殺人鬼は英雄教室で嘲笑う。 作:月見月 月魅
事件当事者である一年A組の面々も遅刻スレスレになりながらなんとか、全員が教室に揃った。
……揃った、はずである。
にも関わらず、窓際最後尾には一つの空席があった。既に「誰か遅刻したんじゃないか!?」と委員長である飯田が声を荒げて、点呼までとった。
が、欠席はいない。
こうなったらホームルームが始まるのを待つしかないという空気になり、大怪我を負った相澤の代わりは誰なのかという話題に移った。
すぐにチャイムが鳴り、扉がゆっくりと開く。
「おはよう」
「相澤先生復帰早えええ!!!」
まさかの本人登場ドッキリに、生徒達は驚愕し叫ぶ。顔やら腕やら、見えるところのほぼ全てが包帯でぐるぐる巻きだというのに、休まないのは日本人らしいというか、もはや病気というか。
「俺の安否はどうでもいい。それより幾つか話があるから静かに聞け」
先日の事件のことだろうか。それとも別の何かか。
「まず、雄英体育祭が迫ってる。心とか諸々準備しておくように」
「「「「クソ学校っぽいの来たああああ!!!」」」」
いちいち叫ばないと死ぬのかこいつらとでも言いたげに、相澤は睨んで話を続ける。
「急だが、ヒーロー科に編入生が二人来ることになった。一人は
相澤は一つの空席をチラと見た後、扉の方へ声を掛ける。「おー」と、すぐに返事が返ってきて扉が開いた。
入ってきたのは、腰あたりまで伸びた髪をツインテールに結んだ、おそらく女生徒。身長は低い。
少年らしさと少女らしさの混ざった顔は、美少年とも美少女とも言えるような整った顔をしている。
が、制服のスカートから覗く脚は。手首から先は。首は。関節部分が常人とは違う。義手、義足のようにも見えるそれは非生物的で、色も健康的とは言えない。
「アメリカから来ましたっ、巻解使駆です!」
鉄仮面よりも硬そうな顔を可愛らしく歪めながら、分厚い猫の革を被って使駆は名乗った。
「将来の夢はお嫁さんですっ!」
「待てこら」
誰が最初に突っ込むかと牽制しあっているなか、最初に声を上げたのは響香だった。
「んだよ、親友」
被っていた猫を引き剥がされた使駆は、その雅な笑みを歪に曲げる。
「なんで女子用の制服着てんの」
「将来の夢はお嫁さんって、平和ボケ感あっていい言葉だよな。あと可愛げがある」
「…………一発ネタならまぁよし」
「なんでお前に許しを得なきゃいけねえんだよ。そしてネタじゃねーよ」
「マジなの!? あんた男じゃん!」
「嫁はネタだよ。娶らすぞこら」
「サイッテーな告白!?」
「ギャハッ! ギャハハハハハハハハハハハッ!!」
美少女の皮を被っていたことなんてもう忘れたかのような、人を喰ったような笑いが教室の隅まで轟く。
使駆と響香のやり取りにクラスメイト達は首を傾げ、相澤はため息を吐いた。
「巻解の(戸籍上の)性別は男だ。制服は本人の希望で女子用のものを用意したらしい」
「ギャハハッ! ネタバラシすんなよイレイザー・ヘッド! 逆ハー作った後にバラして阿鼻叫喚っつーオレの計画が台無しだろーがっ!」
「どうせ一時間目は自習だ。自己紹介なりその辺で済ませろ」
USJ事件は既に過去のものになりつつあるが、当事者――特に教職員達にとっては、まだ終わっていない。今日も朝からUSJの調査に人員が割かれており、大半の授業は実施する余裕がない。
負傷も鑑みて、肉体労働こそ最低限に減らされているとはいえ、相澤もついつい投げやりになってしまうくらいには疲弊していた。
A組の一人、蛙を彷彿とさせる顔つきの少女、蛙吹梅雨が小さく挙手し、教壇に立つ使駆に向けて発言する。
「事件の時のことを聞きたいのだけど、先生ではないあなたが、どうしてあの場に居たのかしら?」
蛙水のそれは、許可無く戦闘を行った使駆を責めるというより単純に、気になったから聞いてみた様子。他の面々も似たようなことを思っていたようで、使駆に真剣な目を向ける。
「偶然ってだけだぞ? 敷地で迷ってたときに走ってるオールマイトを見つけて、急いでるっぽかったし、知らない仲でもないから送ってやった」
USJの天井を蹴破り、オールマイトを引っ張って降ってきたところを目撃したであろう数名は納得したような、そうでも無いような微妙な顔をさせる。
使駆の言葉は暗に、オールマイト以上の身体能力を持つと言っているように聞こえたのだ。
「はーい! 巻解くんの個性ってなに?」
先のない袖を挙げて元気よく尋ねたのは、不可視の肉体を持つ女子、葉隠透。
「書面上の個性名は、
使駆はそう言って、手首から先をプロペラのように高速回転させてみせる。
「つっても、マジんとこは偽物のパチ個性。この身体に備わった機能ってだけで、オレは今も昔も無個性だ」
回転は手首だけに収まらず、首や腰まで回す。その様はもはや生物的ではない。
「……あんた、小六までずっと無個性だったよね。身体も普通だったし」
腰と首が反転したところで停止した使駆が不気味な笑みを浮かべた。
響香が顔を白くさせながら、呟くように言う。
「春休みと中学の三年間、行方不明になってた時、何があったの?」
使駆はギャハハと笑いつつ、語る。
「春休み、家族とアメリカにいたオレは、悪の組織に捕まって、改造人間にされた。しかし正義の心までは失わなかったオレは、新たな肉体の力を活用して陰ながらに悪を挫き、弱気を助けつつ、三年の月日を掛けてついに一昨日っ、日本に帰ってきたっ! 親友に会いたいという欲求を抑えきれなかったオレは走り出し、颯爽と親友のピンチにかけつけ威風堂々に疾風怒濤! 下劣で愚かな悪を成敗! その様はさながら画面の向こう側が如く! ……で、今に至る」
道化師のようにわざとらしく、思想犯のように大袈裟で、逸話のように偽られた話を信じられるほど、現代の高校生は無知でもなければ子供でもなかった。
「なーんか嘘っぽーい」
桃肌で頭に日本の角を生やした少女、芦戸三奈がそう言うと、使駆も「そうだろうそうだろう」と笑いながら返す。
「でも残念ながら嘘じゃねぇんだな。……多少の脚色はあるが。脳が水槽に浮いてるでも無く、ただ電子化してコピーペーストされたとはいえ、螺旋構造の遺伝子が一本も無いとはいえ、巻解使駆の名は、記憶は、心は、──微塵の欠落も無くここにある」
コーヒーに牛乳を混ぜ続けると、だんだんとカフェラテになりコーヒー牛乳になり、いつかはコーヒーでなくなる。なら逆に、どの程度の割合までならコーヒーはコーヒーでいられるのか、というような譬え話がある。
なら使駆はどうだろう。
その人の何を持って、その人とするのか。
遺伝子が一致すれば同一人物と言えるだろうか。生身の使駆と機械の使駆は違う。
思考も同じなら同一人物と言えるだろうか。一般人の使駆と殺人鬼の使駆は違う。
記憶も同じになれば同一人物と言えるだろうか。過去の使駆と未来の使駆は違う。
名前が同じなら同一人物と言えるだろうか。顔が同じなら同一人物と言えるだろうか。声が同じなら同一人物と言えるだろうか。
結局のところ、当人の認識次第なのだろう。自他ともに認める、というやつであって、第三者視点で見分けなんてつくはずがない。――しかし同一人物であることの証明は容易い。
巻解使駆は、混ざりっ気なく巻解使駆である。それは確定事項であると、断言しよう。これは変わることのない事実である。
たとえ、巻解使駆が三年間のうちにどれだけ変貌していたとしても。
巻解使駆のプロフィール
ヴィラン名 マキナ/轢殺専門の殺人鬼
個性
学校・学年 雄英高校ヒーロー科1年A組
出身校 無し
誕生日 6月6日
身長 142cm
血液型 無し(元A型)
出身地 アメリカ生まれ、静岡育ち
好きなもの ミニ四駆/可愛いもの全般
性格 近代芸術的美学/殺戮的聖人/笑い上戸