殺人鬼は英雄教室で嘲笑う。   作:月見月 月魅

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にー


 黒霧、死柄木が撤退していった頃になってようやっと、雄英で教職についているヒーロー達が遅れて駆けつけてきた。

 

 そしてその頃、USJの山岳地帯に飛ばされたA組の生徒三人――八百万百――耳郎響香――上鳴電気――もまた、ヴィランの襲撃を受けており、状況はおおよそ最悪であった。一度は機転を効かせて、上鳴の全力放電でヴィラン達を一網打尽にしたものの、一人、同じ電気系の個性を持つヴィランが潜んでいた。そいつに気が付かず、不意打ちをくらい、上鳴が人質となった。

 ここまででも十分にクズだが、ここまでならただのヴィラン。

 

 しかしそうではなかった。そのヴィランはヴィランの上に、変態でもあった。それも、妙に頭の回る賢い変態だ。

 下手に逆らえない状況に陥った八百万と耳郎のパンツが、ヴィランの手によって足首まで下ろされた。上も上着から下着まで全て脱がされ、後ろ手にコスチュームで縛られた。当然局部は露出し、うら若き少女である二人は羞恥と怒りで顔を真っ赤にさせている。

 不幸中の幸いは上鳴が個性の反動でアホになっており、クラスメイトの男子の記憶に残ることはなさそうなことくらい。それも時間の問題でしかないわけだが。

 

 ちなみにだが、パンツを足首まで下ろすという簡易的な()()()は、場合によってはヒーローもヴィラン相手に行うことがある。それも性別を問わずにだ。

 とはいえそれは、パンツを降ろされると歩きにくい上、羞恥心から人混みに紛れ込むことがしにくくなるという、割と合理的な理由があるのだが。

 

 このヴィランにそこまでの考えがあるのかどうかは馬鹿のみぞ知るところだが、お陰で二人がまともな打開策を考えることすらできなくなっているあたり、ある程度の成果は得られている。

 

「くぅぅ……」

 

「ぜ、絶対許しませんわ……」

 

「ククク。どうせこのまま逃げられないんだ。精々、楽しませてもらおう」

 

 ヴィランは片手に上鳴の首を握ったまま、もう片手で八百万の豊満な胸を揉みしだく。このままでは、貞操が奪われてしまうのも時間の問題だろうし、ヒーローが駆けつけてきても、それはそれで二人の心には酷い傷がつく。万事休すにも程がありすぎる。

 

 かちゃかちゃと、ヴィランがズボンのベルトを外そうとする音が嫌によく聞こえる。片手で外すことを想定した構造ではないものらしく手こずっているが、その様子が却って、拷問官の悪戯に見え、耳郎の顔が赤から青へと上塗りされる。対して、先に犯されようとしている八百万は、未だに諦めず隙を窺っている。相手の命さえ考慮しなければ、全身から刀剣を生成することでこの場は凌げる。流石に最終手段ではあるものの、選択肢として、目の前の下衆を殺す決断は必要になりつつあった。

 

 

 

 ……そんな覚悟も殺意も踏み躙られる。

 

 この場の誰も想像していなかっただろう。

 

 第三の全裸が現れるなんて、異常事態は。

 

 

「ノーマルモーター、キックアクセル!」

 

 男にも女にも見える中性的で色白な顔。一本の太い三つ編みの髪。その下には全くムラのない一色で構成された体がある。血管の一筋も透けず、体毛の一本も無く、筋肉による歪な凹凸も無く、二人の隠したい局部も彼には無い。

 あるのは黄金比で構成された無数のパーツと、それらを繋げる球体関節。USJに来るまで着ていた衣服は音速に耐えきれなかったのか、跡形も無くなっている。

 

「ノァーーー!!! ────っ!?!?」

 

「ギャハハハハハハハハ!!!」

 

 使駆の無機質な素足はヴィランの股間を背後から蹴り上げた。激痛と困惑で、ヴィランの目には涙が浮かぶ。既に上鳴は手放してしまっており、今更ベルトを外す余裕もない。

 

「オイオイ元気いいな下衆野郎! メスにばっか盛ってねーで俺とも遊ぼうぜ!!」

 

「だっあぁぁーーーー!?」

 

 ヴィランの後頭部を掴み、岩壁めがけて全力ダッシュ。個性をつかった高速移動こそしないものの、金属ワイヤーの筋力で叩きつけられてただでは済まない。目には岩が刺さり、鼻は折れて血が吹き出て、顔面の形状が非対称に歪む。

 

「ああああああ!!」

 

「ギャハハハハハハハッ!」

 

 反撃か反射かわからないが放電するも、使駆には全く効いていない。身体の構造が違うからなのか、体表が絶縁体なのかは不明。

 

 結局、あれだけ苦戦を強いられたヴィランは、一人の飛び入りによって十秒ともたず倒れ伏した。

 使駆は血で汚れた手をそこらで転がっているヴィランの衣類で拭いつつ、慌ててコスチュームを着直している二人に意識を向ける。

 

「あの、助けていただきありがとうございます。あなたは……」

 

 元より薄着、というか際どい格好をしていた八百万はすぐに着衣を済ませ、使駆に頭を下げて礼を述べる。

 逆に何枚か着込んでいた耳郎は下着こそ着けたもののまだ終わっておらず、まだ途中。……というか、使駆の顔を見て石のように手が止まってしまっていた。そして、未だ名乗らぬ使駆の名を、確かめるように呼んだ。

 

「……使駆?」

 

「ギャハハ。よう、親友。覚えててくれて嬉しいぜ」

 

 耳郎と使駆は旧知の仲らしい。八百万はそれだけで、それと今助けられたというだけで、使駆は格好こそおかしいものの、無害であると認識した。クラスメイトにコスチュームがほぼ全裸の同級生がいることも要因やもしれない。

 

「あんた……、なんでここに、つーかその身体……」

 

「まあちょっと、野暮用でな。てかさっさと服着ろよ」

 

「っ! こっち見んな馬鹿!!」

 

 耳郎は何かから奪うようにコスチュームを掻き抱き胸に抱くも、量の割に丈が足らず、下は全く隠せていない。未だアホの上鳴をうつ伏せに寝せたのは、使駆なりの気遣いだろう。

 

「ウェーイ」

 

 

 


 

 

 

 使駆は響香を親友と呼んだが、しかし二人はそう長い仲ではない。

 家が近所で、小学校が同じで、二回か三回程度、同じクラスになった程度の繋がりの仲。

 無個性の割に(あるいは無個性だからこそ)個性的なキャラクターをしてる使駆と、両親が音楽界隈の人間だからか多少特異な感性の持ち主である響香が絡むというのは、さほど不自然な光景ではなかった。

 

 どの程度の仲だったのか、一つ実例を挙げてみよう。

 小学四年生のとき。授業中の居眠りでどんな夢を見たのか、響香が「セブン!!」と叫んで目を覚ました時、隣のクラスだった使駆が「イレヴン!!」と叫んで、二つの教室を爆笑で支配した。

 

 これで親友じゃないといえば、嘘だろう。

 通学路が同じということもあって、登下校は一緒になることが多かったし、保護者会なんかで親同士の繋がりも薄からずあった。

 

 ……それらあらゆる繋がりは、中学校に入学する前に消滅したのだが。

 

 

 

 三年ぶりの再開なだけあって、未だ響香は半信半疑。全裸でありながら恥じらう様子を全く見せない使駆の身体は、小学生の頃のものとは全く異なるものに成り果てている。別人だと言われたら、それこそ疑う余地は無いだろう。

 

「あんた、なんで雄英に、てかここにいるの?」

 

「色々あってな」

 

「無個性って言ってたよね。その身体、なに」

 

「色々あってな」

 

「その髪型、似合ってない」

 

「色々あって──おい!?」

 

「真面目に答えろ!」

 

 道すがら、使駆は三人に広場でのことを説明した。既にオールマイトを初めとするヒーロー達が来ていて、ヴィランの主犯格は撤退していると。今はあちこちで残党狩りをしており、使駆が三人の元に来たのもその一環だと。

 困惑させられっぱなしの八百万と、多少頭が回り始めたとはいえ未だアホ半ばな上鳴は安堵したような表情をしているが、響香だけは納得していないように見えた。

 

「なぁ、あんた、男?」

 

 八百万に手を引かれてなんとか歩けている上鳴は、ふと思いついたように尋ねた。

 

「ギャハハハッ! お前はスマホとかパソコンに性別があると思うか?」

 

 ……あれ、USBとか色々刺すわけだし、あいつらってメスなのか? と、使駆まで自分で言ったことに混乱して首を傾げ始める。

 

「……ウチの知ってる使駆なら、こんな顔でも男だったよ」

 

 むしろ、響香の知っている使駆とほぼ同じ外見だからこそ、逆に怪しくて仕方ない。

 

「別に、オレがマジの巻解(まきとき)使駆(しく)か、偽物のパチ解使駆かなんて、どっちでもいいだろ。オレはお前の親友だぞ、響香」

 

「……ウチ、使駆を親友とか思ったこと無いんだけど」

 

「耳郎さん、それは──」

 

 響香の言葉に、思わず八百万が割り込むも、その心配は杞憂らしい。

 

「ギャハハハハハハハッ!」

 

 何が面白いのか、使駆は上向きに笑って返すのみだった。

 

 

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