show down!!   作:トンプソン@ワートリ

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徂徠凪①『EP.2 黒のナイフにオール・イン』【加筆修正版】

 

 

「私ならソロ戦こなしてるから、フリーの隊員でエースになれる心当たりは何人かいる」

 

嘘である。

 

 甲斐祐希は個人ランク戦の待機室で内心焦っていた。ボーダー入隊当時から付き合いのあるバイパー使いをスカウトすることに成功した後、3日経ってもエースをスカウトできていなかった。

 ソロ戦をこなしているのは嘘ではない。しかし、ソロ戦であたっている強い隊員の多くは部隊に所属していたりするのだ。長髪の似合う弧月使いや幻踊を使いこなす絵描き、とんちきな戦い方をするひょっとこ仮面とか眼帯モッサリヤンキーとか……。

 

(そういえば、みんな弧月使いだなぁ)

 

 B級になって他人を誘わず、いわゆる『野良戦』を行う隊員はそこまで多くない。ユウキはタブレットの待機中一覧から6500ポイントに到達した弧月使いを見つけると対戦希望のメッセージを送った。

 

 

 

「対戦ありがとうございました」

『おぅ、ありがとな』

 

4勝6敗。

 

 エースになりえないだろう。通信を切りながら内心で彼のことも切り捨てた。

 実力ある人なのは間違いないのだろうが、オプショントリガーを使わなくても2勝できてしまう程度である。さらにソロ戦ポイントを確保するために全力で挑んだ最後の2戦でユウキの鉛弾に全く対応できていなかったあたり、最初から縛りを設けていなかったら問題なく勝ち越せていたと思う。

 理想は高い。しかしタンクとアシストがすでに揃っているチームにおいて並程度の攻撃手では、ユウキに転属を勧めた上層部を納得させられる成績を収めることは不可能に近い。それ以前にあの屁理屈屋の承認も得られない。

 このままエースが見つからなかったら相棒にどう言い訳しようか……。ユウキはタブレットをスワイプしながら最悪の状況を想定していると、他の待機室からの対戦希望が画面に表示された。

 『スコーピオン:4565』。先程の対戦で格上相手に惜敗したことで、同じスコーピオンのポイントが6,000に到達したユウキからしたら格下の相手である。このポイント差であれば負ければもちろん、場合によっては勝ち越しても失うことになる。

 一瞬だけ考えて、それでも対戦を引き受けたのは、嫌味で全武装をキメた彼女に言い訳で勝てる手段がないと判断したからである。

 

「あー、はじめましてですよね。よろしくおねがいします」

「……」

 

 転送された場所で相対したのは肩までかかる髪に真っ黒い隊服……ユウキと同じ柄で色違いものは、相手が自分と同じソロ隊員だということを示していた。

 挨拶を終えたユウキが刀身を黒く設定したレイガストを現出しようとした瞬間。

 

 慣れた感覚が首を通過した。

 

 刹那の斬撃。

 

 スコーピオン1本だけでは、瞬時に首を跳ね飛ばすことはできない。

 

 で、あるならば、

 

「マンティス……!」

 

 ユウキは眼下に首のない自分の身体を認識しながら、目にとまることのなかった自身のものと同じ色のスコーピオンを一瞬遅れて認識した。

 

 

 結局のところ9戦目までこなして、ユウキは黒ずくめのスコーピオン使いに太刀打ちすることができなかった。

 第2戦ではユウキは相手にスコーピオンを構えられる前にレイガストを盾モードとして起動し、突きに対して正面に構える。しかし、『黒ずくめ』の剣の軌道は盾をかいくぐるようにかわすと、ユウキの胸部を正確に貫いた。

 

「……まじか!!」

「……」

 

 本来のマンティスは2本のスコーピオンをほぼ同時と言えるシビアなタイミングで順番に発動し、しなったムチのようにその切っ先を伸ばす技である。しかし『黒ずくめ』のマンティスは、2本目に発動したスコーピオンを曲り刀のように大きく曲げ、的確にユウキの胸を貫いていた。

 考案者の影浦でさえ、まるで幻踊のように2本目のスコーピオンを的確にコントロールすることはできない。

 

(これは……もしかすると……)

 

 3戦目もユウキはマンティスに対応することができなかった。

 転送直後から距離を取ろうと後ろに下がるも、『黒ずくめ』はグラスホッパーを起動。マンティスの間合いに入られると一太刀、ユウキに向かって伸ばしてくる。ユウキは間一髪、起動が間に合った黒いスコーピオンの根本を相手のマンティスの切っ先を合わせ、先端の薄くなった刃を砕く。

 

「これで……」

「甘いね!」

 

 勝利を確信したユウキに『黒ずくめ』がニヤリと微笑むと、マンティスを解く。重心を崩したユウキが一瞬身体が前のめりにつんのめると、その隙をついてスコーピオンを彼女の胸に突き立てた。

 4戦目から以降、さらにギアをあげた『黒ずくめ』に対応できることもなく、さらに速いペースで黒星を積み重ねていった。

 

 9戦やって9敗。『黒ずくめ』は強い。剣の腕を競ってユウキが叶う相手ではない。

 脱出マットに飛ばされた彼女は全戦全敗の重さを噛み締めていた。距離を離しても寄せても、自分以上の速度で反応する。ユウキの実力では1勝どころか、相手に傷をつけることすら叶わない。

 そうした絶望的な中でもユウキは唇の端に笑みを浮かべ、端末から対戦相手への通信を開く。これから罠にかける相手に悟られないよう、昂ぶった心を抑えて演技する。

 

「強いですね!太刀打ちてきませんよ……」

「アンタが弱いだけじゃねーの?スコーピオン6000とか冗談だろ」

「今の対戦で5800まで減りましたけどね……。あなたこそ何なんですか4700って、実力にポイントが見合ってないです」

「うるさいなぁ……アンタには関係ないだろ?」

 

 『黒ずくめ』は突然の通信に対して即座に返答した。ユウキが想像していたより音程の高い、少年と少女の中間にあるような声でこちらを嘲笑していた。

 そして図らずもこの会話で『黒ずくめ』が自分のことを知らないことが分かった。ユウキは自分のポーカースタイルがソロ戦の界隈で目立ちやすいのを自覚している。手の内がバレていて、この後の本命がお見通しであったら今までの敗戦が全て無駄になってしまう。ユウキは情報を得られた達成感を声色に出さないようにして続ける。

 

「それでしたらそうですね……。賭けをしませんか?」

「はぁ?」

「あなたがこのあと勝って10戦全勝したら、私の持ってるスコーピオンのポイント全部あげます。実力はマスターレベルですし、それくらいポイントもっててもおかしくない」

 

 気になった女の子をデートに誘うかのような軽いトーンで、ユウキは自身のポイントを全てベットした。





徂徠 凪(そらい なぎ)B級攻撃手
作・のすけさん(ツイッター/引退)→ @N_1s1_
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