とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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002 能力者は九死に一生を得る 『7月20日』 Ⅱ

「まさか、数時間でここまで回復するなんてね?」

 

 カルテをめくりながらしげしげとこちらの様子を窺うカエル顔の医者がそう呟いた。

 

「運び込まれて来た時には僕にも無理だと思ったね。なにせ炭化してない部分のほうが少ないのだから、いくら僕でも人間を一からは作れないしね?」

 

 嘘だ、こいつならやりかねない。と思ったが口には出さないでおく。

 

「……なにやら苦い顔をしているけど、親御さんに連絡を入れた時の僕の心境にもなってもらいたいもんだ。君の能力、肉体再生(オートリバース)だったかな。大能力者(レベル4)ともなれば完全に医者要らずだね?」

 

 正直、なにを聞いても頭に入ってこない。というか、直感的には理解しているが、非現実的すぎて理解したくない。「これは夢だ」を現実でやる事になるとは。……あ、現実って認めちまった。

 あの火炎地獄の後、ベッドで目覚めると美人の看護師さんがいた。その看護師さんが呼んできたこのカエル顔の医者を見た瞬間から、現状をなんとなく理解してしまったのだ。

 

「お悔やみを申し上げようとしたらそれは死んだふりだ、なんて指摘を受けてね? 最初は君のお父さんが現実を受け入れたくないのかとも思ったけど、話を聞くとなるほど、と納得したね」

 

 どうやったら納得できるんだそこで。死んだふりておま、まったく意味がわからんぞ。……いや、この街ならそうなるのかな……

 

「君の身体は本来なら、炭化どころか火傷した端から即時回復するらしいね? 服は再生しないから、理論上全裸のまま燃え続けるらしいね」

 

 嫌すぎるわ! なんだその生き地獄は……

 

「そうはならなかったのは、君がこれまで大きな怪我や病気にならなかったのが要因かな?あくまで仮説だけど、長い間能力を使用してなかったみたいだしね?」

 

 なんとも恐ろしい。ちょっと聞いてみるか。

 

「ちなみに、あのまま燃え尽きていたらどうなったんですか?」

 

「当然、死んでるね?」

 

 ですよねー、あのクソ神父には二度と近づかないようにしよう。

 

「まぁこれで、もう二度と僕の患者になることはたぶんないね? それじゃ、ほぼ全快とはいえ無理はしないように。明日には退院だからね? 一応この後、君のお父さんが様子を見に来るらしいから、起きていたほうがいいかもね?」

 

 そう言ってカエル顔の医者、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は部屋を出ていった。

 窓の外を見ると、見慣れぬ街並みの中に何故か風車がいくつも建っている。ビル風を使って発電してるんだったか。電磁波を浴びせると逆回転するらしいアレである。そしてなんか遠くに天高くそびえ建つ棒のようなものが……あぁ、アレもあんのか。やったね、生で歌姫の声が聞けるよ! ……はぁ、それまでに俺が生きてたらね。

 

 赤髪神父 カエル顔の医者 超能力 街中の風車にダメ押しの宇宙エレベーター

 

 もうこれは認めるしかない。ここは、『とある魔術の禁書目録』の世界なんだと。

 

 『とある魔術の禁書目録』現実世界ではそこそこ売れたライトノベルとして有名である。あらゆる異能を打ち消す右手、幻想殺し(イマジンブレイカー)を持つ主人公『上条当麻』が、女の子を片っ端からそげぶしていく物語だ。うん、たぶん違う。いや、深い意味ではあっているかもしれない。んなこともうどうだって(ry

 

 

 超能力が科学で解明された街、学園都市。

 

 総人口の8割が学生であり、その全てが能力開発を受け、大小様々な能力を保有している能力者である。外界とは科学技術が数十年ほどの開きがあると言われており、今日日、科学の最先端を全速力で走り続けるぶっ飛んだ街だ。

 ここまでならばいい。科学がちょっと、いやちょっとどころかオカルトにさえ見える科学の蔓延る世界だがそれもいいじゃないか。うん。

 

 当然ながらこの街には裏の顔がある。他のどの国よりも進んだ科学は一体どれほどの利益をもたらすのかを考えれば当たり前だ。外界と隔絶されたこの街では、倫理的ライン? なにそれおいしいの? とでも言わんばかりの実験は当然のように行われているし、様々な利権が絡み合う最先端の技術には「ご一緒に妨害工作や情報操作はいかがですか?」とこうなる。ちなみに断れない。押し売りである。

 もちろん問題は学園都市内部だけではない。学園都市の概要を眺めればこういった裏事情を想像するのは子供にだって難しくはないのだから。当然外側にも、学園都市を敵視する輩はいるはずである。日夜、黒い噂を武器にネガティブキャンペーンを展開したり、機密情報を狙う産業スパイが侵入しようと躍起になっているのではないだろうか。それらを全て撥ね除け、今日まで科学のトップとして君臨しているこの街は、一言で言えば怪物である。

 

 そんな街に、『木原統一』という一人のキャラクターとして、何故か存在してしまっているのが俺だ。元の世界では普通の、苗字は二文字で名前も二文字の高校生だった。成績も普通、容姿も普通、通信簿にも「個性がほしいですね」と失礼なことを書かれるくらいに普通の……いや、それは普通ではないかもしれない。とにかく、そんな俺が異世界に迷い込むなんていう由緒正しい古典ファンタジー現象に巻き込まれてしまった。

 

 正直な話、嬉しい気持ちが皆無なわけではない。誰もが一度は憧れ……ないけども、ロマンと言わざるを得ない異世界転移である。魔法のような、奇跡のような現象を目の当たりにして、まったく心動かされない人間がいるだろうか?……転移1分後(体感)に体を燃やし尽くされた経験がなければ、おそらくこの気持ちももうちょっとだけ続いたんだろう、と思う。ファーストコンタクトは最悪である。

 そして転移早々、懸念事項がてんこ盛りである。この街に、この苗字として、しかも(おそらくだが)いないはずのキャラクターとして現れるのはかなりまずい。

 この瞬間にも、あの『窓のないビル』の住人に排除対象として認識されるかもしれないと思うと恐ろしい。気がついたら細胞レベルで粉々でしたなんて、この街では普通にあり得るからだ。あんな兵器に『オジギソウ』なんて可愛い名前を誰が付けたのか。

 

「ヤバイよなー……あ、独り言もまずいのか。いや、独り言でまずいってことは既にマークされているわけで、そしたらいまさら気にすることでも……」

 

ガラッ と病室のドアが開く音がする。そういえばさっきカエル顔の医者が言ってたな。君のお父さんが来るって

 

 お父さん? Father?

 

「よー、元気かなー? クソガキ」

 

 とんでもないお父さんが、そこにいた。


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