殺人鬼は英雄教室で嘲笑う。 作:月見月 月魅
雄英高校、会議室。そこは基本的に生徒は立ち入らない大人だけの空間であり、潔白さを求められる学校の数少ない、灰色の空間。
USJ各所の念入りな残党処理と生徒達の救助を終えてきたヒーロー科の教職員達が――重傷を負った相澤と13号以外――全員揃った。
そして彼らとは別にもう一人。校長に並んで座り、校長に次ぐ低身長の少年――使駆もまた、役割を持って席に着いた。特異な存在に教師達が怪訝そうな顔をしている中、緊急の会議が始まる。
とはいえまずは、今日起きた事件の被害状況の確認。各所を見て回っていたヒーロー達から、設備の破損なんかが端的に語られ、校長がそれらへの対処をそれぞれ発案。これを機に新型へ新調してしまおう、あれはあまり使わないからそのままで、新しくこれが欲しい。そんなやりとりを、使駆はただ黙って眺めていた。
それが終わってようやっと、話題は使駆へと移る。校長に「君は何の為にここへきたんだい?」と問われると、使駆の目は、金髪で骸骨のような、貧弱そうな男――オールマイトの方へと向く。
「んじゃあ、まぁ、本題から端的に言うとだな」
使駆の言葉に、誰もが言葉を失う。
「刺殺専門の予言を伝えにきた。『バカあちぃ日の夜、偉大なる愚か者、最新の偉人は、そして近く枯れ果てる』、だとよ。もうじき引退だとさ、オールマイト」
目を丸くさせて、ポカンと口を丸く開けて、幾つもの目が、もう既に枯れたような外見のオールマイトへと集まる。
そしてオールマイトもまた、一同の鏡かのように、目も口も丸くなっている。
そもそも、この場にいる人間の、人類最強候補者、そして轢殺専門の殺人鬼に対する理解度は、オールマイトなんかと並ぶと噂の、都市伝説のような存在程度。轢殺専門の殺人鬼という名は知っていても、どんな顔なのかも、どんな人間なのかも分かってはいない。
そしてそれは、使駆の言った『刺殺専門』に対しては、全くの無知。おそらく、轢殺専門を名乗る使駆の関係者だろうとしか思えていない。
「……え? 私、引退するの?」
オールマイトは自分の顔を指差して、使駆に問う。
「たかが占いとはいえ、神の言ったことだぜ? 証拠はねぇが的中率100%っつー実績はある」
その実績のうち、およそ九割が死の予言であることまで語るほど、使駆は野暮でもなかった。
刺殺専門の殺人鬼――人類最強候補には及ばないものの、使駆と同じ、殺人鬼の世界の住人。爪楊枝のように細い槍で人体を蜂の巣にする殺人鬼であり、天照大神の個性を持って生まれた現人神。趣味は
「ヒーロー社会の裏の闇の影の底、殺人鬼の世界でもオールマイトの名はデケェ。刺殺の予言は確定事項だが、それでも
「裏の闇の、……なんだって?」
B組の担任、ブラドキングが腕を組んで、険しい表情で尋ねる。
「ギャハハッ。意味なんざねぇから気にすんなよ。格好つけて殺人鬼の世界なんざ言っちゃいるが、要するにただの無法地帯。殺人鬼が警官を殺し、警官が一般人を殺し、一般人がヒーローを殺し、ヒーローが殺人鬼を殺す。一歩踏み込めば誰もが殺意を抑えられなくなる、惑星サイズの蠱毒みたいなもんだ」
「そんなの、いったい何処にあるっていうのよ」
信じられないと暗に語り尋ねるのは、使駆とどっこいな格好をした露出魔ヒーロー、ミッドナイト。
「何処にだってあるさ。日本だけでも幾つ死体が埋まってると思ってやがる」
これ以上、殺人鬼の世界とやらについて聞いても無駄だと、ヒーロー一同全員が察した。身近且つ近しい言葉なら、裏社会みたいなものだろうか。
表社会の住人には認識も出来ないからこその、裏社会。
「マキナ……いや、この呼び方は嫌だと言っていたか。じゃあ、巻解少年」
「んだよ?」
余命宣告に近い言葉を急遽言われたオールマイトは、ただでさえ不健康そうな顔をさらに暗くさせて言う。
「君たち殺人鬼にとって私の死は喜ばしいものでは、ないのかな」
「人によるだろ、んなもん」
使駆は「何言ってんだこいつ」とでも言いたげな顔で続ける。
「弱肉強食のこの世界じゃ善悪関係なく、強い人間は善悪両方の弱者の障害になる。それはオレとお前の数少ない共通認識だろ?」
いわゆる、商売敵。
オールマイトが働きすぎるあまり、仕事が回ってこないヒーローは少なくない。それはオールマイト本人も認識している、残念な現実。弱肉強食、実力主義というような少ない文字で弁明される非情な現実。
それはヒーロー社会以上に自然な実力主義で形成されている殺人鬼の世界とて大差ない。
「それでも。平和の象徴、オールマイトに死なれて困るのもまた、君ら殺人鬼と我々ヒーローの共通事項。だから手を組もうって言うのが、君の要件かい?」
人間以上の知能を持つ鼠、ハイスペックの個性を持つ校長は、動物特有の感情を感じられぬ顔で言った。
「オレらが気にしてんのは死後の余波だが、まぁだいたいそんな感じだ。……つっても信用がねぇだろうから、オレが代表して、ヒーローに全面協力する。今日みてぇにな」
拒否権は無いとでも言うように、決定事項だとでも言うように、使駆は言った。
「……公安には全てを任せると言われてはいるけれど、下手な判断は下せない」
校長が言う通り、元々殺人鬼側はヒーロー公安委員会にここでしたような話をするつもりだった。そもそもの話、雄英はあくまでも学校。教師や生徒のみに関わることならともかく、社会や世界の今後に関わるような話はお門違いもいいところだった。
……だったのだが、公安はアポイントメント目的のメールが届いた段階で既に、全てを雄英に
「オールマイトの予言の真偽はひとまずおいておこう。殺さない、壊さない、殺させない。その約束が全面協力の中に含まれているのなら、
相変わらず校長の顔から感情を窺えないものの、声音は初対面の使駆からしても低い。
「だからこそ不可解だよ。全面協力してくれる殺人鬼は、君だけなのかな」
「いや、とりあえずでもう一人いる。他は、暇そうな奴を誘ってみるさ。……なんだよ、足りないか?」
「いいや、逆だよ。君一人だけでも過剰戦力だと思うね」
人類最強候補者一人だけでも、総合戦闘能力を数値化すれば恐らく、全人類の合計値をも上回る。やろうと思えば都道府県の一つや二つを殺し尽くすのに、一時間もかからないだろう。
校長の脳内では現在進行形で、使駆がヒーロー側に付いて尚釣り合う何かを計算し続けている。金銭では足りない。ヒーローの情報? それとも別に何か目的がある?
「……んだよ。聞きたいことがあんなら普通に聞けよ、面白くねぇ」
使駆の言葉を聞き、校長のハイスペックな頭脳は結論を出した。
「……聞いた方が早そうだね。君の目的は何なのかな?」
いくら頭脳が優れていようと、校長は殺人鬼のことは知らない。知らない数値は、仮数以上になり得ない。
「ねーよ。んなもんあったら殺人鬼になんてなってねえ」
使駆の無機質な顔に、歪な笑みが張り付く。
「強いて言うなら、俺の正義を貫くためだ。守りたい奴を守るために、救うべきを救うために、オレは海を走って横断したんだぜ」
いやそれ、不法入国じゃ……。なんて、ルール無用の殺人鬼に言うだけ無駄だった。
「……へぇ。殺人鬼が正義を語るの?」
この場の誰もが思ったことを、ミッドナイトが代表して言った。その目は言い訳がましく自論を語るヴィランに向けるように鋭い。
「殺人鬼だからこそだ。悪人であるからこそ、悪である意味を無くさないために、人だって殺せちまうくらい鋭い正義を研ぎ澄ます。お前らヒーローの
ギャハハと、殺人鬼は嘲笑う。ハハハと、オールマイトだけは苦笑する。
――
ヒーローに殺しを禁じている現代では時代遅れな言葉だが、使駆の場合はそもそも論だろう。
「可愛いは正義。可愛いオレが可愛い子を守るために野郎は殺す」
嘗てそんなことを本心から告げながら殺されかけたにも関わらず、今も昔も、たとえその手が血に濡れていても、オールマイトの目には使駆が悪人に映らない。
あれから使駆がどれだけ強大な悪になっていようとも平和の敵にはなり得ないという確信が、枯れかけの平和の象徴には確かにあった。
後書きという名の超簡易議事録。
占い趣味の神様
「オールマイトが死んじゃうぜー。パニくるぜー」
殺人鬼の世界
「オールマイトが死ぬ!? うちの子達にもファン多いんだよ!? 絶対パニックになるじゃん! ヒーローと協力していいからなんとかしてよ使駆えもん!」
使駆えもん
「てれれれってれー。
ヒーロー社会
「え、オールマイト死ぬの? マジ? へー、殺人鬼の最強格が味方してくれるんだー。……で、本音は? いや、敵連合とかの相手も手伝ってくれるんなら有難いんだけどさ。でもヒーローと殺人鬼が手を組むって、ほら、あれじゃん? ……まいっかー」
保健室
「……現場で事件が起きた後に、会議室でも事件が起きてる気がする。寝てるから知らんけど」