改訂
2022/07/13 サブタイトルを変更
美浦トレセン競走馬診療所。
規則正しく一定のリズムを打つ機械の音を聞きながら私は診察を受けた。
獣医さんが何度も難しい顔をしては首を捻り、機械や検査の道具と睨めっこしているのを眺めながら「今日は随分お注射されたなぁ」とぼんやりと考え事をしていた。
「御手洗先生、チョコエクレール号ですが、検査の結果特に異常はどこにもありませんでした。すべて正常値です」
「そ、そうでしたか……」
「よ、よかった……」
緊張しきっていたテキと国崎さんの表情が緩み、二人から安堵のため息が漏れる。
「ただ、僅かですが疲れがまだ残っているように見受けられます。念の為もう2、3日は調教はぜずに軽い運動のみでビタミン剤と水分を多めに与えて小まめに様子を観察していてください。何かありましたら直ぐに連絡を」
「「ありがとうございました」」
テキ達がお礼を述べ、
診療所を出ると既に周りは暗くなり始めており、厩舎に帰ると私よりも検査と診察が終わったボスとコタロウが帰っていた。
『あ!チョコ!!お帰り~!!』
『おかえり、チョコ』
『ふたりとも、ただいま』
ふたりの馬房の前を通り過ぎる時に見えた、ふたりの脚に巻かれた分厚い包帯が目に入る。胸が締め付けられるような思いになった。
『チョコ!チョコ!大丈夫だった?人間達に何か変な事されなかった?バラバラにされそうにならなかった??』
国崎さんに曳かれ馬房に入った後、通路側へ顔を出すとコタロウが首を伸ばして聞いてくる。
『うん。大丈夫だったよ。念の為に細かい検査受けたから時間がかかったの。どこも悪くなかったから心配ないからね』
『よ、良かったぁぁぁぁぁ~~……』
気が抜けたようにズルズルと首が下がり入口の閂にもたれ掛かるコタロウ。それも見た国崎さんが慌ててコタロウに駆け寄っていた。
「コ、コタロウ!?どうした!?大丈夫か!?脚痛むのか!?」
『うわっ!?何だよもうっ!!びっくりするじゃないかぁ!!』
コタロウと国崎さんがやいのやいのと騒いでるのをバックに、私はボスに話しかけた。
『ボス、今朝はありがとう。それからごめんなさい……。私のせいでボスとコタロウが……』
ボスとコタロウは私が馬に戻る為の時間を稼ぐために馬房内で暴れて騒いだため、脚を痛めてしまった。幸い骨折まではならずに済んだものの打撲と蹄に少しヒビが入ってしまい、特にコタロウは症状が重くて、年内に走る予定だったレースをすべて出走取消とすることになってしまった。
『気にするな。あれはチョコのせいじゃない。』
『でも……』
『チョコ――』
ボスが私の目を強い力でじっと見つめる。
『お前がもし馬に戻れなかった時、その時起こる事、起こる結果を考えれば、このくらい大したこと無い。お前は大切な家族・兄弟だ。その家族兄弟を失う最悪の結果になってから後悔はしたくないんだ』
『ボス……』
『そーだよ!!俺もチョコが居なくなるなんて嫌だから頑張ったんだよ。だからへーキ!!あっ、ボスから聞いたんだけど俺しばらく人間乗せて叩かれながら走らなくって良いんだって!!!"タンキホーボク"って奴に行けるらしいし、ゲートや馬房に閉じ込められずにのんびりできるから嬉しいんだ!!』
『ああ、コタロウ、言い忘れていたが、短期放牧行くのはお前だけな。俺とチョコはここに残る』
『えええーーーー!!何で!?ボスとチョコも来るんじゃないの!?俺ひとりなの!?ヤダーーー!!ヤダーー!!』
「おいおい、コタロウ暴れるな!!…いてっ!いてっ!噛むな!服引っ張るなっ!!」
賑やかな厩舎内に思わず笑いがこみ上げる。とても癒される……。ふと、ボスが私を見つめていることに気づく。
『ボス?どうかしたの?』
『チョコ、一つ聞きたいことがある。――お前、
『うん……』
私は頷く。実は今朝、馬の姿に戻ってから、私の身体には一つ変化が起きていた。
それは人間の喋る声が鳴き声では無くて言葉として、ちゃんと会話として私の耳に入り脳が理解している事だった。
それはとても驚きで最初はまだ馬に戻れてなくて人間の姿のままなのかと自分の身体を何度も確かめたりした。
次にもしかして自分が人間の言葉が喋れるようになったのか?自分の鳴き声が人間に言葉として、声として伝えられられるのかと思い、何度も国崎さんやテキに話しかけて見たものの、鳴き声としか認識されず会話は出来なかった。
『他に何か変わったことは無いのか?』
『うん、他には何も変わってないと思う』
馬房に飾られた絵をもう一度見つめてみる。昨晩のように身体が光ったり熱くなったりと変身の前触れのような事は起きなかった。
「よし、大丈夫だな。じゃあおやすみチョコ」
私の身体を丹念に撫でてくれた国崎さんが最後に首筋と鼻先を撫でて、立ち去っていく。厩舎の照明が落とされ、暗闇に包まれる。
暗闇にぼんやり見えるあの絵をもう一度見つめる。でも何も起きなくて、昨日のあれは何だったんだろうかと思っていると――。
『チョコ!チョコ!まだ起きてる?……もう寝ちゃった?』
『まだ起きてるよ。どうしたのコタロウ?』
コタロウの呼ぶ声が聞こえたので通路側から首を出すとコタロウがこちらに首を向けていた。
『ねぇ、チョコ。
『え?』
コタロウにそんな事を言われて私は一瞬固まってしまう。変身ってあの事だよね?
『コタロウ、お前、今朝の事もう忘れたのか?』
ボスが呆れたように呟く。
『忘れてないよ!……でも今日一日じっとしててものすごく暇だったし、これからしばらくはこんな感じが続くんでしょ?ううう……外出たいよぉ……。だからチョコが変身してくれたらまだ外出れるし楽しいかなって』
『お前なぁ……』
『うううう…、ねぇチョコお願い!また変身して!で一緒に外出ようよ!人間達の事は大丈夫。また俺達が何とかするからさぁ!!』
そんな事言われても、また変身できるとは限らないし、もし今度戻れずに人間達に見つかったら――、ボスやコタロウに何かあったら――。
『チョコ、お前はどうしたい?』
ボスが私に問いかけて来る。
『………………』
――実は私自身はもう一度変身してみたいと思う気持ちがあった。あの馬から人間に変化する時の感覚、人間体の時の感触、その事に少し楽しさを感じてる自分が居る事に気づいたからだ。
『出来るならもう一度あの姿になってみたい。――でも良いの?またボス達に迷惑いっぱいかけてしまうかもしれないよ?』
『大丈夫だよ!俺達が何とかするよ!!』
『まぁ、何とかなるだろう』
私が答えるとボス達はそう返事してくれる。そこまで言ってくれるなら――。
『うん、わかったよ。じゃあもう一回変身してみるね』
『やったーー!!』
コタロウのはしゃぐ声を聞きながら私は飾られた絵を見つめ、もう一度祈る。昼間もさっきも何も起こらなかったけど――、
――ドグンッ
……来た。
――ドクンッ、ドクンッ
何かが流れ込み、身体が熱くなり奥底から湧き上がってくる感覚。目を開ければ馬体が光を纏い始めていた。
――ドグンッ!
ひと際強く衝撃が来る。一瞬意識が飛び、思わず倒れそうになる。景色が傾き、床が近づいて――。
――
「えっ――?」
目の前に見える二本の白く細い腕、寝藁を掴み握る蹄とは違う手指の感覚と感触。
「私!また人間になった!変身できたんだ!」
『えっ!?』
『その声……まさか』
私は通路側の入り口に駆け寄り、そのまま閂を潜り抜けて通路へ出る。
『コタロウ!ボス!私、変身できたよ!』
その場でクルリと回る。馬の時では出来ない動きだ。
『やったーー!じゃあ早く開けてよ!!』
『全く……、今日もお夜食タイムだな』
今日もボス、私、コタロウと並んで厩舎の中を歩く。確かこの辺が私達のゴハンを置いてある場所……。
しかし、ボスはその場所をそのまま素通りして歩みを進める。
『アレ?ボスここじゃないの?』
私が疑問を口にする前にコタロウが尋ねた。
『今日は先に人間の、チョコの食べれる物を探そう』
暫く進み通路の突き当りまで来た。目の前には「休憩所」と書かれた扉がある。
ふと見るとボスがあちらこちらを何かを探すように嗅ぎまわっている。
『…………チョコすまない、その木箱を持ち上げてどかしてくれないか?』
ボスに言われて通路のわきに置いてあった木箱を持ち上げてみる。するとそこには白い小さな容器が置いてあり、中には何か固いものが入ってあった。
『それはこの扉を開けるために必要な"鍵"と言うモノだ。手に持ってこの"ドアノブ"にある"鍵穴"に入れて回すんだ』
ボスに言われて"カギ"と呼ばれる物を手に取る。ヒンヤリして冷たいそれには鈴が付いていてチリンチリンと音を立てていた。"鍵穴"と呼ばれるところに差し込んで回すとカチリッと音がした。
『あ!何か音がしたよ!』
『開いたな、チョコ今度はそのドアノブを回してくれ』
今度は鍵を入れた部分、"ドアノブ"と呼ばれる部分をゆっくりと回すと扉が開いた。奥には部屋のようなものが見える。
『ねぇねぇボス、ここは何の部屋?』
『ここは人間達が少しの間休むところだ』
『休むところ?こんな狭くて物がいっぱいあって、寝藁の無い固い所で人間は寝てるの?』
『いや、人間が寝るところはまだ他にあるんだ』
ボスとコタロウの話し声を聞きつつ、私はゆっくりと足を入れて部屋の中へ入る。狭そうに見えたが人間の身体だと特に不便なく過ごせそうだ。
『チョコ、その白い扉を開けてみてくれ』
『うん』
ボスに言われて目の前の白い扉を開けてみる、中には明かりがともりヒンヤリした空気が流れて来る。昨日ボスが言っていた"レイゾウコ"と同じもののようだ。
中には色々な物が入っている。
『ボス!中に何か入っているよ』
『多分ジュースとかだろう。何本か取り出して見せてくれ』
私はとりあえず何本か取り出してボスに見せて行く。
『それはリンゴジュースだな。それはオレンジジュース、……それはコーヒーか、それは戻しておきなさい』
ボスに見せて良い物は置き、駄目と言われたものは戻す。コーヒーと"オチャ"はどうして駄目なのだろうか。
『次は食べ物だな、となりの棚を開けてみてくれ』
白い"レイゾウコ"の隣にある木でできた棚を開けてみる、すると何やら白い紙に包まれた箱が二つ置いてあった。なんだかどちらも甘い香りがする。
『ボス、これはなあに?』
『これか、これは煎餅とクッキーだな。人間が食べるオヤツだ』
『オヤツってあのエサに時間以外に貰える奴?』
ボスが答えてコタロウが不思議そうに眺める。
『他に何かありそうか?』
『うーんっと……何だかよく分からない物ならあるけど、この箱以外には食べ物らしいものはないよ』
私がそう答えるとボスは少し考えるそぶりをして
『チョコ、すまない。どうやらここにはちゃんとしたゴハンになるものは無いようだ。オヤツになってしまうが構わないか?』
『うん、良いよ』
ボスもコタロウも私のためにずっと食べるのを我慢してくれてる。わたしのわがままにふたりをいつまでも付き合わせるのは何だか悪い気がした。
『たとえオヤツでも馬の時には食べられない人間の時にしか食べられない物なら十分嬉しいよ。さあ行こう』
箱とジュースの容器を持ってわたしたちはまたあの部屋に行くことにした。
『では召し上がろう。頂きます』
「『いただきまーす』」
三頭一緒に夜のお食事会。ボスには飼料と呼ばれるご飯を、コタロウには人参を、私にはクッキーとおせんべいとジュース。
それぞれ並べて三者三様の音を立てて頂いていく。シャクシャク…、ボリボリ…、パリパリモグモグ…。
『チョコ、美味しいか?』
ボスが聞いてくる。
『うん、このクッキーとおせんべい、初めて食べたけどとても美味しいね。ただちょっと口が乾いて、んっぐぐぐぐ……』
『チョコ落ち着け。飲み物と一緒に食べるんだ』
ボスがジュースの容器を咥えて渡してくれる。ボスが教えてくれたやり方で蓋を開けて、手に持ち、口へ持ってきて中身をゆっくりと流し込んでいく。
普段と違い自分の顔を容器に近づけるのではなくて、手に持った容器の方を自分の口に近づけて飲む。人間の水の飲み方は独特だ。
『くんくん……これはリンゴの匂いかな?変だよね、水なのにリンゴの味と匂いがするなんて』
『うん』
このジュースと言う水。普通の水みたいなのに色が付いていて、いろんな色いろんな味があるのだ。
『すべての果物と大体の野菜はジュースになっているな。リンゴ…バナナ…ニンジン』
『ニンジンッ!?』
コタロウが目を輝かせてこちらを見て来る。
『ニンジン!!ニンジンの水…ジュースがあるのっ!?!?』
『あ、ああ……あるぞ、チョコの横に置いてる…』
『チョコ!!チョコ!!ニンジン!!ニンジンのジュース頂戴っ!!!』
ボスが勢いに押されてたじろくくらい私の視界いっぱいにコタロウが顔を思いつきり寄せて来る。床を激しく前搔きをし、鼻息はレース直後みたいに荒い。
『チョコ……、お前の横に置いてる"佐藤園 無添加ニンジンジュース100%"をコタロウに飲ませてやってくれ……』
『う、うん……』
ボスに言われて私はニンジンジュースの容器を手に取る。蓋を開けて、口をコタロウの方へ向けると勢いよくコタロウが齧り付いた。
――ゴキュッ、ゴキュッ、ボコッ!ベコッ!バキッ!
『恐ろしい勢いの飲みっぷりだな……』
容器の中のオレンジ色の液体が恐ろしい速さて消えて行き、容器が派手な音をたてて潰れて行く様子をボスと一緒に眺めていた。
『……ングッ!プパーッ!!おいしかったぁあああ!!!とっっても甘くて味が濃くて!!少しドロッとしてたけどお水みたいで良かったぁ!!!ねぇ!チョコ!もう一個ちょうだい!!』
空になった容器を放り投げて満足そうなコタロウが次を催促してくる。周りに置いてある容器を見てみるが"ニンジンジュース"と書かれたものもオレンジ色の液体が入った容器も見当たらなかった。
『ごめんねコタロウ。もう無いの。さっきので終りみたいなんだ』
『えええーーーー!!!……そんなぁぁ』
さっきのハイテンションから一気に落ち込んでしまったのかトボトボの自分の容器に前に戻り座り、しょぼくれながら容器に残ったニンジンを齧るコタロウ。『味が薄いよ……あっでも食べ応えはあるから普通のニンジンも悪くはないのかなぁ…』と声が聞こえてた。
『んぐ…チョコの食べてるソレ、不思議な匂いがするね』
コタロウが私が食べているクッキーを見つめている。同じ見た目でも何種類か味の違いがあるみたい。
『ねぇ、チョコ。一個ちょうだい~』
『いいよ』
私がクッキーをコタロウの鼻先に近づけると
『だめだ、チョコ、そのクッキーはコタロウには食べさせてはいけない』
ボスが真顔で厳しい事を言った。
『ええええーー!!どうして!?』
コタロウが非難の声を上げる。
『人間の食べ物には、俺たち競走馬には食べれない物、食べてはいけない物がある。最悪は毒があって身体を壊したり、命を落とすこともあるんだ』
『ひぇええええ!!そうなの?チョ、チョコは食べてても大丈夫なの??』
青ざめた表情になり慌てるコタロウ。私も少し不安になる。
『ボス、私これ食べても大丈夫なの??』
『ああ、今の人間に変身してる時は大丈夫だろう。馬の時はダメだからな』
そうなんだ。良かった……あと馬の時は気を付けよう、うっかり食べたら大変だ。
『人間は俺達馬や他の動物たちが食べられない物をたくさん食べる事が出来る存在なんだ』
『へぇーそうなんだ。人間になれるチョコが羨ましいなぁ~』
ボスの説明にコタロウが私の方を見ながら呟く。そう言えばどうして私だけなんだろうか?
『ねぇ、どうして私だけ変身できたのかな?』
私がふと呟く。
『?』
ボス達がこちらを不思議そうに見つめる。
『本当に人間の姿に変身できるのは私だけなのかな?もしかしたら、コタロウやボスも変身できるのかも。あの絵を見つめて祈ったら――』
夜のお食事会を終えたわたしたちは馬房に戻ってきた。
私は自分の馬房に飾ってあった絵を外してボスとコタロウの前に持って来てみた。
『これか……』
『これがチョコの絵なの?』
『うん、この絵を見つめて強く祈ると私はこの姿に変身できるの』
ボス達が絵を覗き込んでいる。
『どうかな……何か来そう?』
『うーん………』
ボスが真剣に見つめかなり悩んでいるみたい。
『何も起きないよ。ねぇ、祈るってどうするの?』
『うーんっと、この絵を見つめながらとか、あとは目を瞑ってとても力を込めながら"お願いします変身させてください"っていう感じかなぁ?』
コタロウが聞いてくるので普段私が変身する時の事を思い出しながら答える。
『力を込めて……強く言う……。フンッンンンンッッッッーー!!お願いします!!!俺も!!チョコみたいに!!人間にじでぐだざいぃぃぃぃぃぃい!!!』
コタロウが充血した目を見開き馬体を震わせて鼻息を盛大に噴きだしながら力む。彼の後ろからボトッ!ボトッ!ボトトトッ!と音がするので覗いてみると盛大にボロが出ていていた。
『もういい、やめろやめろ!コタロウ、ボロが盛大に漏れ出てるぞ……』
『へあぇっ!?……ハァハァハァ…本当だ……うわっ……やっちゃった……。ねぇ、チョコ?俺どこか変わった?変身できそう…??』
馬体に白い泡だった汗を浮かべて、息も絶え絶えに聞いてくるコタロウ。
『コタロウ、ごめんね。全然変化ないよ……』
私が申し訳なさそうに答えると「そ、そんなぁぁぁ…」と力なく項垂れるコタロウ。思いっきり力んだ後に一気に脱力した影響なのか、ジョジョジョ……と後ろ脚の間から足元に向かい黄色い水溜りがが広がっていく。
『どうやらこの絵自体には何も効果も力もないようだ。何も感じないしどこからどう見てもただの普通の紙に普通の人間が普通の道具を使って書いた普通の絵だな。』
絵に鼻を近づけて念入りに睨むように調べていたボスが顔を上げてそう答える。そんなはずはない、確かに私が変身する時、この絵が光を帯びていた気がするのに……。
『おそらく変身する力の源は、チョコお前自身だ』
『わたし……自身……?』
『ああ、そうだ。恐らくこのイラストは変身発動のトリガー、ただの切欠にしか過ぎない。変身自体はお前自身の力でしているはず』
ボスが私の目を見つめる。
『チョコ……もう一度思い出せ……、本当に何も知らないのか?本当に心当たりもないのか?』
私の変身するきっかけ……力の源……なんだろう……何かあるんだろうか……あのイラスト以外心当たりが……
『え!?チョ、チョコ!?』
『チョコ!お前身体が……!!』
目をつむり深く考え事していると突然ボス達の慌てた事が聞こえたので目を開けると身体が光の粒子を纏い淡く輝き始めていた。
――ドグンッ
身体に響く音。一見変身した時と同じようで何か違う。まるで力が抜けるような――、力が抜ける――?
『あ、あ、……変身が解ける……』
そうだ、昨日テキ達に見つかってボス達が騒いでくれてて必死に元の姿に戻ろうとしてて、身体が光り始めて……その時の感覚だ…。ヒトからウマへ帰る――!!
『コタロウ急げ!馬房に戻るぞ!!!チョコ!!間に合うか!?悪い!閂を閉めてくれ!!』
『あわわわ…急げ急げ!!』
コタロウ達が急いで馬房に戻っていく。私はふたりの馬房の入り口の閂を閉めようと足を踏み出して――
――ドクンッ
足がふらつく、うまくバランスが取れない。纏う光がだんだんと強くなっていく。
――ドクンッ、ドクンッ
閂を掴む、どんどん手指の感覚が無くなっていく。5本の指が固まって一つになる感覚――
『チョコ――!!頑張れぇ――!!』
コタロウの馬房の閂閉めた。次はボスのだ。
『チョコあと少しだ!!俺も手伝う!!』
ボスが咥えて息を合わせて閂を閉じる。もう指の感覚は無くなり始め、身体を纏う光は一層強さを増していく、光の粒子がタンポポの綿毛の舞い上がる。ヒトの形がもう維持できない――
『チョコ!チョコ!』
『チョコ!頑張れ!あと少しだ!!』
ヨタッヨタッと
『間に合ってぇぇーーー!!!』
最後の力を振り絞り、後ろ脚で床を蹴る。滑るように低く飛ぶように閂の下を潜り抜ける。
タァーーーーンッ!!!
私の前脚の蹄の蹄鉄が、寝藁ごと馬房の床材をを大きく叩く音がするのと厩舎の明かりが灯るのはほぼ同時だった――。
「なんだ、今の大きな音は……うわっ!?何だ!?………何で通路にボロがしてあるんだ」
厩務員の国崎さんの声が聞こえる。少し慌てた様子で私達の馬房を見て回る足音。その足音は近づいてきて私の馬房まで来た。
「チョコは……、チョコも異常なしか……。んっ?何だ……なんでこの額縁が落ちてんだ?」
国崎さんが私の馬房の中へ入って来る。そう言えばボス達に見せるために私の絵の額縁を外してそのままにしていたんだ。
「さっきの大きな音はこの額縁が落ちた音なのか?取り付けが悪かったのか?……ああ、チョコ。怖がらせて驚かせてすまなかったな?心配するな、大丈夫だ」
寝藁の上に落ちていた額縁を拾い上げて飾り直してくれる国崎さん。終わると大丈夫、大丈夫と言いながら私の首筋を撫でてくれた。
――国崎さん、心配かけてごめんなさい。
そう伝わる様に私は小さく「ヒイン」と鳴くのであった。
チョコエクレールはトニービン系とステイゴールド系の血統を持つ競争馬と言う設定がありますが、父系・母系はどちらが良いと思いますか?
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父:ステイゴールド系、母:トニービン系
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父:トニービン系、母:ステイゴールド系
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どちらでもよい
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その他 (詳細を活動報告へ記入)