萌えもん~wandering Journey~ 作:未来琴音
もっとこう、何かいいのがあればいいんですけどね。
何処かで犬のような遠吠えが聴こえる。
何処かで沢山の視線が突き刺さるように見つめてくる。
背後から小さくも大きな言葉に、必死で逃げる。
変わらない景色を置いていくように全力で撒いていく。
「あっ……」
前を向き続けていたのか、石に気づかぬまま、足を挫かせ地面に衝突した。
衝突した勢いと駆けたスピードが残っていたのかそのまま引きずるように地面をなめる。
その後すぐ、負傷していた左足に激痛が走る。
「くっ……うううぅぅぅぅ!!」
泣き叫びたくなる痛み、重い痛みが刺激する左足を抱え込みうずくまった。
ここで止まる訳にいかない、止まってはいけないのに。
痛みが治まる前に移動しなければ。
立ち上がろうとするが先程のダメージによるものか左足が笑って力が入らなくなっていた。
「う、そ……」
「嘘じゃねぇぜ」
いつの間にかすぐ近くにいたのだろうか、背後から聴きたくない低い声がした。
ぎこちない動作で振り向き、絶望する。
「手間かけさせやがって、ようやく見つけたかと思ったら逃げるもんな」
全身黒ずくめの姿の左手が私の頭を掴む。
「だが、クローディア殿のキュウコンに傷つけられたその左足じゃ、満足に走れねぇよなぁ?」
卑劣で歪み、口の端を吊り上げながら睨むように嗤う。
「あ……あ……」
「観念して、さっさと俺達と一緒に来るんだな」
そしてそのまま、身体を引きずられるように逃げた道を引き返されていく。
張り詰めた気が切れたのか、意識が朦朧としてきた。
視界も徐々に薄くなっていく、ああ……きっとこの人達に利用されてもう帰れなくなるのかな。
鈍痛が体中に響きながらも、その言葉は口にしていた。
助けて。
その言葉を最後に、私の意識は消えた。
*
看板の注意書きに気を付けながら、森の中へ入っていく。
ナズナの左隣にヒートがいて、私はユノをボールから出して右隣に並んで歩いていた。
「ごめんねユノ、休んですぐに出しちゃって」
大丈夫、とユノは首を横に振って心配ないと告げた。
両脇にそれぞれの萌えもんを連れて歩きながら数分、周りは光の届かないくらい闇を出しており辺りも不気味さを漂わせていた。
ただの森とはいえ、太陽や明るさが無いとこんなにも静かで気味が悪いのか。
背筋が少しだけ寒くなった。
「ミ、ミナは意外と冷静なんだななな」
「そ、そ、そうだぞ。フシギダネも強がらないでいいんだからね」
トキワシティで見せた真面目さは何処へ行ったのか、青ざめた表情でお互いに抱きかかえながら進んでいるヒートとナズナがそこにいる。
「ま、まぁね。ただの森だし」
「フシギダネではありません、今はユノです」
ジト目で反論したユノ。
それにしても、こんな不気味さ溢れる場所でも表情をあまり変えずに平然としているこの子は怖くないのだろうか?
「ユノは平気そう?」
「この程度ならなんとか大丈夫です。何かあったら私がトレーナーを守りますし」
何この子、すっごい落ち着いてる。
胸を張った萌えもんに感心をしながら、更に深く進んでいった。
身体を震わせて怖がりながらも慌てる様子で二人が後から追いついてきた。
どれくらい歩いただろうか。
森の出口は見つからず、依然と景色は森だらけで奥側は暗く何も見えない。
ほんのわずかな光が近くの葉の色が少しだけ赤みを帯びている。
天気はもうそろそろ日が傾き始める頃でいるようだった。
このままじゃどうしようとそう考えた時、ユノが急に止まり何かの気配を感じ取った。
「どうしたの?」
「何か近づいてきます」
警戒をして、私達を集め、迎撃準備をしている。
ヒートも何かを感じ取ったのか、ユノの隣まで行き同じように態勢を整えた。
そのすぐ後、遠くから誰かの足音が聞こえてきた。
森の中は不気味で静かなので、誰もいないこの場所では遠くからでも足音一つだけでも響いてくる。
やがてその足音が大きくなり、木と木の間から人影が見えてきた。
その影をわずかな光が差し込む。
そしてその正体は、左手に全身傷だらけの黄色い萌えもんを掴んで引きずっていた黒ずくめの男だった。
「あぁん?」
やがて私達の存在に気付いたのか、左手で引きずっている萌えもんについての事を説明してきた。
「ああ、嬢ちゃんたちすまんな。こいつが逃げ出したから捕まえてたんだよ」
「……」
その割には、異常なまでの負傷とか目立つような傷跡が沢山あるのだけど。
図鑑でその子を翳そうとした時、ユノがずっと警戒を解かずに男の方を見て唸り声をあげて威嚇していた。
ヒートも同じように男を睨みつけている。
ナズナが自分の萌えもんの変わり様に疑問抱いてる中、私は改めて負傷している萌えもんに図鑑を翳した。
黄色い髪に先端が茶色い長めの耳が前髪より後ろに生えており、泥と血で混ざった大きめのパーカーとスカートを着用しているセミロングの子、種族はピカチュウという萌えもんだ。
そのピカチュウの今の状態には『やけど』が付与されている。
普通なら、このまま萌えもんセンターに向かって休ませるのが一般的らしいのだが、男にはそれをさせるような雰囲気ではなかった。
男の腰周りには、この子を入れているはずのボールが無いのを確認できたからだ。
そして、風で木々が揺れて赤みを帯びた陽射しが乱雑になり、男の上半身を照らした。
服装の中央に大きく『R』の文字が私達の目に入り、そして。
「ロケット団!?」
すぐ隣で男の正体を口にしたナズナが驚愕していた。
バレた男から舌打ちが聴こえそのままピカチュウを連れて奥へ逃げようとしている。
「ついでに聞いてた話の組織がまさかここで会うなんて」
「もしかして、ニュースとかでも取り上げられてるあの?」
ナズナにそう返そうとして、ロケット団の男の隣で意識が回復したのか、半開きの虚ろな目で静かに口を動かした。
た、す、け、て。
「そう、そのロケット団で間違いない……ヒート! 男の左手をひっかいてくれ!」
あいよ! という掛け声と共にヒートは飛び上がり背後から男の左腕を爪で引っ掻く。
男はその痛みで左腕を抱えながらその場でうずくまった。
「ユノ、つるのムチでピカチュウをこっちに!」
今日の戦闘で思いついた技を指示する。
縦に小さく頷いたユノは、袖からロープと同じくらいのサイズの蔓を出し、ピカチュウの胴体に巻き付けてゆっくりと持ち運ぶ。
だが、途中で男が立ち直ったのか、右腕で蔓ごと掴んできた。
「くっ!」
「なめんじゃねぇぞクソガキ共!」
力が強いのかまたはユノが完全に休んでる場合でなく疲労が溜まっている状態なのか、その場で踏み留まっても地面が削られ、引き摺られる。
「このっ! ナズナも手伝って!」
「わかった!」
負けじと私とナズナもその蔓を掴んで抗うように引っ張る。
対等のように力比べ続き、お互いが睨み合いながらも手を離さず引っ張り合う沈黙の時間、真っ先に破ったのはナズナの指示だった。
「ヒート! ひのこ!」
指示を受けたヒートは相手に目掛けて小さい炎を吐こうとする。
が、男はニヤついた顔を見せて、ピカチュウをヒートの前に蔓ごと引き寄せた。
勢いあったその力でついにユノが身体を前へ傾けられる。
その反動で私と彼の手が離れてしまった。
ヒートも咄嗟の出来事で標的が後ろに隠れてしまい、寸前だった炎を噛み、空中で霧散させた。
「卑怯だぞ!」
「何度でも言え、俺達には卑怯ですら誉め言葉だ」
怒りの抗議をしようとするのも束の間、今度はユノごと逃げようとしていた。
さっきので力が使い果たしたのかユノが目を回して倒れており、蔓も少しずつ力が弱まっている。
「ユノ!」
名前を叫んだ瞬間。
『もうよい』
何処からか、落ち着いた低めの声が森全体に響いてきた。
周りを確認しても、その声の主が見当たらない。
「ぎゃああああああ! 腕が、腕がぁぁぁぁぁぁぁ!」
次に聞こえてきたのは、右腕が曲がってはならない方向へ鈍い音と共に曲がり断末魔のような悲鳴を上げて地面を転がっていた男の姿と声だった。
「キュウコン……キュウコンてめぇぇぇ!」
『捕獲する標的を使い物にならなくなるまで痛めつけて主の元へ届けろと、誰か言うておった?』
「んなもん知る」
『言うておったと……聞いておる』
ドスの聴いた低い声が男の耳を刺すように、そして私達の身体にも響くように圧を込めていた。
その後、男の身体が地面から少しずつ離れていくのを感じ顔面蒼白になりながらもがいていた。
「や、やめろ!」
『小娘共、此奴の行き過ぎた失態を許せ』
一連の男の変わりように呆気に取られていた私達は、キュウコンという実態のない声の主であろうものに謝罪をされていた。
『そこで動かぬ標的は、小娘共にくれてやる。だが、次に我が主の計画の妨害とあるならば容赦せぬ』
「待て!」
引き留めようとした時には、男は森の奥まで高速で引き戻されるに飛ばされて、風に乗って聞こえてきた声はもうしなくなり、静かな森を取り戻していた。
まさかの展開ですかぁ!!?
と思ったんですが、一応ここまでは考えてました。
次回、仲間が増えちゃうよ!やったね!