殺人鬼は英雄教室で嘲笑う。   作:月見月 月魅

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いーち


 オールマイトやオールフォーワン、エンデヴァーといったヒーロー社会のトップですら立ち入れない領域の住人――人類最強候補者。あらゆる権利、義務が剥奪された人権無き生命体達であり、あらゆる法律、規則を無視できる尋常無き強者達。全人類を同時に相手とっても不足なく、あらゆる生命の殺戮が妥協された存在。

 

 そんな冗談のような人類が一人、アメリカ生まれ日本育ちの日本人、轢殺専門の殺人鬼――巻解( まきとき )使駆( しく )は、三年ぶりに、アメリカから日本へと帰ってきていた。

 

 小学校卒業と同時に誘拐されて以降、久しく聞くことのなかった日本語の海に翻弄されながらも、海水の海を踏破した足は目的地の土地を一歩、踏み締めた。部外者が立ち入れば忽ちサイレンが鳴り響き、極厚頑強のシャッターが現れるはずの警備システムは一切反応せず、無音をもって、劇物たりうる危険物を招き入れる。

 

「……職員玄関って、どこだ?」

 

 使駆が這入り込んだのは、天下のマンモス校である、雄英高校。敷地面積はギネス級であり、敷地内の移動ですら乗用車を必要とするほどに広大。正面玄関から堂々と入ったとて、よそ見しながら一つ道を外れれば、目的地に辿り着くのは困難を極める。

 

「呼ぶだけ呼んどいて案内の一つもなしとか、いつから日本人は救済を避けるドライモンスターに成り果てたんだか。ギャハハッ。嘆かわしいぜ、まったく」

 

 ドライモンスターって、ドライフルーツっぽいな。一人勝手にそんなことを呟いて納得しながら、人の気配のする方向へと、向かい始める。

 

 呼ぶだけ呼んどいて、なんて偉そうに言っているが、すでに指定された日付から数日が過ぎている。雄英はもう既に使駆は来ないものと考えているし、そうでなくとも、盛大に遅刻した馬鹿を丁重に案内してやれるほど、人材を余らせてもいなかった。

 

 

 


 

 

 

 

 一際大きな足音を聴覚が拾い、そちらへ向かってみれば、見つけたのは金髪の巨漢。車道ならスピード違反で捕まりかねないスピードで疾走しており、その顔には焦りが見える。

 使駆はスイッチを入れ、モーター音を鳴らしながら、それと並走することに決めた。

 

「よっ! 久しぶりだなオールマイト!」

 

「ぬおわぁ!?!? きっきみは!!」

 

 平和の象徴にして、ナンバーワンヒーロー、オールマイトはスピードを落とすことなく、しかし情けない声を上げて横を見る。

 

 人間とは似ても似つかぬ、似せられた異形の関節――球体関節の肉体を持った小柄な少年。男性にも女性にも見える中性的な顔で、頬には噛み合う二つの歯車の刺青があり、日本人らしい黒髪は後ろで一本の三つ編みに結ばれている。

 ……が、そんな特徴的な外見よりも、使駆の笑い声で、オールマイトは嘗て己を片手間に叩きのめした殺人鬼を想起し、筋肉に覆われた腕に鳥肌を立たせた。

 

「ギャハハハハハハッ!! 株式会社平和の所長、オールファイトがそんな情けねぇ声出すなよなっ!」

 

「ツッコミどころぉおお!! 今キミに構っている暇は無いのだけどねっ!? 割と緊急事態っぽくってさ!!」

 

 全くスピードを落とさず、どころかまだまだ加速し続けているオールマイトは、最高速度の一割も出していないだろう使駆に向かって叫ぶ。

 改めて言うまでもないだろうが、彼は株式会社平和の所長ではなく平和の象徴であり、その名はオールファイトではなくオールマイトである。

 

「オーキードーキー! そういうことなら俺が連れてってやるよ!」

 

「えっ……え!?」

 

 使駆の最高速度が音速を容易に超えることを知るオールマイトはその濃い顔を青ざめさせ、スーツの襟を掴んだ手を思わず両手で握った。

 使駆はオールマイトの襟を掴んだまま、さらに空を蹴り、オールマイトでは到底辿り着けないレベルのスピードで直進を始めた。

 

「ノオオオオオオオオオオ!!!」

 

「ギャハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 不幸中の幸いと言うべきは、オールマイトが使駆の殺戮優先順位最下層の人間だったことか。

 

 

 

 嘘の災害や事故ルーム。USJという危うい通称の訓練施設は現在、危ない戦場へと成り果てていた。多数の手首を身につけた男――死柄木が率いたヴィラン組織、ヴィラン連合が、一年A組が授業で訓練するタイミングを見計らって襲撃してきたのだった。

 

 入ってすぐの噴水広場では現在、脳を剥き出しにしている黒い異形の大男――脳無が、A組の担任、相澤消太を叩きのめしていた。のし掛かり、顔面を地面にめり込ませている。

 

「ノオオオオオオオオ!!!」

 

「トルクチューンモーター、スイングアクセル!!」

 

 脳無が相澤の頭部を完全に潰そうとしたその瞬間。天井を蹴破った使駆は、着地した直後、手に持ったオールマイトをまるでバットのように振るい、脳無を叩き飛ばした。

 

「オール、……マイト。それに、子供……?」

 

 瀕死、重症、満身創痍な相澤は、頭上の怪物を羽虫のおように叩き飛ばしたであろう二人の方へと、痛む頭を上げた。

 

「ギャハッ! ギャハハッ! ギャハハハッ!」

 

「もう、大丈夫……。わた、……私がっ、来た!!」

 

 凶暴な笑い声をあげる少年。

 激烈な笑みを浮かべる英雄。……なんかもう倒れそうな顔をしている気がするが、それでもその大きな背中は、近くで隠れて見ている生徒達の心に、大きな安心感を与えた。

 

「マキナ、君は相澤君を連れてここを離れてくれ」

 

「ギャッハァ! わりぃが、俺は悪人だ。善人の言うことなんざ聞くわきゃねーだろっ!」

 

 使駆はオールマイトに別の名で呼ばれた途端に顔をわずかに歪め、しかしまた直ぐに歪な笑みへと顔を戻す。

 

「そら行くぞほら行くぞもう行くぞ! 三途の川を犬掻きする覚悟は出来てるかよっ!!」

 

「なん――」

 

 普通のヒーローであれば、たとえ相手がヴィランであろうとも口上は聞いただろう。しかし使駆は、ヒーローではなく殺人鬼。電話越しの口約束で殺人を禁じられようとも、ヒーローになったわけではない。

 

「ノーマルモーター、ウエストアクセル!!」

 

 死柄木と、そばに仕える黒い靄の異形型――黒霧に向かって走り出した使駆の上半身が、プロペラのように高速回転する。何かを言おうとした死柄木の頬に手があたり弾け、黒霧の実態なき肉体を横薙ぎに抉る。

 

「パンチアクセル! キックアクセル!!」

 

 よろけた死柄木を噴水へと殴り飛ばし、黒霧の数少ない実態部分である鎧に覆われた部位を上空へと蹴り飛ばす。

 

「レプチューンモーター、ダッシュアクセル!!」

 

 これぞ轢殺専門の殺人鬼の通常攻撃にして必殺技! さながら交通事故! 噴水も人体も区別なく、体当たりでぶっ壊す!

 

「グルァァアア!!」

 

「ギャッハア!!」

 

 噴水を破壊しても止まらない使駆の前に、さっき吹き飛んだ脳無が帰ってくる。外傷は一切見えず、握る拳からは何かが砕ける音が聞こえる。

 

「デトロイトスマッシュ!!」

 

「プラズマダッシュモーター、パンチアクセル!!」

 

 遅れてやってきたオールマイトの、全力全開のストレートパンチ。それを見越したかのように、使駆はタイミングまでしっかり合わせて、脳無を二人がかりで真上に殴り飛ばす。その先には使駆が蹴破った大穴が空いており、脳無は空へと無抵抗に吹き飛んでいく。

 

「ギャハハハハッ!! ギャッハハハハハハッ!!!」

 

 何がおかしいのか、地面に片足をめり込ませて急停止した使駆はひたすらに笑う。その様子に誰もが呆気に取られ、まだヴィランが残っていることなんて誰もが忘れてしまった。

 脳無という一際凶悪な怪物が居なくなっただけで、死柄木が気絶しているだけで、黒霧は蹴り飛ばされただけで未だ健在だというのに。

 

「……不味いですね。ここは撤退させていただきます」

 

「ギャハハハハハハ! おう帰れ帰れ! 約束だからな。次があっても殺さねーでやるよ」

 

 多数のヴィランが襲撃してきたうちの、たった二人とはいえ、主犯格二名が逃げてしまう。

 

「待てぇ!!」

 

 オールマイトが咄嗟に殴りかかりにいくも間に合わず、黒霧のワープで逃してしまった。

 

「ギャハッ! ギャハハッ! ギャハハハッ! ギャハハハハッ!! ギャッハハハハハハハッ!!!」

 

 その笑いはむざむざと逃げたヴィランに向けたものなのか。それともコテンパンにやられてヒーローか、生徒達か。誰も彼もが怪訝そうな目を向ける中、それでも使駆は笑みを絶やさない。

 

「まぁだ残りもんがいやがるなぁ? ギャッハハァ!!」

 

 クラウチングスタート。使駆はモーター音を響かせながら、爆音(ソニックブーム)を背に姿を消した。

 

 

 

 




 キャラ紹介

 巻解( まきとき )使駆( しく )
 元無個性の十六歳。
 個性(兼、計画名):機械仕掛けの神の肉(デウス・エクス・マキナ・ギア)
 ヴィランネーム:マキナ(本人はこの名を嫌っており、名乗らない)

 アメリカで産まれたが、幼稚園に入る頃にはもう日本に来ていた。年に一度程度、アメリカに帰っていたのだが、小学校を卒業した後の春休み中にアメリカで何者かに攫われた。以降、両親は未だ行方知れず。

 攫ったのは戦争のための生物兵器を極秘に開発していた非合法な研究機関で、使駆の脳以外の全てが人工物へと作り替えられている。……というか、兵器の体に脳だけが移されている。
 コンセプトは、機械と個性の融合。

 外見は元の肉体(小学六年生当時)をベースに作られているが、社会に紛れ込むためのカモフラージュで、しかも最低限のもの。異形系の少なくない現代ならあまり目立たない方かもしれないが、球体関節が露出している。コスチュームの類は無く、戦闘時は全裸が多い。普段はあるものを適当に着ている。子供服や女性用まで見境無し。

 肉体には強度に重点を置かれた特殊樹脂が使われている。加工性が極めて悪い素材で、ダイヤモンドであろうとも傷をつけられず、溶鉱炉に放り込まれても焼けず溶けず、プレス機で潰されようと歪まず砕けない。おまけに、この素材は数多の廃材を混ぜて出来た偶然の産物であり、予備のパーツや材料はなく、再現は不可能と言われている。

 内部構造が大いに違うとはいえ、五感は欠けずに保たれている。食事もするし、睡眠もとる。エネルギー源はカロリーと糖分で、余った油分は体内で濾過され、潤滑油として全身に染み渡る。
 性器が省略されているからか、元来の性質かは不明だが、性欲と呼べるものがほぼ存在しない。

 趣味はミニ四駆で、戦闘スタイルにも大きく影響を与えており、モーターの交換のイメージで速度、馬力を調整している。
 実際にモーターが積まれているわけではないが、近い音は鳴る。鳴らさないこともできる。


 研究・開発を担当していた技術者は、完成後に使駆の人格を消滅させて完全な殺戮ロボットにするつもりだった。……が、その計画が使駆に知られてしまう。使駆は完成目前の未完成のうちに、研究所を近辺の住宅街ごと破壊し尽くし脱走。放浪しながら人間を殺し、財布の中を抜き取って生活していた。

 警察や軍、多数のヒーローやヴィランも当然動いたものの、使駆の懐が温まり、冷たい肉の山が各地に発生するだけだった。
 全盛期のオールマイトを相手に完全勝利した頃から『轢殺専門の殺人鬼』と呼ばれ、恐れられるように。


 口調は凶悪だが性格は善良。なるべく善人は殺さないように気を付ける程度には温厚で、盗んだり、騙したりは基本しない。
 ルールはよく破るが約束は守るように心がけており、雄英に来る際には校長と、『なるべく殺さない』という約束を交わしている。

 人類最強候補者六名の中では弱い方で、暫定五位。しかしその差は総合能力値ではなく相性の問題であり、殺し難さならダントツの一位。陰で人類最堅と呼ばれている。

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