とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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のんびりのんびり……と言っても病院パートに3話は長過ぎな気もします。




033 高らかな生命の意味 『?月?日』 Ⅲ

 ミサカ9982号。名前の通り9982番目に生まれた御坂美琴のクローン……いや、9983番目かもしれない。そして御坂美琴が最初に出会った妹達(シスターズ)の個体であり、本来ならば死んでいたはずの人物。

 

「貴方が、第9982次実験を妨害した首謀者で間違いないですか? とミサカは質問します」

 

「……まぁ、そうなんだが」

 

 妨害、と言われると悪い事をした気分にならなくもない。実際その通りだし、否定はできない。もちろん妹達のために命を賭けたのですかと問われれば答えはノーだし、その事でお礼とかを彼女たちが言ってきても、俺は迷わず突っぱねる。……それでももう少し言い方がなぁ。

 

「……」

 

「……」

 

 互いに黙ってしまった。なんだ?なにしに来たんだコイツ?

 

 ……まてよ、妹達っていうのはミサカネットワークで繋がっている。ということはつまり、実験関係者にも妹達経由で繋がっているということだ。「実験を妨害した人物の特定に成功しました」みたいな事を今頃コイツは報告している可能性はないだろうか? 「出来るだけその場に留めておけ」みたいな返答を貰った後で、5分後くらいにビームお姉さんが窓からこんにちわとか?

 

「……なぁ、なんで黙ってるんだ?」

 

「……」

 

 ……これはマジかもしれん。身体がまったく動かせないこの状況だ。原子崩し(メルトダウナー)どころか能力追跡(AIMストーカー)の子ですら俺を殺せる。逃げ場なんぞないし助けも呼べない。ナースコールを鳴らしたところで愉快なオブジェが1つから2つに増えるだけだ。

 

「……男女が再会し会話に詰まった場合、男性から話を振るのが一般的です、とミサカは貴方に落胆と失望を覚えます」

 

 全然違った。最近は勘が外れてばかりいるな、ははは。っておい。

 

「その妙な情報は何処で手に入れやがった!? 布束か! 布束の学習装置(テスタメント)なのか!?」

 

「いえ、先ほど見ていた『学園都市サスペンス特別編~愛した女と消えた音楽家~』で学習しました、とミサカは報告します」

 

 布束ではなかった。当たり前と言えば当たり前だ。

 

「そ、そうか……面白かったのか?」

 

「最後に逆上した音楽家が魔法で華麗に撃退されたシーンが印象的でした、とミサカはあのシーンを思い出して再び感動に浸ります」

 

「……サスペンスじゃねえのかよ」

 

 実のところ、視聴率が取れないドラマ番組が超機動少女(マジカルパワード)カナミンとコラボした1回限りのトンでも大技回であり、後の超機動少女カナミン実写版にて、そのドラマのヒロイン役が大抜擢されるほどの伝説の回、という情報を木原統一が聞くことはなかった。

 

「……まぁいいか。んで、まさかそのテレビから得た知識を披露しにきたわけじゃないよな?」

 

「……」

 

「嘘だろおい」

 

「いえ、会話の導入に失敗したのでこれからどうしようかと困っていたところです」

 

 ……まぁ、この子の事情を考えれば、俺が話を振ったほうがいいよな。

 

「と、ミサカは暗に「とっとと何か喋りやがれ」と要求します」

 

 ……落ち着け、この子に悪意はない。ちょっと不器用なだけさ、そうだよな。彼女が紛れもなく人間であると俺は勝手に思っているのだが、だからと言って一般人と同じ要求をするのは間違いだ。

 

「そ、そうだな。足の調子はどうだ?」

 

「車椅子の人間にその質問をするのですか?とミサカは貴方の"でりかしー"のなさを非難します」

 

 ……いや? 正論だ、たしかにそうだ。ぱっと見て両足をぷらぷらと余裕そうに振っている彼女だが、やはり気にしているのかもしれない。俺が馬鹿だった。もう少し真剣にいこう。

 

「今日はいい天気だな」

 

「……貴方の引き出しの少なさには驚かされます、とミサカはため息をつきます」

 

 あれ? これは流石におかしくないか? 妹達ってここまで人当たり悪かったっけ? ……いや、そんな事はないはずだ。食い意地が多少はあったり、カエルのバッジに執着を見せたり、猫に愛着を抱いたりするのは知っているが、ここまで毒を吐くのはおかしい。俺が何かしたのか?

 

「あのー、ミサカさん」

 

「なんでしょう、とミサカは突然さん付けで呼ばれることに驚きながらも返答します」

 

「君は他の妹達と比べて、ちょっと変わった所があるよね?」

 

「……それは足の事でしょうか?とミサカは───」

 

「あー違う違う。精神的というか喋り方というか、そういう所が少し違うかなーって思ってね」

 

 主にマイナスの方向にだが。

 

「……どうやらバレてしまったようですね、とミサカは自らの変化に戦慄を覚えます」

 

 どうやらなにかあるようだ。布束が手を滑らせたとか?天井亜雄がやらかしたか? カエル先生が誰かの足と取り違えて、そこから人格が……ってのは流石にないとして。誰だ? この子をとげとげしい性格に変えたのは。

 

「ミサカが意識を取り戻したとき、側にはお姉さまがいました」

 

 お姉さま……御坂美琴か。おそらく付きっきりで看ていたのだろう。

 

「「私がこの禄でもない実験を止める。貴方はここにいなさい」とお姉さまは言いました」

 

 まぁそうなるだろうな。正義感の強い彼女だ。布束も、御坂が実験関連の施設を襲撃してるとも言っていた。……それがこのミサカの変容とどう関係するのか。

 

「ですがミサカはこれからどうすればいいのでしょうか、とミサカはお姉さまに問いかけます。するとお姉さまはこう答えました。「貴方はここで寝ていればいいの。テレビでも観て、のんびりしてなさい」と」

 

 ……んん?

 

「「次会うときまでに、何がしたいだとか、アレが欲しいだとか。そういう事が言える様になっておきなさい。……アイスやバッジの時みたいな強奪はしないこと」と言いながら、お姉さまは病室を後にしました」

 

 ……う、うむ、なるほど。いい話じゃねえか。

 

「なのでミサカはテレビを観て、感情表現を豊かにする訓練を行っているのです、とミサカはここに自らの意識の高さをアピールします」

 

「……なんつーか、色々と台無しだよ最後で」

 

 どんな番組を観てこうなってしまったのか。彼女を変えたのは御坂美琴だということが判明した。……だが結局のところ、彼女は俺へ本音を言っているだけなのだ。想いを伝える訓練を懸命に行っている彼女を、責める事など出来るはずもない。それに……デリカシーがないのも引き出しがないのもその通りだよ畜生。

 

「むむ、この流れなら言える気がします、とミサカは自分の本来の目的を思い出します」

 

「……まだなにか?」

 

 もう俺の心のライフがだな……

 

「今日はお礼を言いにきました、とミサカは簡潔に伝えます」

 

「よくこの流れで言えると判断したな」

 

 こちらの反応はお構いなしと言ったところだ。……やっぱテレビのせいかな。

 

「実験を中断させただとか、命をなんちゃらってのなら礼はいらないぞ。俺が俺個人の都合で動いただけだからな。……酷い話だが、お前たちのためじゃないんだ」

 

「いえ、その事ではありません、とミサカは貴方の認識を改めるよう要求します」

 

 ではなんだろうか。感情表現のトレーニングの一貫か? カエル先生が「礼を言っておくといいね?」みたいなアドバイスでもしたのだろうか。

 

「貴方のおかげで、再びお姉さまと再会することが出来ました。ありがとうございます、とミサカは心からの感謝を伝えます」

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れ時、御坂美琴は鉄橋に一人、ぼんやりと立っていた。

 手すりに両手をついて、夕日に染まる川を見ながら。

 

 8月15日、彼女は自らのクローンとの邂逅を果たした。そして同日、自分と同じ顔をした何千人ものクローンが、ある計画に遣い潰されている事を知る。

 

 絶対能力進化(レベル6シフト)計画。まだ見ぬレベル6に至るため、ただそれだけの目的のために殺されていく妹達。その存在を、御坂美琴は見過ごせなかった。

 

 関連施設への間接、直接的な襲撃。機能停止に追い込まれた研究所は両手の指では数えられない。それら全てが超能力者(レベル5)の第3位、御坂美琴の戦果だった。学園都市最強の電撃使い(エレクトロマスター)、名門常盤台のエース、超電磁砲(レールガン)等の異名は伊達ではない。

 

 そんな彼女を以てしても、この街の闇は止まらない。

 次々と動員される研究者、増えていく関連施設。彼女を迎撃しに現れた暗部組織の人間。そして───計画の再開。

 

 学園都市のレベル5の第1位、一方通行(アクセラレータ)の負傷と、想定外の戦闘による樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の計算からのズレ。その両者を受けての実験の一時中断は、もう間もなく解除されようとしている。

 樹形図の設計者はもうこの世界には存在しない。だが不幸にも、あの世界最高のスーパーコンピューターが弾き出した計画(プラン)の修正は、地上の技術でも十分計算が可能だったのだ。致命的な誤差ではなく、許容可能な程度のダメージ。それが先日の第9982実験における異分子(イレギュラー)の結果だった。

 

 このまま御坂美琴が妨害を続ければ、計画は止まるかもしれない。計画にかかる資金は無尽蔵ではない。リスクとリターンが合わなければ、スポンサーは撤退する。……だがこの計画の場合、その絶対能力者(リターン)が大き過ぎる。

 実験が再開してから、彼女が計画を破綻させるまでに。あと何人もの妹達が犠牲になるのか。

 

 ……それを、彼女が許すはずもない。

 

(最強と呼ばれる超能力者、一方通行……でも、無敵ってわけじゃない)

 

 彼に手傷を負わせた能力者がいるという情報を手に入れた。施設襲撃時に偶然見つけたものだがおそらく、あの発火能力者(パイロキネシスト)の男だろう。高出力の炎で、9982号(あの子)を守ってくれたあの日、一方通行は火傷及び内臓へダメージを負ったらしい。偶然とは思えない。

 

(結局、正体はわからなかったけど……それでも、私に道を示してくれた。感謝してるわ)

 

 樹形図の設計者によれば、一方通行と超電磁砲が戦闘をした場合。超電磁砲(レールガン)は185手で敗北する。世界最高のスパコンがはじき出した予測演算。その内容に、学園都市の研究者は絶対の信頼を抱いている。

 だがもし、その一方通行に超電磁砲(御坂美琴)が勝利したら。あるいはそれ以上の期間を生き延びた場合、どうなるだろうか。

 樹形図の設計者の計算が間違っていると証明できたなら、その予測演算によって支えられているこの実験は崩壊する。

 

(超能力者でもない人間に出来て、第3位(わたし)に出来ないなんて道理はないわよね)

 

 学園都市には発火能力者の超能力者(レベル5)はいない。そんな男が立ち上がっているのに、自分は何もしないなんて事が、あっていいはずがない。

 

「……行くわよ御坂美琴。あの子を……あの子たちを救いに」

 

 

 木原統一という転移者(イレギュラー)がもたらした変化は、最悪の結末へとその矛を向けた。

 それはただの偶然か。それとも、周囲に破滅をもたらす『木原』の特性の残滓なのかはわからない。

 

 主人公(ヒーロー)の姿は、そこにはない。

 

 この鉄橋に姿を現すはずだった彼は、未だ舞台には上がらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 前提として、木原統一は妹達のために戦ったわけではない。

 

「ミサカにはまだ、お姉さまがミサカの事を大切に思ってくれている理由を、明確に理解する事はできません」

 

 布束砥信。彼女が暗部組織に落ちる様を、ただ眺めているなんていう事が出来ずに、あのような暴挙に出た。

 

「同じく、ミサカは"生きたい"という感情についても、まだわからないままです」

 

 今だって、妹達の行く末も気にはなっているが。心の中では布束の身を案じている。命が危ない妹達よりも、土御門曰く手厚い保護を受けているであろう彼女を心配しているのだ。薄情者と言われても仕方ない。

 

「ですが……お姉さまと再び会えた時。お姉さまに頭をなでてもらった時。妹達(わたしたち)を守るという言葉を聞いたとき」

 

 だがこの瞬間、木原統一にはわかった事がある。

 

「ミサカはそれを、"嬉しい"と感じる事が出来ました」

 

 布束砥信(かのじょ)が守りたいと思ったもの、その理由を、この瞬間に理解した。

 

「なので、実験を妨害した貴方に、お礼を言いに来たのです」

 

 彼女たちは実験動物などではないと、布束砥信が感じた瞬間。それと同じものを、木原統一は感じていた。

 

「……話を聞いていますか? とミサカは確認をとります」

 

「ああ。……そっか、嬉しかったのか」

 

 こんなにも繊細に、こんなにも真っ直ぐに世界と向き合える少女が、あんなくだらない事のために殺されていいはずがない。

 

「……一つ聞きたいんだけど」

 

「なんでしょうか」

 

「実験の再開っていつだ?」

 

「本日午後7時より、再開予定です。とミサカはミサカネットワークから得た情報をリークします」

 

「……そうか」

 

 それを聞いた木原統一は、ため息をつき、そして。

 自らの腕に刺さった麻酔針を、強引に引き抜いた。

 

「な、なにをやっているのですか、とミサカは」

 

「そこのモニターのアラームを止めてくれ」

 

 患者に刺さっている針が抜ければ、当然その通知が病院の誰かに届く。そうすれば看護師がとんで来て、すぐにでも針を再セットするだろう。

 

「……能力を使って信号を停止させました、とミサカは報告します。それよりも、今のは抜いていい物ではないのでは? とミサカは確認をとります」

 

「みたいだな……ッ!」

 

 ベッドの端を掴み、歯を食い縛らなければ耐えられないような痛み。血液に乗って、身体中にサボテンでも這い回らせているのではないかと錯覚するほどの激痛が走る。

 そんな中でも、木原統一は冷静だった。

 

(今、俺の肉体再生(オートリバース)は全身を満遍なく修復している状態だ。麻酔によって低下した演算能力はもうすぐ戻る)

 

 それでも、脳の損傷はそのままである。ならば───

 

(一度身体中の肉体再生を意図的に止めて、脳を集中的に治す……それが出来れば、次は足、その次は腕)

 

 肉体再生の操作。普段は無意識でやっているであろう演算への意図的な介入。それができなければ、実験の再稼動には間に合わない。

 

(俺があの時馬鹿やったせいで、事態はますます悪くなる一方だ。今実験が再開しちまったら、妹達を救う人間がいなくなっちまう)

 

 おそらく、上条当麻(ヒーロー)は来ない。実験の中断はつまり、ミサカ10031号の死体を上条が目撃しないという事だ。あの光景がなければ、上条は御坂美琴の部屋を訪れない。実験のレポートを見ることもない。

 自分のせいで、ほんの一時の感情で動いたお陰で、妹達は、御坂美琴は……布束は、真の意味で救われなくなってしまう。

 

 布束が望むのは自身の安全などではない。

 妹達の生存、実験の中断。

 それこそが彼女の望む事。

 

 

 

 

 

 

 

「何事かね?」

 

 その1時間後、報告を受けて来たカエル顔の医者が病室に来たときには、木原統一の姿はなかった。

 

「退院しますとの言伝を受けています、とミサカは呆れながらに報告します」

 

「……動けるようになるとはね。まぁあの能力を制御できるようになったのなら、予想できない事ではないがね?」

 

「それと、ごめんなさい。とも言っていました、とミサカは嘆息します」

 

「やれやれだね。謝るくらいなら、最初からこんな事しないでもらいたいね?」

 

 カエル顔の医者、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)は窓から外を見て、こう呟いた。

 

「……死ぬなよ。死なない限りは助けてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

「例のポイントに約1名、超接近中との事です」

 

「はいはい、ほらアンタたち。仕事だよ」

 

「あーあ、このギャラでこの仕事内容って割に合わな過ぎ。結局、これってこの前の仕事のツケって訳よ」

 

「そうねフレンダ。()()()()ヘマしたツケなんだけど……」

 

「わーごめんごめん麦野! ていうか私、もう十分お仕置き受けたから! いい加減許して欲しいって訳よ!」

 

「……南南西から不思議な信号が来てる」

 

「男の発火能力者(パイロキネシスト)、でしたっけ。とにかく見た目ではわかりませんが、その男を超入れなければ依頼達成なんですよね?」

 

「そういう事。……カメラに映ってるって事は、超電磁砲(レールガン)は今回の件には絡んでないのかしら」

 

「あー麦野。もしかしてこの依頼を受けたのって結局……」

 

「当然、あの女をブチ殺すためよ……ま、直接手を下さなくても、勝手に潰れてくれそうだけどね」

 

「到着したようです」

 

 キャンピングカーが止まり、中から出てきたのは4人の女だった。

 一見して普通の、何処にでもいそうな彼女たちなのだが。その実、学園都市の裏の仕事をこなすとある組織の主要メンバーだったりする。

 

「さーて、狐狩りに行くわよ」

 

 彼女たちは『アイテム』

 

 数日前、あの御坂美琴と激闘を繰り広げた彼女たちは今、とあるポイントの警護を任されている。だがそこがどんな場所なのかを、彼女たちは知らない。リーダーである麦野でも、勘付いてはいるが確証はない。

 

「だーっもう。腹いせに、今度こそはボッコボコにしてやるって訳よ!」

 

「頑張って、フレンダ。私はそんなフレンダを応援してる」

 

「発火能力者如きなら、私一人でも超余裕です」

 

 だが彼女たちはプロだ。依頼があれば、何でも壊すし、誰でも殺す。

 

 そんな地獄の門番がいるとも知らず、患者外出用の服を着た少年は、真っ直ぐにこちらに向かっていた。

 




9982号「お姉さまから頂いたテレビカードが切れました、とミサカは上目遣いでお金を要求します」

冥土帰し「……ロビーのテレビで充分だね?」




藍花悦(仮)さん(第6位)が発火能力者だったらどうしよう



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