
「頼み込めば見せてくれるんじゃない?」
「それもそうだけど、僕一人だと心細くてミナも一緒に来てくれない?」
今日来た理由、それも含めてるんじゃないでしょうね。
訝しむように聞くと頷かれた。
確かに、興味はないと言ったら嘘になるし、萌えもんについても、リタ姉を見てれば他の子がどうなってるかという好奇心も持っている。
かと言って、マサラタウンで不自由になったことはないので別にいいかなと思っているのも事実だ。
だからこそ、今日の頼みの話はいいきっかけになるのかもしれない。
「はぁ……わかった。私も行くよ」
「やった! ありがとうミナ。持つべきものは友達だよ!」
水を浴びた魚のように元気出した童顔を見て再びため息をついた。
「じゃあ早速行こう!」
「あ、ちょっちょっと!」
まだ家族に伝えてないのに、急に動き出したナズナの手を取られて玄関へ連れてかれる。
その一連を見たのか、母がどこか行くのと聞いてきたので近くの研究所に行ってくると伝えながら、自宅から外へ出た。
*
―――すぐに帰ってくるから!!
「あらあら、隣の息子さんは元気ねぇ」
「そうね。ココアが無駄になっちゃった」
マグカップで自分が妹の為に淹れたココアを寂しく波を立たせながらリタは外へ出た妹のような家族を見送った。
隣でその妹分の母が頬杖ついて目を細めて笑顔を零す。
十数年間、ミナは家とマサラタウンの行き来ぐらいしかしておらず、外の世界で見る萌えもん達へ見向きもしていなかった。
その為、リタも何度か共にするのを条件に出口のすぐ近くの一番道路で散策するのを促していたのだが、これといって上手くはいかなかった。
ただ、今回のナズナが持ち掛けた事で、萌えもんに興味を持ち始めてほしいとリタは少し思っていた。
その主たる隣のトレーナーも同じことを思っていたのだろうか、洗っていた手を止め、玄関隣にある靴箱に歩を進め、白いスニーカーを取り出していた。
「アイ、それは?」
「私がトレーナーの頃に使ってたランニングシューズよ。これを娘にあげようかなと思って」
アイと呼ばれたミナの母は、先ほどまで賑やかだったリビングのソファーに座り、スニーカーの手入れを始めた。
リタは手元にあるココアを置き、大事そうに抱えながら靴紐の調整をしているトレーナー兼家族を見つめる。
ふと、その視界に光る物を見つけその元をたどるようにリビングへ足を運ぶ。
「あれ、これ……」
「あら?」
アイもその違和感に気づいて、視線をそっちへ向ける。
テーブルの上に置かれていた翡翠色のペンダントが無造作に置かれていたのを見て、少し色白の顔を青ざめた。
これは、リタがミナに大切にして欲しいとして渡したアクセサリ。
「あのバカ! あいつとの約束破るつもりなの!?」
一瞬の怒気を含めた罵倒をここにいない妹分にして、乱暴にそれを掴んで真っ先に玄関へ飛び出していった。
「リタも心配性ねぇ」
必死な姿で出ていった家族を笑顔で見送りながら、アイは手作業を続け始めるのだった。
*
研究所に良く遊びに行くというナズナの言葉で、正面入り口から扉を開けて内部へと入る。
視界を入れたすぐ、一般人にはわからない精密な機械に取り囲まれており、嗅覚に少しだけ独特な香りが蔓延していた。
丸型メガネをかけた裾の長い白衣の男性が進入してきた私達を見るやいなや、奥側へ誰かを呼ぶように駆け込んでいった。
何か、重要な案件でもあったのだろうか?
ナズナにその後を追うように言ってみると彼も気になっていたらしく、急いで走った研究員の後を追う。
両側にある繊細で大型の機械、その中央の通路を歩くと、奥側の研究室のような場所で先程見かけた丸型のメガネと緩いカーブの入った髪の見覚えのある女性が話し込んでいた。
「母さん! また来ちゃったよ」
「ナズナか、いらっしゃい」
声をかけられた反応でこちらの視線に気が付くと、研究員と話を付けて手を振ってくれる。
彼女がナズナの母であり、オーキド博士の娘のリコさんだ。
私は、猛進するナズナの背後で小さく会釈した。
「ミナも来てたのか、珍しいね」
「今日はこいつの付き添いです」
「えー? ミナもいいよって言ってくれただろう?」
口を尖らせて反論する友達の脇腹をつついて、本題を促した。
ナズナもそれに気が付き、さっきまで調子よかった口調から真剣な雰囲気を醸し出す。
そして。
「僕達に萌えもんを触らせたり見せてくれませんか!?」
深々と頭を下げて、頼み込んだ。
相手の表情を見ると、またかと言わんばかりに少しだけ呆れた顔をしていていつも口にしているだろう定例文を発そうとした時、顔が止まった。
下げていた頭をゆっくりと上げて持ち上がったナズナの表情は、私が良く知っている彼ではなかった。
いつになく真剣な顔をしていて、自分の思いを曲げない心を伝えるようにリコさんを見ていた。
その表情に少しだけ驚きながらも、頬を掻いて呟く。
「ナズナの真剣は分かったけど。やっぱりどうしても許可はできな」
『いいんじゃない? そろそろボールの中にいるのも退屈だから見せても』
何処からか聞こえてきた気怠そうな声。
声がした方角へ顔を向ければ、研究員の使うデスクの上に三つの中央に突起のついた赤白のボールが転がっていた。
そこから、一気に解放されるようにボールが揺れては割れ、何かが三匹飛び出してくる。
いや、そこは三人と言った方がいいのだろう。
だって、私達の前に現れたその三人は、普通の人間とは違う耳や尻尾などが着いた人間のような萌えもん達だった。
あれ?萌えもん要素、リタちゃんだけ?
まあいいや、次回は主人公達がようやく旅立ちします!(予定