とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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期間がかなり空いてしまいましたが、続きを投稿します。相変わらずキャラ崩壊注意です。


010 自分だけの現実と向き合う覚悟 『7月24日』 Ⅳ

 禁書目録(インデックス)という少女は、魔術師からしてみれば悪夢のような存在だ。10万3000冊の魔道書の知識を用いて、こちらの魔術を瞬時に看破・対抗してくる対応力。魔力を用いない魔術破りの数々。そして身に纏う『歩く教会』による防御力、ともはや盛りすぎなくらいな勢いで対魔術師戦における難攻不落の要塞と化している。

 だがしかし、彼女にだって弱点は存在する。当たり前のようで、彼女にはそれが人一倍通用するのを、僕は知っている。

 

優しすぎる。それが彼女の弱点だ。

 

 

 

 

 

 

 崩落する建物を背に、僕は気絶している彼女を地面に下ろした。爆発に気を取られている彼女を無力化するのは簡単だったが、彼女の『歩く教会』が本来の機能を発揮していれば、こんなことにはならなかっただろう。

 ……いや、彼女が気を取られていたのは爆発ではなく、爆発に巻き込まれた一般人だったか。

 

「何度記憶が抜け落ちても、何一つ変わらないな、君は」

 

 

 

 

 

 

焦げ臭い匂いと熱風で木原統一は目を覚ました。

 

「やっと起きたか……遅えんだよ」

 

聞き慣れた声に振り向くと、後ろには父親、木原数多がいた。

 

「あ……」

 

瓦礫に半分以上が埋もれ、身動きがとれない状態の父親の姿が、そこにあった。

 

「ったく、なんてツラしてんだよ……素直な反応のお前なんて、何年振りだまったく。あーあ、反抗期のクソガキは死ぬほど面倒だったが、今のお前も相当にウザいな」

 

「まさか……俺を」

 

「それ以上言うと本当にぶっ殺すぞ」

 

 木原数多の傷だらけの腕と、爆発の中わずかに残る誰かに突き飛ばされたような記憶。無傷の自分と動けない父親を見れば、それは明白だった。

 

「……とっとと逃げろ。あの変態野郎にみつからねえようにな」

 

「……親父は」

 

「いつから俺のことを親父って言うようになったんかは知らねえが、ま気にすんな。俺は不死身だ」

 

 似合わない台詞だ。もう少しマシな嘘はつけないのかコイツは。いや、そんなことよりダメだ。あんたには……

 

「……オイ、なにやってんだ?」

 

 瓦礫を持ち上げようと試みるがダメだ。この細腕じゃビクともしない。クレーン……いや、学園都市なら駆動鎧(パワードスーツ)だな。災害救助用のがあるはずだ。

 

「オイ、聞いてんのか」

 

 通報して助けを……ってしなくてもこの爆発ならしばらくすれば来るか。それまで木原数多まで火が回らないように───

 

「逃げろって言ってんのが聞こえねえのかクソガキ!!」

 

「うるせえ! 俺なんかより……この世界ではアンタのほうが何倍も価値があるだろうが!!」

 

 木原数多には、前方のヴェント襲撃時に打ち止め(ラストオーダー)を誘拐、そして一方通行(アクセラレータ)を迎撃する大切な役割がある。ここで死なれるわけにはいかない。

 ……ひどい言い訳だ。木原数多はその際、覚醒した一方通行に殺される。それを知ってて、その価値があると言い切って助けようとしているのだから、本当にどうしようもないクズだな俺は。

 木原数多に対して、木原統一(自分)は存在してはいけない人物だ。統括理事長(アレイスター)のプランにも必要ない人材であることには間違いない。

 

「この世界だァ!!?」

 

瓦礫を押しのけようとする俺の胸倉を掴み、木原数多は強引に引っ張った。

 

「世界なんて知ったこっちゃねぇんだよ!!」

 

「俺が死んで、だれが困るってんだ!!」

 

「目の前にいるのが見えねぇのかテメェは!」

 

「なっ……」

 

一瞬、売り言葉に買い言葉での一言かと考えた。だが違った。

木原数多の目は真剣だった。そしてなにより、目に涙を溜めていた。

鬼の目にも涙、とは言うがこれは正直、金棒で殴られるよりもキツイ一撃だ。

 

 当然だが、木原数多は俺の事情を知らない。だが知ったところで、この顔が別の表情になるとは思えなかった。

 

そうか、俺は……

 

「……ったく、1から100まで言わねえとわかんねえか……ハッ、やっぱ木原じゃねえんだなお前は」

 

「……さすがにそれは関係ねえだろ」

 

「そりゃそうだ……ま、情に流されてる時点で、人の事は言えねえか。オレも焼きが回ったもんだ」

 

 フフッっと笑ってしまった。いや別にうまくねえぞそりゃ。というか洒落にならん。

 

「生きてくれよ。お前にとっちゃ、難しい頼みじゃねえだろ」

 

「……」

 

 この世界に来て数日間。自分は何者なのか、なにをすべきか。そればっかりを考えていた。物語の動きを気にする振りをして興味本位で動いて、そして結果がこの様だ。そのくせ未だに原作へのリカバリーなんて気にしてる大馬鹿野郎だ。

 そうじゃねえだろ。記憶は無くても、目の前には親父が、命をかけて守ってくれた恩人がいて、俺に逃げろと言ってくれている。たぶん後ろにはそろそろクソ神父が顔を出す頃で、親父は動けない。そんな中で、俺は、俺自身はどうしたいんだ?

 

「俺は……生きたい。だけど、親父も助けたい」

 

「おい、テメェまさか……」

 

「だから、あの野郎をぶっ飛ばしてくる」

 

「なっ……ふざけんな!テメェ一人で何ができるってんだ!?いいから早く逃げろ!!こんなとこで反抗期ぶり返してんじゃねぇぞコラ!」

 

「大丈夫。なんたって俺は……不死身だからな」

 

 原作なんぞ知ったことか。俺は俺だ。木原数多の息子、木原統一だ。ここからは、俺のやりたいようにやらせてもらおうじゃねえか。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、もう一人はどうしたのかな?」

 

「……死んだ」

 

「じゃあさっきの怒鳴り声は独り言かい?」

 

「聞いてたんじゃねえかクソ野郎」

 

出入り口(が本来あった場所)に、ステイルはいた。遠目に禁書目録(インデックス)が横たわっているのが見える。

 

「まだ何か、俺たちに用があるのか?」

 

「用があるのは君のほうじゃないかな? ぶっ飛ばすんだろ、僕を」

 

そこまで聞こえてたのか。ということは、待ってくれていた、のか?

 

「ああ」

 

 距離は10m以上空いている。どうやっても向こうの魔術のほうが早いか。

 

「おとなしくしてもらえれば、苦しまずに殺してあげるんだが。君だって、無謀だってことくらいわかっているはずだ」

 

「舐めんなよ。お前なんか余裕だっつの」

 

 俺がいまからやろうとしていることを考えれば、おそらくステイルが考えている以上に無謀な試みだ。博打として成立するかどうかも怪しいが、現状俺が思いつくのはこれしかない。

 

「俺がお前の立場なら、魔道図書館から目は離さないがな」

 

「……なぜ君が、僕と彼女のことを知っているかはわからないが、抜かりは無いよ」

 

嘘ではないな。おそらく『魔女狩りの王』をオートでつけているのだろう。

 

「なにかしらしているのはわかるが、それは()()()()()()()には反応するのか?」

 

「……なに?」

 

 ステイルが横目で禁書目録(インデックス)を確認しようとした瞬間、俺は走り出した。

 

「っ……そんな小細工で」

 

 やはりダメか。いや、通用しないことはわかっていた。ここからが本番だ。ステイルはすぐさま迎撃態勢に移る。今日幾度も、それこそ死ぬほど目にした魔術を唱えようとしていることがわかる。

 

「「炎よ(kenaz)」」

 

その時、二つの声がこだました。ステイルの目に驚愕の色が浮かぶ。

 

 魔術とは、生命力を魔力に変換し、それを霊装などに通し、そして何かしらの所作をトリガーに発動するもの。と、某幼女は言っていた。ならば話は簡単だ。ステイルの魔力生成の過程を模倣し、霊装を用意し、所作を模倣する。そうすれば魔術は発動する。

 

(理屈の上ではそうだが、そんなことは不可能だ。一目見て、身体の外側の動きどころか、身体の内側の動きまで見ることなんて……それに僕の魔術にはルーンが……)

 

 だが、木原統一の右手には炎が灯った。それはつまり、目の前の人間がそれら(、 、 、)をクリアしているということに他ならない。ステイルは気づかない。木原統一の左腕には、血で書かれたルーンが描かれていることに。

 木原統一は木原としての特性を持ち得ない。だが教えた知識をきちんと吸収する能力についてのみ、ここ学園都市で高い評価を受けている。また、あの木原数多を父に持ち、その観察眼は父親譲りである。

 もちろんそれだけでは魔術の模倣なぞ為し得ない。断片的な魔術の知識、魔力生成プロセスの理解。ルーンの記号、配置と魔術との関連性への仮説。それらが奇跡的にも正答だった場合のみ、魔術の模倣は完成する。

 偶然なのかもしれない。だが、そうでない場合、これが何を意味するのかは木原統一自身も知らない。

 

魔術の領域に、科学で足を踏み入れる者。その第一任者は、この街の頂点に存在する。

 

「「巨人に苦痛の贈り物を(PurisazNaupizGebo)!」」

 

 合わせ鏡のような構図で、二人の魔術が衝突した。炎と炎、本来であればぶつかり合うことのないものだが、魔術としての炎だからなのか。それともまったく同じ魔術であるからなのか。それらは相殺し合い、その余波が二人を襲った。

 

「まさか、本当に魔術を使うとは……っ」

 

 ステイルには火傷治癒の心得がある。だが今はそれどころではない。なにせあの人間は傷を負った箇所から再生する化け物だ。隙を見せればやられる。

 

 ステイルが警戒する中、木原統一が爆炎の中姿を現した。二つの魔術が衝突した中を突っ切ってきたのだ。もはや衣服が原型を留めておらず、身体中火傷だらけで、更には能力者の魔術使用の反動か、口元には赤い液体が見えていた。

 

 だが、木原統一は止まらない。止まれないだけの理由がある。

 

「「灰は灰に(AshToAsh)塵は塵に(DustToDust)吸血殺しの紅十字(Squeamish Bloody Rood)!!」」

 

 二度目の衝突。その直前に、ステイルは木原統一の左腕、そこに刻まれたルーンに気がついた。その瞬間、轟ッ! という爆炎と共に木原統一の姿が見えなくなり、爆風がステイルの身体を包む。

 

(くっ、この僕が自分の術式で身体を焼くとは……)

 

ふたたび爆煙の中から木原統一が飛び出してくる。頭以外の上半身全てが重度の火傷を負い、目や口から血を吹き出している様はまるでゾンビだ。だがステイルは彼の左腕を見た。血で描かれたルーンは焼け落ち、もう消えている。木原統一はもう魔術を使えない。

 

 距離は約5mほどだが、木原統一の足取りもたしかではない。次は確実に、一方的に魔術が入る。

 

炎よ(kenaz)巨人に苦痛の贈り物を(PurisazNaupizGebo)!」

 

 揺れる意識の中、魔術を放つステイルを見て木原統一は微笑んだ。その魔術は何度も見た。そして、それが無効化される瞬間は、あそこで寝ている少女が見せてくれた。ならば

 

 自分がなにをすべきかなんてわかりきっている。

 

上方へ変更せよ(C F A)

 

「なっ……」

 

 魔術に引っ張られるように、ステイルの右腕が上へ向き直り、バランスを崩した身体はつんのめるように倒れそうになる。そう、走りこんでくる木原統一に向かって。

 

 その瞬間、覚束ない足取りだった木原統一が力を取り戻す。

 

 右の拳を握り締め、呼応するように左足を踏み出し。死地を走ってきた勢い全てを右手に乗せて。

 

 木原統一の一撃が、ステイルの顔面を直撃した。

 

 ステイルの身体は、壮絶な勢いに乗って真後ろに転がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「がっ……ぐ……」

 

ステイルは動き出さない。それを確認してから、俺は膝を突いた。

 

 いくつかアドリブがあったとはいえ、計算どおりに事が運んだ。……いや、発動するかもわからない魔術(モノ)に頼るのが計算と言えるかは甚だ疑問である。

 身体が震え、震えた振動で身体中が痛い。いや、震えなくても痛い。誰が見ても重傷である。だがこの身体ならば、能力が働いて直に治癒するだろう。こうしている場合ではない、親父を、木原数多を助けなくては。

 だが身体が動かない。火傷の痛みはもはや麻痺しはじめてはいるが、問題は身体の中だ。能力者が魔術を使った反動のせいで、身体の中にミキサーにかけられたような激痛が走る。……意識が朦朧としてきた。まずい、いつまでたっても能力が発動する気配がない。何故だ、このままじゃ親父は……警備員(アンチスキル)はまだなのか?

 ガシャーン! と、何かが崩れる音がした。振り返ると、建物の天井が一部崩れたようだ。この有様じゃ、いつ木原数多がいる場所が崩落に巻き込まれてもおかしくない。いや、もしかしたら今のでもう……

 

「誰か……誰か親父を……」

 

「あなたの父親……この方ですか?」

 

 透き通った声。そこには木原数多を背負った長身の女性がいた。腰には日本刀、長い黒髪にぶった切ったジーンズ。ここまで個性的なキャラクターは他にはいない。元天草式十字凄教女教皇(プリエステス)、現イギリス清教必要悪の教会(ネセサリウス)所属。聖人、神裂火織だ。

 

「無事ですが、早く病院に連れて行ったほうが良いでしょう。そしてあなたは……むしろあなたの方が重傷ですね」

 

「なん……で」

 

 助けてくれるのか、という疑問をすぐさま飲み込んだ。彼女は人死にを嫌う。敵であれ味方であれ、死人を出すのを極端に嫌う性格だったか。

 

「あなたにステイル、そして禁書目録ですか。4人くらいなら運べますね」

 

 そしてスーパー超人だったか。平和を望む歩く戦術兵器。

 

「ぐっ……」

 

 ダメだ、限界だ。意識を保っていられない。

 

「ご心配なく。あなたとあなたの父親は病院へ……あなたは無関係だと言っていた、あの少年の言葉は、この状況を見るに疑わしいですが、とりあえずは信じましょう。」

 

「上条……か」

 

ありがたい。上条の奴に感謝せねば……いや、まて。

 

(イン)……書目録(デックス)は、どうする気だ?」

 

「……回収します。ステイルの回復を待って、私たちは学園都市を離れる予定です。もう2度と、あなたたちの前に現れることはないでしょう」

 

 ダメだ、それは困る。お前らが学園都市から離れてしまったら、禁書目録(インデックス)は救われない。上条から引き離してしまってはいけないんだ。……別に原作通りの流れにしようって気はない。だけど今回俺は禁書目録(かのじょ)に救われた。そして神裂にも親父を助けてもらったんだ。恩を受けた、ならば彼女たちへの祝福を願うのが人間ってもんだ。

 

「ダメだ……それは」

 

「彼女なら心配ありません。実は彼女は私たちの同僚なんです。と言っても信じてくれるかはわかりませんが」

 

違う、そうじゃない。そういうことじゃないんだ。

 

「ネ……必要悪の教会(ネセサリウス)……は、嘘を……ついてい、る……」

 

「なっ……」

 

ダメだ、これ以上は……

 

闇の中で、ふごっという声がした。親父の声か?

 

「それはどういう意味です!?」

 

 痛い痛い痛い痛い痛い!身体をゆすらないで下さい神裂さん!!? 飛びかけた意識が逆周して吹っ飛びそうになったわ! ……なるほど、さっきの声は親父が地面に投げ出された音か。

 

「完全記憶能力……ピンクの幼女に……聞け……」

 

 今度こそダメだ。もう口を動かす力さえない。というかピンクの幼女って。医者でいいじゃねえ……か……

 

木原統一は意識を手放した。




ちなみに某幼女はバードウェイです。新約2巻の魔術考察を元にした(つもり)ですが、まぁ今回のはそれでもトンデモ展開と自覚しております。

……対魔術式駆動鎧(アンチアートアタッチメント)ってなんなんですかね。

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