今回は1万6千文字を超える長編となってます。本当は2つに区切りたかったのですが上手く区切り分ける場所が見つからなかったのでそのまま一つのお話で上げております。
非常に読み辛い文章の上文字数が多い酷い仕様になっていますが読んでいただけたら幸いです。
――美浦トレセン 御手洗厩舎 AM8:00
調教を終えてクールダウンしてから私は厩舎へと戻ってきた。調教馬場では浦木さんを乗せてとても気持ちよく走れた。人間に変身できるようになって夜にボスやコタロウの背に乗ってみて騎手さんの動きや仕草が判る様になって騎手さんの動きに積極的に私から合わせれるようになったからだ。浦木さんはとても驚いていて「チョコ、何か大きく成長したな」と言ってとても褒めてくれた。きっと明日の調教も、そして次のレースも前よりもずっと良い走りができるんだろうなと私は自信を深めていた。
「お帰り、浦木、チョコお疲れさん」
「ただいまもどりました!」
『国崎さん、もどりました~』
厩舎では国崎さんがお出迎えしてくれて、私の背から浦木さんが降りて手綱を国崎さんに預ける。
「戻ってきたのは国崎さんだけなんですか?ブルドッグヘッドとコタロウはどうしたんですか?」
「ブルドッグヘッドとコタロウなら先程診療所へ連れて行った。今はテキが傍について見てくれている。俺も居たが、「そろそろチョコが戻ってくるころだからお前だけでも厩舎に居てくれ。あとは俺に任せろ」とテキに言われてな、一足先に戻って来たんだ」
「そうだったのですか」
「ああ、そうだ。ブルドッグヘッドとコタロウなら心配いらない。大事には至らないそうだ」
「それは良かった」
国崎さんからそう聞いて私は安堵する。良かった…ボス達無事なんだ……。横では私の様に安堵の表情を浮かべていた浦木さんが「あっ!」と何か思い出したような表情を浮かべて――。
「それよりもっ!!国崎さん!!チョコエクレールどうしちゃったんですか!?」
「何かあったのか?」
「何かあったのか?って大ありですよっ!チョコの奴、動きが驚くほど変わってるんですよ!まるでブルドッグヘッドとコタロウの動きの良い部分だけ引き継いだみたいで!コタロウみたいなスタートダッシュからの加速の鋭い立ち上がり、コーナーへのロスの少ない進入角と安定した曲がり方はブルドッグヘッドのようで――まるでチョコエクレールに乗っているはずなのにブルドッグヘッドとコタロウにも同時に跨ってるような、それでいて二頭の悪い部分が出て無くてそこにチョコエクレールらしさが来てて――。何よりも俺の手綱や合図に瞬時に理解して反応……いやまるで俺の考えを先に読んで理解して合図の瞬間に即実行してくれて――本当に文字通り人馬一体になった感じだったんですよ!!」
「そ、そんなになのか?」
「ええ!次のレース、今のチョコなら1勝クラスなんて言わずにOP戦に出しても十分通用すると思いますよ!テキやオーナーにも伝えてください!!」
「お、おおう……。わかった……テキが帰ってきたら一応伝える」
「本当、絶対ですからね!」
「あっ!居た!ちょっと浦木騎手!」
その時、厩舎外の馬道から一人の人間の女性が顔を覗かせる。見覚えのない顔と着てる作業服に描かれている"TORITON STABLE"の文字。浦木さんが普段いる別の厩舎の人かな?
「あれっ?仁奈じゃないか!どうしたんだ?」
「どうしたんだ?じゃないでしょ!?アナタ、8時からゼフィランサス号の調教なの忘れていたでしょう?焔先生、カンカンに怒っていたわよ!」
怒り心頭の仁奈さんと言う厩務員さんの後では赤いラインの入った耳の部分が黄色の青色のメンコを被った小柄な白毛の馬が顔を覗かせている。彼(彼女?)が浦木さんの次の調教馬さんなのかな?
「うわあぁぁ…しまったぁぁぁぁ!」
「お前、鳥屯先生のところでも迷惑かけているのか」
真っ青に青ざめる浦木さんとそれを呆れるように見つめる国崎さん。
「国崎さん、すみません!俺もう行きますっ!!……チョコっ!お前と出る次のレース楽しみにしてるからなっ!!」
国崎さんに頭を下げて、私の鼻筋を撫でてくれると浦木さんは大慌てで仁奈さんのところへ駆け寄り、馬に乗ると会釈して立ち去って行った。
「……ったく、本当に賑やかな奴だな。さぁ、チョコ洗い場へ行こう。浦木の話ならかなり走り込んだんだろう。しっかり洗ってやるからな」
「ヒィン!」
国崎さんに声を掛けれて手綱を曳かれて洗い場に向かおうと私は向きをぐるりと変えると――。
――ビュュュウッ!!
突然、突風が吹きつけて来たので思わず目を瞑る。そして目を開けると、私の視界いっぱいに広がった何か白い物が私の顔に覆いかぶさるように張り付いてきた。
『きゃぁああああ!!!!』
「チョ、チョコッ!!」
何かが顔に張り付いて前が見えない!!!息がっ、息が出来ないっ!!!
私は必死になって振り払おうとするけど顔に張り付いた何かは取れないどころか益々顔に、鼻に吸い付いてくる。
『前が見えないっ!!息がっ息が!!助けてっ!!助けてっ!!』
我を忘れて無我夢中で首を上下左右に振り回す。苦しいっ!苦しいっ!!助けてっ!!
「うわぁああああ!!やめろっ!!やめろっチョコっ!!!」
引き綱伝いに首に感じる重み。国崎さんが振り回されているのを思い出して私は冷静さを取り戻す。
「チョ、チョコ!そうだ!そのままじっとして!!今取ってやるからな!!」
息苦しさに意識が朦朧としながらも必死に国崎さんが触りやすいように首を下げる。
「そうだ!そのままだっ!今取ってやるからな。――っ取れたっ!」
バリッと音がして一気に視界が回復して、新鮮な空気が鼻から大量に入って来る。
「ヒィン!ヒィィィン!!ブルルッ……ブルルッ……」
沢山の空気を取り入れて徐々にぼやけていた視界が戻って来る。目の前には作業着を泥だらけにして疲れ果てた表情を浮かべてる国崎さんが居た。私が振り回してあちらこちらにぶつけてしまったのだろうか。
『国崎さん、暴れてごめんなさい……』
「チョコ、大丈夫だ。もう大丈夫だからな…」
私が顔を寄せると国崎さんは何度も何度も顔と首筋を、私の呼吸が落ち着くまで撫でてくれていた。
「――また組合の奴らの嫌がらせか……。ゴミ何ぞ投げ込みやがって」
そう言いながら地面に落ちている物を拾って歩く国崎さん。洗い場の前にはさっき、私の顔に覆いかぶさった四角くて白い紙と同じ物が何枚も散乱していた。白いビニール袋も何個か落ちてて、破れて袋からはみ出た中身にはペットボトルや何かの空容器がたくさん入っていた。
また少し風が吹いて地面に落ちていた紙が動く。一瞬ビクッと驚くものの、私はそのうちの一枚をとっさに前脚で押さえる。風に吹かれて裏返る白い紙。真っ白だと思っていた紙の反対側にはとても綺麗な印刷がしてあり何か大きな文字が書いてあったからだ。
『あなたの街のコンビニ!! セブンマート 美浦王屋店 本日リニューアルOPEN!!』
そう目立つような独特の印象の文字に、見た事無い平べったい建物。カラフルな装飾が施されたその建物の周りに集う人間のイラスト。
『コンビニ……?何だろう?もしかして食べ物がたくさん置いてるのかな?』
私がとても気になったのは建物の絵の下に描かれた沢山の種類の食べ物だった。知ってる食べ物、知らない――、だけど恐らく食べ物だろう思しきものがたくさん書かれていて絵の横には「20円引き」「30円引き」と書かれてた。
「コラッチョコ。足をどけなさい!」
『あっ――!』
国崎さんに前脚を持ち上げられて見ている途中の紙を取られてしまった。『返してっ!』と紙を取り返そうとしたけど、国崎さんの酷く歪んだ怒りと悲しみと悔しさの表情を浮かべる顔を見ると何故か出来なくて――。国崎さんはそのまま、他の拾った紙や袋を乱暴にゴミ箱へ入れると私を曳いて洗い場へと向かって行った。
――PM22:00
人間に変身し終えた私は一目散にゴミ箱に駆け寄った。蓋を開けて中を漁る。
『ねぇ、チョコ。どうしたの?』
『チョコ、一体どうしたんだ?』
私の後から、心配そうな声を上げるボスとコタロウに反応せずに私はゴミ箱を漁り続ける。少しして目的の物が見つかった。
昼間、私の顔に張り付き、国崎さんがゴミ箱へ捨てたあの綺麗な印刷された紙。ぐちゃぐちゃになった塊の中から綺麗な物を見つけるとそれを持って私はボス達の元へ駆け寄った。
『ねぇ!ボス!コンビニってなあに?』
私はボスに紙を見せる。ボスは暫く眺めた後、
『コンビニとは人間の食べ物を売っているお店だ。24時間お店が開いていつでも好きな時に買う事が出来るらしい』
ボスがそう教えてくれる。うん?出来る"らしい"……?
『ボスはコンビニ行ったことないの?』
『ああ、俺も実は詳しく知らないんだ。俺の生きていた時代にはそもそもコンビニなんて無かったしな24時間開いてていつでも買い物ができる便利な食料品店らしいのは人間達の会話で知った。』
『24時間いつでも――?それって真夜中でも人間のエサが買えるの?それがあれば人間に変身した時のチョコのエサが手に入るんだ!!良かったね!チョコ!人間のゴハン食べれるよ!』
『うん、そうだね』
厩舎の敷地外へ出るようになってトレセン内を散策している時、トレセン内の人間達がゴハンが食べれる場所、"食堂"や"売店"と呼ばれる場所へ行ってみた事があるが、真っ暗で鍵も締まってて中を覗いても食べ物らしいものは見つからなかった。なので人間に変身してからはまだパンやお菓子のみで人間が食べるゴハン――、ボスが言うにはお米やお肉やお魚や野菜などを使った色んな種類の豪華な食事、私達みたいにバケツ一個じゃなくて何個も容器が出て来る豪勢な食事はまだ食べたことが無かったのだった。
『ねぇ、ボス。私、このコンビニってお店行ってみたい。どうやったら行けるの?教えて?』
私はボスにお願いしてみる。ボスですら行ったことも見た事もないお店。24時間いつでも開いていて真夜中でもニンゲンの食べ物がたくさん置いてるお店。このチラシと言う物に描かれた沢山の食べ物と楽しそうにする人間達。その風景に私はとても憧れたのであった。
『駄目だ。コンビニへは行かない方が良い』
『ええっ!?』
ボスが反対したのは意外だった。ボスなら賛成してくれそうな気がするのに。
『ボス、どうしてダメなの?』
『このコンビニと言う店に行くにはこのトレセン自体から出ないといけない。トレセンの敷地から出るには中央ゲートを通り抜けないといけない。だが、そこは真夜中でも人間達が何人も居て監視の目が常にある。いくら厩舎の作業着を着た人間状態のチョコでも不審者として見つかり捕まってしまう。そしてもしも無事に監視の目を潜り抜けてトレセン敷地外へ出てもそこは危険が多く潜む真夜中の人間達の世界だ。何が起こるか分からない。そもそもこのコンビニは美浦トレセンから離れすぎている。中央ゲートを突破してそれからトレセンの外を大きく回ってゲートとは正反対の方角へ端から端まで歩きさらにそこからまた長い距離を歩くことになる。とてもじゃないが人間のチョコのスピードと体力では時間内に戻ってこれないし、下手したら途中で体力が尽きて動けなくなる可能性もある。そうしたら時間切れで変身解除で一巻の終わりだ。あまりにもリスクが大きすぎる』
『ええっ!?そんなに危険なの?』
ボスの説明を聞いて絶句するコタロウと私。
『でも、ボス、この地図だとトレセンからそんなに離れてない様に見えるよ?』
私がチラシの右下に描かれた地図と呼ばれるコンビニの位置や行き方を書かれたものを指さす。地図には右上に美浦トレセンが描かれていて、そこから人間の指2本分くらい離れた位置にコンビニが描かれていたからだ。
『その地図はあくまで大まかな位置を記した簡単な物だ。実際の距離はもっと離れてるんだ。当てにしてはいけない』
『そんなぁ……』
『そうだよ。チョコ。俺やっぱりチョコを行かせれない。チョコに何かあったら嫌だ!』
『そうだ。コタロウの言う通りだ』
ボスとコタロウが反対する。確かにそうだけど、でもどうしても私、このコンビニってお店行ってみたい。
『とにかく、今日はこの話は無しだ、終わりだ』
そう言って話を話を切り上げようとしたボスに私は話しかける。
『待ってボス!このコンビニ、ボスの大好きなビールたくさん置いてるよ?』
『なっ……!?』
私はチラシの一部を指さす。"お酒コーナーも充実!!ビール・清酒・焼酎・ウィスキー・ブランデー、その他各種日本酒・洋酒etc…酒店に負けない豊富な品揃え!!"と言う文字と共に数えきれないくらいのお酒の容器が並んだ小さな写真が載っていた。
チラリとボスの顔を伺う。ボスは目を潤ませていて、『さけ……さけ……さけ……』と言葉が漏れ震える口からは涎がポタポタと落ちていた。
『ボス……私コンビニ行きたい。ビールたくさん買ってきてあげるから。それでも……だめ、かな?』
上目遣いでボスを見つめると
『チョコ。お前なら無事行けるはずだ。大丈夫だ、俺が最大限手助けしよう!』
目を輝かせてボスがそう言ってくれた。
『ちょ!ちょっとっ!ちょっと!ボスぅー!!何考えてるのさ!?!?』
コタロウが非難の声を上げる。そんなコタロウに私はゆっくりとチラシを持って近づく。
『コタロウ……?』
『な、何だよチョコぉ!?俺は絶対に反対だからな!!ボスと違って俺は自分の欲のために大切なチョコを危ない目になんか絶対に遭わせな――』
『コタロウ、このコンビニ。コタロウの大好きなニンジンがあるよ?』
『なっ……!?』
私が指さしたチラシの部分、野菜が沢山書かれていて正面には大きくニンジンが描かれている。『生鮮野菜コーナーも充実!!地元農家の美味しい採れたて新鮮野菜、毎日入荷中!』と文字の読めないコタロウの為に書いてある文章を読み上げる事も忘れない。
『ニンジンお、ニンジン俺は……ニンジン』
ボスと違って何とか誘惑に耐えてるコタロウ。そんなコタロウが何だか愛おしくて、私は最後の一押しに出た。
先程ゴミ箱を漁ってて見つけた空容器をコタロウに見せる。それを見たコタロウがビクッと震えた。
『コタロウ……。これコタロウが大好きなニンジンジュースだよね?これ、このコンビニでしか売ってない物らしいの。このコンビニに行けばコタロウの大好きなニンジンジュース、お腹いっぱいになるまで飲めるよ……?』
以前、休憩室の冷蔵庫で見つけたニンジンジュース、それまで何本か飲んだコタロウが一番おいしいと気に入っていた商品だ。ラベルには大きく"セブンマートプレミアム"と書いてあり、裏側には"この商品は佐藤園とセブンマートが共同開発したセブンマート限定販売商品です"と書かれている。勿論その事を読み上げ伝える事も忘れない。
『ねぇ、コタロウ。だめ、かな……?』
上目遣いでコタロウを見つめると……。
『うん!ボスも大丈夫だって言ってるし、チョコならきっとコンビニへ無事行けるよ!!俺応援してるからさっ!!ニンジンニンジンニンジンニンジン』
目を潤ませてボスに負けないくらい口から涎を垂らして答えるコタロウ。こうしてふたりの賛成を得る事が出来のであった。
『コンビニへ行くためにトレセンの敷地内から出る方法だが、中央ゲートを通らない抜け道が実はある』
ボスとコタロウと並んでトレセンの敷地を歩く。今回は馬具を着けることはせず私はふたりの間を歩く。乗らずに歩くのは本当に久しぶりだ。
『抜け道って?』
『チョコ、お前達が牧場に居た頃、放牧地を囲うに柵がしてあっただろう。実はこのトレセンも周囲をぐるりと柵で囲ってあるんだ。牧場の牧柵と違って鋼鉄製で遥かに背が高く頑丈なんだが、実は一部壊れて穴が開いてる場所があるんだ』
『えっ!そうなの!?』
知らなかった。トレセンの周囲に牧場と同じ柵があって、一部壊れてて抜け出せる場所があったなんて……。そう言えば育成牧場に居た頃、壊れた柵から脱走して逃げた馬が居た気がする。コタロウも一緒に逃げ出して大騒ぎになったのを覚えていた。
『ああ、お前たちは知らないはずだ。そこはトレセンの敷地の本当に端の部分で柵の前には木々が生い茂り見えないし。そもそもその辺りには厩舎や調教関連施設とか何もなくて俺達競走馬が近づくことはまず無いからな』
『へぇー、じゃあどうしてボスはその事知ってるの?』
コタロウがボスに質問する。
『今からずっと昔、俺が今のお前たち位の歳の頃の話だ。その時、俺はオジュウ――この間会った馬が居ただろう?アイツと同じ厩舎に居てな、ある時厩舎の馬が暴れて脱走したんだ。で、俺とオジュウはソイツを追いかけて――と言えば聞こえが良いが実際はどさくさに紛れて俺達も脱走したんだ。――で、そいつが放馬して走り抜けて、最後は敷地の端っこの藪に突っ込んで動けなくなっていてな。後から追いついた俺達がソイツに話しかけたら何か喚いてるから、何が見えるんだと同じように藪に首を突っ込んだらな、見えたんだ――、大きな鋼鉄製の柵、その一部が壊れてそこから見える外の綺麗な世界がな――』
『………………』
『………………』
『ソイツは泣き喚きながらよ、"帰りたい、帰りたい、こんな地獄みたいな場所から帰りたい。ここから出てあの山の向こうにある
『………………』
『………………』
『あーっすまん、つい懐かしい思い出話をしたんだか重かったな。暗い空気にして悪かった』
ボスが申し訳なさそうに話す。
『ううん、気にしないで。私は大丈夫だよ。』
『ごめんボス、俺が余計な事言ったからさ、気にしないで』
私達がそう言うとお話は終わりだ頭を切り替えようと言わんばかりにボスは大きく首をブルブル震わせる。
『さて、思い出話をしていたら目的地に着いたようだ。俺の記憶が確かならこの辺りのはずだ』
ボスに言われて辺りを見渡す、トレセンの敷地の本当に端っこの部分、周りには厩舎や調教施設のような建物も無くて小さな倉庫となにやらよく分からない物が置いてある。馬はもちろん人間の気配すらなくてなんだか場の空気がいつものトレセンと違う不思議なちょっと居心地の悪い感じすらする場所だ。
『チョコ、悪いが目の前の藪に入ってくれ。足元に十分気をつけてな』
『うん……』
目の前の不気味な藪の中に恐る恐る足を踏み入れて行く。まるで通さないと言わんばかりに木々や草が生い茂り、葉っぱや枝が顔や手足に当たり絡みつく。蜘蛛の巣や虫さんが顔につき時には口や鼻に入りそうになってむせる、ペッペッペッと吐きながら私は藪の中を突き進んでいく。
暫く進んでいると突然急に目の前が開けて、身体に絡みつく草木から解放された私は力を入れたままの勢いで飛び出し固い棒みたいなものが並んだ何かに頭を思いっきりぶつけてしまった。
「ぎゃぁっ!?」
『チョ、チョコ!どうしたの!?』
『チョコ!?どうした!?何かあったのか!?』
ボス達の心配と慌てふためく声が聞こえる。私は打ちつけたおでこを抑えて『大丈夫!大丈夫だからっ!!』と二人を安心させようと答える。やがて痛みが引き、衝撃でぼやけていた視界がクリアになると――、目の前には鋼鉄製の白い柵、そしてその間から広がる世界――。
『ボス!柵があったよ!ボスの言っていた鋼鉄製の大きな柵、その間から外の世界が見えるの!!』
私は興奮気味に伝える。
『そうか!チョコ、その柵壊れている部分は無いか?よく見てくれ!』
『う、うん。わかった』
私は目の前の柵の棒を掴み揺さぶっていく。でもどれも外れてないし、外れる様子は無い。
『ボスッ!駄目、全然びくともしないよっ!』
『チョコ、左右に動いて場所を変えてみてくれ。もしかしたら位置がずれてるだけで少し離れたところにあるかもしてない』
『うん!』
私は目の前の柵にそって横に歩き始める。すると目の前の柵の棒が消え外の世界がはっきり見えるようになった。
『あっ……!』
1,2歩下がりよく見るとその部分は柵の棒が数本外れてていた。これがボスが言っていた柵が壊れて出来た穴なのかな?
『どうした、チョコ?』
『ボス!穴、ボスが言ってた柵が壊れて出来た穴があったよ!』
『そうか!まだ残っていたんだな!チョコ、その穴から通り抜けれそうか?』
ボスに言われて私はその穴に身体を押し付けるが幅が足りないのか通り抜けれそうにない。
『ボ、ボス、穴が狭くて通り抜けれないよっ!身体がっ!頭がっ!胸が引っ掛かるよぉ!』
『むむっ、俺達が見た穴はかなり大きかったのだが、あれからもう7~8年は経つし直されたのか?それともそもそも場所自体が違うのか……?』
ボスの戸惑う声が聞こえる。折角ここまで来たのに無理なのかなと諦めかけた、その時だった。
『…………?』
よく見るとその穴の左右の棒は真っ赤になっててなんだがボロボロになってい事に気づいた。私は恐る恐るその赤茶けたボロボロの棒に触れる。ザラザラチクチクした感触に耐えながら力を籠めるとボキッと小さな音がして簡単にに外れてしまった。
『これって…もしかして……?』
同じ要領で左右の赤茶けたボロボロの棒を力を籠めて外すとやがて人間が一人横歩きで出れそうなくらいに穴が広がった。
『ボス!穴広がったよ!私、外に出れる!!』
『そうか!じゃあチョコ、行ってこい!』
『チョコ!気を付けて!何かあったらすぐ戻るんだよっ!』
『うん!ボス!コタロウ!私行ってくるね!』
私は柵の穴を潜り抜ける。
片足が柵の向こうへ――。
頭が――、身体が――、残りのもう片方の足が――。
柵の向こう、その先に広がる世界へ――!!!
コツンッと私の靴が、固い地面を叩く音がする。
ゆっくりと顔を起こし正面を見据える。
目の前に広がる世界、人間の――、人間達だけの世界――。
私は後ろを振り返る――。
後ろに見える鋼鉄製の大きな柵と生い茂った真っ暗な藪、あの向こうに私の居た世界が――トレセンが、
その世界を背に私は一歩ずつ歩き始める。大きく深呼吸して空気を吸う。同じ空で繋がっているはずなのに空気の匂いも重さも色も違う、人間の世界――。
私はその空気を斬る様に前へと歩みを進めて行った。
真夜中の暗い夜道を私は歩く。手にはコンビニまでの道筋が描かれた地図。ボスが教えてくれた道順を書いてある正確な物だ。
"柵を越えたらまずは右を向き、トレセンの柵沿いに歩く事"
その指示に従い右手にトレセンの柵を見ながらそれに沿って私は道を歩き続ける。
"暫く歩くとT字路に出る。『T』の形をして真っ直ぐには進めない。左に曲がる事"
しばらく歩くとボスの指示通り、大きな道に出る。真っ直ぐには進めず目の前を横切る大き目な道を現れる。私はそこを左に曲がる。
"あとはその道をそのまままっすぐ歩く事。道が終わる手前の右手にコンビニがある。道中、自動車が通るので道の端に寄り気を付けて歩く事。帽子を深く被り決して人間の若い女だと悟られない事。不安なら人間や自動車の姿や気配がしたら道路わきの茂みに隠れやり過ごす事。"
ゴクリっと緊張する。何故だか分からないけど「人間の若い女だと悟られない事」と言う文言が私の心に刺さりざわめきを起こす。不安と緊張感が高まり身体が少し震える。とにかく女とバレてはいけない――。私の中で何かがそう強く訴えかけてきて私は帽子を深く被り直すと神経を研ぎ澄ませる。帽子の中のウマ耳が鋭くとがり帽子を持ち上げようとする。その窮屈さに顔をしかめつつ私は道を歩き始めた。
「わあっ……」
暫く道を進んでいると沢山の建物が道路の左右に建っている場所に差し掛かった。これが人間達が住んでいる厩舎――、家と呼ばれる建物らしい。私達の住んでいる厩舎と違って一軒一軒それぞれ大きさも高さも形も色も全く違う。そんな新鮮さに驚きを感じる。真っ暗な家、明かりが灯っている家、明かりが灯り人間達の楽しそうな会話が聞こえる家、そんな色とりどりの家々に視線と意識をもっていかれそうになり、そのたびに地図に描かれた注意事項を思い出して気を引き締めて私は歩く。
歩いてる道中に食べ物屋さんらしき建物もあった。ステーキ屋さん、お寿司屋さん、ケーキが食べれるお菓子屋さん――。だたどこも真っ暗で人の気配がしないのでトレセン内の食堂や売店と同じく夜中はやっていないようだった。少し寂しい思いをしつつ私は歩みを進めた。
どれくらい歩いただろうか。随分長い時間歩いた気がした。後ろを振り返れば、トレセンはすっかり闇夜に溶け込んで見えなくなっていた、そんな距離と時間。歩き続けた道が突き当りで再び前に進めずさらに大きな道が横切るT字路。その手前、右側がとても眩しく光っている事に気が付いた。
私は思わず走って駆け寄る。目の前には固い地面に覆われた広い敷地に建つ煌々と光り輝く平べったい建物があった。作業着のポケットからチラシを取り出し見比べる。チラシと同じ建物が目の前に確かにあった。
「これが……コンビニ……!?」
透明なガラスで覆われた部分に近寄る。ガラス越しに覗くと建物の中は外よりももっと明るくて、たくさんの食べ物が入ってる容器や袋が棚いっぱいに並べてあり、さらにその状態の棚が室内に何個も並べて置いてあった。いや、棚だけでは無くて壁も一面扉の付いた棚や光り輝く明かり付きの棚があって隙間の無い位食べ物が敷き詰めて並べてあった。冷蔵庫らしきものもあり、私達の厩舎の休憩所やエサ置き場の冷蔵庫よりもはるかに大きい、生まれてから一度も見た事無い大きさでもちろんこの中もジュースが隙間なく詰め込まれていた。
「こんなに食べ物が置いてあるなんて……信じられないっ!!!」
コンビニに来たら食べ物が何個置いてあるか数えてみよう――、そう呑気な事を考えていたけど、まさかこんなに食べ物が置いてあるとは想像もしなかった。これではまるで私達が走る競馬場の芝コースに芝が何本生えてるか1本ずつ数えようとするのと同じだ。
あまりの食べ物と飲み物の多さに眩暈を感じつつも私は気を奮い起こす。まだ本当の目的は済ませてない。中に入って食べ物を手に入れなくては――。私はそう意気込むと入り口を探そうとして。
「コンビニってどこから入るんだろう?」
よく建物を見るとドアがない。建物の横にはあったけどどうやら鍵がかかっていて開かなかった。再びお店の正面に戻り、ガラスで覆われた部分を眺めていると―。
ピンポン♪ピンポン♪
「きゃあっ!?」
突然甲高い音が聞こえて目の前のガラスが勝手に動いてしまい、思わず飛びのいてしまった。開いたガラス部分を眺める。ここから室内が良く見えててなんだか厩舎の入り口に似た感じがするけど、もしかしてここから入るのかな?
私は恐る恐ると足を踏み入れて行った。
「いらっしゃいませ」
「ひゃ!ひゃいっ!?」
建物の中に入ったとたん、人間に声を掛けられて思わず変な悲鳴のような物が出てしまう。恐る恐る声の方向を向けば店にある細長い台の向こう側に人間の男の人が立っていてこちらを見つめていた。
思わず逃げようとして、ボスが「お店にはレジと言う食べ物を買うための細長い台があってそこに立っている人間はお店の人だから安心しなさい」言っていたのを思い出す。この人は安全だ。
そう思い、軽く頭を下げて会釈をすると私はお店の中、店内を見て回ることにした。
「うわぁっ……すごい…」
コンビニの店内は私にとって未知の世界だった。見た事もない食べ物や飲み物があって、知ってる食べ物や飲み物も見た事無い別の種類があって、形、色、大きさ、そのすべてが新鮮で一つ手に取り眺めては棚に戻しを繰り返しながら、私は店内を堪能した。
さらにコンビニには食べ物だけでは無くて色んなもの――、ボスが言うには日用品と呼ばれる食べ物飲み物以外で人間が必要な物が置いてあって、さらに新聞や本までも置いてあった。いくつかの新聞には私達競走馬の事が書かれていて、オジュウチョウサンさんが大きく写った新聞もあった。
「すごい……コンビニ……すごい!!」
あまりにも世界が違い過ぎてその物量に圧倒されて私の頭はぐちゃぐちゃなり、興奮でもう「すごい」しか言葉が出てこなかった。ありとあらゆるものが新鮮でいつまでも此処に居たいとすら感じるようになっていた。
『~~~♪セブンマートが午前3時をお知らせします』
天井から聞こえてくる軽快な音楽と共に商品の紹介や何かの宣伝をしていた人間の声が変わり時刻を伝える音に浮かれきっていた私は目を覚ます。ふと壁の時計をみるといつの間にか午前3時を迎えていた。身体の底が一気に冷えて現実に引き戻される。
――まずい!!もうトレセンへ戻らないと!!
最近だと大体午前4時過ぎくらいに私は変身が解けてしまう。トレセンからコンビニまで結構な距離と時間があったはず。急いで買い物をしてトレセンに戻らなければ!!!
私は本来の目的を思い出して買い物を始める。ボスに頼まれたビール、コタロウが楽しみしてくれてるニンジンとニンジンジュース、私が飲みたかったリンゴジュース、以前から気になり食べて見たいと思っていた
レジ台の上に持ってきた商品を置く。ボスの話ではここに置けばあとは店員さんがやってくれるそうなのでそれを待つことにした。そっと店員さんの顔を覗く。男の店員さんは短い白髪交じりのおじさんでどことなくテキに似ている雰囲気の人だった。テキと同じくらいの年齢の人なのかな?
テキの顔を思い浮かべるとつい顔がにやけてしまう。そんな姿を店員のおじさんに見られそうになり、私はもう一度帽子を深く被り直して俯く。
「ハンバーガーは温めますか?」
「は、はひぇ!?……あ、あたためる??」
突然、店員さんに話しかけれてびっくりしてしまう。あたためる?何をするんだろうか?
「このハンバーガーを電子レンジで温めますか?それともこのまま持って帰りますか?」
店員さんがそう尋ねて来る。ハンバーガーを温めるの?デンシレンジって何??見上げると店員さんは手を止めて私の反応を見てるようだ。
「……このままでお願いします」
私はそう答えた。食べ物を温めるのには時間がかかるはずだ。以前休憩室にあったお湯で温めるうどん。なかなかできなくてボス達とのんびり出来上がりを待っていたのを思い出す。今はそんな時間とてもじゃないが無い、そもそもハンバーガーって温める食べ物かもどうかわからないし……。
「わかりました」
そう言うと店員さんは再び作業に戻った。
――ポンッ♪
『年齢確認をお願いします』
「…………」
作業していた店員さんの手が止まる。どうしたのかな?
『年齢確認をお願いします』
「…………」
レジ台横の白い機会が何かを喋るのを聞きながら私は店員さんが作業を再開するのを待ちづづけていた。
「年齢確認をお願いします」
「へっ!?ねんれい……かくにん……??」
また、突然店員さんに話しかけられて私は飛び上がりそうになった。ねんれい……かくにん……?ネンレイカクニンって何だろう?
「ええ、お嬢さんの年齢ですよ。お酒は20歳にならないと買えないのは知ってますよね」
「…………」
知らない。そんなの知らないよ……。お酒は20歳にならないと飲んでは駄目なのは私も知っている。ボスから教えてもらったしビールの容器や箱にもそう書いてある。でも20歳にならないと買う事が出来ないなんて知らない、ボスはそんな事言ってなかったし、どこにもそんな説明書いてない!!
私が混乱してると小さなため息が聞こえた、目の前の店員さんが吐き出したため息だった。
「すみませんがビールはお売りできませんね」
「だめぇ…!」
そう言って私が台に置いたビールを片付けようとする店員さん。私は思わず叫び、咄嗟にその腕をつかんでしまう。ビールをビールだけは持って帰らないと!!!
「お願いします。ボスが飲みたいって、ビール飲みたいって言うんです。お願いします売ってください、お願いします……」
私は店員さんの腕を強くつかんだまま震える声で懇願する。このまま帰ったらボスが、ボスが悲しんでしまう。そもそもコンビニへ行くのをボスは反対していた。それを私はビールを買って帰ると言う条件で無理やり変えさせたのだ。ボスに無理を言って心配と迷惑かけて、それでビールは無しなんてあまりにも酷過ぎる。ボスへの裏切りだ。
「失礼ですが、年齢は?」
頭上から降って聞こえてくる、優しい声。
「ぐすっ……ねんれい……ですか?」
溢れる涙で目の前が滲みながら私は顔を上げる。目の前には店員のおじさんの少し困った表情が見えた。その少し困った表情を浮かべる優しそうで暖かそうな顔にどこかおとうさんテキにも似た表情を感じた。
「ええ、そうです。20歳以上ならあなたはビールを買う事が出来ます。私はあなたにビールを売る事が出来ます。お嬢さん、失礼ですが年齢は…」
「3歳……です」
とっさに正直に年齢を答えてしまう。店員さんは派手にずっこけていた。気のせいかスゴーッと凄い音がした気がする。
ああっそうじゃなかった。私が答えたのは馬の年齢だ。ボスが言うのは人間と
「3歳!?……ああ23歳の事ですよね」
ずっこけていた店員さんが起き上がりそう答えてくれる。
「!……はい!にじゅ…さんさい……23歳です!」
私は何度も頷いて答える。私の歳、人間の年齢に直すと23歳なんだ!知らなかった!!!何度もその数字を言葉に出し口を噛みしめ確認する。
「では年齢確認ボタン押してください」
店員さんが指をさす。レジ台横の白い機械の平べったい部分に「私は20歳以上です。【確認】」と書かれており、わたしは【確認】と書かれたところを指で触る。
――ポンッ♪
『年齢確認が完了しました』
白い機械がそう告げると、止まっていた店員さんが作業を再開させる。良かった……本当に良かった。私は息を吐き張りつめていた気を緩めることにした。
「お会計■■■■円になります」
気が付くと作業は全部済んでいて店員さんは私が何かするのを待っているようだった。まだ何かあるのだろうか?
「あのお会計を、商品の代金を頂きたいのですが…」
店員さんが何か怪しむように私に聞いてくる。一瞬何かわからなかったけどすぐに思い出した。そうだコンビニで食べ物買ったらお金を支払わないといけない事だ。いつもは休憩室やエサ置き場から勝手に持ってきてるけど外の世界ではそれは犯罪になる、悪いことだとボスが言っていた。
もちろん私はお金を持ってきている。厩舎を出る時、事務所のテキの机から"財布"と呼ばれるお金を入れる黒い入れ物を持ってきていた。ボスがこれを持って行ってコンビニで店員に出せばよいと言っていたのを思い出し大急ぎで作業着のポケットから財布を出すと頭を下げながら両手で店員さんに差し出した。
「………………」
「………………」
暫く沈黙の空気と時間が続く。いつまでも店員さんが財布を受け取らないので不思議に思い顔を上げると、店員さんは驚きと困惑と不思議な物を見たような複雑な表情を浮かべてそのまま固まっていた
「あの……商品のお金……財布……」
訳が分からず私も混乱気味で尋ねる。すると固まって居た店員さんがハッと気づいたようで暫く何か考えるそぶりをしてそのまま私が差し出した財布を押し戻した。どうして受け取らないのだろうか?
「お金を支払う時は自分で財布からお金を出してください。財布ごと他人に渡すのはあまり感心しませんよ」
「そ、そうなのですか!」
優しい表情を浮かべてそう教えてくれる店員さん。そんな事知らなかった……。
「す、すみません。えっと…じゃぁ……お金……あれ…?」
お金を出そうとして私はそこで気づく。私、お金の種類全然分からない。財布には紙のお金と丸い金属のお金があって数字が書いてあるけど、どうやって出せばいいんだろう。何を選んで出せばいいんだろう……。こんな事ならボスにお金の扱い方教えてもえばよかった……。
私が財布をもったままオロオロしてると、店員さんの腕が伸びてきて私の持っていた財布を掴み、持っていく。
「今回だけ特別ですよ。それからお金の扱い方を知らないのですね。良ければ説明しますよ?」
優しそうに答える店員さん。その温かい優しさに私は思わずうなずいた。
「っ、はい!教えてください!お願いします!!」
店員さんが私に丁寧に説明してくれる。お札の種類、渡し方、お釣りの受け取り方に財布の仕舞い方、私はその説明を食い入るように聞いていた。
「――、これで以上です。どうですか?お金の扱い方、お店での買い物の仕方、ご理解できましたか?」
「はいっ!!本当にありがとうございました!!」
あの後、私は店員さんに沢山の事を教えてもらった。お金の扱い方だけではなくお店での買い物の仕方まで丁寧に教えて貰えた。
店員さん――このお店のオーナーさんでお店で一番偉い店長さんだと言うこの人。本当にテキに似ていてとても優しい良い人だ。
店長さんは私達の厩舎のテキみたいなポジションでコンビニも私達の厩舎に似てるところがあるんだなと私は感じていた。
「ではお疲れ様です。そしてお買い上げありがとうございました。またのお越しをお待ちしておりますね」
「はい!来ます!!このお店!!とても良いです。テンチョーさんも私大好きです!!また来ます必ず来ます!!!ありがとうございました!ありがとうございました!!」
嬉しくて、ありがたくて何度も何度もお礼の言葉と共にお辞儀をして、私はコンビニを後にするのであった。
「どうしよう、時間がもうないよ……」
コンビニを出て私は酷く震えていた。お店を出る時、時計は午前3時45分を指していた。今から戻っていたらもう間に合わない。変身が解けてしまう。
このままだと私は――。最悪の予想する事態が浮かび、思わず私は頭を振る。いや、まだだ、まだ諦めたらだめだ。
「一か八か全力で走ってみよう……」
そうだ、私は競走馬だ。競争馬なら全力で走るのみ。例え今は人間の姿でも、馬よりも遥かに遅い2足歩行の生き物でも――。
「やれるだけのことはしよう」
どうせだめなら最後まで足搔いてみよう。私は道路に立つと目を閉じて祈る。私は馬だ…ウマ娘だ。コンビニからトレセンまで1200m、短距離レースだ。1分20秒もあれば終わるっ!!
私はイメージする、ファンファーレが鳴りゲートに入り待機する自分の姿を――。何度も深呼吸を繰り返して――。
――ガシャンッ!!!
ゲートが開く音が聞こえて――、聞こえた気がして、私は力強く足を蹴って前へと踏み出した。
――えっ!?
信じられなかった。
目の前の景色が流れていく。
そのスピード、その速さ、まるでいつもの、普段の競走馬の時のようだ。
もしかして馬に戻ったの?そう思うがうっすらを光を帯び纏う身体は今の私は人間の、ウマ娘の姿のままだ。
光の粒子を纏う身体、変身解除の時とは違う力が溢れて出てくる感じで私は競走馬の様に頭を低く前に伸ばす前傾姿勢を取り、競走馬そのもののスピードで道路を駆け抜けていた。
やがてあっという間にトレセンの、私が抜け出した柵の穴がある場所が見えて来たので私は減速する。中々速度が落ちなくて柵にぶつかる寸前で何とか止まる事が出来た。
柵の穴を潜り藪を掻き分けてトレセン内に出ると再び私は前傾姿勢を取り駆ける。身体が光を帯び、人間離れしたスピードでトレセン内を駆け抜けて行った。
『あっ!チョコだっ!!ボス!チョコが帰って来たよ!!』
『ああ、本当だ!チョコが無事に帰って来たぞ!』
私が厩舎までたどり着くと、ボスとコタロウがずっと外で待っていてくれたみたいで温かく出迎えてくれた。
『ボス!コタロウ!!心配かけてごめんね!!いっぱい待たせちゃってごめんね!!』
私はふたりに抱き着くとせいいっぱい謝った。
『気にしないで!!チョコは大冒険してきたんだから!無事帰って来てくれただけでも嬉しいよ!』
『そうだ!チョコ、お前がトレセンを出て遥か遠いコンビニまで行って来たんだ。何事もなく無事に帰ってきてよかった』
ふたりにそう言われて私はとても助かる。
『ねぇ!ふたりとも約束通り、お土産買ってきたよ!』
私はコンビニで貰った白い袋を掲げて見せる。
『わぁーいやったぁー!!』
『おおぅ、ビールだっ!酒だっ!』
大喜びするふたりに渡そうとして、大事なことを思い出す。
『あっ!ボスっ!今何時!?』
『今か……今は3時55分か。もう時間がないな。すまないチョコ。すぐ戻る準備をしてくれ。戦利品を楽しむのはまた今度だな』
『うん、わかったよ。ボスもコタロウもごめんね』
『うううっ…でも仕方ないよね。うん、食べるのはまだ今晩にでもするよっ!』
こうして大冒険は幕を下ろし、私達の片づけをして馬房に戻りその時を待つ。コンビニで買った食べ物は袋ごと休憩室の冷蔵庫へ。テキの財布は事務所までは持って帰れなかったので一緒に休憩室の机の上に置いておいた。
ボスが言うのはここなら国崎さんが見つけてテキに渡すからこの方が安全だと、言う。
テキに勝手に財布持ち出したこと。中のお金を使った事、財布を返さずに休憩室に置く事を詫びながら私は、光に包まれ馬へと戻るのであった……。
(つづく)
チョコエクレールはトニービン系とステイゴールド系の血統を持つ競争馬と言う設定がありますが、父系・母系はどちらが良いと思いますか?
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父:ステイゴールド系、母:トニービン系
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父:トニービン系、母:ステイゴールド系
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どちらでもよい
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