京田隊に所属する15歳。これといった武器はないが野生の勘が人より優れており、『普段は大したことないのに、パッと思いつきで役満上がってしまう』タイプの人間。チーム模擬戦でマイの読みをかわして撃墜できたのも「別に距離あるわけではないからアイビス使ってもいいでしょ」だかららしい
私は雨が好きだ。正確に言えば身体を動かして気持ちが昂ぶっているときに降る雨が、より自分の気持ちを高めてくれる。
きっかけは学生時代から取り組んでいたトライアスロンだろうか。ロードバイクに乗っているときに、水着のようなトライスーツに大粒の雨がリズミカルに当たるテンポで途切れがちな集中力を締め直してくれる。
ランニングの時は尚更だ。41.5キロ動いて火照った身体を冷ましてくれる。おまけに髪をかき上げたらいい感じに止まってくれる。
アマチュア日本選手権出場を決めたときも霧雨の降る福島だった。雨の中で後続を振り切り入賞を決めたときのあの歓喜は忘れられない。独りだけ置いてきぼりだった競技人生でやっと追いついたことを実感できた最初の成功体験なのだろう。
そういう意味ではソロ戦で天候をいじれないのはなんでだろう? まぁ模擬戦でできてしまうので文句はないのだけれどマップランダムなのだから天候もランダムにしてもらいたいものである。大雨の中であれば何本やってもできる。しかもトリオン体なので風邪もひかない。これこそ最高に……
「甲斐さん、その話ってどれだけ続くの?」
「あぁ……長くなりましたね。ごめんなさい」
界境防衛機関ボーダー内のラウンジ、普段隊員たちが打ち合わせや食事に顔を突き合わせる場所で対面していたのは隊服の違うふたり。
一方は【交流戦】を経て、より詐欺師じみた評価が高まった甲斐隊隊長である甲斐祐希(ユウキ)。真向かいに座って原稿用紙とにらめっこしているのは、甲斐隊と同時期に部隊を新設した京田隊の狙撃手で『変態バイパーを落とした奇跡の人間』若山白羽(シラハ)。もとから交流のある二人ではなかったのだが、一週間前に対戦して以降すれ違う時には会釈するくらいの仲にはなった。
「甲斐さん、お願い! 明日までの宿題見てもらえねぇか?」
「あぁ、うん。いいですよ」
シラハがユウキに両手で拝んだのは四月の二週目。まだB級隊員の大半が遠征選抜試験に臨んでいる間のことだった。宿題は『雨の日』をテーマにした作文。公立高校に入学した彼の、初めての課題であった。
最初は快く請けたユウキも、真っ白な原稿用紙二枚を見て長丁場を覚悟した。その結果、数分後には二人の座るテーブルにはユウキが売店で買った糖分補給用のお菓子がうず高く積まれることになった。
「で? 若山さんは雨で何か思い出とかありますか?」
「あぁ、うん。ネイバーが襲ってきたことかな。」
「……ごめんなさい」
第一次大規模侵攻以前からも、ボーダーの体制が整うまでの間多くの人間が襲われ攫われたと聞く。それでもその日を境に『神隠し』は『明確な事件』になったし、大っぴらに建物を破壊するトリオン兵も増えたようだ。
「いや気にすんなって。俺んとこは家が半壊したくらいで何もなかったんだから」
「三門市育ちとそれ以外とで、こういうところがズレるんでしょうね」
「いやだから気にするなって」
シラハがポテトチップスの袋を破いて、内側を下敷きになるように丁寧に開く。そしておもむろにバッグの中から箸ケースを取り出すと、中にある箸で中身をつまみだした。
右手にシャーペンを持って作文を書いて、左手でお菓子をつまむ……。嵐山隊のスナイパーってこんなことも実際できるんだろうな、とユウキは感心する。
「人には気にすることと気にしないことがあるんっすよ。俺は過去のこと掘られても気にしないけど、ポテチを素手で食うやつは気にする」
「……まぁ、うん。そうですよね」
「甲斐さんが気にしたがり屋なのは知ってるけど、一回気にしなくなれば案外楽だよ」
「そうかも、ですね」
「だから俺の宿題ができてなくても気にすんな」
「それは気にするからしなさい」
「面倒くさいなぁ」
「やらなかったら雨設定で模擬戦してもらいますよ?」
「…………勉強します」
窓から外を見やると、10分前から見違えるほど暗い空から大粒の雨が降っていた。ユウキは夕立を眺めながらさきほど語っていた自身の武勇伝を思い出したのか唇の端を歪ませると、真向かいにいるシラハは真顔のまま『こんな大人にはなりたくない』と決意を新たにした。
2022年06月20日 00:00
#WT_RainyDay
【show down!!】『EP・4.1 甲斐さんの話は長い』
意外となかった日常回。『雨の日』テーマで自分の話をし始めると、とにかく長い甲斐さんできました。ヤマなしオチなし意味深長、略してヤオイです https://t.co/0cMluboKFQ
ハーメルンで読んでいただいている方には急に話が飛んだEP・4.1。エピソードの書き方を後悔しました。京田隊のシラハはちゃんとこのあと、EP.3でちゃんと出ます。
『雨の日』をテーマにしたTwitterへの企画投稿でした。ただでさえ短いのにもっと短いです。文章力と語彙力カマン。日常回で何もないように見えて、実際意味を含めています。甲斐さんの口調とかね。
次回はちゃんと本筋に戻ります。たぶん。