「すみません、あのんさん。急なお願いにも聞いてくれて」
「あ、いいえ。大丈夫です!」
ナギをスカウトした直後、ユウキはマイの紹介で部隊のオペレーターになる予定である胡桃澤あのんに連絡を入れて会っていた。小柄な背丈にウェーブのかかった長い髪、まるでおとぎ話に登場する主人公の少女のような外見をしていた。
初顔合わせでは簡単に部隊の説明をしつつ、急遽対戦することになった京田隊のデータを渡すだけで終わり、こうしてちゃんと顔を合わせたのはその翌日、つまり今日であった。
「山井さん、怖くなかったですか?」
「そんなことないです!すっごく綺麗で憧れます!」
「あーあの人、顔すごい良いですからねー」
あのん曰く、マイのスカウトはごくシンプルで『あなたフリーよね?並列処理のオペレーター探していた。だから入ってほしい』という乱暴な三段活用で勧誘をしていたようだ。あまりの唐突なスカウトに驚いたものの、彼女のお姫様のような外見に惹かれて入隊に承諾したとのことで、ユウキはマイの整った外見を改めて認識していた。
「あっそうそう。昨日渡したスカウティングシート、覚えられました?」
「はい!大丈夫です。ゆうきちゃんが木こりさんで、ナギちゃんはライオンさん!」
「……うん、関連付けられてるならいいです。まぁ模擬戦ですし、勝っても負けても大丈夫だけど、やるからには勝ちましょう」
「りょーかいです!!」
ウキウキ顔のあのんを連れて、今回の模擬戦用にあてがわれた『山井隊』の仮設作戦室にふたり入室した。
「遅せぇぞ」
「ナギさん、ちゃんと時間には来てますし。……したら、作戦会議します?マイ隊長」
「私隊長になった覚え、ないけど」
「違うんですか?!」
「入口に書いてたよ。山井隊の作戦室だって」
「じゃあ臨時隊長より命令。甲斐さん、あなたが仕切りなさい」
『山井隊』隊室に入って早々、あろうことか当の隊長は自分の役目をユウキに押し付けてきた。横ではあのんが目を丸くしていて、職務放棄をするのかと驚いているようだ。一方ですでに部屋に入っていたナギは驚いた表情を見せつつも、鮫のような刺す視線はユウキに向けられたまま動かない。
……視線を向けられた当の彼女は、この展開を予測していた。以前マイは自分で隊を持ちたいって話をした際に、どう指揮を執るんだと探りを入れたら『指示待ちはいないから勝手に動けばいい』とか言っていたあたり、その放任は当然とも言える。
しかし思ったほどタイミングが早い。ユウキはため息をつきながら携帯端末をポケットから出す。アプリを接続させ、作戦室の電子テーブルに事前に準備していたマップを映し出す。
「……分かった」
三人に向き直ってユウキは肩を一度上下させる。遠慮して大事なことを見落とすことのないように、自身のうちにあるスイッチを入れ直す。
彼女は携帯端末に指を滑らせて、電子テーブルの上に『山井隊』隊員のトリガー構成、対戦相手の予想構成を載せた。一瞬マイが自分に対して睨みをきかせているような気がするが、見なかったことにする。
「そしたら、今回の作戦の概要を伝える。相手は京田隊。マップは市街地D。ショッピングモールのところね」
「あぁカゲ先輩がカッコよかったところだな」
「うん。基本的にモール内で戦う方針で。マイはシューターだけど、メインはバイパーだから、弾道計算でどうにかできるでしょ」
「えぇ」
「チッ……シカトすんなよ」
「……あの、電気対策とか、しますか?」
「それはしなくても大丈夫。今回は中立選定だからマップ以外の条件はいじれないし」
本来弾道が限定されて不利であるシューターのマイは、高い演算能力から変化弾の軌道を毎回設定して射出している。建物内であっても彼女に関しては全く影響しないと考えられる。
さっきの『カゲ先輩』の言及を軽くスルーしてしまったせいなのか、ナギは不満そうな顔のまま右手を挙げる。
「で、ボクはどう動けばいいんだよ?」
「ん? 基本みんな好き勝手動いていいよ」
「そんなんで勝てんのかよ?」
「今回は勝ち負けが目的じゃないから大丈夫。三人で動いたときにどんなことが起きるかっていうのを見たいかな」
ここに集まったユウキ・マイ・ナギの戦闘員三人は、あまりにも一個部隊として噛み合わせが良すぎる。ユウキが敵の視線を引き付け、マイが『鳥籠』で動きを封じる。そしてお膳立てされた戦場でナギが敵を狩り取る。
スリーマンセルで得意とするところに持ち込めば強いが、その一方戦術のバリエーションが増やしにくい。増やすためには、実戦で動いたときのフィードバックがどうしても不可欠だ。
「でも勝ちに行くよ。場合によっては指揮を執るけど、基本はないと思って」
「わーった。三人まとめて狩ってやる」
「マイも好きに動いて。でも自分のすることはちゃんと報告すること」
「分かった」
分かりやすくやる気を出したナギに続いてマイにも基本方針を伝える。マイはユウキの指示に対しては、彼女なりの妥当性がないと従わないだろう。ただマイの考える妥当性というのは高度に計算された『正解』なので、ユウキは信用しつつも釘を刺す。さらに、うっかり忘れてしまわないように保険もかける。
「あのんちゃんは、マイの索敵と共有のフォロー。たぶん一番大事な仕事」
「はい! 分かりました」
マイの記憶力のなさは鶏にも劣る。本当に、ホウレンソウは大事なのだと、噛み締めながらあのんに方針を伝えた。
「で、相手の対策はすんの?」
「いや構成だけ覚えてもらえたらいいよ」
「あっそう。……ならいいんだけどさ」
ナギの指摘にユウキがテーブルを指さす。京田隊は射程の異なる三人で構成されたオーソドックスな部隊だ。
隊長の京田は旋空弧月使い、中西はアサルトライフル、若山が唯一イーグレットとライトニングを使い分けるスナイパーだ。三人ともB級に上がりたてというところから収集できた情報も少ない。個人ランク戦と狙撃訓練から予測は立てているものの、アテが外れる可能性は十分にある。
そのあたりは計算に入れているが、余計な思考で行動を鈍らせたくない。
「そういえばマイ、どうして急に模擬戦の約束とか取り付けたん?」
「向こうから誘われた」
「そう。何事も経験だから、模擬戦はありがたいんだけどさ。……そしたら、もうすぐ転送だから各自準備して」
『記録室のヌシ』と呼ばれているマイが、自らすすんで相手に模擬戦をセッティングするわけがない。誘われた事自体に感謝している。しかし、その理由が分からないことにユウキはひっかかりを覚えつつも残り少ない転送時間に向けて身支度を指示する。
「甲斐さん」
「マイ、どしたの?」
「あんたのトリガー構成……分かってるんでしょ」
「バレてた?」
「当然」
「……分かってるよ。ちゃんと配分は考えるから安心して」
「勝つ気はあるの?」
「……当然」
胡桃澤 あのん(くるみざわ あのん)B級オペレーター
作・のすけさん(ツイッター/引退)→ @N_1s1_