018 相変わらずな日々 『8月8日』 Ⅰ
8月8日。とある魔術の禁書目録2巻目の開始日。私こと木原統一は現在、禁書目録の知識をノートにまとめていた。
と言ってもステイルも使っていたルーンについてと、魔術の基礎。あとは
今日上条はインデックスと共に本屋に向かうと言っていた。原作では参考書を買いに行くはずなのだが、今回はインデックスのために『
さて、そんな上条ペアはさておき。俺がこんな暑い中エアコンを稼動させ、朝から机に向かっているのには理由がある。今日は外に出たくないのだ。絶対に。
吸血殺し編改め、スーパー錬金術師編である2巻。見どころはこの巻登場にしてこの巻退場であるアウレオルス=イザードだろう。元ローマ正教の
そして第2に、ステイル=マグヌスが来ている点だ。幾度となく俺を燃やしてくれたイギリス清教の魔術師。結局、学園都市とイギリス清教がどんな縁を結べたのかは不明だ。だが学園都市には魔術関係のツテがそこしかないのも事実。先日の件でたとえ険悪ムードになっていたとしても、アウレオルス関連で頼るのはイギリス清教しかないのだし、たぶん来ているだろう原作通りに。
あいつも出会いがしらに炎剣をぶっ放す危険人物だ。
という事で、今日俺は家に篭城する気構えである。絶対に外に出ないし、電話も取らない。チャイムが鳴っても居留守を使う。外に出て、ステイルを恐喝しに行こうかとも考えたが、よくよく考えると無意味なのでやめておいた。感情を処理できん人類はなんとやら、だ。
ノートもまとめ終わり、手持ち無沙汰になった。昼前だ。今日はまだまだ長い。今から時間をかけてなにか凝った料理でも作ってみようか。『木原統一』はそこそこ料理好きらしく、料理の本もかなり置いてあった。実際に読んでみると、知識がきちんと頭の中に入っているのがわかる。その知識を生かしてみるのも面白そうだ。
と考え付いた時だった。
ピンポーン、と自宅のチャイムが鳴った。どうやらだれか来たらしい。
身についた習慣とは恐ろしいもので、一瞬立ち上がりドアの方へ向かおうとしてしまった。迂闊な。今日の俺は学園都市のどこかへお出かけ中だ。そういう設定なのだ。
2度目のピンポーンというチャイムが鳴る。続いてドアをガチャガチャする音が聞こえてきた。無駄だ、きちんとドアチェーンまで掛けている。開きはしないぞってちょっと待て。何故ドアを無断で開けようとしている!? 身内か?
一瞬出ようかと考えた矢先、机の上の携帯電話が鳴った。電話の画面には『土御門』の名前が……
このタイミングでのこの電話。偶然ではないな。奴だ。おそらくまた厄介ごとを持ってきたのだ。ダメだ、絶対に出るわけにはいかない。悪いが日を改めて出直して来いアロハグラサン。
しばらくコールが続いた後、電話は鳴り止んだ。これで諦めてくれればいいのだが……ピロン、と今度はメールの通知音だ。「日を改めて出直します」とかだったらいいのだが───
『いるのはわかってる。出て来い』
理想とは真逆だった。嫌でごんす。絶対に出ない。というか何でばれ……あ、音だ。あの野郎、人ん家のドアに耳押し付けてやがったな。こうなったら「ごめん寝てた」作戦で……と考えてたらさらにメールが届いた。
『あと2分で出てこなければ、ステイルがドアを吹き飛ばす』
……どうやら選択肢は無いようだ。というかステイルもいるのか。状況は最悪だな。だがしかし、こんな事もあろうかと俺には
「ゴホゴホ……実はいま風邪を引いてしまってな……」
隙間から見えたのは土御門だった。
「……」
「なので今日は帰ってく───」
「やれ、ステイル」
俺はドアごと吹き飛ばされた。
「なんて事を……また人ん家の玄関をお前は」
「文句は土御門に言ってくれ。僕は要望に応えたまでさ」
要望があったからって即吹き飛ばすか普通? 仮にも病人(を装ってる奴)に向かってその対応はどうなんだ。歩く火薬じゃねえんだからもうちょっと考えろや。だから
「あの、土御門さん? 僕一応病人なんですけど」
「肉体再生のレベル4が、そんなのにかかるわけないだろう」
え? そうなの? というか土御門さん、何か怒ってらっしゃる?
「いや、風邪くらい……なるだろ?」
「……正確には掛かっても症状が出ない、が正しいにゃー」
えー……なんだそりゃ。じゃあれか、風邪じゃなくて何か重大な病気に掛かっても、俺は気づく事すら出来ないってことか? それ色々とヤバイんじゃないか?
「へぇー、そうなのか。便利で気持ち悪い能力だな」
ああ、お前は知らずにやったのね。いつか殺す。
「そもそも、風邪っていうのは身体の抵抗が弱まった時とかに感染するからにゃー。滅多な事じゃ、木原っちが感染することはないですたい。……俺が知らないとでも思ってたのかにゃー?」
なるほど、土御門は俺がその事を知ってる前提で喋ってるのか。知ってて仮病をしたもんだから怒ってる、と。木原統一が俺になる前なら知ってたのかな。
まてよ……冷静に『木原統一』としての知識を掘り返してみる。
ちなみにこれは最近覚えた技? みたいなものだ。7月20以前に得た知識は、冷静に頭の中を探り起こすと出てくる事がある。本を読むことで科学の知識が思い起こされるのを、読まずに出来ないかと試行錯誤した末に出来た偶然の産物だ。ただし自然には出てこないのが難点ではある。
肉体再生を持つ能力者は風邪にかかるのか否か。俺は疑いもしなかった。どうやら『木原統一』としての自覚はまだまだらしい。
「うーんそうなのか。土御門は知ってたみたいだけど、俺は知らなかったな」
ついさっきまでな。
「今さら言い訳したって無駄ぜよ。木原っちがそんな事も知らないなんて、ありえんですたい」
さっくり否定された。知ってて当然なのか? まぁ自分の能力くらい把握してるだろってことか。
「さて、そろそろ行こうか。こんな所で時間を潰している暇は無い」
「そうだにゃー」
そう言って、二人ともこちらを見る。え? 行くって何処に? あとステイルは嫌そうな顔してるけど、なんで?
「この間の件について、色々と処遇が決まったんだにゃー。だから二人一緒に行かなきゃダメぜよ」
「この間の件?あの、ちなみに何処へ?」
「君の保護者と、僕達の保護者を交えての秘密会議だ」
保護者というと木原数多だろうか。いや、わかってる。そんなはずはない。つまり───
「窓のないビルへ、ご案内ですたい」
『窓のないビル』
学園都市第七学区に存在するそのビルには、学園都市統括理事長がいるとされ(つーか実際にいる)ており、『
どれほど鉄壁かというと、一方通行が地球の自転を5分遅らせて撃った自転砲とか、レベル5の枠を超えていたであろう御坂美琴の雷撃を受けても傷一つつかないトンでも要塞である。
その割には破砕用機材で後に壊されるのだが、その辺はまた別のお話。というかどうでもいい。外身には興味はないのだ。問題は中の人物である。
学園都市統括理事長。アレイスター=クロウリー。世界最高の科学者であり大魔術師。この世界における最強の引き篭もりでありラスボス。
たぶん何でも知っていて、なんか凄そうな事を企んでる人物。と、言うとなんとなく三下みたいなイメージを持つ人もいるだろう。だがあの人間はヤバイ。特に俺にとっては。
宗教に依存しない、科学の世界を弄るとかが目的らしいが、そんな人間の前にだ。
「と言うわけで、見逃してください土御門さん」
「なにが「というわけで」なのかは知らないがにゃー。こればっかりは行ってもらわなきゃ話が進まんですたい」
確かに、
当然逃げようとした私こと木原統一だが、土御門のスーパー体術で御用となり、後ろ手に縄で縛られ歩かされている。喧嘩負けなしの上条をあっさり倒した(4巻参照)腕前は伊達ではなかった。もやしもん一歩手前の木原統一では微塵も対応できなかったのである。俺も見習って鍛えるべきだろうか?
「魔術を使おうとしたら、骨の2~3本は覚悟してもらうぜい。と言っても木原っちなら即時回復なんだろうけどにゃー」
「なるほど。いざと言うときに手加減しなくていいのは助かるね。なにしろ半分以上炭にしても生き返るのは、先日実証したばかりだ」
この野郎……マジで後で覚えとけよステイル。
「ああ、俺はもうダメだ……もうさ、俺なんかが一緒に行く必要なんてないじゃん? 結果だけ聞いて後で教えてくれよ、な? それじゃダメなの?」
「さあね。君と僕。つまり学園都市の能力者とイギリス清教の魔術師との抗争の清算の話とは聞いているが。結論は聞いてはいない。僕は別件ですぐにでも学園都市に来る必要があったからね」
別件、というと三沢塾の件か。あの影の薄そうな名前の塾が、元ローマ正教の人間に制圧されちまったんだからさぁ大変って奴だ。ここはちゃんと原作通りなんだな。
そして結論とは。上条当麻とステイル、禁書目録の件すら俺はどういう処理がなされたのかを知らない。原作を読んでてもさっぱりなのだ。その上で俺自身があれだけ暴れたのだから、どうなったことやら……
「なぁ土御門。お前はどうなんだ?」
「俺はもちろん聞いてるぜよ。ま、正式に発表されるまでは言わないけどにゃー」
ふーむ、土御門は内容を知っているらしい。ということはだ。俺自身が何かまずい事になるという可能性は低いような気がする。土御門は俺の敵って感じでもないし、希望はあるな。そこまであわてる必要も……あーやっぱダメだ。アレイスターの思考は流石に土御門の想定外だろう。
「さて、俺はここまでだ。あとは頼んだぜい、ステイル」
「このビルの8階だったな?」
「そうだ。んじゃ、木原っちも頑張るんだにゃー」
窓のないビル、ではなくそのすぐ側にある建物の前で土御門は去って行った。廃ビルっぽいな。まぁアレイスターの家の隣が普通に花屋とかだったら吹き出すところだが。
無言でエレベーターに乗り、8階に着いた。廃ビルでも電気は来てるのか。察するに窓のないビルへのアクセス拠点としてのみ機能しているってことか。
ドアが開くとそこには一人の少女が立っていた。
少女というか痴女だった。
学園都市最高峰の
正直、窓のないビルへ行くと聞いたときからこいつに会うのは予見していた。だがしかし
(やっぱ露出多すぎだろ。さらしにブレザー肩掛けって、昭和の……なんていうんだっけ? 番長、じゃなくて……)
流石に木原統一の記憶にもないようだ。うんうん考えながらステイルに縄を引っ張られ、彼女の元へと進んでいく。
「もう移動してもいいかしら?」
「ああ」
「……そちらの方は?」
「あ、僕はいいです「二人とも頼む」
最後の脱出タイミングを失った。結標はなにか怪訝そうな顔をしている。無理もないか。なんかでっかいコスプレ男が縄に繋いだ男と一緒に統括理事長に会おうとしているのだから。
「ところで14歳のステイル君」
「……何故君が僕の年齢を知っている」
「流石にそろそろ縄をだな……解いてはくれんかね」
「断る」
あっさり断られた。さいですか。この格好で統括理事長にご対面かよ。この大男の年齢を明かしてみたりしたが、結標は無反応だった。伊達に窓のないビルへの案内人はやってない。やはりVIPを運んだりする職業なだけに、ポーカーフェイスが必要になってくるのだろう。
「それじゃ、行きますよ」
と言った直後、視界が一瞬にして切り替わる。埃っぽい床は配線だらけに、ガラスのない窓は消え窓一つない空間に。そして奥には―
巨大な生命維持槽のビーカー
緑の手術衣
聖人にも囚人にも見える『人間』
アレイスター=クロウリー、その人がいた。
主人公がアホじゃないかって?
茶番じゃないかって?
……ああそうだよ(上条感)
書いてて便利な肉体再生。ちなみに例の欠点を克服すればレベル5入りだったりもするんですが、その場合第何位なのかは微妙です(第6位と比較のしようがないので)