転生架空馬の夢の記録(夢日記)   作:よみびとしらず

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お待たせしました第三話です。

チョコちゃん達、初めての外出編第一歩です。



・改訂

2022/06/20 前話より続けて読むと物語の冒頭が変に繋がって違和感を感じるので時間経過が分かる様に文章を追加。違和感は消えず応急処置的対応になる。
2022/07/13 サブタイトル変更


chapter.3 「真夜中の散歩」

――美浦トレセン 御手洗厩舎 22:00

 

 

「それじゃあ、チョコ、ブルドック、コタロウ、おやすみ」

 

 国崎さんが私達を順番に優しく撫でてくれて、そのまま立ち去っていく。暫くして厩舎の明かりが落ちて暗闇に包まれた。

 

 

 

 

『…………もう居なくなったみたいだよ』

 

『よし、じゃあチョコ、始めてくれ』

 

『うん、じゃあ行くよ』

 

 コタロウが国崎さんが完全に立ち去ったのを確認して、ボスが合図してくる。私は馬房に掲げられた絵、――ウマ娘チョコエクレール(もう一人のわたし)の絵を見つめ、目を閉じそっと祈る。

 

 ゆっくりと息を吸う。力が流れ込み、目を閉じているから見えないけど身体が光を纏う感覚を感じる。

 

 今度はゆっくりと息を吐いていく。手足の感触が変わっていく、身体が変わっていく。

 

 最後の一息が()()()()()のを確認して、私はゆっくり立ち上がる。

 

 目を開く、視界の高さ、地についた二本の足、5本の指がある細い腕、見慣れない――見慣れた姿と景色。変身完了だ。

 

『ボス!コタロウ!変身できたよ!!』

 

『わぁ!もう出来たの!?』

 

『おおよそ7~8秒か、記録更新だな』

 

『えへへ、やったよ』

 

 馬房の出て厩舎の通路でクルリと華麗にターンを決めてボスに教えてもらった人差し指と中指を伸ばして"ブイサイン"をしてみる。

 

 

 

 

 

 二回目の変身を遂げた日の朝、私はボスから一つの提案を受けた。

 

『チョコ、お前が良ければこれから毎晩変身してみてくれないか?』

 

『毎晩?』

 

『ああ、そうだ。その能力は偶然の出来事でも何でもなく恐らく本物だ。お前は人間の姿になる事が出来る能力がある。なら繰り返し練習する事で変身する時間を短くしたり、変身時に意識を失ったりせずに済むようになる。あとはいくつか調べてみたいこともある』

 

『調べたいこと?』

 

『どういう条件で変身と変身解除できるのか?変身した姿をどのくらい時間保てるのか?変身中はどんな事が出来るのか?――他にもあるが大まかにはこんな事だ』

 

 ボスのいう事は一理ある。この能力の事について知らない事が多い。何も分からないまま、不安だらけの中、過ごすよりはマシだ。せっかく身に着けたこの能力、自分の物にして何かの役に立てたい。私はそう思うようになっていた。

 最初の頃は変身に時間がかかり、ドクンッと身体が脈打ち、暑くなったり眩暈がしたりしていたのも徐々に納まり、今では10秒以内に楽に変身できるようになった。

 

 この数日間、変身してボス達と一緒に試してみて分かった事がある。

 

 

・変身できるのは人間の居ない真夜中だけ。

 

・一度変身するとしばらくは戻れない。

 

・変身中は人間と同じ身体構造になり味覚が変わり、人間が食べれる物だけ食べられる。

 

・ウマ耳と尻尾は本物で偽物ではない。動かす事が出来て神経がちゃんと繋がっている。

 

・朝、人間達が起きてくる時間になると自動的に変身解除される。

 

 

『まぁ、大体こんなところだな』

 

 三頭で恒例のお夜食会。ボスは干し草、コタロウはニンジン、私は休憩室に置いてあったアンパンを食べている。ボス曰く、このパンと言う食べ物は人間の主食で馬は食べてはいけないものだそうだ。中身は餡子と言うとても甘くてベチャっとしたものが入っている。

 

『チョコの変身って出来る事と出来ない事があるんだねぇ~』

 

 ボスが説明してコタロウが呟く。この何日間で私はこの能力についてだいぶん把握出来たみたいで、そうなると心に余裕が生まれてくる。以前は変身後には元の姿へいつ戻れるのか不安だったが、今はそんな不安は無くなり、この姿になる事を楽しめるようになっていた。

 

『そう言えばボス、今日は食べる量が少ないけどどうしたの?』

 

 私は疑問に思ったことを口にする。お夜食会の前にボスから今日は食べる量は少なめにと言われていたからだ。

 

『ああ、今日は外へ――、厩舎の外へ出てみよう。軽く深夜の運動と行こうじゃないか』

 

『えっ!?外出るの!?本当にっ!?やったーー!!!』

 

 コタロウが嬉しそうに飛び跳ねてエサの容器を派手にひっくり返してる様子を私は驚きながら眺めていた。

 

 

 

 

 

 ボスに教えられながらふたりに頭絡とハミを付けて行く。普段は馬具を付けられる側なのでこれもとても新鮮だ。

 

『一度説明しただけなのにこんなにすんなり覚えてくれるとは、本当に賢くて憶えが早いなチョコは』

 

『チョコが着けてくれると全然痛くないし苦しくないね!』

 

『ふたりともありがとう』

 

 ボス達に褒められて頬が思わずにやけてしまう。引き綱持ったし、さあ行こう。…としてボスに綱を引っ張られてしまう。

 

『あわわっ!?ボス、どうしたの?』

 

『チョコ、その姿で外へ出るのはマズイ。これを着なさい』

 

 ボスはそう言うと壁に掛けてあった服を咥えて私に差し出す。それはテキや国崎さんが私達のお世話や調教している時に着ている服と帽子だった。

 

『この時間帯に馬が外に出てるのが見つかるだけでも十分問題になるが、それを曳いてるお前の姿を見られるのが一番マズイ。厩舎の人間のジャケットを着て耳と尻尾を隠して普通の人間のように見せないと駄目だ』

 

『確かにチョコの姿目立つよね』

 

 そうか、すっかり忘れていたが私は馬の耳と尻尾を持ち他のトレセンの人間が着てないような服を着ている。確かにこれはマズイ。私はボスに言われた通りに服を着て行く。

 

『ううっ…何だか動きにくい……それに少し暑いよ』

 

 いつも着ているこの不思議なデザインの服の上から厩舎の作業服を着ると、とても厚みが出ると言うかゴワゴワするのが気になる。ズボンの中に入れた尻尾が足に絡みついて気持ち悪い。

 

『今日は我慢するしかないな。何とか違う薄い服が着れたら良いのだが……』

 

『チョコはその変な服脱げないんだよね』

 

『ううっ……』

 

 以前、変身した後、ボスに『そのドレス衣装脱ぐことできないのか?』と聞かれたことがある。どうやったら脱げるのだろうかと試行錯誤したのだけど、自分の服どころか普通の人間の服すら着たことが無かった私は着る方法も脱ぐ方法もわからず、ボスに尋ねても『人間の女の服は触ったことが無いから分からない』と言われ、やけくそでコタロウが服の裾を咥えて引っ張ったりしたが、余計に身体が締め付けられたりするだけで事態の解決には至らなかった。

 

『まぁ、そこは仕方がない。今は我慢だ』

 

 ボスに言われて身体に違和感を感じつつも二人の綱を持ち歩く。厩舎のドアを開けて外へ出ると……。

 

『うわぁ……綺麗だね』

 

『ああ、綺麗だな』

 

 空には満天の星空が無数に浮かびキラキラとしている。大きく深呼吸すれば夏の夜の匂いに秋の良くの気配を感じる。その満天の星空の天井の下をボスと私とコタロウのさんにんで歩く。パカパカ、てくてく、パカパカ、二頭と一人の足音が静かな厩舎の表に響いていた。

 

『ねぇ、お向かいの厩舎誰も居ないね』

 

『あ、本当だ』

 

 コタロウに聞かれて私はようやく気付いた。外に出てから普段よりも静かな事に。よく見るとお向かいの厩舎が完全に真っ暗になっていた。近づいて窓越しに中を覗いてみると、見える範囲の馬房はすべて寝藁が無くなっていて、通路にはバケツなどが散乱していた。

 

『向田厩舎なら先日解散したんだ。後の引き継ぐ人間も居なかったらしい』

 

 ボスがそんなことを教えてくれる。お向かいさん――向田厩舎さんはウチとは違ってウマが10頭以上いる大所帯でとても賑やかだった。厩舎の窓から外へ顔を出してると私の事を牝馬と勘違いした向田厩舎さんの牡馬達によくラブコールや賑やかしを受けたこともあった。それがまるで嘘のように静まり返ってる。

 

『ここにいた競走馬(みんな)どこへ行っちゃたんだろうね』

 

 疑問に思いボスの顔をふと見ると、ボスは何か辛そうな悲しそうな表情を浮かべていた。

 

『……ボス?』

 

『ああ、すまない。何でもないんだ。……そうだな、皆どこか別の厩舎で元気にやってると思うぞ』

 

『……そっか。それなら良かった』

 

 私はそうやって安堵する。

 

『ねぇーボス。うちは大丈夫だよね?』

 

 コタロウが聞いてくる。向田厩舎はうちよりも人数多くて皆強い馬ばかりだったのに厩舎が無くなってしまった。なら…遥かに少なくて……はっきり言って弱いうちはどうなってしまうのだろうか……少し不安になる。

 

『さぁな。まぁ、気にしたって仕方ない。決めるのは人間達だ。俺達に出来るのは頑張って一つでも多くのレースを走って優勝――、それが無理なら少しでも上の順位を獲って賞金を稼がないといけない事だな』

 

『うへぇ……結局そうなるのぉ……。うーん……御手洗厩舎(おうち)が消えるのは嫌だけど……レースもあんまり走りたくないぁ……』

 

 コタロウがしんどそうに耳を伏せて私に頭を寄せて来る。そんなコタロウを撫でながら私は言う。

 

『大丈夫だよ。みんなで頑張れば絶対に大丈夫。御手洗厩舎(おうち)は無くなったりしないよ。私ももっと頑張るからっ!』

 

 やっと優勝できて何かがつかめたかもしれない、そんな感じがどこかする。この変身能力とその力の影響で人間の言葉と文字が読めるようになったのもプラスになる。漠然とだけどそんな気がした。

 

『ううっ、チョコは良い子だねぇ~偉いよぉ~~』

 

 コタロウが私に甘えて来る。コタロウの首筋を撫でてポンポン叩きながら『一緒に頑張ろう』と声をかけていく。

 

 

 

 

 

 ――ふっ、ふっ、ハァッ、ハァッ、………。

 

 身体が熱い、息が上がる。汗がいっぱい出て髪の毛が顔に張り付く。あれ?おかしいなぁ…何だか足もフラフラする。

 

『チョコッ?大丈夫?チョコの身体とても熱いよ?』

 

 コタロウが心配してくる。

 

『人間は馬よりも歩幅が小さく走るスピードはもちろん歩くスピードも遅いからな。俺達がゆっくり歩いていても人間によっては結構ハードな運動になる。今日はこの辺で帰ろう』

 

 ボスがそんなことを言ってくる。でもまだ厩舎の周りしか歩いてないよ?

 

『無理をするな。いくら変身に慣れていてもその身体ではまた本格的な運動をしてないだろう。馬と一緒だ、最初からハードな運動はしない方が良い』

 

『ボス……コタロウ……ごめんね』

 

『良いよ!!こうやって外出れただけでも嬉しかったよ!チョコと一緒に歩けただけも十分楽しかったし!』

 

『続きはまた明日すればいい。今日は帰ろう』

 

『ふたりとも……ありがとう』

 

 こうしてわたしたちは初めてのお外の深夜の散歩を楽しみ厩舎へ帰ることにした。

 

 

 

 厩舎へ着いて、作業着と帽子を脱ぎ、ボス達の馬具を外して馬房に入れる。ボスを馬房に入れようとしたらボスが何かを咥えて私に寄せてきた。

 

『チョコ、自分の馬房に戻ったらすぐこれを飲むんだ』

 

 ボスから渡されたのは"スポーツドリンク"と言われる薄白い液体のジュースだ。

 

『ボスありがとう。でもこれすごく甘しょっぱくて飲みにくかったから、今はたぶん飲めないよ』

 

 以前、冷蔵庫に入ってるジュースでこれを見つけて飲んだ時、甘さと塩辛さ――しょっぱさの二つを同時に感じて、しかも飲みにくくて目を白黒させた事があった。それ以来"スポーツドリンク"は無意識で避けていた。

 

『いや、大丈夫だ。むしろこういう場面で飲むように作られている。人間の作った人間用の不思議な飲み物だ』

 

 大丈夫だから、そうボスに念を押されて受け取り、ボスを馬房に入れ閂を閉じた後、自分の馬房に戻る。容器の蓋を開け、恐る恐る飲んでみると――、

 

『えっ!?ええっ!?何これ……凄く飲みやすくて…少し甘くて美味しい……!?』

 

 びっくりした。口に入れた瞬間、スゥーッと体の中に沁み込んでいく感覚。あののどに引っ掛かる強い甘しょっぱい感覚は無くて程よく甘いし、よくよく後味を感じると微かに塩味を感じるがこれがまた違和感なくとてもちょうど良い具合だ。

 

 ――クピッ、クピッ、クピッ、コクンッ、コクンッ。

 

 私の喉が動いて自分でも信じられないくらいのペースで飲んで行く。なのに喉にも引っ掛からずにお腹に溜まる感じも無い、まるで口の中で沁み込んで消えて行ってるようだ。気が付けば容器は空になっていた。

 

『ボ、ボス……これ、このスポーツドリンクってすごい!!』

 

『そうだろう?俺も最近知って驚いた。便利な物が出来たんだなと。俺達みたいに岩塩と水を交互に舐めたり飲んだりするよりも早く解消できる』

 

 そうなんだ。夏場暑い時期、ヘロヘロになったら馬房に国崎さんが岩塩を置いてくれてそれをちびちび舐めてお水を飲んだりしていたけど、人間はその代わりにこんなものを飲むんだ。

 

『それは人間用に作られていて、馬の俺達じゃ恐らく飲めないか、飲んでもあまり効果はないらしい。人間専用の飲み物なんだ。チョコ、今のお前には水と岩塩よりもこのスポーツドリンクを飲んだ方が効果があると思う。馬の時は水と岩塩の方が良いと思うが』

 

 ボスはそう言って私に教えてくれる。全然知らなかった……。ボスはやっぱりすごいや!

 

『ああ、そうそう。念の為、お前の馬房の入り口にもう一本予備のスポーツドリンクを――、お前早いな』

 

 ボスが言い終わる前に私の身体は動いていた。馬房の入り口、閂の下から顔を出せば、私の馬房の前にはもう一本スポーツドリンクの容器が置いてあった。すぐ手に取り蓋を開けると一気に流し込む

 

 

 ――んっぐっ、んっぐっ、ゴクッ、ゴクッ、ゴキュッ、ゴキュッ……。

 

 

『チョコ、凄い飲みっぷりだね』

 

『ああ、そうだな……』

 

 ボスとコタロウの呆れた声が聞こえてくるがお構いなしに飲み続ける。どんどん体に吸い込まれて行くスポーツドリンク。胃に入ってるはずなのに、まるで喉から身体全体へ染み渡り直接広がってような心地よい感覚――。

 やがて二本目の飲み切るころ、身体に沁み込んでいたスポーツドリンクが喉を通り胃に溜まり始めてる感覚が出てきていた。飲み終えるといつの間にか身体の熱さも上がっていた息も髪の毛が張り付くほどの汗も引いていた。

 

『ぷはぁ……ボス美味しかったよ!お陰で身体の熱さも取れたよっ!』

 

『そうか、それは良かった。次からは予め準備しておこう』

 

 うん、そうだね!…と私は言おうとして言えなかった。どっと一気に疲れと眠気が押し寄せてきたからである。

 

『ごめん、ボス……コタロウ……私…もう眠い』

 

『わかった。今日は散策付き合ってくれてありがとう。もうそのまま寝なさい、朝には変身も自然に解除されているだろうし。』

 

『チョコ!おやすみ!今日は楽しかったよ』

 

『うん……ふたりとも……おやすみ』

 

 私はそう言うと人の身体のまま馬房の寝藁の上に寝そべる。寝藁のくすぐったさを感じながらゆっくりと静かに睡魔に身を委ねて行ったのであった。

 




どんどんお話が伸びていきます。本来ならこのお話でトレセンの敷地外へ出る予定だったのですがトレセンどころか厩舎の外の庭先まででした。

チョコエクレールはトニービン系とステイゴールド系の血統を持つ競争馬と言う設定がありますが、父系・母系はどちらが良いと思いますか?

  • 父:ステイゴールド系、母:トニービン系
  • 父:トニービン系、母:ステイゴールド系
  • どちらでもよい
  • その他 (詳細を活動報告へ記入)
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