とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

38 / 79
 
 やっとこさ3章終了。なんだかんだで1章よりは短いんだなぁ……その割には一番濃かった気がします。
 
 



038 "分かち合う" 『8月23日』

「君、僕が最初に言った事を覚えてるかね?」

 

 カエル顔の医者、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)はカルテと睨めっこしながら、半ば独り言のように呟いた。

 

「最初……? 最初っていつの話です?」

 

「君が最初に入院してきた時の話だね?」

 

 最初の入院。すなわちこの世界をはっきりと認識したあの瞬間。ステイルによって炭化させられたあの時の話か。会話の内容ははっきりと覚えている。……まぁその後の衝撃(父襲来)が強すぎて印象としては薄いのだが。

 

「えーと、俺の肉体再生(オートリバース)についてとか……あれ? 別にそんなに実のある話はしてない気が」

 

「"もう二度と僕の患者になることはたぶんないね?"と言ったはずだがね? その頑丈そうな身体をよくもまぁ毎回いじめて帰って来るものだね?」

 

 別に望んでこうなっているわけではない。俺が悪いのではなく学園都市が悪いのだ。文句があるなら10巻くらい前倒しでアレイスターに文句の電話でも入れてくれ。だいたいアイツのせいなんだよ。

 

「しかも無断で退院(脱走)したと思ったら、患者を3人増やして戻ってくるのだからね?」

 

 それも俺のせいじゃねぇんだが。……いや、上条は俺のせいか? 御坂美琴も俺さえいなければ怪我をする事もなかったし……あれ? なんか俺のせいっぽい気がする。少なくとも原因の一端を担っているのは事実だ。

 

「いやまぁ、脱走の件はすいません。それで、あいつらの容態は……」

 

「……うーん、似たり寄ったりだね? 一番の軽傷が君、特殊な調整が必要な御坂妹(かのじょ)はさておいて、あの仲のいい二人は同じくらい重傷だね?」

 

 仲のいい、というのは完全に皮肉である。2日連続で痴話喧嘩をしているあいつらをそう表現しているという事は、この先生も思うところがあるのだろう。既に機材が1機お亡くなりになった。退院までにあと何機が犠牲になるのだろうか。

 

 あの死闘から2日が経過した。今日が8月23日。すなわちあの濃い1日が8月21日となる。期せずして一方通行を撃破した日が原作と一緒になったというのは、やはり何かしらの運命か、それとも引きこもり統括理事長の采配なのか。真相は闇の中である。……まぁ十中八九アイツのせいか。

 上条当麻と御坂美琴。あの二人は共にこの病院でお世話になっている。ともに全身の骨が何箇所かポッキリしていたり、痣だらけだったりとまさに踏んだり蹴ったりな状態なのだが、昨日今日とあのやかましいやり取りを聞く限りでは大丈夫そうだ。うん、実は上条の病室、ここの隣なんだ。そこにきっちりと通いに来る御坂美琴とのやり取りを、寝たまま聞かされる俺としてはもう、ご馳走様ですと言う他ない。

 

「あの、一番軽傷である俺がなんで面会謝絶の上で軟禁状態なんです?」

 

「明確な理由はあるけど、それはおまけみたいな物だからね。ま、単なる嫌がらせだね?」

 

「……はい?」

 

 膝に矢を受けてしまってな……ではなく、膝に炸裂する銃弾を受けてしまった俺、木原統一は当然手術室送りだった。膝の致命的な箇所に受けた銃弾の破片は、炎剣で無理矢理に取り除いたのだが、細かな破片はいまだ残ったままだったのだ。特殊な麻酔を受けて演算能力を低下させての手術は、まぁ前回の手術よりはベリーイージーだね?というのはこの医者本人の談である。

 運び込まれた一昨日に手術を受け、昨日には自前の能力が戻った上で完治し、既に暇を持て余し始めた俺に告げられたのは、まさかの嫌がらせ宣言だった。

 

「君に情報を与えると、また何かしでかしそうだからね? 僕としても同意見だったね。完治しても1日くらいは病室に閉じ込めて、それ以降も病院の敷地からは出さないようにと、あのグラサンの子から頼まれてね?」

 

「……という事は、もう病室からは出ていいと?」

 

「当然、監視は付くけどね?」

 

 

 

 

 

 

「……で、監視ってのがお前なのか」

 

「はい、前回貴方の逃亡を手助けした事を追及され、この任務を受けざるを得ませんでした、とミサカ9982号は不満をぶちまけます」

 

 車椅子に乗る妹達(シスターズ)の一人、妙に刺々しいこの少女が俺の横をのろのろと付いてくる。

 

「そりゃ悪かったな。でもアレは必要な事だったんだ、勘弁してくれ」

 

「あれだけ大見得を切った挙句、結局実験場には姿を見せませんでしたね、とミサカは笑いを堪えながら告げます」

 

「……一段とキレが増してやがる。的確に俺の心を(えぐ)ってくるとは」

 

「お褒めの言葉ありがとうございます、とミサカは」

 

「褒めてねぇよ!」

 

 ……これ、大丈夫なんだろうか。いずれこの毒舌が全ミサカにフィードバックされたりなんかした日には手がつけられんぞ。これが打ち止め(ラストオーダー)なんかにまで伝染したら洒落にならない。一方通行(あいつ)泣くぞマジで。

 自室から隣の病室の前までという、大して距離のないこの間に漫才を一つかましつつ、目的の場所に辿り着いた。

 

「さて、俺は上条の面会に行くわけだが」

 

「……では病室の前で待っていましょう。とミサカは空気を読める女アピールをします」

 

「……その殊勝さを大事にしてくれ」

 

 アピールと言ってる時点で殊勝でもなんでもないんだが。

 

「ちなみに、この隙に逃亡しても無駄ですしおすすめ出来ません、とミサカは意見を述べます」

 

「いや、そんなつもりは毛頭……」

 

 実はないとは言えない。逃亡と残留。半々と言ったところだ。

 

「この病院の職員たちは全員、貴方の顔写真と有線式スタンガン、すなわちテーザー銃が支給されています」

 

「随分と物騒な病院だなおい」

 

「そしてこの病院を取り囲むようにして、清掃用ロボットに偽装した武装ロボが無数に配置されています」

 

「……やり過ぎだろ」

 

 話の続きを聞くに抱えている患者、すなわち俺のせいでもあるのだが、それ以前に実験関係者による襲撃を警戒しての事らしい。あの実験をぶち壊したメンツが勢揃いしているこの病院を襲ってくる奴がいる可能性……十分にあり得る話だ。"患者に必要なものは意地でも揃える"と豪語する、あの医者(ひと)らしい行動だな。そこまでしてもらって2度目の脱走は、流石に恩知らず過ぎか……

 

「なるほど。おすすめ出来ない理由がよくわかった」

 

「いえ、おすすめ出来ない理由は別にあります」

 

 まだ何かあるらしい。はて、なんだろうか?

 

「貴方の検査は未だ終了していません、とミサカは病院側から密かに入手した情報をリークします」

 

 ……密かに入手、って犯罪ではないだろうか。

 

「情報によれば、貴方の能力はここ最近で大きく変質したようです。能力の意図的な操作、莫大な情報(外傷)の入力、さらには脳の損傷。これらの経験が、貴方の自分だけの現実(パーソナルリアリティ)にどのような影響を及ぼしたのか、この病院の人間では予測がつかないようなのです、とミサカは事の重大性を伝えます」

 

 思ってたより重要な話だった。肉体再生(オートリバース)の変質? たしかに、今回は能力行使をしまくった気はする。ステイルの時も大変だったが、ここ数日の修復量に比べれば可愛いものだ。なにせ一度身体中を作り変えるような事をしているのだから。ミサイルの爆風だったり銃弾だったり、それに魔術も使いまくった。魔術行使による反動は目に見えて表れてはいないが、それも損傷した先から修復しているだけの話だ。

 

「つきましては、貴方の能力経過を見られる人間が来るまで、病院に留まる事をおすすめします、とミサカは貴方の身を案じてお伝えします」

 

「なるほど……よくわからんが助かった。ありがとな」

 

「口だけの評価は要りません。情報料を下さい、とミサカは金銭でのお礼を要求します。ありがとうでテレビカードは買えないのです」

 

 ……一体なんの番組を見たのか。これ以上見せても大丈夫なのか。という疑問を抱えつつ、俺は万札を渡した。

 

 

 

 

 

 

 

「とーまー……ッ!!」

 

「いやあの、インデックスさん? なにをそんなに怒ってるんですの? 上条家の生命線を助けるための、名誉の負傷なんですが」

 

「何も言わずに出て行って、2日も帰ってこないなんて心配したんだよ!!」

 

 病室に入ると、いつもの二人による話し合い(裁判沙汰)の真っ最中だった。上条が俺を心配したように、インデックスも上条を心配していたという、ただそれだけの話だ。

 

「……邪魔したな」

 

「ま、待って!! この状況で第3者が出て行ったら、上条さんの味方はいなくなってしまうんですが!!?」

 

「いや、様式美というかなんというか。俺がいると景観が損なわれる気がするんだ」

 

「なに訳のわかんない事言ってやがるこの隣人!? 損なわれるのは上条さんの頭皮細胞です!!」

 

「もう遅いんだよ!!」

 

 ガブリという、物騒な音。そして上条の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 やがて噛み付き疲れ、上条の財布からお金を貰って売店へとスキップしに行ったインデックス。現金なやつ、と言ってしまえばそれまでだが、上条とのスキンシップのお陰で上機嫌なのではないかと俺は思う。上条が料理を作り、インデックスがそれを食べる。そのサイクルこそが彼女が愛すべき日常であり、足りない成分は噛み付きで補う。すなわち人生の殆どを上条当麻のいる日常が占めているわけであり、人はそれを依存、もしくは愛と────

 

「なんか綺麗な話にしようとしてないか?」

 

 噛み跡を大量に残している上条当麻に遮られた。はい、その通りでごんす。ちなみに俺もインデックスに怒られたが噛みつかれはしなかった。やはり上条は特別なんだな。

 

「なんの事だ? ……それよりも、傷は大丈夫なのか?」

 

「まぁ、インデックスの癇癪は慣れてるし……」

 

「そっちじゃねえよ」

 

 上半身包帯ぐるぐる巻きの男、上条当麻。俺は最初から一方通行との戦闘を見ていないのでアレだが、おそらく死闘だったのだろう。あの実験場を見るには……と言っても、御坂と一方通行との戦闘痕で見分けがつかなかったがために、想像でしかない。

 

「身体中のあちこちにひびが入ってるけど、大事には至らないってあのお医者さんが」

 

「……まぁ、あの人ならそうだろうよ」

 

 勝率99.9%の男だ。"大事には至らない"と言うが、あの人には0か1しかない気がする。"大事に至る"という言葉を聞く頃には、もう本人はこの世にはいないんだろうきっと。

 そんな無敵の医者の偉大さを再確認しつつ、二人で笑いあう。そして会話が途切れてしまった。その後上条当麻は窓の外に目を向けながら、ぽつりと呟いた。

 

「……御坂から話は聞いたよ」

 

「……」

 

 なんの話を、とは聞くまでもない。絶対能力進化(レベル6シフト)計画、2万人の妹達(シスターズ)。その概要だろう。

 

「あのイカれた実験を止める為に、御坂(アイツ)は戦っていた。施設を爆破したりとか、物騒な事もしてたみたいだけど……それでもダメだったって。実験を中止に追い込むことができなくて。それどころか再開が決まって、だから一方通行に挑んだって……」

 

 そこで上条は言葉を切った。だが俺にはその先がなんとなくわかる気がする。それでも勝てなかった、手も足も出なかった。そこに上条が現れた、と。

 

「……夜中には御坂妹が来て、お前が実験を中断させてた事。それと今回の件で実験が凍結に向かってるって話もしてた」

 

「それを聞いて、安心したよ」

 

 そうか。確信のようなものは漠然と胸の中にあったのだが、改めて聞くと安心できる。無事に実験は凍結に向かったか。

 

「……そうだ。上条、お前どうやって今回の現場に辿り着いたんだ? たしか、御坂妹がどうとか言ってたが」

 

 なんとなくスルーしていたが、未だにあの手品の種がわからない。土御門がなにかしたわけではないらしいし、誰が上条をあそこまで誘導したというのか。土御門曰く自力で、だったか。

 

「えーと、病院に来たら御坂妹……あ、アレは違う御坂妹なんだっけ? 病院のロビーで車椅子の子とカエルの先生を見つけて……その、話を盗み聞きしてだな……」

 

「うん? 盗み聞き?」

 

「そうそう。お前が行った場所に、救急車を手配したい、みたいな事を言ってた。その時にお前の名前を聞いて、そのまま走って」

 

 ……なるほど。全く以って納得がいかないがまあいいか。強いて言わせて貰うなら、何故病院のロビーでそんな重要な事を話し合っているのか、というところだろう。なにか用事でもあったのか?

 

「まぁそれはいいとしてだな。そもそもなんで病院に?」

 

「だってほら。お前何日も連絡が取れなくなって、心配して大家さんに鍵を開けてもらったんだよ。そしたら……」

 

「……あ」

 

 当然、目に入ってくるのはあの殺人現場級の血塗れの部屋。あれを見たらそりゃそうなるわ。あれほど物騒な現場もなかなかない。どう見たって致死量だ。そこで病院を探しに行くのは、まぁ選択肢として入るだろう。

 

「おーけー、なるほど。なんとなく見えてきた」

 

 なんという奇跡。俺への拷問で発生したあの悲劇的ビフォーアフターで病院に辿り着き、そこであの二人の会話を傍受するという偶然。面白いように神懸(かみがか)ってくれるなこいつは。

 

「まーでも……連絡取れないっつっても、まさか部屋に入るとは」

 

 逆算して俺が家を空けた期間は1週間未満といったところか。普段から会ってはいたが、密に連絡を取り合っていたというわけでもない。暇な日に隣を訪ねたり、次は○日後くらいに会おうなーとか。わりと大雑把な感じだったはずだ。別段気にするような日数でもない気がする。

 

「いや、お前に続いて姫神も来れなくなったりして、もう大変で……それに姫神もインデックスも、最後に見た時のお前は変だったって言うし。土御門の義妹(舞 夏)に聞いたら木原は最近彼女に振られたって────

 

「はぁ!?」

 

 彼女に振られた? なんだそれは。どこからそんな話が出てきやがった!? 

 

「電気屋の前で喧嘩別れしたって。違うのか?」

 

「……残念ながら間違ってはいないな」

 

 アレを見られていたのか……畜生。まさか他にも見てた奴がいるんじゃねえだろうな? いや……まてよ……?

 

「えーと、なんだ。もしかしてもしかすると。それで俺が」

 

「自殺……とかしてるかも。って姫神が」

 

 ああ、はい。随分と物騒な発想だが、無理はない。その言葉を受けて上条が動いたと。なんだこの謎のドミノ倒しは。自殺を図ったかもしれない友人を追っかけたら、本当に自殺行為をしていたという事実。しかもその原因まで一応ぴったり一致をしているとなると、あの巫女さんは予言で食っていけるのではないだろうか。俺なんかよりもずっと。

 

『上条君を目指してはダメ。木原君が死んでしまう』

 

 ……やべぇよ。あの子こわい。

 

「あー……まぁなんだ。7割くらい合ってるからもうそれでいいよ、うん」

 

「そうか……」

 

 しょうがないね、という顔を作りながら上条は、俺の肩に手を置いた。

 

「モテない男同士、これからも頑張ろうぜ」

 

「ぶっ殺すぞてめぇ」

 

 命の恩人にかける言葉ではなかった気がする。だが反省はしていない。

 

 

 

 

 

「……んじゃ、御坂の病室にも一応顔出してみるわ。またな」

 

 小1時間ほど、上条の鈍感さを何度か指摘してみたのだがまったくの無駄だった。インデックスはー、姫神はー……と、こちらの見解を色々とギリギリの範囲で述べてみたのだが取り付く島もない。"そんな素敵展開が上条さんにあるわけないじゃないですかー"と。もうこいつ爆発しねぇかなマジで。

 そんなこんなで上条に背を向けて、病室を後にしようとしたところで上条が声をかけてきた。

 

「……なぁ木原。お前は一体、なんのために戦ってたんだ?」

 

「……なんのため、ねぇ」

 

 なんだか聞いたことのあるようなフレーズだ。そう、上条が病室でインデックスに聞かれる質問か。その時上条は"自分のため"と答えるのだが、俺はそんなカッコいい人間ではない。

 まぁ人間、巡り巡ったら全ては自分のため、とも言えるかもしれないが、要点はそこではない。そんな哲学っぽい返答を上条は期待しているわけではなく、木原統一がどういう思惑であのような行動に出たのか、という事だろう。

 

「えーと、アレだ。振られた彼女の話したよな?」

 

 不本意ながら振られた事にしておこう。

 

「ああ」

 

「彼女は、妹達(シスターズ)の先生役に当たる人だったんだ。それで、妹達(あいつら)の事を救いたいって言ってた……ここまで言えばわかるだろ?」

 

 そういう事だ。なんて単純な思考回路をしているんだろう俺は。

 それも途中で、妹達も救いたいなんて思考に変わってしまったが。

 

「……そっか」

 

 納得したように、上条当麻は目を閉じた。

 

「上条」

 

「んー?」

 

「あの時来てくれて、ありがとうな」

 

 今度こそ、俺は上条の病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

「次はお姉さまの病室ですか、とミサカは確認を取ります」

 

「ああ……そういや、ずっと待たせて悪かったな」

 

「問題ありません。この任務の報酬を、その分考慮していただければ幸いです、とミサカは圧力をかけます」

 

「……報酬って、俺が払うのかよ」

 

 てくてくと、車椅子の速度に合わせてのんびりエレベーターまで向かう。御坂の病室はここの一つ上の階なのだ。階段で行けとも言うかもしれないが、お目付け役が車椅子なのでしょうがないだろう。

 

「お姉さまにはどのようなご用件なのですか?とミサカは確認を取ります」

 

「顔合わせ、かな。あと頼みたい事が色々と」

 

「頼み事ですか……?」

 

 頼み事。そう頼み事だ。常盤台の超電磁砲(レールガン)、及びその愉快な仲間達の助力を頼みたい。

 

「布束がまだ、捕まったままだからな」

 

「……振られたのに助けるんですね、とミサカはシリアスムードの貴方を茶化してみます」

 

「……流石に怒るぞ」

 

 暗部組織、『スタディ』に捕らわれている彼女を確実に助けるには、俺と土御門以外にも、人手が必要だ。妹達を助けようとした結果、暗部に身を落とした人間を助けようと言うのだから、御坂美琴も力を貸してくれるのではないか、というのが俺の推測。もとい希望的観測である。

 

「今回は一人で暴走したりはしないんですか? とミサカは答えがわかっていながらも皮肉の意味を込めて質問します」

 

「……流石に次は命がないからな。味方にぶっ殺される」

 

 マジカル陰陽術式が飛んでくる。おそらく慈悲はない。

 

「次ィ? テメェに次なんざねぇんだがなぁ?」

 

 ふと、後ろで聞きなれた声がした。

 

「いやー、流石に今回は怒る気力っつーか、やる気っつーかよぉ。一周回って冷静になっちまうくれぇにはムカついたわ。……あー、やっぱあの時手加減なんかするんじゃなかったなぁ。失敗失敗」

 

 後頭部から背中にかけて悪寒が走る。もはやどうしようもないと言う感覚。これからの計画とか、御坂美琴をどう説得しようかとか、そういった事情が全て頭の中から消失していく。

 

「誰でしょうか? とミサカはお尋ねします」

 

「父親だ」

 

 振り返って顔を見ることが出来ない。声を聞いているだけなのに、まるで銃口を突きつけられているような、そんな感覚に襲われる。

 

「なるほど、彼の能力計測を行ってくれる研究者ですか、とミサカは確認を取ります」

 

「まー、そういうこった。異常がねぇかどうか、これからここの設備使って、みっちり精密検査してやるよ」

 

 襟首を掴まれる。誰か、ダレカタスケテクダサイ。

 

「……なるほど。これが家族愛というやつですね、とミサカはまた新たに得た情報をインプットします」

 

 間違った情報を入力したミサカ9982号に、特になにもいう事はなく。俺は木原数多に引き摺られていった。何か言葉を発したら、それが遺言になってしまうような気がしたからだ。

 

 こうして、親父による世界一危険な精密検査が始まった。

 

 




 
 
 
 改めまして、3章終了です。
 革命未明(サイレントパーティ)編をEXで。御使堕し(エンゼルフォール)編を4章にと思っていたのですが……詳しくは活動報告をお願いいたします……いやもうホント、すいません。30話ラストのアレも、EXで回収予定だったのですが……

 そんなこんなですが、3章に出したオリジナル術式をシレッっと紹介しておきます。

我が剣は王のために(S F T K)
 ノタリコンはSword for the king=王のための剣 
 魔女狩りの王のエネルギーを流用し、爆発的な出力を一時的に得る術式。木原統一が魔力の扱いに慣れてきた、そして長けてきた事を示す術式でもあります。
『力の噴出点』を変更する、あるいは『力そのものを流用する』という方法論は科学、魔術共に珍しい事ではないかなと。新約ですと恋査や垣根がやってたり、旧約ですとアックアさん決死のテレズマ強奪、ミーシャⅰnサーシャ、等々……エネルギーそのものは様々ですが、対応していれば可能と解釈しこの術式となりました。

 術式についての説明は以上です。バトルが大量の非常にドタバタとした、1章、2章とは毛色の違う章になりました。……まぁその1、2章も全然違ったりして、統一感ゼロだったりもするんですが。複数戦、視点変更、原作を改変しながらも全員の出番を……と、忙しい章でした。
 一方さん、妹達、アイテム、上条さんに御坂さん。たぶん原作とはちょこちょこキャラが違います。キャラ崩壊、あるいは違和感を感じた方、正常です。これが作者の限界でした、すいません。

 それでは、長い間駄文にお付き合いいただきありがとうございました。


 ……布束さんごめんなさい。救出がめっちゃ遅れます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。