とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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第1章 蝶の羽ばたき
001 幻想に至る物語 『7月20日』 Ⅰ


まず初めに気づいたのは寝心地だった。

 

 いつもの布団とは違う質感に戸惑いながら寝返りをうつ。畳に敷いた、安物の布団からは考えられないような弾力が感じられたのを確認した後、ソレがいつもの寝具ではないという結論に至るのに5秒ほどかかった。

 

「ここは……どこだ?」

 

 ガバッ!と勢い良く身体を起こすと机や本棚が目に入る。右手を見るとキッチンと玄関らしきドアが、左手には窓からベランダが見えた。地面が見えないので1階ではないらしい。

 

(俺ん家、じゃないよな。誰の家だ? ホテルとかには見えないし……そしてこの服装は?)

 

 次に気づいたのは寝心地ならぬ着心地である。何故だか異様に蒸し暑い、と思ったら学生服だったのだ。それも冬服である。空調もつけず、学生服を着込みながら布団を被っていたのだから、暑いと感じるのは当然だ。

 

(誰の学ランだ? ……いや、ちょっとまてよ。知らない奴の家で知らない奴の学ラン着て寝てたのか俺は。……気持ち悪いなぁ)

 

 気味悪がりながらも、何か胸ポケットに固いものが入ってるのを感じ、ゴソゴソと取り出すと。

 

(学生証か。んー、これまた知らない高校。知らない名前。木原統一、読みはとういつでいいのか?)

 

 高校名や名前にはまったく心当たりはない。高校名はともかく、こんな変わった名前は一度目にすれば記憶の片隅に残るのではないか。なんとかして思い出そうと学生証を凝視するのだがまったく心当たりは無い。

 学生証を眺めて10秒ほど経過。そこでようやく、貼られている顔写真が自分のものだと言うことに気づき、疑問はさらに追加された。

 

(これいつ撮った写真だよ……今着てる服装で写ってるけど、着た覚えも撮った覚えもないし……合成ってことか? ……じゃあこの木原統一って俺の名前!?)

 

 軽いパニックになりながらも、今の自分が置かれている状況を推測する。

 

(……テレビとかでよくやってる、ドッキリ、大成功! とか? いやこんな雑なドッキリ企画を考える奴はいないよな。視聴率取れねえっての。……考えられるとしたら)

 

 "誘拐"の2文字が頭をよぎる。

 

(……どこぞの変態が俺を攫ってコスプレ人形というか着せ替え人形代わりに!? やめろ! 恐ろしすぎる。考えるのをやめるんだ……ということはここは犯人の……?)

 

 完全にパニック状態である。とにかく逃げなくては。そう考えてからの行動は早かった。転びそうにながらも玄関までダッシュし、勢い良くドアを開けた瞬間にコケた。

 口の中が血の味がする。だが立たなくては。と、気がつくと隣の部屋の前に。

 

 

 2m超えの赤髪バーコードピアスのコスプレ男がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステイル=マグヌスは苛立っていた。何も知らない一般人から神経を逆撫でするような説教を貰い、自分の魔術を無効化されたあげくに奥の手(イノケンティウス)でさえそのムカつくツンツン頭を仕留められなかったのだ。その上、自分が守ると決めた女の子がいまここで深手を負い倒れているのにもかかわらず、どうすることもできないでいる自分がいた。

 

(神裂の奴が慌てるのも無理はない。まさか『歩く教会』を突破されるとはね。あの男の右手の仕業か? ……いや、今はこの子の命が先決……!?)

 

 ガチャン!と大きな音をたてて、部屋から飛び出してきたやつがいた。学生のようだ。フベッと顔を床に擦り付けるように転んでいる様を見るに、かなり慌てて飛び出してきたらしい。おそらく、先ほどの戦闘音を聞きつけて出てきたのだろうか。かなり驚いた顔でこちらを見ている。

 

(何故真夏にあんな暑苦しそうな格好を……いや人の事は言えないか。やれやれ、どうしたものかな)

 

 先ほどのツンツン頭と違い、必ずしも殺さなければならないわけではない。敵対の意思はなさそうだし、このまま立ち去っても問題はないだろう。通報されても、人が集まってくる前に消えればいい事だ。先ほどのツンツン頭の少年と違って禁書目録(インデックス)に関する知識もおそらくはない。記憶が無いとはいえ、彼女がそう何人も一般人を巻き込むようなことはしない。彼女は優しく、そして強い。その身に残酷な運命を背負わされてるにも関わらず、その不幸を他人にやすやすと分け与えたりはしない子だ。

 

 と、心優しい禁書目録の一面を思い出し、思わず微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 血まみれの妙な修道服の女の子が倒れている。それを見下ろすように、赤髪長身ピアスのバーコード神父が、微笑み顔でこちらを見ている。これが道端で見かけた光景ならむしろあからさますぎて「ドラマの撮影かな?」みたいな感想を抱いたまま通り過ぎるのではないか。問題は今現在拉致られた疑惑のある人間がこの光景を見た場合どうなるかである。

 完全に気が動転していた自分の口から出た言葉は、直前に考えていた犯人についての印象である。

 

「へ、変態……」

 

 ピキッ、と神父の顔が歪む。いや、というかこいつは神父なのか? 本物の神父なぞ見たことはないが、こんな奴だとは思いたくない。

 

「いや、勘違いしないでくれるかな。僕はたまたま通りかかっただけでね」

 

 そんなわけあるかい、と心の中でツッコミをいれる。そこに倒れてる少女と親和性100%の服装じゃねえか。……この男だ。このコスプレ男が自分を連れてきたに違いない。そしてそのコスプレ趣味を他人にも押し付けてくる系の犯罪者さんだ。

 ふと、コスプレ男がこちらに手を伸ばしてくる。冷静に考えてもこの状況でその手が、倒れている人間に差し伸べられたものとは思うまい。

 

「く、来るな! ロリコン! ホモ野郎!」

 

ブチッ という音が聞こえた気がした。殺す必要はない。だが生かしておく理由もまた、存在しない。

 

灰は灰に(AshToAsh)塵は塵に(DustToDust)!」

 

「……ゑ?」

 

吸血殺しの紅十字(Squeamish Bloody Rood)!!」

 

 

 避けることなんてできない。

 打ち消すことのできる右手もない。

 

 学生服の男、木原統一は火炎に飲み込まれた。


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