とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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 いつもより長いです。読みづらいかもしれません。
 ころころと視点が変わります。作者の技量不足です、すいません。
 約一名、人間を辞めてますが仕様です。




035 Sister's noise 『?月?日』 Ⅴ

 本来、一方通行(アクセラレータ)には防御という概念が存在しない。

 自身の能力である『ベクトル操作』によって、自らに害をなすようなベクトルは自動(オート)で『反射』をするように設定してあるのだ。これは本人が認識するかどうかは関係なく、時間制限も存在しない。この世の物理法則をほぼ完全に把握している彼の頭脳にかかれば、抜け穴らしい抜け穴もない。よって、彼は防御をする必要はないし回避を行うこともない。

 いつ攻めに転じるか、などという悩みとは無縁の存在。そもそもが攻めや守りなどの概念すらない。それが今までの一方通行だった。

 

 磁力によって空中に投げ出されたコンテナが、そして輸送用のレールが一斉に一方通行に向かって射出される。超能力者(レベル5)電撃使い(エレクトロマスター)の力を持って初めて可能となる攻撃方法に、同じ電撃使いである彼女のクローンは恐怖すら感じていた。

 当然ながら、一方通行は恐怖など微塵も感じてはいない。如何に数が多くとも、如何に質量が膨大であろうとも、彼の能力の前にはまったくの無力。だがしかし───

 

「……チッ」

 

 一方通行は足にベクトルを集中させ、コンテナやレールの落下予想地点から離脱した。一方通行の動きを辿るように大小様々な砲弾が突き刺さる。もし直撃した場合常人ならば絶対に助からないであろう攻撃。今の御坂美琴には加減なんて言葉は存在しない。

 回避に徹している一方通行を、磁力操作された砂鉄の槍が追撃する。先ほどの質量攻撃と違い今回は小回りの利く鋭い一撃である。一方通行は再び回避しようとするも、その動きに合わせて槍は形を変えて追尾する。避けることは叶わず、一方通行の右肩辺りにその攻撃は直撃した。

 ガキィン! という轟音が鳴り響く。砂鉄の槍は、いとも簡単にその先端がへし折られながら、その身をあらぬ方向に飛ばされてしまった。直撃した際にその運動量を『反射』され、さらに一方通行へと押し込もうとした御坂美琴の磁力操作のベクトルと合成した結果の産物だ。

 

 先ほどからの戦闘で御坂美琴の攻撃は何度か命中し、それが一方通行の身体を傷つけた事は一度もない。けれど目の前の相手は反撃一つしてこない。

 その事実が、逆に御坂美琴に焦りを生んだ。最初は恐る恐るといった感じで非殺傷系の電撃や砂鉄攻撃を加えていたものの、今は完全に相手を殺すような攻撃を加えてしまっている。それでも、彼は反撃してこないし、顔色一つ変えることはしない。

 もしこの化物が、攻撃に転じてしまったら。学園都市の第1位が本気を出してしまった場合、自分はどうなってしまうのか。最初に抱いていた怒りは既に、恐怖に押しつぶされてしまいそうだった。妹達(シスターズ)を救う。その目的に迷いはないが、それでも、だが、しかし……

 唯一の希望は、一方通行が回避に徹しているということだ。回避するという事はつまり、なにかしらの突破口があるという事ではないのか。そんな希望のお陰で、御坂美琴の心は折れずに済んでいるのだ。

 

 一方通行は迷っていた。目の前の、人形によく似た人間を潰す事を、ではない。彼はそんな事で躊躇したりはしない。自らが最強へと至る道を邪魔するヤツは迷わず踏み潰す。今さら考慮することなどない。

 彼が迷っているのは先日の戦闘のせいだった。単なる発火能力者(パイロキネシスト)だと思っていたあの男。一方通行の頭脳を以てしても解析は出来なかったあの能力によって、自分は重傷を負った。その事実が、一方通行を踏みとどまらせているのだ。

 

(こンな実験にわざわざ乱入してくる以上、コイツも何か隠し種を持ってきてるンじゃねェのか?)

 

 勝てない戦いに身を投じるほど、学園都市第3位(目の前の女)は馬鹿ではないはずだ。何かしらの策、あるいは攻撃方法で『ベクトル操作』を突破してくるに違いない。

 絶対だと思っていた自分の能力。それを突破された衝撃は今でも新しい。あの事実さえなければ、一方通行は迷わず突っ込んでいた。そして樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)によって計算された通りの結果を既に出していただろう。

 

 それは単に彼が臆病なのか。それとも未知の攻撃への興味なのかはわからない。だがしかし、今御坂美琴が生きているのは、一方通行の気まぐれでしかなかった。

 その気まぐれが終わったとき、彼女は自らのクローン達と同じ命運を辿る事になる。

 

 

 そんな二人の攻防を、今回の実験で処理される予定だったミサカはただ見ている事しか出来なかった。介入するなんて事は許されない。その圧倒的な戦力差を見て、彼女は憂う事しか出来ない。

 

(……お姉さま)

 

 実際に会うのは初めてだが、彼女はこう言った。

 

『その子は、私の妹』

 

 自らの命をなんとも思ってないミサカではあるが、殊更自分以外の生命に関しては執着を見せる。それは目の前の姉や、あのツンツン頭の少年に託した黒猫がそうだ。

 彼女の検体番号(シリアルナンバー)は10032号。上条当麻には御坂妹と称される個体である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずはその幻想をぶち殺す!」

 

 『アイテム』のメンバー全員が口を開けてポカンとしている。呆れているのか混乱しているのかは知らないが、彼女たちが再起動するまでにかかった3秒間。この僅かな時間が、今までの木原統一にとって最も長い3秒間であった。

 この瞬間、この場面での自分の行動が、御坂美琴、妹達、上条当麻の生命を直接的(ダイレクト)に左右するという純然たる事実。その焦りが、木原統一の思考を加速する。

 

 突如現れた上条当麻の次の行動は?

 自分の能力を無効化された麦野沈利の次の手は?

 その麦野の性格を把握している他3人はどう動くのか?

 

 インデックスは言っていた。俺のルーンは戦況に合わせて行動していたのでは間に合わないと。ならば俺が出来ることは一つしかない。戦況を予測し、最適な術式を展開していく。

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)!」

 

 炎の巨人の出現と共に、上条当麻は走り出した。

 

「うおおおおおお!!」

 

 策も何もない。麦野に向かって一直線に走り出す。原子崩し(メルトダウナー)の能力を知っている人間ならまさに、その光景は自殺行為だ。

 

「なに吼えてんだクソ野郎がァ!」

 

 2射、3射と全てを貫く光線が、麦野沈利を中心に伸び、上条当麻へと襲い掛かる。金属を紙のようにぶち破り、コンクリを融解させる程の破壊力。粒子でも波でもない『曖昧なままの電子』を相手に叩きつける特殊な電子線による攻撃。戦車ですら貫通するその閃光は、たった一人の人間を殺すことなど造作もない。

 

 そんな、人間を物理的にあの世へ叩き込む勢いの光線を上条当麻は───

 

 右手一本で、全て叩き落した。

 

 後に『前兆の感知』と言われるその反応速度。上条当麻の武器は幻想殺し(イマジンブレイカー)だけではない。相手の行動を事前に察知し、対応するその対応力。思考するよりも早く身体を動かすその反射神経は、常人のそれを遥かに凌駕する。

 雷撃の槍に比べれば、まだ遅い。超電磁砲(ビリビリ)に比べれば、目の前の相手の攻撃は迎撃しやすい。放つ瞬間に身体の周囲に光弾を浮かべる原子崩しは、前兆というにはあまりにもあからさま過ぎた。

 走るのをやめず、次々と飛んでくる光線を右手一本で無効化し続けるその姿。上条当麻自身の本質(生き方)を現したその光景は、誰もが彼を怪物だと思うだろう。

 

 上条当麻と麦野沈利。無能力者(レベル0)超能力者(レベル5)。両者の距離は、手を伸ばせば届く距離まで縮んでいた。

 

 

 

 簡易版の『魔女狩りの王(イノケンティウス)』。盾に攻撃なんでもござれなこの術式は、咄嗟に出せる術式として木原統一の代名詞にもしたいくらいの代物だ。詠唱も要らない。ルーンの結界も要らずとくれば、その利便性は推して知るべしというところ。唯一ケチをつけるとすれば、ステイル=マグヌス(既に代名詞としている奴)がもう存在する事だろうか。

 

 そんな術式を至近距離で展開したのにも関わらず、絹旗最愛はその攻撃を回避した。10文字にも満たないそのセリフを出し切る前に、こちらの意図を高速で理解したその反応はやはりプロなのだろう。

 

(絹旗の前では魔女狩りの王は2回も出した。3回目は流石に通じないと言う所か。しかもご丁寧に……)

 

 木原統一の足を放して炎の巨人を回避する寸前に、ご丁寧にも絹旗はその足を一度握り潰してから離していたのだ。

 魔女狩りの王を展開する前から、肉体再生(オートリバース)はフルスロットル状態だった。肉体の生命維持ではなく、今すぐにこの身体が動くように。そんな中で、左足首を砕かれたのは誤算だった。

 

「超無駄な足掻きです」

 

 魔女狩りの王を迂回して、こちらに走りこんで来ている絹旗。対するは、骨を折られて身動きの取れない魔術師見習い。簡易版の『魔女狩りの王』は、出現させる前に命令した動きしか行えない。そしてその命令は、絹旗を襲えという内容ではないし、緩慢な動きしか出来ない劣化版ではそもそも彼女の動きに対応できない。

 

 だがしかし、同じくアイテムの中で緩慢な動きしか出来ない人物を狙った場合、どうなるだろうか。

 

 このアイテムの中心は麦野だが、その中枢を担うのは誰なのか。その人物を狙った場合、彼女を守るのはこのシチュエーションで誰の役目なのか。

 激昂した麦野では無理だろう。小柄なフレンダでは対応できない。つまり───

 

「……そういう事ですかッ!」

 

 魔女狩りの王が向かう先、能力追跡(AIMストーカー)を持つ彼女。滝壺理后。純粋な火力としてはなんら役に立たない彼女を守るのは、この場面で絹旗最愛しかいない。

 

 木原統一からは背を向け、彼女は滝壺へと走る。それを最後まで確認している暇はない。

 炎の巨人の出現により、我先にと退避した最後の人物。そもそも炎の巨人なぞ眼中にない麦野とはまったくもって正反対の、『アイテム』屈指の対上条兵器。

 

「フレンダァ!!」

 

 間一髪だった。フレンダ=セイヴェルンは上条に向かってミサイルを発射しようとしている。その名前を呼ぶことで、こちらに注意を引きつける。へし折れてても構わない。足に力を込めろ。立ち上がれ。ここで立たなければ上条当麻の命が危ない。

 

灰は灰に(AshToAsh)塵は塵に(DustToDust)

 

 あの金髪の女を焼き尽くす。その気持ちでこの魔術を投げつける。

 

吸血殺しの紅十字(Squeamish Bloody Rood)!!」

 

 名前を直前に叫ばれた事で、フレンダはこちらに気づいた。攻撃前に声を掛けるなんてのはまったく愚かではあるのだが、そうしなければアイツの攻撃は止められなかった。

 

「ヤバッ!」

 

 紅蓮の十字がフレンダの元へ飛来する。だがしかし、上半身と下半身を真っ二つにする勢いで放った攻撃は、フレンダには命中しなかった。彼女は咄嗟にその身体を伏せ、その真上を炎が通過していく。彼女が被っていたベレー帽は焼失したが、彼女自身は無傷だ。

 

世界を構築する五大元素の一つ(M T W O  T F F T O)偉大なる始まりの炎よ(I I G O I I O F)

 

 フレンダは伏せている。絹旗は滝壺を抱えて離脱中。麦野は上条に光線を浴びせて……それを全部叩き落しながら接近している上条が目に入った。ほんとに人間かアイツ?

 

それは生命を育む恵みの光にして(I   I   B   O   L)邪悪を罰する裁きの光なり(A  I  I  A  O  E)

 

 とにかく、今この瞬間を逃せば詠唱のチャンスはない。もう既に最初に出した『魔女狩りの王』は消えかけだ。それに気づいた絹旗がいつこちらに戻ってきてもおかしくはない。

 

それは穏やかな幸福を満たすと同時(I    I     M     H)冷たき闇を罰する凍える不幸なり(A  I  I  B  O  D)

 

 パラパラと手持ちのルーンをばら撒いていく。出し惜しみをする気はない。使用枚数は200とないが、魔術によって周囲に刻んだルーンの数は6000以上。数、範囲共に十分だ。

 

その名は炎(I I N F)その役は剣(I I M S)顕現せよ(I C R)我が身を喰らいて力と為せ(M   M   B   G   P)

 

「何言ってるかわっかんないけど」

 

 身体を伏せていたフレンダは立ち上がり、携行型ミサイルを構え直す。対象は上条当麻、ではなく。自らの帽子を焼いた張本人。

 

「私の帽子を、返せぇー!」

 

「『魔女狩りの王(イノケンティウス)!!』」

 

 木原統一に、ミサイルを炎の魔術で叩き落すなんて技術はない。だがしかし、先ほどの2倍以上のサイズを誇るこの巨人には、そんな技術は必要ない。

 

 轟ッ!! という爆音が鳴り響く。完全詠唱による強化型の『魔女狩りの王』が、姿を現した。

 

 

 

 麦野沈利はこう考えた。目の前の男、こいつは化け物だ。

 仕組みはわからないが、このクソ野郎は原子崩し(メルトダウナー)を無効化する術を持っている。どうやら右手がその能力の源らしいという事もわかる。だが、だとしてもだ。もし仮にそんな能力を持っていたとしても。右手一本で、光線を無効化しながら突っ込んでくるなんて事が可能なのか?

 激情型の彼女ではあるが、そこまで怒り狂う前にまず、目の前の男を評価してしまった。目の前で曲芸のような技を見せられ、それを分析しようと冷静になった結果、疑問が次々と浮かび上がったのだ。その技術は、どこまで死線を潜り抜ければ身に付くものなのか。その度胸は、どこまで闇に漬かり続ければ身に付くのか。そして───

 

 その目に宿る、殺意以外の強い意思。そんな目をしながら、この学園都市の闇と向き合えるのか。

 普段の彼女であれば考えられない思考。その思考を可能にしたのは、上条当麻の真っ直ぐな目だった。

 

 一瞬の思考の隙。そんな事を考えていた麦野の顔面に、上条の右拳が突き刺さる。

 

「ご、っ……!」

 

 走ってきた上条の全体重を乗せた右ストレート。身体が宙に浮き、意識が一瞬飛びかける麦野だったが、痛みよりも先に怒りがふつふつと沸いてくる彼女の性格と、持ち前の耐久力でなんとか意識を取り戻す。

 

「……効いてねぇぞクソがァ!!」

 

 返す刀で、女性とは考えられないような重さの蹴りが、上条のアゴを蹴り上げる。上半身が逸れている状態での中途半端な一撃のはずが、こちらは明確に上条の身体を数センチ宙に打ち上げた。

 上条の視界が上を向く。そんな意識を失ってもおかしくないその一撃を見舞っても麦野は満足などせず、後ろに仰け反りながらも原子崩しの照射体勢に入った。

 上条は意識を失ってはいなかった。勘を頼りに身体を捻りながら、右手をがむしゃらに前にかざす。肩に、そして脚に原子崩しの閃光が掠ったものの、幻想殺し(イマジンブレイカー)によって直撃は免れたのだ。

 

 麦野は後ろ向きに倒れたが瞬時に身体を起こした。顔面への一撃により鼻血を出しながら、目の前の殺し損ねた男を睨む。そして膝を突きながらこちらを見ているクソ野郎と目が合った。

 互いに一撃。たった一撃しか貰っていないのにも関わらず、二人とも足が震えて動けない。上条の全力疾走から全体重を乗せた拳を顔面に受けた麦野。麦野の、怒りでリミッターの外れた蹴りをアゴに食らった上条。実際にはどちらかが気絶していてもおかしくない状態の中、二人とも意識を保っているのは奇跡に近い。

 

「……木原がなにかしたのか」

 

「あ?」

 

 膠着した状況の中、口を開いたのは上条だった。

 

「アイツがお前らに、ここまでされなくちゃいけないような事をしたのかって聞いてんだ!」

 

「知るか、今日が初対面だよクソボケ。テメェこそ、ここに何しに来たんだ、ああ?」

 

 原子崩しを無効化する術を持ちながら、銃もナイフも持っていないこの男。コイツがここに来た際の台詞はもちろん聞いていたが、アレを鵜呑みにする奴はどうかしている。ありえない、だって───

 

「友達を助けに来たに決まってんだろうが」

 

「……おちょくってんのかこのクソ猿がァ!!」

 

 動けない上条当麻に、3本の閃光が伸びる。その必殺の攻撃を、上条の幻想殺しは容易く消し飛ばす。

 この男の言う事が真実(ほんとう)なら、コイツは正真正銘の表の人間という事になる。光の下で、ぬくぬくと生きてる有象無象の一人。そんな奴が、学園都市の暗部に喧嘩を売っているのだ。こんなにふざけた事があってたまるか。

 ふと、先日相手にした超電磁砲(第3位)の顔が浮かんだが、目の前のコイツはあの女より性質(たち)が悪い。そもそもコイツは暗部の人間を相手にしている自覚すらない。

 

「殺しに理由なんざねぇんだよ! こっちはプロだ。金貰って人を消し飛ばす裏の人間に、そんなふざけた理由で、テメェなんぞが喧嘩売ってきてんじゃねえぞ三下ァ!! 」

 

「……ふざけてんのはそっちだろうが」

 

 上条は拳を握り締め、そしてゆっくりと立ち上がる。ダメージによる震えは止まったが、今は別の意味で身体を震わせている。

 

「そんなちっせぇ事情で、俺の友達に手を出すな」

 

 麦野の声と比べれば、それは小さな声だった。だが確かに、その言葉には意思が込められている。上条当麻は怒りに燃えていた。かつてない程に明確に、目の前の相手に憤怒の感情を抱いているのだ。

 そんな上条の言葉を聞いて、黙っているような麦野ではない。身体の周囲に原子崩しを停滞させる。だが目の前にいるコイツには、原子崩し単体では通用しない。……どうするべきかは明確だった。これから何が起きるかは、上条も麦野も分かりきっていた。

 

 上条が走り出すと同時に、麦野も上条に向かって走り出す。能力が通じないなら、それ以外の手段に頼るしかない。拳でも脚でも肘でも膝でも、なんだったら頭突きでもいい。このクソに一撃を食らわせて隙を作り、原子崩しを叩き込む。要は先ほどの攻防を繰り返すだけなのだ。

 その事実に、上条自身も気づいていた。これは我慢比べだ。互いの意地と意地のぶつかり合い。学園都市では無能力者(レベル0)同士がたまにやるような、ありふれた対立の向かう先。闇も光も関係ない、人と人との衝突。

 

 何でもアリの格闘戦。要はただの喧嘩だった。

 

 

 

 強化版の『魔女狩りの王(イノケンティウス)』。ステイルのアレから改良を加えた魔改造版である。速度、サイズは元より、より複雑な命令を実行できるように改良した最強の炎の巨人。インデックス曰く「学園都市の印刷技術とルーン魔術の結晶」……俺の実力ではないと暗に言っている気がするが今は忘れよう。

 そんなインデックスの元に、上条当麻を無事に送り届けなければならない。ならば──────

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)、絹旗最愛を上条当麻に近づけるな。遠距離から上条に攻撃を加えるようなら打ち落とせ」

 

 口頭での命令を受け付けるように改造された炎の巨人はコクリと頷き、麦野と上条がいる方向と、滝壺を抱えた絹旗が遠くからこちらを睨んでいる場所の間に陣取った。

 あちらは『魔女狩りの王』に任せて、俺はそのどちらでもない金髪の女の相手だ。上条の安全を考えるなら最優先で撃破するべきあの女、爆破物のスペシャリストであるフレンダ。能力に頼らない物理攻撃を展開する彼女を残しては、上条の加勢に向かう事すら出来ない。

 

 フレンダとの距離は20mもない。先ほどはやられっぱなしだったが、アイツ単体ならいくらでもやりようはある。

 

我が手には炎(T I A F I M H)その形は剣(I H T S O T S)その役は断罪(A I H T R O T C)───ッ!」

 

 轟ッ! という音ともに右手の空気が爆発し、身の丈以上の巨大な炎剣が生成される。取り回しは悪いが炎なので質量が無い。なので少なくとも遠心力などで振り回されるような事はないだろう。

 

「うわー。結局、アレに近づいて得するような事はないって訳よ」

 

 逆に言えば、こちらはこのまま彼女の間合いで遠距離戦をしてもうまみはない。よってこの後に取る選択肢は一つ。

 

 全力でフレンダに走りこみ、接近戦に持ち込む。ただそれだけだ。

 

「簡単に近づけさせるほど、私は馬鹿じゃないってーのっ!」

 

 走りこむこちらに向けて、再び放たれる携行型ミサイルの嵐。当然その手は読んでいた。なんのために炎剣を出したと思っているのか。

 

我が剣は王のために(S F T K)

 

 唱えるのは完全オリジナルの術式。インデックス曰く「普通の魔術師ならもっとうまくやる」という辛口評価の術式だが、この場においてはもっとも有効な術式だ。

 炎剣を『魔女狩りの王(イノケンティウス)』と同期させ、同一の魔術だと認識させる。ルーンのバックアップを炎剣へと流入させ、『魔女狩りの王』の出力を炎剣へと流し込む。本来なら即座に術式が自壊してしまう使い方だが、たった一振り。一振り分だけの時間を、『魔女狩りの王』の再生力を使い維持し続ける事で可能となる必殺の一撃。

 

 繰り返しになるが炎剣は質量を持たない。故にその重さで振り回される事はない。たとえその刀身が、10メートルほどの大きさに膨れ上がろうとも。

 

 それは剣というよりも、もはや一塊の炎だった。本来は線であるはずの剣筋が、面となってしまうほどの大出力。このサイズならば、ミサイルを撃ち漏らす方が難しい。

 おおよその当たりをつけて右腕を振るうと、一瞬にしてミサイルの軍勢が爆発を起こし消滅した。爆風で一瞬向かい風が吹き荒れるが、立ち止まらずにフレンダへと一直線に向かう。

 

「え? は? うそ。無理、無理無理無理無理!! あんなの勝てるわけないじゃん!!」

 

 即座に回れ右をして、フレンダは逃走を始める。炎剣は既に自壊してしまい、もう一度出すにはまた詠唱を挟まなければならないのだが、魔術師でもない彼女は知る由もない。彼女からしてみれば、自分は既に先ほどの攻撃の射程圏内に足を踏み入れているのだ。もう一度今の攻撃をやられたら死ぬ。味方からの援護も期待できない以上、彼女に出来るのは撤退のみ。

 木原に背を向けて走り始めた瞬間、彼女の逃げ道に炎の壁が巻き起こる。木原が最初にフレンダへ放った紅十字。それが地面を焼いてルーンを刻んでいた。

 逃げる事は出来なくなった。先ほどのような炎を出せる相手に接近戦は論外。つまりは完全に詰みの状態である。……否、まだ武器はある。フレンダ自身という武器が。相手が男なら、効果はあの女の時よりも期待できる。

 

 目に涙を溜めて、身体を震わせながら。上目遣いで敵を見据えて彼女はこう叫ぶ。

 

「Miji! cavi slano───

 

 直後、その涙目のフレンダの顔面に対し、木原統一の拳が突き刺さった。

 

「んな言語ねぇっつうの」

 

 フレンダの戦術を知っている木原にとって、彼女の行動は攻撃を止める理由にはならなかった。

 

 

 フレンダの華奢な身体が地面に叩きつけられてから、5秒、10秒と待っても、起き上がる様子はない。薄目でもしているのかと、試しに炎を出してみたがやはり反応はない。どうやら完全に気絶したようだ。

 ……何故か、姫神が自分の事を「女性の扱いがダメダメ」と言っていたのを思い出す。いや、今回ばかりはノーカンにして欲しいものだ。それに、携行型ミサイルをスカートの中から出す奴を女性にカウントしたくはない。

 懐から魔法のステッキ(特殊警棒(スタンロッド))を取り出す姫神が頭に浮かんだが、すぐさまその光景を頭の隅に追いやった。

 

 振り返り、遠目に上条の様子を確認する。上条が殴り、麦野が蹴り飛ばす。衝撃で少しでも距離を置こうものなら原子崩し(メルトダウナー)が飛んでくる。それを上条は右手で消して、また殴りかかる。その繰り返しだった。あの中に迂闊に手を出すと、どうなってしまうのだろうか。上条の集中力が切れて、原子崩しの直撃を食らってしまうかもしれないし、逆に言えば麦野を仕留めるチャンスとも言える。

 

「どうやら、超殺す気はないみたいですね」

 

 ゆっくりと、こちらにフードの女、絹旗最愛がやって来た。麦野の方に加勢に行くと踏んでいたのだが、当てが外れたようだ。

 

「……殺す殺さないは考えてなかったんだけどな」

 

 実際、上条への攻撃を加えようとしたフレンダを、俺は殺そうとした。上条が出現した際も、絹旗を魔女狩りの王で焼き殺そうともしたのだ。……あの時はただ上条を救おうと必死だったが、いざ目の前で気絶されると殺そうとは思えなくなる。要はその場の勢いと言うやつだ。優柔不断?聞こえんな。

 

「で、やるのか?」

 

 距離は約10メートル。絹旗最愛の窒素装甲(オフェンスアーマー)は強力だが、突破できないわけではない。彼女が上条ではなく俺を狙うなら、『魔女狩りの王』を呼び戻したっていいのだ。それに詠唱アリの炎なら、もしかしたら窒素装甲を突破できるかもしれない。

 

「そちらが超来るならというところでしょうか」

 

「……来ないのか?」

 

「貴方が向こうに超加勢に行けば、うちのリーダーは死にます。それをさせないのが私の役目です。いつも撃破ボーナスに目がくらんで欲張るそこの金髪とは超違います」

 

 ……つまり、足止めが目的であり倒す事は目的ではない、という事だろうか。無理をして絹旗が負けた場合、その時点で『アイテム』の敗北は確定する。このまま足止めに徹すれば、麦野VS上条の勝敗が、この場の勝敗に直結する事になる。つまり───

 

「俺に勝つ確率よりも、麦野沈利が勝利する可能性の方が高いって事か」

 

「そういう事です」

 

 ……どうする。『魔女狩りの王』だけで上条に加勢するか? だが遠目に見ても、麦野と上条はほぼゼロ距離で殴り合っている。100%上条を巻き込まないようにというのは難しい。それに完全に『魔女狩りの王』を向こうの攻撃に回した場合、今度は絹旗を俺一人で押さえ込む必要が出てくる。いや、その直後に絹旗が向こうに走り出して乱戦に発展する可能性だって……もしそうなってしまったら原子崩し(メルトダウナー)を有する『アイテム』が当然有利だ。

 

 ここで無理矢理にでも絹旗を倒すか? 俺が負けた場合、上条は死ぬ。俺が絹旗に勝つ確率と、上条が麦野を倒す確率、どちらが高いのか。……いや、100%上条が勝つだろう。理屈はないがとにかくそんな感じがする。

 

 冷静に考えれば、ここは黙って戦況を見守るのが正解なんだろう。……だが生憎、こちらにはそんな余裕はない。

 

原初の炎(T O F F)その意味は光(D D A G G)優しき温もりを守り(W A T S T)厳しき罰を与える剣を(D A S J T M)!!」

 

 轟ッ!という音と共に、右手に炎剣が生成される。

 

「悪いが、こっちにも事情がある。ホントだったらこんなとこで、足踏みなんざしてる暇はねぇんだよ」

 

「……もう少し賢いと超思ったのですが」

 

 先ほどから定期的に鳴っている雷鳴。アレが続いてるうちは、まだ御坂美琴が無事だという事だ。だがそれが永遠に続くわけじゃない。むしろまだ続いているのが奇跡と言っていい。ここで指を咥えて上条と麦野の決着を見ている事なんて出来る筈がない。

 

「賢いなら、そもそもこんなとこ来ねぇよ」

 

「……なるほど、超愚問でしたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう何度、この身を地面に打ち付けたのか。

 もう何度、この身に石つぶてをぶつけられたのか。

 

 着ている服が重い。汗と血を吸って、常盤台の制服は元の色を失っている。こうして自分がまだ立っているという事は、どうやら失血死してしまうような量ではないらしい。

 

 自らの妹を守ると誓い、戦い続けた。今でもその誓いに嘘偽りはない。だがしかし───

 

「ここまでやってなンもねェとかよォ……本当に超能力者(レベル5)かよお前」

 

 怪物である一方通行(アクセラレータ)の前で、御坂美琴は倒れた。あらゆる手を尽くし、学園都市第3位が第1位に全身全霊を以て戦った結果。無傷である一方通行と半死半生の御坂美琴、そして原型を留めていない操車場という光景が眼前に広がっていた。

 

「念には念を入れて近づかねェように戦ってみたが、なンか違うんだよなァ……あの手品師気どりとは違って、テメェはただの特攻バカだったって事かァ?」

 

 御坂美琴に事前の策はなかった。だがそれは別に彼女が手を抜いただとか、自らの能力を過信していたわけではない。単に、一方通行(この怪物)に策など思いつかないだけなのだ。それでも彼女は実験を止めたかった。最初から自分の命など、勘定に入っていないだけ。ただそれだけの事だった。

 

「ま、あの出来損ないの元と考えりゃ、ちっとは楽しめたがなァ。例えンなら遊園地のジェットコースターぐらいかァ?」

 

 遊園地のアトラクションと同レベル。それはつまり、自らが絶対安全という前提の下で味わうスリルと一緒だという事だ。一方通行からしてみれば、命のやり取りをした気はない。

 

「……前回は血流操作だったし、今回は生体電気の流れを逆流でもさせてみるかァ?カエルの実験みてェに手足をビクビクさせながら死ねるたァ、電気使い(エレクトロマスター)にはぴったりじゃねェか」

 

 木原統一(イレギュラー)上条当麻(ヒーロー)も間に合わない。未だ戦闘中の彼等は、この瞬間にこの場に現れるのは不可能だ。そして御坂美琴の身体はもう動かない。辛うじて意識はあるものの、もう一方通行から逃れる術はない。

 

 戦闘が止まり、御坂の心を覆う感情は恐怖だった。戦闘中は誤魔化してきたモノが、今この瞬間になって一気に吹き出してきたのだ。歯がガチガチと鳴り、身体の震えが止まらない。死ぬかもしれないと覚悟を決めてきたはずなのに、自らの死が確定した途端、"生きたい"という意思がふつふつと沸いてくる。

 

 足音が近づいて来る。確実に死が迫っている。もう自分ではどうにもならない。この怪物の歩みを止める者はいない。

 

 そして、その死神の足音が止まった。

 

「……オイ、なンのつもりだ」

 

 ただ人に似せられただけのまがい物。単価にして18万円、在庫は1万人以上の自由意志のない人形。そんな奴が、この場面で、一体なにを……

 

「お願いします。お姉さまを……殺さないで、下さい……」

 

 その瞬間、一方通行の呼吸が止まった。

 ありえない。そんな事があっていいはずがない。

 

 両手を広げ、一方通行の前に立ち塞がったのはミサカ10032号だった。

 





 かまちーは偉大だと再認識しました。

 オリジナル術式については、章の終わり際にシレッっとやろうと思います。

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