「……はぁー暇だぁーもう兵士の強化と作成をやりまくって100体から300体に増えたんだけど……」
俺は天蓋付きのベッドでのんびりと寝ながら過ごしていた。兄の指示を無視して単独でベヒモスを討伐したと報告したら、難しい顔をされて、エリヒド王に謹慎処分を言い渡されました。
謹慎処分になってから2日たったけどもうなんにもやることが無くなりました。兵士を増やして、強化して、兵士とチェスして、何もやることが無くなった。この時間なら普通はノイントさんに案内してもらって資料を読み漁っている時間帯なんだけどな……
「失礼します」
「!?」
誰も来るはずがない部屋に、凛とした声が聞こえてきた。そしてノイントさんが俺の部屋に入ってきた。手元にトランクケースのような物を持って。
「イシュタル様が謹慎中の読み物としてお使いくださいとの事です」
いつもは修道服の頭巾で隠れて横の髪がちらりと見えていたのが、今は頭巾がないので綺麗な顔とその白髪がよく見える。
「どうして、ノイントさんが……」
「読んでいいにしても教会の大事な資料ではありますので、監視として私が派遣されました」
「そ、そうですか……」
ノイントさんが入ってきた瞬間に飛び起きたが、絶対だらけきっているところ見られたよな……恥ずかしい?…………謹慎処分受けてるから今更か!謹慎も割と恥の部類に入るんだよな?
「バトラー、ノイントさんにお茶を淹れてあげてください」
俺は新しく追加されたバトラーという職種を付与した兵士を呼び出して紅茶を淹れさせる。バトラーは割と有能であり、本職の執事と同レベルだ。
バトラーが淹れた紅茶を無表情で飲むノイントさん。正直その無表情疲れないのか?と思いながら俺はノイントさんが持ってきた資料を読む。
「一輝くん……起きてますか〜起きてたら開けてください」
俺の部屋にまた来客が来た。ノイントさんはわからなかったようだが俺はその声の主が誰なのか察すると扉を開ける。そこにはちんまりとした女の子が立っていた。
「なんかまた失礼なこと考えませんでした!?」
「いえいえ」
社会科教師でこの世界に一緒に転移した愛ちゃん先生が俺の部屋に来たのだ。俺はまたバトラーに紅茶を淹れてもらって愛ちゃん先生を座らせる。
「……美味しいですね。また新しい役職の人ですか?」
「えぇ、バトラーという職種を付与した兵士ですね」
「バトラー……執事ですか。いいですね〜人材確保出来て……」
「先生は農業系でしょう?」
「はい、私の天職は作農師ですが……ほとんど人力なんですよね……」
愛ちゃん先生の愚痴を聞くことになった俺。なんで来たのか聞きたいのだが、愚痴が終わらなくてなかなか切り口を見つけられない。
どうやら色んな農地を転々としているうちに疲れが溜まっている様子だった。
内心辟易としているとノイントさんが助け舟を出してくれた。
「愛子さま、なにかご用件があったのでは?」
「あぁ、そうでした!勝手に持ち場を離れたらダメじゃないですか、一輝くん!」
「……」
「天之河くんや八重樫さんは実力者ではありますが、協力しないとやられてしまいます。貴方が抜けたらその穴を埋めるのは大変だと思いますよ?」
「……そうですね。これからは気をつけます」
「わかってくれたならそれでいいんですが……」
愛ちゃん先生は引き下がって帰って行った。正直俺はこれからは単独でオルクス大迷宮に潜るから関係ない。聞き流すつもりだったが、思いのほか愛ちゃん先生の言葉が刺さる。
「俺はもう寝ますけどノイントさんはどうするんですか?」
「資料を持って教会に帰ります。そして明日またここに来ます」
「……ライダーに送らせます。俺が送りたいんですが、謹慎処分中ですから」
「……助かります」
俺はライダーを出してノイントさんを送るように伝える。ノイントさんがライダーに送られる様子を窓から見届けてからベッドに寝っ転がる。
「……協力しないとやられてしまいます、か。だけど、俺の戦い方はもう受け入れられてないしな……正直ああまで言われて協力する気も起きんし、少し兵士の改良をやってみるかな……」
俺は1人でも戦えるように兵士の改造を行ない始めた。選択を間違えたかのようにも思えるけれど、兄が指揮を執るあのグループに戻りたくないと思って俺は必死に兵士の改造を行い始めた。
謹慎処分を受けてから1週間経った後、マルチタスクが行えるようになった。何かをやりながら別のことができるようにもなったのだ。苦手だった戦闘しながらの指揮もこれでできるようになったと思う。
兵士の強化をしながら資料を読んでたら、自然とマルチタスクができるようになっていた。
今日もノイントさんが資料と共にやってきたけど、俺は変わらず兵士を強化しながら資料を読み続ける。
昔のことはぼかされているみたいで、今から数十年前のことは書かれてはいたけど、100年前何があったとかは書かれていないようだ。
ノイントさんに聞いても、知らないと言われてしまったので八方塞がりだ。
教皇のイシュタルさんに聞こうと思ったけれど、資料の件もあってこれ以上なにかやってもらう訳にも行かないし、忙しいだろうし、謹慎処分を受けているから聞きに行けない。
「……ここまでなのかな…………」
「……トータスの歴史について知りたいのでしたか?」
ここで普段あまり喋ることの無いノイントさんが口を開く。珍しいこともあるもんだなと思いながらうんと頷き返すと、ノイントさんは語り出した。
「トータスには七大迷宮がある、というのはご存知でしょうか?」
「それはもちろん」
「七大迷宮の中には歴史的な価値がある建物が迷宮の中に搭載されているものがあります。中には昔の道具や書物があるかもしれません」
「……なるほど」
「グリューエン大火山、もしくはハルツィナ樹海を調べられては如何でしょうか?」
「……ハルツィナは亜人がいる上に迷う可能性が高いからグリューエンの方か……」
統制者の力の命令伝達の中に五感共有、というものがある。五感共有というが、兵士一体の身体に俺の意識を移すことが出来る力だ。
強化しまくった兵士をグリューエンの方へ送って探査してみるかと思い、俺は兵士の強化に勤しみながらグリューエンについての資料を読み進めることにした。
「……私はなぜ、あんなことを」
ノイントは自分の考えを理解できずにいた。将来的には敵対する可能性が高い少年に対して、自分たちに対抗するための力を手に入れる場所を教えてしまった。
一輝が資料を読みながら兵士の強化をしていることは知っている。止めるつもりは無い。強くなればなるほど、主の娯楽のコマへと変わるのだから。
だがあの力は別だ。あの力を手に入れれば、主の真実も知ってしまい、確実に敵対するだろう。しかも兵士全員がその力を使えるようになれば……
考えたくもない。何故解放者に繋がることを一輝に教えたのか自分に問いかけるが、ノイントには自分のあの時の考えがわからなかった。
強化フラグを立てないと来たるべき日に負けてしまう……というわけでフラグを立てておきました!