現実世界の目覚まし時計による強制終了のため夢の途中で目が覚めてしまい、その結果初めてBADENDを迎えることなく終わった夢です。
twitterにこの夢のお話を投稿したところ、この子のお話を読んでみたいと言う反応を頂き、寝起きで書いた夢日記メモが比較的詳細に書かれていたこともあり、夢で見た範囲で小説化してみようと思いました。
・改訂
2022/06/08 前書きと後書き(簡単な登場人物紹介)を追加しました。
2022/06/15 お話が前後編で収まらない事が判明したのでサブタイトルの表記を変更。
2022/07/13 サブタイトルの表記を変更。
chapter.1 「変身!!」
私は走る。背に人を乗せ、土の上をひた走る。
私は走る。ただひたすらに走り続ける。熱く眩しい太陽の光を浴び、前を走る馬の蹴り上げた砂を全身に受けながら。
「――!――!!」
背中の人間が何かを叫び、私の首を押しながら鞭を揮う。痛みが走り、弱り始めた気持ちをもう一度奮い立たせる。
前を走る馬。彼彼女を追い抜き先頭に立たなければいけない。もう後は無い、最後の直線だ。
一頭抜いた。でもまだもう一頭が目の前に居る。もうゴール板が見えてるのに、近いのに遠い、後ろ姿。
もっと速く!!もっと速く!!
悲鳴を上げる四本脚を必死に動かして滲む視界を捉えて駆けて行く。
少しずつ縮まる距離、前の馬が横の馬になる。まだ駄目だ、追い抜かないと――。
横の馬の荒い息、散る汗と涎を感じながら私は板を通り抜けた。
背の上の人間の手が緩む、どうやら終わったみたい、私は力を抜き、ゆっくりと少しずつスピードを落としてゆく。
どうだったのだろうか、今回もダメだったのだろうか。不安に押しつぶされそうになり、恐る恐る人間の方に視線を巡らせる。
視界の隅に写る彼は、笑っていた。砂と汗でドロドロになった顔を綻ばせて私の首をポンポンと叩いてくれる。
―よくやった。おめでとう。
そう褒めてくれてる感じがした。私は勝ったんだ、良かった――。
馬運車と呼ばれるガタゴトと揺れる狭い場所に乗せられて私はおうちに帰ってきた。
降ろされて、いつもお世話をしてくれる人間に牽かれて歩く。この人も笑顔を浮かべていて、私はレースに勝ったんだなと改めて感じる事が出来た。
『ただいまもどりましたー!!』
『おかえりー』
『おかえり』
私が厩舎と呼ばれる住処に入り挨拶をする。すると馬房と呼ばれるお部屋からそれぞれ二頭の馬が顔を出す。
『チョコ、どうだった?ちゃんと先頭でゴールできたか??』
心配そうに顔を出す小柄の馬はコタロウ。私と同い年の馬だ。
『うん、先頭は取れなかったけど勝てたみたい。人間達が笑顔で喜んでたし、走った後に並んで"クチドリシャシン"していたから大丈夫だよ!!』
『良かったぁぁぁ……、ボスが「勝てないとチョコが遠くへ連れていかれて二度と会えなくなる」って脅すから心配したんだよぉ~~』
ふにゃふにゃと力が抜けるように座り込んでしまったコタロウに鼻先を近づけて『心配かけてごめんね。私は大丈夫だよ』と声をかける。
『先頭は取れないが勝利―、ハナ差か。それでも勝ちは勝ちだ。おめでとうチョコ』
『ありがとうボス!私、ボスのおかげでやっと勝てたよ!』
人間に連れられて私の部屋――馬房に入った後、顔を出したら横の馬房から首を伸ばして話しかけてくる大柄の馬はボスことブルドックヘッド。私達の厩舎で一番偉い馬で色んな事を知っててさらに人間の言葉が分かる凄い馬だ。
『ああ、だがまだ油断できない。次のレースも勝つか、最低でも掲示板に乗らないと難しい。俺達は走り続けるしか無いんだ』
『うん、私頑張って走り続けるよ!』
ボスは満足そうに頷いた。この馬は私達の世界の事や人間達の事をとても良く知っていて私は尊敬している。
『おっと、人間が来たようだな』
ボスが首を自分の馬房へと引っ込める。すると通路の向こうから人間が歩いてきた。テキ――調教師と呼ばれてる、私達がレースに勝つために色々教えてくれてくれる偉い人だ。
「国崎、お疲れさん。チョコの様子はどうだ?」
「お疲れ様です、テキ。チョコの奴はもう大丈夫ですよ。レース後かなり疲れを見せていたので念の為2日休ませてから帰りましたから」
「そうか、それは良かった。まだ疲れが少し残ってるかもしれないから当面は軽い運動を中心に行う。オーナーも焦らなくてよいと言っているし、次は秋後半だな」
「ええ、そうですね」
「ひと先ずは未勝利脱出おめでとうだな。頑張ったなチョコ」
テキが優しい笑顔で私の首筋を撫でてくれる。本当にレースに勝てて良かった……。
「ところでテキ、その手に持ってるのは何なんです?」
国崎さんが腕を伸ばして何かを指さすので私も思わずそちらに視線を移す。テキの手には白くて四角い何かが握られていた。
「これか?ああ、チョコ、お前にファンレターが届いているぞ!」
そう言ってテキは手に持った白くて四角い何かを私に見せる。何だろう?
『それはお前宛に来たファンレターだな』
いつの間にか馬房から顔を出していたボスが答える。ファンレターってなぁに?
『お前を応援してくれる人間が感謝の気持ちを手紙と言う物に書いて送るものなんだ。これを貰えるのはとても良い事なんだ』
ボスがそう教えてくれる。私を応援してくれる人が居るなんて…なんだか身体がぽかぽかしてくる。
「じゃあ読むぞ。『拝啓、チョコエクレール号様、御手洗厩舎の皆様へ。チョコエクレール号、3歳未勝利戦優勝おめでとうございます。私はチョコエクレール号の大ファンです。去年夏の新馬戦のパドックで貴方を見て一目惚れしてしまいました。なかなか勝てず苦しい戦いが続く日々の中、厳しい調教を頑張り熟してひたむきにレースへ参加して最後の瞬間まで決して諦める事無く全力で走り続ける貴方に勇気をたくさん貰いました。これからも応援しますので次のレースも頑張ってください。まだまだ暑い日が続きますがお体に気を付けて怪我や病気にならずお過ごしください。』……だそうだ」
テキがファンレターを読み上げて、人間の言葉が分からない私のためにボスが横から言葉の意味を教えてくれる。
『チョコ、良かったな。お前をこんなにも応援してくれる人が居るなんて』
『うん、凄く嬉しいよ』
人間から貰う言葉にこんなにも心が動かされるなんて知らなかった。
「うん?まだ続きがあったな。ええっと『追伸、チョコエクレール号の擬人化イラストを描いて同封して贈ります。良かったら本人に見せてあげてください』…だと。ああ、何か色紙のようなモノが入ってるな」
「ファンレターにしては随分大きな封筒だなと思っていたのですが色紙が入っていたんですね。――これは、人間?マンガのキャラクターですか?」
「なんだこりゃ?」
テキと国崎さんが色紙と呼ばれる四角て固そうな紙を覗き込み首を捻っている。何があるんだろうか?とても気になる。
「うん?ああ、チョコ、これが気になるのか?」
私が首を伸ばしてるのに気づいたテキが色紙を見せてくれる。そこにはこげ茶色の短い髪の女の子が描かれていた。
――ドグンッ
何だろう、目が離せない。
「マンガのキャラクターに馬の耳と尻尾を付け足して描いているのか?【ウマ娘 チョコエクレール】?」
「ウマ娘?ああ、テキそれ今若いモンらの間でブームになってる奴で有名な競走馬を人間の女の子にして走らせるゲームですよ」
「そう言えば何回かテレビのCMで見たな、シンボリルドルフやナリタブライアンが出てる奴だろう」
「ええ、そうです。でもあれはG1何度も取ったり伝説になってる引退した有名馬が出る物でまだ現役でこれといった勝ち鞍の無い無名のうちのチョコが出るものではないのですが……」
「そもそも何故女なんだ。うちのチョコは牡馬だろう?」
「そのウマ娘と言うゲーム牡馬も牝馬も全部まとめて女の子のキャラクターにするそうです。意味が分かりません」
「本当だな、アニメオタクは何考えてるのが理解できないな」
何やらテキと国崎さんがブツブツと言い続けてるけど、私はそのイラストから目が離せずにいた。
「とりあえず手紙読んで妙な絵も見せたし、もう要らないだろう。国崎、これを片付けておいてくれ」
テキが色紙をどこかへ持っていこうとして――、私は咄嗟にその色紙を持ったテキの腕に噛みついてしまった。
「痛てぇ!いててて!!!――ッ、こら!チョコ!どうした?やめろっ!離せ!!!」
ダメ!お願い!ソレを捨てないで!!どこかへ持って行かないで!!!
私は必死になってテキの腕を噛み引っ張る。
「コラッどうしたチョコ!離すんだ!!」
国崎さんが私からテキの腕を離そうとする。私は首を振って精一杯抵抗した。
「チョコがこんなに激しい前搔きするなんて初めてだ……」
「わかった!わかった!頼むから離してくれチョコッ!!!」
『チョコ!もういい!もう大丈夫だから、テキの腕を離すんだ!』
ボスに言われて私はハッと冷静になる。何をしてしまったんだろうか。
「っっ!痛てぇ……。わかった、わかった。この色紙は捨てないから。おい国崎、事務所にある要らない額縁持ってきてくれ。で、これの色紙を入れてチョコの馬房に飾ってやってくれ」
「わかりました」
国崎さんが何処かへ走っていき、やがて何かを持って戻ってきてくれた。
「ほら、これで良いだろうチョコ」
テキが色紙を入れて馬房の中に飾ってくれた。すごく嬉しい、ありがとうテキ。
私がヒィンヒィンと前搔きしながら鳴くとテキは困り顔を浮かべつつ頭を撫でて立ち去って行った。
厩舎の明かりが消えて夜の帳に包まれる頃、私はあれからずっと色紙から描かれた女の子から目を離せずにいた。
何だろう……心の中、身体の奥から何か形容しがたいモヤモヤとした物が浮かんでくる
――ドクンッ
何だか身体が熱い、少し視界がぼやけてきた気がする。それなのに色紙の女の子の絵ははっきりと暗闇に浮かんで見える。
――ドクンッ、ドクンッ
あ、あれ?変だな?体が熱い、眩暈がする。ぼんやり馬房が明るい?私が光ってるの???
――ドクンッドクンッドクンッ
私の身体を光の粒子が包み込んでいく。顔が熱くなり耳が聞こえなくなっていく、周りは真っ暗で、でも色紙の女の子ははっきり見えて、絵が光を帯びている??
――ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクッ!ドクッ!ドクッ!
怖い、助けて、ボス、コタロウ、テキ、国崎さん、声が出ない、息が出来ない、視界が、世界が傾き回る
――ドクッ!ドクッ!ドクッ!ドクドクドクドク――!!!!!
視界が大きく揺れて、目の前に寝藁が広がって――、私の意識はそこで消えた。
『チョコ!おいチョコどうした!何があった!?』
遠くで誰かが呼んでる声がする。ゆっくりと視界が開けて行く。
『チョコ!しっかりしろチョコ!!大丈夫か?頼む!返事をしてくれ!!』
目の前に広がるのは寝藁の色、鼻をくすぐる感じがする。私倒れてたの??
『チョコ!大丈夫か!?頼む!返事をしてくれ!!クソっ!厩務員!厩務員はどこか!!』
ゆっくりと起き上がろうとして、視線の高さに違和感を抱いた。起き上がったはずなのにどうしてこんなに視線が低いのだろうか?
『チョコ!チョコ!!返事してくれ!何があった!!!無事なのか!!』
ボスが呼んでる。すごく心配してる。返事しなきゃ……
「ボス、私は大丈夫だよ。ちょっと眩暈がして倒れただけで怪我とかはして――、えっ?」
声が変だ。高さも声を出すところも変だ。まるで――。
『!?お前は誰だ!!人間が何故チョコの馬房に居る!?』
ボス、何を言ってるの?と言いかけて下がった視線、その視界に写る前脚は――、まるで人間の様に白く、短く、蹄が5本に分かれていた。
「ひぃぃっ!?脚が!!私の前脚がっっ!!」
恐怖のあまり私は再び倒れ込む、身体が見える。まるで人間みたいに布に包まれた細くて小さな身体が、前脚よりも長くて少し太い後ろ脚が、毛の生えていない白い肌のむき出しの脚が――。
「やだぁ!やだぁぁあ!助けて!助けてぇぇぇ!」
必死に四本の脚を動かして這うように馬房から出る。低い姿勢のおかげで入口からは簡単に出れた。
『おい!貴様!誰だ!何故チョコの馬房に居る!チョコに何をした!』
見上げれば遥か頭上にボスが居た。耳を絞り、見た事の無い形相を浮かべてる。こんなに怒ってるボスは初めて見た。
「ボス!私だよ!チョコだよ!!信じてよ!!!」
『おい!人間のガキ!てめぇ!チョコに何しやがった!!』
コタロウが顔を出して私に威嚇する。コタロウも耳を絞り目を血走らせて吠える。
「コタロウ!私だよ!チョコだよ!!信じてよ!!」
『黙れ人間!!メスガキがピーピー甲高い声で鳴くな!踏み潰してやるぞ!!!』
コタロウに私の言葉が通じない。どうして、どうして。
ボスが怖い、コタロウが怖い。助けて――、助けて――。
『ボス!コタロウ!お願い!!信じて!!私はチョコだよ!!!』
『……!?』
『!?』
二人の嘶きがピタリと止まる。それにさっきの私の声、もしかして――。
『ね、ねぇ、二人とも私の声わかるの?』
『ああ、分かる。その声確かにチョコだ』
『人間のガキがウマの言葉話せるわけない。姿は変だがその声は確かにチョコだ』
よ、よかった。私は力が抜けてそのままへたり込んでしまう。通路の地べたがヒンヤリとして気持ち良い。
どうやら、今の私は人間の言葉と馬の言葉両方喋れるみたいで、ボスやコタロウと話したいと強く意識すると馬語に切り替えれるようだ。
『良かったぁぁぁ、信じて貰えて。ねぇボスこれは一体何。私はどうなっちゃうの?』
『いや、俺も分からない。馬が人間に変身するなんて聞いた事無いからな』
そんな、ボスにも知らない事があるなんて。私これからどうなるんだろうか?
『ところで、なぁチョコ。お前いつまで
コタロウが不思議そうに聞いてくる。姿勢?何の事だろう?
『お前、今人間の姿なんだろう?
そう言われてみれば後脚を途中で折って四本脚で居るのは確かに辛い。かと言って後脚を伸ばすと前のめりになってさらに歩きにくいし息するのもつらくなる。
『確かにそうだな。チョコ、試しに二本足で立ってみろ』
『立ってみろって言われても……』
ボスにやってみろと言われても、二本脚で立つなんて考えたことも無かった。
『不安か?ちょっと見本見せるから待っていろ。――ッセイヤッ!!』
ボスがそう言うと馬房の前で向きを変えひと際嘶くと前脚を振り上げて馬房の壁に当てて2本脚で立ち上がる。前脚を上げたボスとてもカッコいい――!
『ゼェゼェ、馬と人間では違うかもしれないがイメージ的にはこんな感じだ』
『うん、わかった。私やってみるよ』
『じゃあやってみろ。両腕――前脚を上げたらここの閂に付けるんだ』
ボスの言われた通りに身体の向きを変えて、ボスの馬房の入り口の棒に向かって両前脚を振り上げる
『うん。じゃあ行くよ!セイヤッ!』
両前脚が棒に付くとその勢いのまま後ろ脚を伸ばすと自然と二本足で立ち上がる事が出来た。普段の馬の時と同じくらい視界が高い。
『おおお、チョコが立った!』
コタロウが驚きの声を上げる。二本脚で立つのってなんだか不思議な気分。
『さすが人間の身体だな』
『う、うん。でもなんだかフラフラしてちょっと――キャアッ!?』
『チョコっ!!』
前脚を閂から離した瞬間、後ろに倒れそうになる。とっさにボスが私の前脚を咥えて引っ張り上げてくれたおかげで倒れずにすんだ。
『ボ、ボス。ありがとう』
『気にするな。人間は俺達馬と違って簡単に二本足で立てるが細長い体のせいでバランスが悪く転びやすくなることがある。慣れるまでは気を付けろ。手摺を握るんだ』
『握るって?』
『お前のその前脚、人間では腕と言うがその先に手があり先端には5本の指がある。これを自在に動かして物を掴んだりする。慣れればとても便利だ。俺達馬が出来ない事を何でもできるようになる』
ボスに言われた通りに指を動かしてみる。なんだか蹄が5本に増えてそれぞれ自由に動くのはなんだか気味が悪い。
んしょ、んしょ、んしょ。
ボスに言われて私は二本足で歩く練習をしてる。最初の頃はフラフラしていた足取りもしばらくすると普段歩く時の様に真っ直ぐ歩けるようになっていた。
『歩行はもう問題ないようだな』
『うん。前脚を使わずに歩くなんてなんだか不思議』
ボスが満足そうに頷いてる。
『じゃあ頼みがある。チョコ、俺の馬房の閂を外してくれないか。外に出たいんだ』
『ええっ!?それって大丈夫なの?』
『構わないさ。ここから逃げ出すわけでは無いからな』
『……うん、わかった。じゃあするね』
ボスに言われた通りに私は閂を掴んで横に引っ張る。するとあっけなく閂は外れて入口が開きボスが出てきた。私達の馬房ってこんなに簡単に開いてしまうんだ。
『ふう、やっと出れた。チョコ、付いて来てくれ。行きたいところがあるんだ』
ボスが私の横に来てそうつぶやく。どこへ行くんだろうか。
『ねぇ!ねぇ!俺のこと忘れてない!?頼むよ~俺も出してくれよ~』
後ろでコタロウが騒ぐ。どうしようかとボスを見ると。
『駄目だ。お前は何処かへ逃げ出すつもりだろ?開けるわけにはいかない』
『ええー!!そんなー!!ボス!!お願い!!ここから出して!!俺も連れて行って!!勝手にどこにも行かないから!!!チョコッ!お前からも頼むよ~~』
馬房の壁を叩きながらコタロウがごねる。
『わかった、わかった。お前も出してやるから煩くするな騒ぐな。チョコすまない、コタロウのとこも開けてやってくれ』
『うん、わかったよ』
私が閂を開けるとコタロウが嬉しそうに飛び出してきた。
『イヤッホォォオオオオオ!!!俺は自由だぁ!!!もう人間達になんぞに縛られないぞ!!』
『コタロウ――。』
『ひぃぃ!?ごめんなさい、冗談です……』
後ろ脚を蹴り上げたり、前脚を振り上げたりして跳ね回るコタロウをボスが一喝する。ボスに睨まれ小さい馬体のコタロウがさらに小さくなってしまった。そのまま私の横に大人しく並んだ。
『よろしい。では
ボス、私、コタロウと並んで厩舎の中を歩いていくと何かの部屋に着いた。物がたくさん置いてあっていい匂いもする。
『ここは俺達のエサを置いてる場所だ。チョコ、悪いがそこの袋を持ってきて、この容器に中身を入れて欲しい』
ボスに言われて私はエサの袋を運んで来る。ボスの指示通りに手を使って運び、袋の口を開けて容器へと中身を移していく。
『もう手の扱いは完璧ようだな。飲み込みと憶えが早い、さすがチョコだ』
『えへへ~、ありがとうボス!ボスの教え方が上手いからだよ。人間の前脚、手ってすごいね!何でもできるよ』
『チョコぉ~~、俺にもくれよ!あっ出来れば人参が良いなぁ』
ボスのを見てコタロウも催促してくる。人参はどこにあるんだろう?
『人参ならそこの冷蔵庫の中だろう。チョコ、目の前の銀色の扉を手を使って開けるんだ。中にニンジンがあるはず』
ボスに言われて、すぐ目の前にある銀色の扉を手を使って開けてゆく。中は明かりが灯りヒンヤリしてて気持ちいい。人参が置いてあったので何本か取ってコタロウの容器へと入れていく。
二人のを見てたら私も何だかお腹がすいてきたので同じようにエサを容器に入れて行く、ニンジンも用意して――、本当はリンゴが欲しかったけど冷蔵庫の中には置いてなかった。
『では食事としよう。いただきます』
『『いただきます』』
二頭がエサを食べ始めるのを見て私も食べようと顔を入れて――
『あ、あれれ??顔が入らない……んんっぐぐぐぐぐぐっ、届かないっ!?』
『チョコ、お前何やってるんだよ』
コタロウのあきれた声が聞こえてくる。人間の顔、丸くて横に広くて首が短いから容器の中のエサが食べれない。
『チョコ、人間は俺達と違って直接口では食べない様になっているんだ。本来は食器と言う道具を使うんだが……今日は手を使って食べなさい。両手でエサを掬って口元に近づけて食べるんだ』
私はボスに言われて両手を使ってエサを取っていく。ボスの説明通りに手を動かすと、エサがこんもりと両手に乗り口元に近づいて行く。これなら食べやすい!
『いただきま~す。……んぐっ、んぐっっ!?ぶぶっ!ぶえっ!ぶえっ!…ゲホッ!ゲホッ!』
口にエサを入れた瞬間、私は盛大にむせてしまった。エサが、普段食べなれているはずのエサがまるで砂のようで味も苦くて口の中に張り付き食べれない。
『ううう、エサが食べられない、砂食べてるみたい……』
『ふむ……。チョコ、どうやら今のお前は人間の味覚になっているようだ。だから俺達と同じエサを食べる事が出来ない。ここには置いてない人間用のエサが必要だ』
ボスが残酷な宣言をしてくる。私、どうやってエサ食べればいいんだろうか。
『あ!人参なら食えるんじゃねーの?人間も人参食うだろ確か』
コタロウがそう言い、時々厩舎にお手伝いで来てくれる人間の男の人が、人間のエサの時間の後に厩舎にやって来ては「人参いらないよ」って言って小さい人参の欠片をよく私達に分けてくれていたのを思い出した。
『そうだな、人参なら食べれるかもしれん。チョコ、試しに食べて見ろ。両手で人参を持って口に近づけてそのまま齧ってみるんだ』
ボスに言われて人参を両手で持ったまま口に近づけて食べる。ガブッ………ガリッ……
『ううう、固くて食べられない、顎や歯が痛いよ……』
人参ってこんなに硬かったけ?何度も必死に齧りつくけど少し欠片がとれたくらいで挫折してしまった。
『嚙む力も人間相当なのか……仕方ない、少し汚いが許せ』
そう言うとボスは私のエサ箱にニンジンを何本か入れると前脚を入れて踏み潰していく。
『これなら食べられれるだろう?』
グチャグチャに潰れた人参を渡され、手で掬って口元へ運ぶ。シャクッ……シャクッ……。まだ少し硬いけど小さな塊ならかみ砕くことが出来た。
『美味しい……。ボスありがとう、これなら食べられるよ』
『良かった。ただ毎回潰すわけにはいかない。本来なら包丁と言う道具が使うのだがとても危険な物だからさすがにまだお前には教えれない。次は人間用のエサを探そう』
ボスがそんな事を呟いてる。人間用のエサはどこにあるんだろうか?不便だなぁ……。
そんなことを考えつつ、三頭一緒に楽しく夜のお食事を楽しんだのであった。
『チョコ、これからどうするんだ?』
お夜食会が終わって片づけをして馬房に戻った後、隣から首を伸ばしたボスに問われる。
『ボス、私どうなっちゃうの?』
私はまだ人間の姿のままだ。いつまでこの姿なんだろうか?馬の姿には戻れるのだろうか?
『人間達が起きてくる前に姿が戻れるようになれば良いのだが…』
『別に人間のままで良いんじゃねえの?人間になれば鞭で叩かれて走らされなくて済むし、手が使えるから便利だし』
考え込むボスに、呑気な事を言うコタロウ。馬の姿に戻れないのは辛いけど、厳しいレースに出なくて済むのなら良いのかな?
『いやそれは不味い。このまま馬の姿に戻れないで人間に見つかってみろ。馬のチョコエクレールが消え、代わりに見知らない人間の女が馬房の中に居る。大騒ぎのどころではないぞ』
『そうなの?』
『ああ、だがそれだけで済まない。問題はお前の姿だ』
『私の姿?』
『今のお前の姿は人間であって人間ではない。人間には馬の耳と尻尾が無いからな。人間に近い未知の存在。そんな存在が居たら、ただでは済まない最悪の事態がまっている』
『さ、最悪の事態……??』
『お前は人間達に連れ去られて何処か遠くの施設へ行く。そこで身体をバラバラにされ、隅から隅まで調べられるだろう。――生きてここへ戻ってくる事はもう無い』
『――!!!』
そんな、そんな、折角頑張って生きて来たのに――、ここまでやって来れたのに――。
『そんな!!チョコの奴必死に頑張って来たのに!もう二度と離れ離れにならない様に来たのに!!そんな事ってありかよ!!クソッ人間どもめ!!!チョコ!!早く元の姿に戻るんだ!急げ!!急げ!!』
コタロウが必死に叫びながら私に急かしてくる。
『チョコ、落ち着け、あわてるな。人間の姿に変身した時のことをよく思い出すんだ。何をした?何が起きた?覚えているならそれをもう一度やってみるんだ。恐らく同じ方法で戻れるはずだ』
『う、うん……』
私は馬房に飾られた絵を見つめる。この絵を見つめてたら変身したんだ。
――お願い!私を元の馬の姿に戻して!!!
強く何度も祈り続ける。でも、でも、何も起きない。目が離せなる事も、あの身体が熱く脈打つ感じも、纏う光の粒子も――、何も、何も起きない!
『チョコ!!チョコッッ!!!まだか!まだ戻れないのか!!!』
『騒ぐなコタロウ!……チョコ、落ち着け、落ち着いて続けるんだ』
『で、でもボス、何も起きないよ!何も起きないの!』
『焦るな!まだ諦めるな、必ず戻れるはずだ!だから――』
そう言いかけたボスの言葉が止まる。厩舎に一斉に明かりが灯ったからだ。人間達が来たんだ!!!
『しまった!時間が来たのか!?』
『チョコぉ!!まだかよぉ!まだ馬にもどれないのかよぉ!!』
ボスが焦りの声を上げ、コタロウが悲鳴のような叫びを上げる
「ん?何だ何だ?妙に騒がしいな?」
足音と人間の話し声が聞こえてくる。テキたちがやってきたんだ。
私は絵を見つめ必死に祈る。でも何も起きない!
『ボスぅ!どうしよう!!私まだ戻れないよぉ!!』
『チョコ!落ち着け!まだ諦めるな!!コタロウ!騒いで暴れるぞ!!時間を稼げ!!人間達をチョコの馬房へ近づけさせるな!!』
『わかった!!!おい!!!人間ども!!!近づくな!!!チョコのところへ行くなぁぁ!!!!』
『テキ!!!頼む!!!まだチョコのところには行かないでくれ!!!』
ボス達が暴れて大きく嘶く。振動と埃が舞い、壁を蹴る音が響き渡る。
「くそっ!何が起きてるんだ!!コタロウ!!ブルドック!!どうしたんだ!!!落ち着け!暴れるな!!!」
「どー、どー、どー、二頭とも落ち着け!」
テキたちの声がはっきり聞こえてくる。外では騒ぎを聞きつけたのか他の厩舎の人間達が近づいてくる音もし始めた。でも私の身体はまだ戻らない。
「……?テキ、チョコの馬房が変です。妙に静かなんです。ちょっと見てきます!コタロウとブルドック頼みます」
「ああ、確かにさっきからチョコだけ反応がないな。そっちはお前に任せた!……よぉーし、よぉーし、二頭とも落ち着くんだ!!」
『まずい!チョコ!!国崎がそっちに行った!!まだ戻れないのか!!』
国崎さんの足音が近づいてくる、まだ、まだ私の身体は戻らない。
お願い!!早く!早く私を元の身体に戻してっ!!
――ドクンッ
来た!!
――ドクンッ、ドクンッ
この感覚、この鼓動――、身体が熱い。
――ドクンッドクンッドクンッ
目を開ければ、身体がうっすらと光を帯び始めていた
――ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクッ!ドクッ!ドクッ!
お願い!間に合って!!
――ドクッ!ドクッ!ドクッ!ドクドクドクドク――!!!!!
国崎さんの足音と気配が目の前に来たのと私の身体と意識が光にのみこまれていくのが果たしてどちらが早かったのだろうか――。
「チョコ!がんばれ!死ぬんじゃないぞ!がんばれ!がんばれ!」
誰かが呼んでる。身体を揺すってくれてる。
「チョコ!チョコ!生きるんだ!!生きるんだ!!」
ゆっくりと目を開ける、目の前に人の姿が見える
「おお!目を開いたぞ!!もう少しだ!!がんばれ!がんばれ!」
国崎さんだ。私の担当厩務員――、私は――。
意識が戻る、鮮明に目の前の景色が見える。記憶が、昨日晩の記憶が蘇る!そうだ!私は人間の姿になっていたんだ!!見つかったら終わりだ!!
「
恐怖のあまり思わず立ち上がる。高い視線、寝藁が纏わりつく四本の脚の感覚――。
「
鳴き声が、身体の感覚が懐かしい。私、馬に戻れたんだ!!!
「チョコ?大丈夫なのか?」
国崎さんが心配そうに私を見つめる。大丈夫だよ、そう伝えたくて彼の顔に頬を摺り寄せる。
「おおっ、よかった……本当に良かった……まったく、心配したんだぞこの野郎ぅ……」
私の鬣を首筋を優しく撫でてくれる国崎さんの涙声を聞きながら私はホッとしたのだった。
登場人馬の簡単な紹介
・チョコエクレール(愛称:チョコ)
このお話の主人公。御手洗厩舎所属の3歳1勝クラス牡馬。
全身真っ黒の黒鹿毛だが鼻先と口周り(下あご)は明るい鹿毛色をしていて横から見るとエクレアみたいな模様に見える事から「チョコエクレール」と名付けられた。
ある日、ファンから贈られた擬人化イラストがきっかけでウマ娘に変身する能力を手に入れてしまう。
実は前世人間の転生馬だが前世の記憶を失っている。
・チョコエクレール(ウマ娘)
競走馬チョコエクレール号が変身した姿。ウマ娘のナリタトップロードさん瓜二つのそっくりな声と容姿と勝負服を身に纏っている。トプロさんとの違いは髪の毛の色と勝負服の配色、耳飾りのデザインが違うのみ。
ちなみに容姿はウマ娘だが本家原作のウマ娘とは違い、超人的な身体能力は持っていない。純粋にウマ耳と尻尾の生えた普通の10代の美少女である。
・ブルドックヘッド(愛称:ボス)
御手洗厩舎所属の10歳2勝クラス牡馬。主人公達の先輩で厩舎のボス格の馬。
この世界の事や人間達の事や競馬に関して豊富な知識があり主人公たち若駒にアドバイスや相談に乗ってくれるためとても慕われている。何故か人間の話す言葉を理解できている。主人公達の間で一番大柄な馬体の馬さん
・コタロウ
御手洗厩舎所属3歳1勝クラス牡馬。主人公とは同じ生産牧場出身で幼馴染。主人公の事をとても気に掛けている。適正距離が1200m以下(推奨1000m以下)と言うガチガチの短距離馬。育成牧場時代、ゲート訓練拒否してイヤイヤしてる姿が散歩拒否してる柴犬そっくりだったため、オーナーの飼い犬と同じ名前を付けられた。
主人公達の中で一番小柄な馬体の馬さん
・御手洗調教師(愛称:テキ)
御手洗厩舎の調教師。50代後半男性。主人公達を管理している。寡黙だが物腰の柔らかい性格で馬を労りじっくり時間をかけて調教する主義の人。
主人公宛に来たファンレターをわざわざ読み聞かせ、イラストを見せて飾った事が物語を大きく動かすきっかけとなる。
既婚者で妻と一人娘が居たらどちらも亡くしており、現在は厩舎事務所の2階で一人暮らしをしている。
・国崎厩務員(愛称:国崎、国崎さん)
御手洗厩舎所属の厩務員。60代男性。主人公達の管理厩務員をしている。調教資格も持っている持ち乗り厩務員でもあるため、主人公達の調教も担当してる。寡黙で職人気質だが根はやさしい人。
チョコエクレールはトニービン系とステイゴールド系の血統を持つ競争馬と言う設定がありますが、父系・母系はどちらが良いと思いますか?
-
父:ステイゴールド系、母:トニービン系
-
父:トニービン系、母:ステイゴールド系
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どちらでもよい
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その他 (詳細を活動報告へ記入)