東方Project二次創作となります
─────広島県 中国自動車道─────
夜耽って街灯すら灯りとして乏しくなる暗さを纏う時間。いくら高速と言えど、このような山奥の高速道路、ましてや山陽自動車道という中国自動車道より新しく使いやすい道があるなら、他の車はそちらへ向かうだろう。
今運転席から確認できる光も、道を照らす淋しい電灯と少女の乗る車の計器灯と、前を照らす光のみ。
本来であれば寂れていて1人黙々走るのも眠くなる作業だが、この少女にとってはそれはそれは好都合なことであった。
「これだけ車が空いていれば、走るのにいい練習になるわね。中国道は高速道路とは思えないくらいウネウネした道ですもの」
彼女の名前は、博麗霊夢。元々、幻想郷という現世から隔離された世界の住人で、そちらでは平和を守るような立ち回りをしていた人物。
今では隔離されつつ出入りが簡単になったため、外でしかできない趣味を熟すことも出来るようになった。
今では彼女は友と共に最速を目指そうと日々走り込んでおり、持ち前のセンスと度胸で2人の少女はかなりハイレベルに仕上がっている。
彼女が駆るのは、マツダ FD3S型RX-7。広島が世界に誇るピュアスポーツ。扱いは難しいとされるFDだが、霊夢の類まれなるセンスは遥かにそれを凌駕していた。
また、霊夢はハイパワーで勝負に勝つことを嫌い、パワーより軽量化、軽量化よりコーナリングをチューニングモットーとし、FDを自分の理想へとビルドしている。
ここは中国自動車道。他の高速道路のように山があれば掘ってトンネルを作って真っ直ぐにする作りではなく、中国山脈の山々を沿うような形で、ハイスピードにタイトなコーナーが続く変わった道だ。正に霊夢のマシンからしたらおあつらえ向きのコースである。…はずだった。
「なかなかいい仕上げに持って来れたわね。全てのパーツがFDを意のまま操れる様に仕向けてくれるのが伝わる。やはり足回りのセッティングは大事ね。明日魔理沙に自慢を…ぅん?」
一通りコーナーを終えて、セッティングの1人反省会を企てていたところだったが、なにかに気がついた。
「後ろから光?何かが追いついたのかしら?」
ルームミラーからもバックミラーからもしっかり確認できる2つの光が近づいて来る。1台の車が追いついてきたようだ。
あくまでマシンのテストも込めてのドライブなので、安全マージンたっぷりの流しだったのもあり、追い付くのもスピード出していれば当然か…と霊夢は思っていた。同時に、自分と同類の奴がノコノコやって来たので、腕試しとどこまで通用されられるかのテストも出来るとウズウズしていた。
「いいタイミングに来てくれるじゃない。どれだけ自分が井の中の蛙かと言うのを教えるいい機会だわ」
コースと現マシンとの相性、霊夢自身の技量を鑑みても、追いつく車に負けるはずがないと高を括る霊夢。わざとスピードを落とし、近づく車を迎え入れるように前へと誘い、煽るようにFDを後ろに付けた。そのため、近づいて来た光の正体、車種が判明する。
「これは…A80スープラだったかしら。ボディも黒いし闇夜の中だったから分からなかったわ。とはいえ、激重のスープラならFDの敵じゃないわね。コーナーに外から仕掛けてやるわ」
ほぼ勝利を確信し、追いついたスープラを煽りにかかる。バッシングをし、車体を左右に揺らしバトルに誘う。向こうも気づいたようでスピードを上げた。
スタートシグナルが点灯したかの様に霊夢もアクセルペダルを踏み込む。パワーではスープラに分があり、徐々に差が開いて行き、パワー勝負では勝ち目が無いことが分かるが、霊夢は焦ってはいない。
「ふん…バカね。そんな元気にアクセル踏んじゃって。この先の道を知らないのかしら? この先は易々とアクセルを踏ましてくれないS字の連続だって言うのにw」
霊夢の言う通り、もう数百メートル先にはかなりキツめのコーナーの連続がある。高速道路ながらも、この区間だけ制限速度が落とされるほど危険な場所だ。
霊夢は勝利を確信して、いつもの調子でブレーキング。持ち前のつっこみ度胸で高速コーナリングを実現。これで先行するスープラのシリに光を集中させる事が出来る。…かと思われた。
しかし…現実は違っていた。
「…? 差が縮まらない? むしろ離れていく…?」
霊夢には理解出来なかった。今目の前で何が起こっているのかを。
霊夢のFDはハイレベルなコーナリングマシンに仕上がっている。軽量化も施されており、セッティングも間違ったセッティングはされていない良いコンディションとなっている。コーナーで負ける要素など無いはずだった。 しかし、重くて高速タイトなど苦手なハズのスープラに離されているのだ。
腕の差か、車の差か、そんなこと霊夢はどうでも良かった。マシンを仕上げた霊夢にもプライドがある。自分の理想に近づいたFDなら負け無しだと信じていたからだ。
でも、霊夢はまだ諦めてはいなかった。
「まだよ…。この先は暗くて山に遮られた視界のかなり悪い環境が待ってるわ。山で隠れた向こうにはさっきまでとは違い、緩やかなコーナーの直後にタイトコーナーがある…!勝負はそこで決めるわ!」
人間の脳というのは案外優秀ではなく、過去経験した事象に基づき、これから先にある事を勝手に予測を立ててしまう。また、時間に余裕がない時、刹那な猶予も無い時ほど、その予測を信じてしまう物だ。
頭の中で一瞬で浮かんだ、過去から導いた予測の身構えをする様に脳から末端の神経まで通達が行くが、実際に目の当たりにした事象が予測と全く違った場合、脳は対処が遅れてしまう。 そのため、事故というのは起きてしまうもの。
これは現在の霊夢とスープラにも言えることで、山によって先の視界が遮られた中で訪れるコーナーは瞬時の対応が求められるが、先述の通り、今までと同じコーナーが来るだろうと予測し身構えた状態で瞬時の対応を取ってしまう。
つまり、このスープラがクラッシュに終わってしまうと霊夢は踏んだのだ。
だが、それも霊夢のプライドが見せた予測に過ぎなかった。
目の前に先程と違う緩やかなコーナーを、スープラはドリフトで抜ける姿勢を取り始めたのだ。
「…なっ!? 何を考えてるの! その直後にかなりキツいコーナーが待っているのに、ドリフトなんて無茶だわ! …嫌な物見ちゃったなぁ」
霊夢はもうスープラはクラッシュしてしまう、良くてスピンするだろうと思い、巻き込まれないためにスピードを落とした。 レースの世界ではクラッシュあるいはマシントラブルは敗北となるし、ストリートの世界ではスピンは敗北確定。霊夢の勝利は確信から確定となった。かと思われたが、この行動が敗北を招くなど、本人には知る由もなかった。
ドリフトの姿勢を取ったスープラが緩やかコーナーを抜け、タイトコーナーに迫る。そのまま車体を滑らせ、塀に突っ込むかと思われたスープラの後輪がなんとグリップを取り戻し、その勢いを受け流す様に正反対方向へ滑り始める。 あの緩やかコーナーのドリフトはドリフトではなく、タイトコーナーでドリフトするためのフェイントだったのだ。これぞ正に…。
「慣性ドリフト…!?」
その先は霊夢の頭は真っ白に。FDは路肩に止まり、スープラは遥か向こうへ猛スピードで消えていった。
何が起きたか、考えるためのカロリーはもう身体には残っていなかった。目の前の光景が本当に目の前で起こった事なのかもにわかに信じられないが、頬を捻っても醒めないので現実であることを分かった気にさせていた。
「なんなの…藤○拓海でも乗ってたのかしら…さすがの私もあそこまでの突っ込みを見せられると何も太刀打ちできない…。井の中の蛙は私のことだったのね」
敗北を認めるしか無くなった霊夢は、無心のままテスト走行を止め、帰路に着いた。
「……。まだあの程度か」
─────翌日 神石高原町某所─────
「……て事があったのよ魔理沙!!」
「分かった!分かったから落ち着けよ霊夢!」
場所と時間が変わり、霊夢は昨晩の出来事を魔理沙に話した。霊夢自身にとってもかなりショッキングな事に違いはないが、もうひとつ言えば、大きな目標が出来たと言う喜ばしいこともある。すべからく魔理沙に零したのだ。
ここはGSガレージ。広島県の中でも標高が高く畜農や野菜栽培が盛んな山奥も奥にある神石郡の神石高原町と言う小さな町で一際異色な雰囲気をしているカーショップがある。車の売買もしているが、メインはチューニングショップ。客足は少ないが、確実な常連がいるらしい。そして、その常連は口を揃えて…
「彼に任せると必ずタイムが上がる」
と言う。
そんなGSガレージの常連の中の常連である2人が、霊夢と魔理沙だ。2人が外の世界で車に魅入った時にGSガレージの店主、豊上熟哉(とよかみ なれや)と知り合い、関係が続いている。豊上からすればチューニングしたデモカーをハイレベルにテストしてくれるし、公式レース等に出場させて賞金とテスト結果も帰ってくると助かっているのだ。 2人に対しても、最速になりたいと言う気持ちを本気でサポートしており、2人の思想を元にマシンを創る。
そんな豊上は客である霊夢と魔理沙を放ってデスクで居眠りしている。ほぼ毎日2人は来るから客として見えないらしい。
話を戻そう。霊夢が魔理沙に熱弁し語り切ったところ、魔理沙も心当たりがあるようだ。そのスープラかは分からないが、ブラックのスープラと真夜中の山陽自動車道でハイスピードバトルになったが、一目瞭然な差をつけられ大敗を期したらしい。
「魔理沙も負けたの? それも山陽道ってカーブもほぼ無いパワー勝負で、魔理沙の車なんかパワーバカだってのに」
「パワーバカってなんだよ…。霊夢って本当にバランスというものを知らないよなぁ…コーナーばっかり」
2人の思想は違うが、狙うはひとつ同じ的。いつしか、2人は流星と呼ばれる様になるかは、まだまだ先のお話。
続く
ここまで清き精読ありがとうございます。