「よろしくね」
「よろしく〜。先輩、大丈夫なの?寝落ちしない?」
「大丈夫です、今回は楽しみな部隊も出てきますからね!さて、昨日来られなかった隊員に向けて今回の交流戦についてご説明いたします。この交流戦は遠征選抜試験の選抜対象外となったB級下位グループと、新たに来期からB級ランク戦に参戦する予定の新設隊が、ランク戦と同じ形式で繰り広げられるエキシビションです。もちろん、この結果による来期への影響はないのですが、下位グループは今期の悔しさを見つめ直す機会に、そして新設隊は来期のデビューに向けた練習の場として参加頂いております!」
「そうね。今回の遠征はかなり大規模になりそうだし、通常よりもシーズンの間隔が空くから良い機会だと思うわ」
「そして、今回の2日目第1戦はいきなり注目カードになります!参加部隊の紹介、そして新設隊の解説をしていきましょう。まず下位グループからは前期14位から17位にランクダウン、中位から降格して今一番悔しい思いをしている早川隊。前期20位から16位にランクアップして中位入りを目指す、勢いのある常盤隊。そして、新設隊の中では結成時期が一番遅い、駆け出しのルーキー部隊、甲斐隊が登場です!」
「甲斐さんが部隊作ったって聞いたときはびっくりしたよ。ずっとソロでしてるって思ってた」
「ほぅ……甲斐隊長のことはご存知で?」
「うん、たま〜に個人戦してるよ。だいたい俺が勝つけど!」
「なるほど……。さて、新設された甲斐隊のメンバーとトリガー構成はこちら!やはり目立つのは……」
「山井先輩だね。何でこんな人が今までソロだったのさ」
「長年記録室の一室を独占していた『ヌシ』がついにB級ランク戦に参戦!このトリガー構成は……」
「私のに似ているわね」
「実際、那須さんリスペクトっぽいよ?甲斐さんが言ってた」
「山井さんは私と同じようにトリオン体の治験に参加しているって聞くし、親近感を感じるわ」
「続きまして徂徠隊員!なんと言ってもその特長はスコーピオン、個人ランク戦ではマンティスをよく使うそうです」
「へぇ……マンティスよく使うのって影浦先輩と遊真先輩くらいだと思ってた。面白そうだね」
「評価シートでは影浦隊長以上の機動力を誇るとのこと。近距離戦に注目しましょう!そしてオペレーターは胡桃澤隊員。彼女、私より年下なのですが戦況把握や状況分析においては現役の部隊オペレーターにも引けを取りません!少しメルヘンで感覚的なオペレートが特徴ですね」
「加賀美先輩と似てんのかな?」
「感覚的ってそういう意味じゃないんだと思うけど……」
「そしてそれらを率いる甲斐隊長!4人の中で入隊歴が一番浅い23歳!社会人から入隊した異色の隊長です!」
「鉛弾……って、彼女アタッカーよね。使えるのかしら?」
「結構おもしろい使い方するよ!俺も最初やられたときは3本連続で負けちゃったし」
「緑川隊員も苦戦するほどのトリックスターなんですね……!さて、今回の交流戦ではマップがすでに市街地Aで決められています。標準的なマップでどのような戦い方をするのか、注目ですね。さぁ、もう間もなく転送開始です!」
「交流戦は、『オプション』でいこうか」
「『オプション』……って聞いてねぇよそんなの」
新しく割りあてられた『甲斐隊』の作戦室。薄暗い中で電子テーブルと隊員肝いりのクアッドディスプレイが光る。隊長のユウキは交流戦を前にして、3人の隊員に向けて宣言すると、真向かいにいる攻撃手のナギがもっともな反応で返してきた。
ナギの言う通り甲斐隊における戦術のレパートリーはひとつしかない。そもそも甲斐隊4人で他の部隊と戦ったことは1度しかないのだ。ベーシックもオプションもない。
ナギの隣ではオペレーターのあのんが戸惑った表情を見せている。
「あぁごめん、ちゃんと説明する。うちらの戦術は私が引き付けマイが誘導してナギで仕留める……これはこの前もやったし今後もこれが基本ね」
「そうですね。今回これでやるかと思ってたんですけど……」
「うん。これを私とナギが周りを狩っていって、マイが援護って形にする」
電子テーブルをスワイプして自分の隊を表すアイコンを移動させる。
B級上位にランクされた部隊は、それぞれに大きく違う役割が分担されそれが一個として機能する戦術がとられるチームが多い。例えば影浦隊や弓場隊、玉狛第二のように意図するところに持っていければ強い戦法だ。その一方で、誰か一人でも落ちてしまうと作戦をその場で練り直す必要があるのが難点だ。
それに対して安定感を出していくために主戦と援護の2つに絞って役割を分担させていくのも部隊編成における定石のひとつだ。東隊や那須隊、香取隊がそれにあたる。
今回の『オプション』は予期せぬ出来事にも対応しやすい作戦ではあるが、今回の交流戦ではもうひとつ目的がある。
「そんなわけでマイ、今回援護のためにライトニング担いでくれない?」
「なんで」
シューターのマイが自前のクアッドウィンドウで対戦相手のログを見ながら視線を変えずに抗議する。傍から見たら失礼極まりないのだが、応えている以上彼女の意識はしっかり割いてもらえているのでユウキは気にせず続ける。
「マイのバイパーは強力だけど当てないでしょ。ここで千発零中でもして、対策立てられるとまずいから、今回は極力封印。ライトニングでひたすら相手をチクチクして」
「……わかった」
「えっ?!マイちゃん狙撃手できるんですか?」
マイは人を撃ち抜くことを極端に避ける。
技術的にもできるし玉狛の狙撃手のように精神的に弱みがあるわけでもない。『極力人は落とさない』、文字通りのマイルールなわけだ。
しかし、それが故に精密に『落とさない』射撃能力を誇るシューターでもおる。……もちろん、有能なくせして今までチームを組まずソロであった理由もその点であるのだが。
「えぇ、いつもはアイビスだけど。ここで使ったら火力過多。そういうことでしょ、甲斐さん」
「うん、そゆこと」
マイは、個人的興味からアイビスを使って狙撃手訓練にも参加しているようだ。狙撃している姿は見たことないのだが、なぜかバイパーよりもアイビスのほうが個人ポイントが高いのは、その技術の証左であろう。
「……ユウキはどうすんだよ」
「鉛弾の代わりにハウンド入れてく。常盤隊の攻撃手にぶつけられるといいかな」
ユウキは今まで剣に触れる機会も少なかったし年長の新人であるために、戦闘のセンスは高いとは言えない。
自身がタンクではなく攻撃に出向く『オプション』では、容易にターゲットを攻撃できる中距離トリガーを必要とするのだ。
練習はしたものの実戦でははじめてだ。しかし、弧月をつかう常盤隊の攻撃手に初見で当てられたら意表を突くことは可能なはずだ。
「で?ボクは何をすればいいんだ?」
「ナギはウチらのエースだから、ひたすら相手を倒せばオッケー。今度は好きにしていいから乱戦に巻き込まれないように気をつけて」
「りょーかい。命令通り、好きにさせてもらうぜ」
ボーダー屈指の機動力とスコーピオンをもつナギは紛うことなき甲斐隊のエースだ。
『オプション』によってそのスピード感が失われてしまうのはもったいない。ナギはシンプルな戦闘スタイルが故に、周りの動きひとつで見え方が大きく変わる。本命を隠す今回の交流戦で、この手を使わない手はない。
「あのんはアラート優先。不意討ちされないように相手のいる範囲は常にあたりつけといて」
「わかった。ユウキちゃんが狙われやすいのは変わらないと思うから、優先してみるね〜」
「頼む」
あのんのオペレーターとしての一番の長所は、戦況の正確な把握と予測だ。
相手がバッグワームでレーダーから消えようと、それまでの動きや味方の位置からほとんど正確な場所を把握し、まるで読み慣れた絵本のように、スラスラと諳んじることができる。たまに意図していることが分からないナビゲートもあるが、模擬戦のあとの打ち合わせですり合わせも終わっているのでその心配はないだろう。
『まもなく転送開始です』
「今回の目的は本命の隠蔽と戦術の拡充、ランク戦の下準備。その上でB級下位なんて……ぶっちぎるよ」
「オッケー」
「ええ」
「いってらっしゃ~い!」
甲斐隊の未来はもう動き出している。
ユウキは軽く息を吐くと交流戦の戦場へと飛び込んだ。
『作戦を伝える。まずあのんは攻撃手ふたりの予測円を切らさないで。ウチらが入ったらアラートも頼む』
持たざるものの戦い方にはいろいろある。その中でも、目の前にいる彼のやり方を疎ましく思っていた。
『マイ、雨取さんのマークできてる?またメテオラとかアイビスとか撃たれる前に仕留めてほしいんだけど……あぁもう、わかった!仕留めんで良いからマークは継続。次はやらせないで』
すべての根幹にあるのは歪んだ自己像。同じものを持っているのに無自覚であり、それでもまだ『痛い目』を見ていないのだ。
『ナギ、できればマイの援護圏で戦ってくれる?空閑さんに手の内見られてるんでしょ。ならカナダ人の方の動きを抑えてくれると嬉しい』
彼と彼と……彼女は違う。本当は持つものであるのに持たざるものとして扱われる人に対して、自分の答えによって上回らないと気持ちにケリがつかない。
『私は……目の前の隊長をやる。さっさと落としてナギの援護に回るよ』
そして見据える。真正面から。
雨の中、サングラス越しに見える彼の姿を。
『3対4だけど、ウチらなら……どうにかできるし、どうにでもできる』
運以外はできるだけ塗りつぶした。そして残った純粋な実力を全てベットして、勝負に出る。
【この時、ボーダーの《勝負師》は誕生した】
さぁ、最後のショーダウンだ。
show down!! 第二部
『勝負師の誕生』 完結