萌えもん~wandering Journey~   作:未来琴音

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トレーナーになるための旅立ち

 

 その場に現れた萌えもん達に私は目を見開いて、彼は声を上げて驚いていた。

 こうなる事は予想ついていたのか、顔を手に当ててため息ついているリコさんを横で確認する。

 そして、赤髪で後ろに三つ編みに纏めた赤と黄色の袖なしセーター、尾の先に小さな炎を灯したニーソックスの萌えもんが軽く背伸びをして解放感を味わっていた。

 

 

 「ひっさしぶりの外ーっ! といっても、研究所内なんだけど」

 「そうですね、数か月ぶりとかでしょうか」

 

 

 隣で深緑のショートボブで猫耳のような癖毛と緑のオフショルダートップスにスカート、背後に球根のような物を背負っているハイソックスの萌えもんが物静かに会話し始めた。

 

 

 「か、勝手に出ちゃダメって博士が言ってたのにぃ」

 

 

 少し離れた場所で涙目になっているゆるいカーブのかかったショートに、甲羅を背負っているクロップドシャツと短パンの気弱そうな萌えもんが二人を注意した。

 

 

 「固いこと言うなってゼニガメ。ボク達は元々、外で暮らしている生き物なんだし、思いっきり遊びたいんだよ」

 「そうですよ。ここでじっと待つより探検した方が有意義になります」

 「とは言っても、博士の言いつけは守らないと、ね? ね?」

 

 

 何処かの言葉で、女三人寄れば姦しいというのがあるけど、目前の状況がその言葉にぴったりである。

 尤も、女ではなく萌えもんだけど。

 というか、皆どれも背が成長期行かない子供のように小さかった。

 

 「母さん、これが?」

 

 

 いつの間にか真顔に戻っていたナズナの声で我に返るリコさんは、何かを諦めたように話をする。

 

 

 「この三匹はカントー地方で見ることのできない萌えもん達。近くの草原によく居る萌えもん達とは違い、滅多に見ることが出来ないレアな子達だね」

 「レアな萌えもん達……」

 「君達にも何れ見せてあげようとは思ったんだけど、この子達の生息地とか調査とか研究してたらいつの間にか時間が過ぎていって……あれ」

 「あいつならそこにいますよ」

 

 

 話を聞く途中で彼は既にボールから出た三人達の姿を近くまじまじと見つめていた。

 全体を嘗め回すように見ている彼を見た癖毛のある緑髪の子は、この変態、とでも言わんばかりの表情しているジト目で睨みつけている。

 目的の事になると話を聞かないのは誰に似たんだか、と隣でバカ息子を憐れむように博士は呟いていた。

 

 

 「名前は?」

 「左の青い子がゼニガメ。緑の子がフシギダネ。赤い子がヒトカゲっていう萌えもんだったかな?」

 

 

 デスクすぐそばの置いてあった書類に目を通して種族を教えてくれるリコ博士。

 

 

 「博士、誰ですかこの変態」

 「ナズナ。私の息子だよ」

 

 

 眼を輝かせながらゼニガメの全身を凝視し困らせている彼の名をため息交じりに伝えたリコ博士。

 このままでは話が一向に進まないし、当初の目的の半分も終わらせてない。

 仕方ないので、ナズナの背後から身体を持ち上げて引きはがすことにした。

 

 ナズナの好奇心で昂っている心をなんとか落ち着かせてから数分後。

 改めて出てきた萌えもん達と触れ合ってみる。

 とりあえず、三人の前に来て、一人ずつの頭を撫でてみた。

 共通して言えることは、人間とほぼ変わらない撫で心地になっており、子供のような反応を見せる可愛い一面があるということ。

 

 

 そこから、ヒトカゲは。

 

 「なんだよー、くすぐったいなぁ」

 

 身体を少し震わせ、くすぐったそうに顔を緩めている。

 

 

 つづいて、フシギダネは。

 

 「……恥ずかしい」

 

 小さく呟いて、目線を少し下げて頬を染めていた。

 

 

 そして、ゼニガメは。

 

 「えへ、えへへへ……」

 

 なすがままされるがままに撫でられてとても満足に顔が蕩けきっている。

 

 三者違う反応を見せて更に可愛さというのが上がっていた。

 これがリタ姉以外で見る萌えもん達で、私が初めて見るマサラタウン以外の子。

 ふと、後ろで羨ましそうに見ているナズナを博士が諭している所を、視界の隅で捉えた。

 ナズナはさっきみたいに暴走して困らせる一面があるとわかったから、引き留めているのだろう。

 博士、頑張って。

 心の中でエールを送ると、撫で終わって暇になった私の右手を掴んだヒトカゲが、見上げるように質問してきた。

 

 

 「ねぇねぇ、ボクのトレーナーにならない?」

 

 

 トレーナー?

 私とはほぼ縁遠い言葉を聞いて首を傾げる。

 背後でナズナの制止をようやく終えた博士が続いた。

 

 博士曰く。

 この三人の生態を知って研究し終わったら、私と彼にこの子達のトレーナーになって欲しい。

 そして、研究所詰めの私やオーキド博士の代わりにカントー地方を回って色々な萌えもん達を見てきて欲しい。

 

 デスクの所まで行って何かを手にしたリコ博士は、ナズナと私に手帳型の赤い小型機のようなものを渡してきた。

 

 

 「これは萌えもん図鑑って言って、新しく発見された萌えもんを裏側についているカメラを向けて、データを自動的に記録してくれるものなんだ。これを使って、図鑑の完成を私の代わりにお願いしたい」

 

 

 頼まれてくれるだろうか?

 そう言ったリコ博士の真剣な眼差しが私と隣の彼に突き刺さった。

 

 ナズナは快諾を得てむしろ母さんの力になるならなんでもするとか意気込んでいた。

 その様子を背に、私は一度三人の萌えもん達を見る。

 

 もう一度言うけど、私は萌えもんに興味がないわけじゃない。

 だからといってマサラタウンで不自由することはなく生活出来たからここから出なくても十分ではあった。

 好奇心の塊である彼に提案されてここに来たのは、本当にいいきっかけなのかもしれない。

 

 

 「はい、私もナズナと同じ気持ちです」

 

 

 自然とその口から肯定の言葉が零れていて、目前にいる博士の真剣から安堵したようなため息をついた。

 

 

 「こほん、では二人がトレーナーになるとしてまずはこの三匹から選んで欲しい」

 

 

 一度態度を改めて博士は、三人の誰かを連れて行く選択肢を与えてくれた。

 元気なヒトカゲか、静かなフシギダネか、気弱そうなゼニガメか。

 悩んでいると、ナズナが真っ先にヒトカゲの手を取って握手をする。

 

 

 「僕はこの子にする! よろしくな!」

 「よろしくっ、トレーナー!」

 

 

 元気のあるコンビで気の合いそうだし、相性はいいのかもしれない。

 残りは二人、悩んでいると右手に少しだけ違和感を感じた。

 手首に細い緑髪が巻かれている。

 その元を辿るとジト目で私を見ているフシギダネがそこにいた。

 言葉で伝えなくても、目でそれを訴えている。

 

 私を連れて行け、と。

 

 

 「じゃあ、私はこの子で」

 「よろしくお願いします」

 

 

 途中で気づいて慌てて抗議したゼニガメを無視しながら、フシギダネは私の手を掴んで握手した。

 こうして私は、初めての萌えもんを手にする事が出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 今日の事を我が母親に説明しようとした帰り際、リタ姉に捕まって小一時間説教を食らったり、新しい仲間を迎え入れた話とかしたその日の夜。

 私室のベッドの上で寝息を立てているフシギダネの背後を見つつ、手に届きそうな範囲にある机の上に置かれているボールを見た。

 あの後、リコ博士にボールの使い方と名称がモンスターボールというものであることや、捕獲の仕方などを教えてもらった。

 そしてこのボールは、研究所から選別として頂いた物である。

 トレーナーについては、マサラタウンから北上したトキワシティに行けば教えてくれるとの事。

 

 

 「萌えもんトレーナーか……」

 

 

 昔にトレーナーとして旅していた母に話を聞いてみると、とても楽しく厳しく面白い人生で、リタと一緒にいて仲間であり家族でもあるような唯一無二の存在にもなって良いものよ、と嬉々として話していた母を見て、私もそうなれるかどうかわからなかったけど目指してみようと思った。

 

 

 「眠れないんですか?」

 

 

 いつの間にか起きていた萌えもんが赤い目で私を見つめている。

 

 

 「ちょっと考え事。もう寝れるよ」

 「そう、ですか」

 

 

 おやすみなさい、と寝返り打ってそのまま眠りについていた。

 どうなるかわからないけど、私もこの子にとってのいいトレーナーになれるだろうか。

 不安を抱えつつ目を閉じ、静かに眠気が来るのを待つ。

 

 

 「おやすみ。ユノ」

 

 

 夕方に名を付けた萌えもんの名前を口にして、意識は闇へと放り込まれた。

 

 

 

 

 *

 

 

 翌日。

 朝早く目が覚めて、荷物を纏めて着替えをした後に一階に降りると何かを待っていたようにリタ姉がリビングのソファーでくつろいでいた。

 私は、その向かい側に座る。

 

 

 「今日から旅立ちなのね」

 「うん。そうだよ」

 「……ペンダント持った?」

 「持った、昨日はごめんね」

 

 

 他愛ない会話をしながら、これから共にするユノが起きてくるまで待つ。

 会話しながら何処となくリタ姉が少し寂しそうにしている、そんな感じはした。

 やがて、階段から小さな足音が聞こえてくると、リタ姉は両手で頬を叩いて立ち上がる。

 

 

 「もう行く時間でしょ、準備してらっしゃいな」

 「うん、行ってくる」

 

 

 二階に一度戻り、途中ですれ違ったユノをボールの中にしまって、大き目のリュックを背負って玄関に向かう。

 いつもの靴を履こうとした時に、隣に見知らないスニーカーが置いてあった。

 上のメモには母からこれを使って下さいという丁寧な字で書かれている。

 

 

 「ありがとう。お母さん」

 

 

 言われた通りにそのスニーカーに履き替えて扉に手をかけた。

 

 

 「いってらっしゃい、ミナ」

 

 

 いつの間にか起きていた母とリタ姉を背に、私は自宅から外へ出かけた。







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