八木沢 秋保(やぎさわ あきほ)B級射手
ソロのシューター。16歳。
「自分自身が評価される場所」を求めてボーダーに入隊し1年活動している。基本的に性格はほんわか、おっとりしていて気遣い上手。人の喜ぶ顔が見たいタイプ。のほほんとしている感覚派に見えるが、裏ではかなり勉強している。実は頭脳派。
・ステータス評価
トリオン……8
攻撃……5 防御・援護……6
機動……5 技術……………5
射程……8 指揮……………2
特殊戦術……1
トータル……40
・トリガー構成
MAIN
アステロイド
メテオラ
シールド
FREE
SUB
ハウンド
FREE
シールド
バッグワーム
作・明咲さん(ツイッター)→ @kurihara_wa
2月22日。個人ランク戦のブースの中で、八木沢秋保はいささか苛立ちを隠せないでいた。
モニターには2分前の個人ランク戦、格下相手に五勝五敗の結果を残した残酷な結果を知らせている。個人ランク戦は比較的苦手ではあるが、ここまでスコアがボロボロになった理由を本人は自覚していた。
この、俗にいう格下(失礼なことを自覚している)相手にも、楽勝で勝てなかったのも、昨日届いたあの女からの手紙のせいだ。
手紙にどんな内容が書かれていたのかは覚えていない。差出人が分かった時点で破り捨てたから読みもしなかった。だから何も言われてないのと同じだし、気にする必要もないのに、一番嫌いな相手から手紙をもらったという時点で秋保は気が立っていた。
そんななか、個人戦の対戦希望通知がタブレットに届いた。責任転嫁しかけた頭を振り払って画面を見ると、そこには『スコーピオン2265』という表示があった。数値から見るに恐らくC級隊員からだ。
C級隊員は基本的に同じポイント帯の隊員としか対戦ができない。ロックを外す操作をすればもちろんできるのだが、装備の違う相手に挑むメリットはない。
……何かのバグか、もしくは選択ミスではないだろうか。秋保はスッと立ち上がって対戦を希望してきた相手に通信を繋げた。
「あの〜、試合前にごめんなさい。私、B級なんですけど……押し間違えちゃったりしてませんか〜?大丈夫です?」
「いえ、間違っていません。5戦勝負でお願いします」
間髪いれずに返ってきた音声は男女どちらとも取れない中性的な声。有無を言わせぬ物言いに少しむっとしながら、改めて確認する。
「えぇと、キミはまだB級じゃないよね? だったらランク戦よりも模擬戦の方がいいと思うな。私もアステロイドだけにするし」
「いえ、負けても大したことないので大丈夫です。フル装備できてください」
「キミがいいならいいか。じゃあ、開始するね〜」
秋保は相手の反応を待たず、通信を切ってすぐに対戦開始のボタンを押した。腑には落ちないが、わざわざ勝負を挑んできたということは何かしら理由があってのことだろう。どうも納得はできなかったが、無理矢理そう思い込むことにした。
そうして始まった5戦勝負は、一方的な内容としか言いようがないものだった。
ポニーテールとスポーツタイプのサングラスが特徴的な相手は、装備しているはずのスコーピオンは一回も出そうとしていない。ただただ手ぶらで走り回っている。真っ直ぐ向かってくればメインのアステロイド、横から走ってきたらサブのハウンド。──これでは的撃ちみたいだ。
だというのに。負け越しが決まった4戦目が開始になっても、サングラスの奥に見える据わった目つきは変わらなかった。そのどこか遠くを見ているような視線は、焦点が後ろの方でかち合っているようで、まるで自分を見ていない。
早く切り上げたい。焦燥感からか秋保は4戦目をハウンドで撃ち抜いたあと、通信を繋げる。
「……もういいんじゃない?何かの役には立ったでしょ」
「いえ、もう1戦。お願いします」
「……そう、いいなら別にいいけど」
こういうのはさっさと終わらせて次の勝負に行くことに限る。自分でも余裕がなくなっていたのを自覚していた秋保は、そう自らに言い聞かせて最終戦への転送ボタンを押した。
5戦目を開始する合図と同時に、相手は真っ直ぐこちらに向けて全力疾走してきた。今度はサングラスを外して素顔を晒しているようだ。中性的な顔つきに若干つり目。パンツスタイルもあって、余計に性別が分からなくなってくる。
そんな、情報過多な状況に思索を巡らせている一瞬にも相手は突っ込んできている。目測では40メートル。この距離ならこれまでと同じように右手でアステロイドを展開し相手にめがけて放つだけで良いだろう。なんてことはない。ただの斉射だ、外すわけがない。
──しかし外れる。
いや、外したのではない。
かわされたのだ。
相手は秋保の斉射を見るや否や、一度大股で跳ねるとタタタンと細かいステップを踏みながら右肩を前に出し、半身の体勢で全ての弾をかわしきったのだ。
「……つっ!!」
残り20メートル。このままでは距離を詰められてしまうだろう。
秋保はとっさに右手でメテオラを形成しなおす。ひとまず、扇状に放って落とせればそれでいい。万が一、当たらなくとも距離を空けられれば時間を稼げて勝機はまだ残る。
残り10メートル。ようやく形成と分割が終わった。
(まだ、大丈夫──。)
着弾起爆は5メートルでいいだろう。後ろにステップしながら発射すれば自爆はしないギリギリの距離感。
落ち着け、相手はスコーピオン1本なんだ。どう見繕っても──ボクには、届かない。
発射タイミングは完璧。下がる動作も足元にも問題はない。そして着弾位置もイメージ通り。あとは後ろ向きに走りながら距離を取る間に、沸騰しかけた頭を一度冷やせばいい。それから爆煙が晴れた頃に落ち着いて状況確認。それでもまだ残ってるなら、もう一度撃ち抜けばいいだけ。
────そのはず、だった。
「……しゃぁっ!!」
「────!!」
爆煙の真上から白い隊服が飛び出してくる。メテオラを飛んで避けたのか。
爆発に巻き込まれたのだろう、右足が歪に欠けている。
ハンドボールのジャンプシュートのように振りかぶった右手には、まるで60メートルは投げ飛ばせそうな細い形状の投げ槍。眼は一点に自分を定め、歯は食いしばっている。
距離7メートル。この体勢から全力で投擲され、身体のどこに向かうか分からないスコーピオンを一瞬で防ぐ術はない。
秋保は自身の負けを悟った────。
*****
『シューターとガンナーの違い?んー、甲斐さんはまだ仮入隊ですよね。機密上話せない点もあるんだけど、つまり銃を使わないことで臨機応変に弾を変化させることができるんだよね。威力あげたり弾速変えて緩急つけたり』
『僕?僕はこっちのほうが向いてるかな……?引き金引くだけで撃てるし、レバーでアステロイドとハウンド切り替えられるし……』
*****
2月22日、甲斐祐希は確信していた。対戦前に大型モニターで見えた彼女になら勝てる、と。
シューター相手にナイフひとつで勝ち目がないことは分かっている。しかし、時間がない祐希にとって、今後その射程の差を埋めにいかなければならない。祐希が彼女を対戦相手に指名したのは、シューター相手の戦い方に慣れるため。そして、そういった中で1本でも距離を詰めて『勝てる経験』を積むため。
5本目、相手がアステロイドの後にメテオラを用意しはじめたのは幸運だった。同じ側のトリガーを使ってキューブを組み直すのは、時間が比較的ほんの少しかかる。その内にトリオン体で強化された肉体であれば、かなりの距離を詰められる。
「……つっ!!」
彼女の焦りの籠もった息の音と同時にメテオラが扇状に放たれる。あからさまな逃げの一手。これさえ乗り越えたらあとはどうにでもなる。
間合い、頃合い、そして気合い。
この瞬間だけは、すべて揃う……
どん、ぴ、
「……しゃぁっ!!」
イメージ通り、メテオラをジャンプひとつでかわす。強化された肉体でタイミングさえ合っていれば、爆炎を難なく飛び越えられるのだ。
そしてジャンプと同時にスコーピオンを投げ槍のように現出。先程までやっていた入隊テストで試したのみの、ぶっつけ本番だったがスムーズに出せている。
相手は急な出来事に脚が竦んでいる。一瞬、動きが止まればこっちのものだ。
振り上げた右脚を真下に叩きつけるように下ろし、振りかぶった右腕と槍を相手に向けて投擲する。
が、
スカッ
下ろしたはずの脚が手応えもないまま空を切る。視線を下に追いやると脚が歪に欠けている。
……右足なしで投げるイメージは、していなかったかな。
そして、前に向き直ると相手の手前に突き刺さった槍とすでにハウンドの形成を終えている相手の姿。
「わぁ、きっつ」
ここまで相手を挑発しておいて勝てないとか、あまりにも痛々しい。
祐希は撃ち抜かれてトリオン体にヒビが入る感覚に慣れてきたことを実感しながら、先程までの行動を恥じていた。
「えぇと、ごめんなさい。態度悪かったですよね」
「……ですか?」
「はい?」
「ボクになら勝てるとでも、思ったんですか?」
「思いました」
「……どうして」
待機室のベッドに落とされた直後。まずはぶっきらぼうな態度を通信で詫びると、身体を起こす時間も与えられないまま音声が入る。その声は通信越しにも震えているのがよくわかる。内心ではよほどプライドを高く持っていたのだろう、戦闘前との態度のギャップが激しい。
これではどっちが勝ったのか分からない。身体を起こした祐希は、緊急脱出直後で妙に冴えた頭を掻いて言葉を選ぶ。
「考えすぎ……でしょうね」
「……っ」
「キューブ出してから撃つまでが長いんですよ。撃てる幅広さがメリットなんでしょうけど……時間かかりすぎてません?」
「た、確かにそれはそうかも」
「ガンナー、というのは考えなかったんですか?」
「考えてなかったなぁ。シューターでやってくって思ってたし」
プライド高く性格に二面性をもち、そして意地っ張り。どこまでも自分そっくりなんだ。
思わずついてしまうため息が、相手に聞こえてしまわないように祐希はベッドから立ち上がる。
「……転向考えても良いかもですね。アサルトライフル系で」
「なるほど、転向。その手もあるのか」
「見たところ弾はデカいですし、引き金引けば撃てるからシンプルですし……向いてると思いますけど」
「ねぇ、キミほんとにC級?入って長かったりしない?」
そんなことない、入隊初日だ。今の言葉だって仮入隊で一時配属された支部にいた隊長のものだ。祐希はまるで自分の言葉のように喋ってしまった事実に、少し面映ゆくなる。
「……仮入隊の期間はありましたけど今日、本入隊です」
「えぇ?!」
「今日はありがと〜。勉強になりました。あっ私は八木沢秋保だよ〜。よろしくねぇ」
わぁ外行きの顔に戻っている。
ブースの外に出てロビーで彼女に合流した祐希は、失礼極まりないことを思い浮かべながら自分より背が低くほんわかとした雰囲気のする彼女から差し出された手に応える。
「甲斐祐希です」
「甲斐さんね〜。今日は制服じゃないんだ?学校どこなの?」
「卒業しました」
「えっ」
「23歳のオトナです」
「……えっ?」
この反応ばかりは、まだ慣れない。相手が私服なら学校は休んできた……。そう思われても当然だ。ボーダーの防衛隊員に、成人の新入隊員はかなり少ない。
驚きというか若干青ざめた秋保の表情を見ながら、祐希は諦めとともにアハハー……と乾いた笑いしか返せなかった。
今回はコラボ小説、ということでいつか書くshowdown第一部の場面から切り抜いて書きました。八木沢秋保さん、姉が絡むと牙をむき出しにするダックスフンドみたいな可愛い方でした。
タイトルにもあるように合作というのも、前半部分を相手方の明咲さんに書いていただき、それをこのページに載せる際再構成したものになります。
じゃあ原作はどうなってたのか、それは本人のサイトよりご確認くださいませ。
https://twitter.com/kurihara_wa?t=EKEAqw87947RdZ6PQ6XUWg&s=01