show down!!   作:トンプソン@ワートリ

9 / 12
甲斐隊①『EP.3 出たとこヘッズアップ』【加筆修正版】

 

 

「残念、ここはウチらのテリトリーだ」

「っ!」

 

 ナギの通信を受けたユウキは、目の前の二人に向けて勝利宣言を放つと、京田の眼前にエスクードを出し左手にいる中西に向けて一気に駆け出した。中西はとっさの出来事に驚きつつも、正面から向かってくるアタッカーに向けて引き金をひく。

 ユウキは斉射をはじめたガンナーを真正面に見据えて黒く染まったスコーピオンを現出した直後、目の前の相手を見据えて試作テレポーターを発動した。

 

 『試作テレポーター』。まだ制式装備ではないものの、使用サンプルを集めるにあたってB級隊員にも使用許可が出ている。ユウキは普段装備しているグラスホッパーをエスクードに換装し、唯一あけているフリー枠にそれを装備していた。

 鉛弾、エスクード、試作テレポーター。3つとも使い場所を選ぶニッチさと膨大なトリオン消費を併せ持つ。装備するだけでも戦闘に使えるトリオン量を削り取るのに、ユウキはその3つのトリガーを躊躇いもなく駆使していた。

 

『トリオン体、活動限界まで残りわずか』

 

 アナウンスとともに模擬戦に向かう前にしたマイとの会話を思い出す。

 ユウキはもともとトリオン量の多いタイプではなかった。玉狛第二の隊長ほどではないものの、トリガーセットを8枠埋められるような余裕なんてない。マイは作戦会議の際に電子テーブルに映ったユウキのトリガー構成を咎めていたのだ。

 

(でも、まぁ……短期戦でならと思ってたけど、思ったより限界早いな)

 

 テレポート転送を終えたユウキのトリオン体にピキッとヒビが入る。しかし間合いはすでに密接していて、アサルトライフルの銃口は明後日の方向に向いていた。

 重心を前のめりに倒した頭の先に持っていく。懐に右手で構えた黒いナイフを体重を預けながら相手の腹部に深々と突き刺す。一呼吸置いて逆袈裟に斬り上げる。

 一瞬だけ見えた中西の戸惑いを隠せない顔。そして光りだすトリオン体。

 

 

『中西・京田、ベイルアウト。ナギちゃんたちの勝ちだよ!』

「んだよ、ユウキに負けたんか。くそっ」

 

 緊急脱出の煙が明けると、右手のエスクードにもたれかかるようにナギが立っていた。C級時代には同期の中でもトップクラスの剣の使い手であった京田も、ナギの刈り取るようなスコーピオンのスピードには追いつかなかったようだ。

 

「一瞬だけ私のほうが早かったみたいですね。ありがとうございます、助かりました」

「うぇ……その丁寧口調、キャラ作ってんの? 違いすぎてクサイ」

「わぁ、ひどい」

 

 ナギの冷ややかな視線を受けつつ、『山井隊』の初戦はなんとか勝利を挙げた。

 

「お疲れさま、『甲斐隊長』」

「マイ、勝手に押しつけといて……よく言うな」

 

 ユウキとナギが戻ると、『山井隊長』はさも当然なように言い放った。

 自分が真っ先に狙撃されて落とされたのにも関わらず尊大な態度は変わらず、腰に手を当てて満足そうだ。

 とはいえ、今後の指揮系統はちゃんとしっかり決めなければとユウキが口を開きかけた瞬間、マイの後ろからにょきっと手が挙がる。

 

「えっでも、私はユウちゃんが隊長でいいと思います!」

「確かにマイよりかは信用できるからな」

「へぇ……徂徠さん、私の何が信用できないって?」

「な、なんか怖ぇんだよ!」

 

 あのんの言葉に後ろからナギが同調する。作戦前は放任宣言をしたにも関わらず指揮介入を言い出したときは、説得にてこずると思っていたのだが思ったより素直で助かった。

 また自分が隊長をしたほうが、敵を引きつける動きをするチームのコンセプト的にもしっくりくる。これから指揮する自分次第ではあるところだが、下位からスタートする来期のランク戦序盤はうまく回せそうだ。

 

「……なら、まぁやるけど。あのんさんと凪さんも、それでいいですか?」

「はい!よろしくお願いします!」

「ボクも構わねぇよ。カゲ先輩に追いつくまでの取引だ」

「全会一致ね。私はあなたの指示を聞くつもりはないけど、よろしく」

「……勝つつもりは、あるんでしょ?」

「そりゃあ、負けたくはないから」

「なら良い。チームで点を取るための回答は

出して」

「んー……じゃあそれで」

 

 ふたりの同意と、ややこしい屁理屈屋の説得を同時に済ませる。

 また今回の模擬戦では、ふたりの能力を把握できたのは大きい。ナギのスピードと攻撃力はボーダーの評価シート通り、かなり高い。何も指示しなくてもそこそこのアタッカーであるが、しっかり場を整えられれば最高のフィニッシャーになれる。

 さらに、マイのスカウトしたあのんも、彼女の見立てにあった高い能力のオペレーターだ。複数の戦局を同時に見据える眼、相手の行動から次の行動を推察できる頭、そして用意された戦術に沿って適切な指示を出せる口。マイの勧誘から考えていた『相手に膨大な情報量をぶつける』コンセプトにピッタリだ。

 そして相棒のマイ。ボーダー内でもトップクラスのシューター、『万発零中』を誇る圧倒的アシスト偏重、濃いブラフの霧に隠す嘘の弾幕。今回の模擬戦で狙撃されて脱落をしたが、今後においても戦術の核になることは必至だ。

 あとは、自分次第かな……。いかにタンクとして相手を引き付けてアシストできるか、さらにチーム戦ではフィニッシャーとしての役割も求められる。さらに一戦一戦のトリガー構成もおざなりにできない。相手の裏をかきつつ、大旗を振る動きができていれば上位に食い込むことは問題ないだろう。

 

「それでは、甲斐隊結成ですね。よろしくお願いします」

 

 ユウキはフゥと息を吐くと、3人を見据えてハッキリとした声を出す。

 こうして、甲斐祐希は新設『甲斐隊』の隊長となった。

 

「やられたよ甲斐さん。あの子が誘ったのが甲斐さんだったって知って完全に油断したよ。個人戦のようにはいかねぇなぁ」

「……何だったら今から個人戦、やってもいいんですよ?」

「いやいや俺まだトリオン体回復してねぇから」

 

 チーム模擬戦が終わり、仮説の隊室を出ると京田が廊下の反対側で待っていた。染めて時間が経ったのか、金髪なのに頭頂部が少し黒くなっている。

 

「じゃあ約束通り、ヌシを誘うのは諦めるよ。甲斐さんのものだ」

「………………はい?」

 

 突然の展開にユウキの時間が止まる。今京田はなんと言った?ヌシ、つまりはマイを誘うのを諦めるって?

 

「いやだから今日俺らが勝ったらそこのヌシをオペにもらうって賭けの話。……聞いてない?」

「いや全然」

「あっそう。まぁでも負けちゃったし、今言っても変わらないからね。諦めるよ。それじゃまたね」

 

 ユウキの唖然とした顔を見たのか、京田は早々に話をまとめて去っていった。

 ……いやこれならば全ての辻褄が合う。マイは『記録室のヌシ』と呼ばれるほどの引きこもり。であるならばマイから陽キャに模擬戦を誘うのはありえない。

 逆ならばあり得る。京田も何かしらの目的がなければ、その引きこもりを戦闘に誘うことはないだろう。京田隊は3人部隊、隊員のバランスは取れている。

 オペレーターだ。今回の模擬戦に京田隊のオペレーターはいなかった。引きこもりを見て勝手にフリーのオペレーターと勘違いした京田なら、半ば強引にマイをスカウトするだろう。そして売られた喧嘩にまんまと乗せられるマイ……。

 

「……マイ。昨日は京田から模擬戦の誘いを受けたんだよね」

「えぇ」

「今あいつがいったような、マイが京田隊に引き入れる賭けはしてなかった?」

「あっ……そういえばそんな話をしたかも」

「………………おまえなぁ!!」

 

 

 

 

 結局のところ、ホウレンソウが大事なのだ。マイのような、鶏以下の記憶力を持つ彼女なら尚更だ。

 模擬戦から3日後、ユウキは海老名隊のオペレーターに書類を提出しながらふとマイに説教したことを思い出す。書面には『B級下位・新設隊交流戦』に参加する旨が記載されている。

 

「はい!確かにもらい……あれ?甲斐さん、部隊名のところが空いてますよ」

「あぁ、ごめんなさい。か、い、たい……と」

「それにしてもすごいですね!記録室にいるあの人を部隊に引き入れるなんて、どんな説得をしたんですか?」

「大したことはしてませんよ。……馬が合っただけです」

「ほうほう……相性が良いんでしょうね。あ、そういえばこの『交流戦』の初戦なんてすけど、私が実況することになりそうなんてすよ!」

「……へぇ。武富さんのお眼鏡に叶う試合ができるように頑張ります」

「楽しみにしてますね!」

 

 ボーダー内が遠征選抜試験に向けて各部隊の交流が慌ただしくなる中、ユウキは自らのデビュー戦に向け準備を進めている。

 

 『自分がいてもいい場所をつくるための戦い』。

 

 海老名隊の隊室を出たユウキは、3年前と同じような前向きな緊張感に身を奮わせていた。




2022年5月15日 0:43

#ワ創作 #甲斐隊 「甲斐隊①」(完)
甲斐隊のテーブルにようこそ。掛け金はいかがなさいますか?もちろんタネも仕掛けもございますので、そのつもりで。

甲斐隊のエースアタッカーと感覚派オペレーター→ @N_1s1_
甲斐隊のロジカルシューター→ @yamaike_WT
「出揃いました。さぁ、ショーダウンだ」

https://twitter.com/thompson_tri/status/1525502057423466496?t=Z_Ktpj217J-3q7ejvw0tEw&s=19


ワールドトリガー界の隙間産業、『起と承』が一切ないリメイク小説もとうとうエピローグを残すのみとなりました。最後にちらっと出た『B級下位・新設隊交流戦』も実際はサラリと流して終わりにしてましたのでそこから大きく加筆することはないでしょう。
前述の通り、それといった説明なく『起と承』もなくおまけに原作キャラも出ないこの小説、ユニークアクセスを見ると前回のお話の時点で1話の20分の1しか見ていただけていないようです。うまく書けていればもっと見ていただけるかと思うのですが、そこはまぁ道楽の世界。今見て頂けてる30人くらいの皆さまに心からの感謝を申し上げたいです。

最後にエピローグだけ続いて、【加筆修正版】showdown!!は完結です。もう少しだけお付き合いください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。