show down!!   作:トンプソン@ワートリ

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胡桃澤あのん①『EP.3 出たとこヘッズアップ』【加筆修正版】

 

 

『マイちゃん、モールの西でバッグワームしてる。ナギちゃんは外の南側、ユウちゃんは外の北東』

『了解』

 

 あのんの声が脳内通信で響くなか降り立ったのは屋外、ショッピングモールの外だった。左手をひらいてレーダーを覗く。場所を晒しているのが三人、モールの中にいるのが恐らく京田であろう。ユウキ同様、敵を引きつけるのに最適であると見た。

 

『それじゃあナギは、モール一階で私と合流。マイも来れる?』

『りょーかい』

『わかった』

 

 ユウキの指示に、ナギとマイが応える。

 一番の理想形は合流して三人で動くことだ。その結果、勝っても負けても問題点を洗い出して次回に活かせる。幸が不幸か、大規模な遠征選抜試験が予定されているために次回のランク戦が大幅な編成変更され、かつ開催自体もだいぶ後になるとのこと。しっかり修正すれば玉狛第二に継ぐ参入シーズンでの上位入りだって現実的に考えられる。

 

『まいちゃん! 七時に敵!』

『っ?!』

 

 あのんから入った急報に、ユウキが目を見開く。バッグワームを着ていたマイが見つかることはないと思っていた。可能性があるとしたら、相手の狙撃手・若山のヤマを張った待ち伏せ。なんとまぁ運の良いことで、とユウキは感心していた。

 マイなら上手いことガードしてバイパーで返り討ちにしてくれるはず。

 

『マイちゃんベイルアウト……ガードしたのに割られちゃった』

『なんで?!』

 

 まったく想定していなかった状況に、ユウキの脳内に宇宙が繰り広げられていた。マイは自身の卓越された思考速度と精度から、擬似的に実力派エリートばりの予知を発現できる。そのうえ病弱な身体面もトリオン体で克服済。彼女の「疑似予知」を上回る動きをしなければ、大抵の相手に落とされることはないはずだ。

 

『たぶんアイビス。バッグワーム着ながらシールドしてたから厚くなかったと思うの』

『……了解』

 

 あのんの言葉に納得がいった。彼女の能力はサイドエフェクトではなくあくまで推測に基づく統計学。限りなく可能性の低い選択肢を切り捨てる傾向がある。京田隊のスナイパー、若山はデータ上イーグレットとライトニングの二本持ちであった。ユウキもそのように記憶しているし、彼女もそのように推測していたはずだ。

 そこにバッグワームを解除して姿を晒した狙撃だ。とっさの判断でシールドを張るならどうしても片手間になる。そこを若山は読みで上回ったのだ。

 しかし、その結果『山井隊』の要たるマイを落としてしまうという一番悪い状況を引き起こしてしまっている。

 

『大丈夫だよ! まだ勝てる範囲にいる』

『…………ありがとう。とりあえずナギはバッグワーム着て。モールに入るのはストップ』

『なんでだよ?』

 

 あのんの言葉で、思考がネガティブに埋められかけたユウキを引き戻す。勝てる範囲であるならは、できることはまだまだある。

 ユウキが俯瞰マップを開いた時点で、ナギはまだモール手前のビルにいるようだった。ユウキが位置を相手側に漏らさないよう指示を出すと、ナギは案の定不満の声をあげる。

 

『好きにやっていいんじゃねぇのかよ』

『それはマイのアシストある前提だから、こっからは私が指示する。……大丈夫、ナギがかっこよくキメられるようにする』

『本当かよ? ……わーったよ』

 

 マップ上にあるナギのアイコンの移動が止まり、すぐに半透明になる。素直にバッグワームを着てくれているようだ。まずは作戦の第一段階がクリア。ここからナギが有利をとった状況で、京田隊にぶつけられるようにする方法を考えないといけない。

 どうしたものかと、思索しているとマイの通信が入ってくる。

 

『ごめん、アイビスでシールド割られた。敵の座標は……』

『ナギちゃん、ここの影に隠れて! たぶん、おおかみさんが目の前通る』

『おおかみさん? ……あぁ敵か。分かった』

『……胡桃澤さん、分かるの?』

『ヒェッ?! 割り込んでごめんなさい! 間違ってました??』

『いや、大丈夫。それであってる』 

 

 ベイルアウトして作戦室に転送されたマイの声を遮るように、あのんの指示が飛ぶ。ペコンと音がなると、マップ上の半透明のアイコンのそばにマーカーが設置されていた。マイも話を遮られたことに不満はなく、むしろ瞬時に状況判断と指示を行えたことに感心がいっているのだろう。

 絵本が大好きなあのんは、時折登場人物になぞらえた表現をすることがある。いきなり言われたので、ユウキもナギも反応が遅れたが周囲を警戒している敵を『おおかみさん』とするのは確かに的確に特徴をとらえている。

 

 ユウキはショッピングモールの北側にたどり着き、通用口をひらくと、少し離れた前方の広場にアサルトライフルを構えた京田隊の隊員と目があった。

 おそらく、中西。まだライフルの射程には届いていないもののモールの中に入るためには通路を進んで距離を詰めていかないといけない。

 ここで自分が続けて落ちてしまったらもうビハインドを取り返せない。すぐさま意を決したユウキは一気に通路に向けて駆け出す。自身の射程に踏み込んだ瞬間、中西がアステロイドで斉射をしてくる。確か彼の構成にはハウンドも入れられていたようだが、射程ギリギリの相手に分散して弾を当てるのは難しい芸当だ。

 

「エスクード!」

 

 ユウキは声高に叫んで左手に別れる通路の手前に壁を築くと、身を翻してその背後に隠れる。ナギのサポートとして防御を担うために臨時で入れたトリガーであるが、タイマンでの勝負には想定していない。トリオン値が高くないユウキでは後々押し込まれてしまう。

 このままではいけない。背後で中西の弾丸がエスクードに当たるのが聞こえると、壁の裏でレイガストを剣の形に形成する。そして無言でスラスターを付与し、飛ばされそうな力を制御しながら大振りに回転しながら……

 

「アステロイドっ!」

 

 その勢いのまま壁から一瞬身を晒し、右手でレイガストを一気に投擲する。言葉でブラフを張るのは生駒隊のシューターの専売特許で技術も伴う高等テクニックだが、発動と発語のタイミングをずらしている上そもそも入れていないトリガーをネタに使っている。思いつきのぶっつけ本番であったのだが、そこまで難しくなかったのが幸いした。

 

『ユウちゃん! 今のスラスターあたってるよ。相手の肩の部分削ってる』

「おっけー。あのん、四階の吹き抜けんとこへ誘導お願い」

『いいですけど……相手に声聞こえてますよ』

『大丈夫。あえて声に出してるから』

 

 京田隊相手に情報戦を仕掛るのも大人気ないのはユウキも自覚している。しかしリードされている以上、使える手はできるだけ使っておきたい。

 ユウキの視界に誘導ルートが重なる。非常階段までの距離は中西に比べて自分のほうがかなり近いようだ。苛立ちのこもった中西の斉射が続いている間に足音を立てないように通路に入る。

 

 非常階段に向かう間、ナギから通信が入る。

 

『……なんで通るルートわかんだよ』

『ん? ナギはうまくやり過ごした感じ?』

『そーだよ。本当に目の前通り過ぎたんだけど』

『だって、そこならユウちゃんを狙えるところに移動できるもん』

 

 ナギの通信にあのんが応える。恐らくマイの打たれた角度から当時の座標を推察して、ショッピングモールに入るためのルートを導き出したのだろう。ユウキが四階に向かうことも声に出して言ったことも、ルートを絞る助けになったはずだ。

 

『ナギちゃんはその人をマークして。まだ攻撃しちゃダメだよ?』

『はぁ? サクッと倒しちまえばいいじゃんか』

『胡桃澤さんに賛成。徂徠さんのバッグワームのタイミングからして、こちらの位置はバレてない。今倒すより他の人を引き付けたほうが良い』

『かっこよく、ガオーできるよ?』

『あーもう! わかったよ! こっそりついてけばいいんだろ?』

 

 ナギの漏らした不満に対してマイが補足していく。あのんと説明のタイプが真逆ではあるものの、ふたりとも同じ意図を持っているのはユウキにとって興味深い。彼女、意外と作戦立案とかもできるのだろうか?

 

『この後の作戦を伝える。ナギ、聞いてもらっていいか?』

 

 ユウキが非常階段を登りながら通信をひらく。思いついたものは簡単な策ではあるものの、自分とナギが京田隊を三人まとめて倒すにはこれくらいで十分だ。ユウキはスナイパーを尾行するナギに、作戦を伝える。

 

『…………その作戦で、大丈夫なのかよ』

『まぁ急ごしらえだからね。どうにかするし、どうにでもできる』

『わーったよ。やればいいんだろ』

 

 作戦を伝えたユウキにナギが不満を漏らす。まだ隊長のことを信用できていないのか、いちいち突っかかってくる隊員に苦笑して返しながら、ユウキは勝負を仕掛けるショッピングモールの四階に足を踏み入れた。

 

 

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