とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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久しぶりののんびり感




032 救われる者 『?月?日』 Ⅱ

 布束砥信が去って、2日が経過した。

 

 未だに口からは人工呼吸器が外れないのだが、右腕が動くようになりようやくカエル顔の医者との意思疎通が取れる事になった。

 

「さて、この紙に思ったことを書いてごらん?」

 

 無論、未だに3歳児扱いである。あれから色々と外部への連絡方法を試してみたのだが、ことごとくスルーされ今に至るのだ。

 その間見舞いに来るのは土御門だけだった。どうやら俺がここにいる事自体が、極秘の扱いを受けているように感じる。土御門は一言二言「すまない」だとか「また来る」と呟いては帰っていく。100歩譲って布束が謝罪した気持ちは理解できた。何故土御門が謝るのか。あの夜に俺に催眠でもかけて一方通行(アクセラレータ)にけしかけたとかだったら怒るが、万に一つもそれはないだろう。

 

「さて、なにを書いたのかなー?」

 

 "はよこれ外せ"

 

「……」

 

 カエル顔の医者が驚きの顔を見せるのはかなり珍しい。冥土帰し(ヘブンキャンセラー)はすぐにポケットから電話を取り出した。

 

「僕の患者に細工をした人間がいるようだ……監視カメラの映像を───」

 

 ダメだった。ちょっとまってくれ、話を聞いてくれ。

 

「君に学習装置(テスタメント)を被らせた人間……彼女かな? 最近は来ていないようだけどね?」

 

 布束に容疑がかかりそうになっている。違うんです先生、そうじゃないっす。説明するからその紙を早く貸してくれ。

 俺の物欲しそうな目を見て、訝しみながら紙を渡してくれた。

 

 "学習装置なんて被ってない"

 

「まぁ、僕ならそう言うようにインプットするね?」

 

 "じゃあなにか質問してくれ"

 

「ふむ……」

 

 カエル顔の医者はなにか考え込んでいる。

 

「では、そうだね。僕を罵倒してみてくれないか?」

 

 ……意図が読めない。そんな事したくないんだが。やれと言われたらやるしかないか。

 

 "ナースを狙う二足歩行両生類"

 

「生命維持装置を外してやろうかね?」

 

 おいやめろ。こっちは言うとおりにしたのに。

 

「いや、すまないね。生命の神秘とやらに嫌気が差してしまってね? 負けた試合を勝ちにしてやると言われた気がしてつい、ね」

 

 自発呼吸ができるかね? と言いながら人工呼吸器を外してくれた。どうにかして咳き込む事ができる。身体は未だに動かないが右手だけ動く。どういう優先順位だよ肉体再生(オートリバース)

 

「神経関係は内臓を集中的に修復中だね? 脳の損傷もまだ残っているはずだ。注意障害は確実に出ているね……午後には麻酔を減らして、明日には一応、生活へ戻るためのリハビリを始めようと思っていたのだけど……ちなみにさっきの罵倒は人格テストと記憶テスト、そして認識力テストを兼ねてるね? どうやら本当に学習装置を使ったわけではないみたいだ」

 

 肉体再生は演算能力が戻れば戻るほど、損傷部分が少なくなればなるほど治療速度は上がる。つまり最後は治る速度が劇的に早くなるのだ。冥土帰しはその治療速度を麻酔で遅らせる事で、治療スケジュールを組んでいるらしい。あまりに早過ぎると投薬中の薬品の切り替えが間に合わなかったりするそうだ。もうなんでもアリだなこの人。

 

「名前は?」

 

「木原統一」

 

「歳は?」

 

「16」

 

「ここに来る前の最後の記憶は?」

 

「一方通行に血流操作貰いました」

 

「……むしろそれは忘れた方がいいね?」

 

 その後も携帯を渡されて「コレを使ってみてくれ」だとか、この場所は何処だとか、様々な質問をされた。カエル顔の医者はそれをメモし、病室をぐるぐると回ってうんうん唸った結果。

 

「君の身体って、結構ファンタジー?」

 

アンタの存在も結構ファンタジーだと思う。

 

「そうですか?」

 

「まぁね。一体何処に記憶が蓄えられていたんだい? 骨や歯、爪とか髪とか、そういうところに脳みそが無い限りは考えられないんだがね?」

 

 人はそれをホラーと言う。そんな怪物をお花畑とか妖精みたいなジャンルに突っ込むんじゃない。断じてそれはファンタジーなどではない。

 

電撃使い(エレクトロマスター)なら電気的ネットワーク説を疑うんだけどね」

 

「ネットワーク……そういえば9982号は」

 

「この病院に入院している。命は保証するね」

 

 足をぶった切られていた彼女だったが、この医者にかかればなんて事はない。問題は……

 

「君がどういう関わり方をしているかは知らないが、彼女は計画には参加させないね。だから安心するといい」

 

 よかった。これで計画は……いや、布束は中断状態だと言っていたか。彼女はあの後見ていないが、どこに何しに行ったのか。あれ、安心どころかまずい気がする。ここからはまったく先が読めない。

 

「僕としては彼女よりも君のことが心配だね? よくもまぁ割れた水風船みたいな状況からここまで回復したもんだ。もしかして、治療の報告も聞いていたのかな」

 

「ええ、まぁ」

 

「ふむ、だいぶ前から意識はあったんだねぇ……」

 

 首を捻りながら冥土帰しは病室を出て行った。未だに納得が出来ないらしい。正直なところ、割れた水風船に例えられるような人間を治したアンタの方がスゲェよ。それに比べれば俺の記憶が破損していないなんてことはどうでもいいって。

 

 カエル先生が麻酔を減らしてくれたお陰か、だいぶ意識がはっきりしてきた。同時に身体中に少し痛みを感じる。そして一番痛いのは頭だ。のんびりしてないでとっとと治してくれ肉体再生。……血流操作をもらったのは初めてだし、それこそ身体中が重症のせいだな、ここまで修復に時間がかかるのは。2度目はないと思いたいのでこの経験は無駄だと言える。演算能力はどれくらい戻っているのだろうか?

 

 そんな事を考えながら、早く治れ治れと祈っているとベッドの横のモニターのアラームが鳴り、また頭がぼんやりしてきた。畜生、アラームが鳴るって事はこの方法で合ってるという事か? 元々の麻酔が少なくなっているので意識を失う事はなかったが、これ以上やってるとさらに麻酔の量が増えそうだ。やめておこう……こっちは早いとこ布束を探しに行きたいと言うのに。

 

 そんなこんなで暇を持て余していると、病室のドアが開いた。アロハグラサンの登場である。……こいついつも花持って来てるんだよなぁ。本当に、一体何故こんなにも引け目を感じているのだろうか?

 人工呼吸器を外れた俺を見て若干驚いたようだが、またすぐ伏目がちになっている。……誰だこいつ。土御門はやはり、飄々としたあの態度が似合っていると実感する。

 

「あのさぁ」

 

「……!!?」

 

 土御門が驚いている。……いや、驚かす意図はないんだけど。この状況だとどうしても、ね。

 

「なんでお前、毎日毎日謝りに来てたんだ?」

 

「ず、随分回復が早いんだな。もう喋れるのか」

 

 なんかすっげー動揺してる。できればいつもの土御門に戻って欲しい。

 

「お前を……君を病院に運んだのが俺なんだが、実は……君があの状態になるまで、俺は何も出来なかった」

 

 君? なんだ"君"って。……あ、俺って今廃人状態のはずなんだったか、そりゃ驚くわ。カエル顔の医者がそう思ってたくらいだしな。

 

「君を止めようと思えば止められた。だが俺はある事情でそうしなかった……出来なかったんじゃないな。やらなかっただけだ」

 

 ……なるほど、察するに俺の監視は続いていたのか。イギリス清教に加入させて首輪を着け、土御門はその監視役だったと。よく考えればそうだよなぁ。未だ得体の知れない人物であることには変わりない。そんな奴が夜に出掛けたら追跡の一つや二つするだろうし、そこで学園都市のトンでも計画に介入し始めたら止められませんわ。

 事が収まった辺りで俺を極秘に回収、そして治療。むしろ土御門にもお礼を言わなきゃダメじゃないかこれ? ……土御門の仕事増やしっぱなしだなぁ俺は。

 

「すまない。許してくれるとは思っていない。ただ、俺に出来ることならなんでもしよう」

 

「え? じゃあ舞夏と1日デートとかでもいいのか?」

 

「……」

 

 土御門の表情が、しょんぼりした猫から獣を狩る虎に。そしてそのまま頭痛に悩むゴリラみたいな表情になった。悲哀、憤怒、困惑だな。百面相かよ。

 

「ダメなん?」

 

「……お前…」

 

 笑いながら怒る。だが確信が持てないのでその握った拳をどうする事も出来ない。と言ったところか。うーん、どうしたものか。

 

「いやー世話かけたな。すまん、マジカル土御門」

 

 花束が飛んできた。いい匂いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想御手(レベルアッパー)、あれ聞いたのかお前」

 

「短時間だがな。その状態で学習装置の改修版を被りながら、お前の脳に接続した。俺自身がお前に対しての最適な代理演算装置になったわけだ」

 

 学習装置はなにも知識をインストールするだけではない。頭の中の知識を整理整頓し目的に沿って最適化を施す事も可能なのだ。その状態からまた元の状態に戻すのも可能と言えば可能だが、これら一連の動作にはやはり専門家の知識が必要となる。その辺りは布束が監修したそうだ。

 

「布束砥信を探し出して連れて来たのも俺だ」

 

「……俺って、お前の仕事増やし過ぎだよなぁ」

 

「そう思うなら、次からはおとなしくしてて欲しいにゃー」

 

 ぐうの音も出ない。すいませんホント。インデックスの時なんか土御門兄妹の生活まで危険に晒しちゃったし。今後は……確約できねぇ。なるべく、なるべくな?

 

「んで、実験はどうなったんだ?」

 

「……」

 

「もうその沈黙が答えじゃねえか」

 

 中止ではなく中断。そこから事態は動いていないのか悪化したのか。いや、動いていないなら動いていないと言いそうなものだ。つまりは───

 

「くぅー、木原っちが完全復活してるせいか、とっさに嘘がでなかったにゃー」

 

「らしくねえなぁ」

 

 本当にらしくない。でもそれだけ木原統一の事を心配していてくれたという事だ。それは素直に嬉しいが、口には出さない。それが正解な気がする。

 

「んで、どうなんだよ」

 

「……言うと思うか?」

 

 はい、思いません。さて、どうしたもんかなぁ……

 

「いや、俺っていまこんな状態じゃん? 動けるまで相当かかるし、聞いたところで何もしないって。な?」

 

 ちなみに今現在、俺は上半身を少し浮かせられるくらいまで回復している。相変わらず身体中は痛みっぱなしだ。

 

「だけど人工臓器は外れてるようだし、無理すれば動けるんじゃないかにゃー」

 

「いや、まだ内臓関係はボロボロで、不思議な液体注入されて無理矢理調整されてんのよ? 脳だって認識力落ちてるから、たとえ歩けても3歩でこけるような状態だし。なにより演算能力が低下してるから肉体再生がだな……」

 

 土御門がうーんと考えている。お願いします土御門様。

 

「本当に、本当に動かないな?」

 

「おう、もちろん」

 

「……しょうがないにゃー。んで何が聞きたい?」

 

 よっしゃ!

 

「……布束はどうなった?」

 

「"どうなった"ね。まるで彼女が何をしたのか、知っているって口ぶりだにゃー」

 

「茶化すな」

 

「……実験の妨害工作がバレて、拘束されてるにゃー。学習装置の専門家(スペシャリスト)っつーことで、手厚い待遇を受けてるぜよ」

 

 なんというか。史実どおりの動きだった。彼女は結局無茶をして、そのせいで捕まってしまう。その後は……やはり人造人間を利用した学園都市のクーデターに利用されてしまうのだろうか?

 

「実験は?」

 

「再開予定だぜい。レベル5級の能力者が二人も介入したって事で、出資者(スポンサー)は納得しちまったようだ。樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)への再計算を申請するまでもなく、何人かの妹達(シスターズ)を短縮して、再スタートですたい」

 

 布束を救えず、実験も止まってない。

 ……俺は、無力だ。

 

「……まてよ、樹形図の設計者は破壊……いや」

 

 そういえば。樹形図の設計者は原作において、インデックスの竜王の殺息(ドラゴンブレス)で撃ち落とされるはずだった。

 だがこの世界では。インデックスの解呪のタイムリミットを待つことなく、日付を前倒ししてしまっている。つまり───

 

「……木原っちは何でも知ってるにゃー」

 

「どういう事だ?」

 

「樹形図の設計者は7月25日に撃墜されてるにゃー。知る人ぞ知る情報なんだが……そんな事も知ってるとなると、ますます謎が深まるぜよ」

 

「い、いや!? 知らなかったぞ、初耳だ」

 

「もう遅いぜよ……はぁ、こんな木原っちに、俺は踊らされてると考えると、なんだかにゃー」

 

 "こんな"って何だ。……まぁ俺がマヌケな事をしでかすのは今に始まった事ではないが。

 

 ……いや、そんな事より。樹形図の設計者は歴史どおりに撃墜されているだと? 偶然か? 竜王の殺息は遠距離になればなるほど拡散して範囲が広がる、とかはないよな?RPGでよく出てくるドラゴンの炎みたいに。それともアレイスターの計算通りか? ……後者っぽい気がするな、世界最高のスパコンになんて事を。インデックスVS上条当麻を観測するために、小萌先生の家の上に移動していたのか?

 

「もう聞きたいことは終わりかにゃー?」

 

「まだあるぞ。一方通行(アクセラレータ)はどうなった?」

 

「とっくに治療済みぜよ。事が事だけに、普通の医者じゃなくて裏の人間に治させたみたいだにゃー」

 

 殺すのには失敗か。……なんだろう、あの時はただひたすらに殺そうと躍起になっていたが、今アイツがまだ生きてると聞いて少し安心してしまった。度胸が足りねえな……第1位に単身で挑んだのは度胸と言うより無謀だった。

 

「さてと、俺はそろそろ帰るぜよ。もう夕方だしにゃー」

 

「ちょ、ちょっと待て。まだ聞きたい事がある。布束の行方を───」

 

「それ言ったら、絶対木原っちは無茶するぜよ。安心しな、彼女が高待遇を受けてるってのは事実だぜい。俺のほうでも、色々と手は回してある」

 

 木原っちの弔い合戦だと思って、色々準備してたのににゃー。と土御門は呟きながら病室を出て行った。……そう言われると胸にこみ上げてくるものがあるな。いい人過ぎるだろアイツ。

 ……よし、布束を一刻も早く救い出そう。もう既に暗部組織……なんだったか。『スタディ』? だかなんだかに拾われているのだろうか。だとしたらその構成員を追えば彼女の元に辿り着ける。土御門との約束? 知らんなそんなものは。

 

 ならばこの麻酔をなんとか……と考えていたところで、病室のドアがノックされた。……誰だ?

 

「失礼します、面会に来たのですが。とミサカは返事を待たずに入室します」

 

 そこは返事を待てよ。学習装置にそういう礼儀作法は入ってないのか。

 

「お前は……」

 

 車椅子に乗って彼女は入ってきた。患者用の服を着ているのは珍しいな。

 

「ミサカの検体番号は9982号です。とミサカは貴方に自己紹介をします」

 




 ちなみに姫神さんは小萌先生宅へ引っ越しました。

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