「ただいまー……なんちゃってな」
色々あったが、午前中の内に自宅に帰ってくることができた。さきほどまで自宅の住所どころか現在位置すらわからない状況だったのだが。
「それじゃ、あたしらはこれで失礼するじゃんよ。巡回はするけど、あまり人目につかないような場所・時間帯は避けて行動するほうが身のためじゃん?」
なんと、
本格的な事情聴取は後日ということになった。被害者である俺の能力は
まぁあの神父は捕まらないな。なにせ彼らは
「はい、気をつけます。ありがとうございました」
「お礼なら親御さんに言うじゃん。護送を頼んできたのは君のお父さんのほうじゃん? もっとも、うちらは
(……アイツやっぱイイ人?)
適当に帰れ とか言いつつ護送を用意してるとは、今度なにかお礼をしたほうがいいのかもしれない。
「いい父親だねー、最初はあの刺青と顔つきで……い、いやいやなんでもないじゃんよ? ま、まったく、
そんな夏はいらん。
「なにかあったらすぐに、
わははと笑いながら警備員、
ガチャン と新品のドアを閉め、部屋の中に入る。
そこには臨戦態勢のエロ聖人が! なんてシチュエーションにはならず、夏の蒸し暑さにげんなりとしながらも部屋を見渡す。
「さてと、まずは自分の立場を確認しないとな」
よし、やるぞと喝を入れるように呟き、なぜか大量にある本、ファイル、パソコンを前にげんなりしつつエアコンのスイッチを入れた。
ステイル=マグヌス、神裂火織はとある雑居ビルの屋上から
「あの子は無事のようですね」
「ああ、どうやったかは知らないが、危機は脱したようだ。それで、なにかわかったのかい?」
「
「何だ、もしかしてアレがただの高校生とでも言うつもりかい?」
「……
「またその話か。その話は置いておいてくれ。僕もアレはやりすぎだったと思っているさ」
先日から神裂火織の機嫌が悪い。事故とはいえインデックスに瀕死の重傷を負わせてしまったこと、同僚のステイルが一般人を巻き込み殺害してしまったこと、そして正体不明の勢力によってステイルが撃退されてしまったこと等が、彼女をそうさせているのだろう。つまり半分くらいは八つ当たりである。
だが彼女の魔法名は
ステイルの信条は知っている。
だとしても、彼女はステイルのあの
「あの子の傷を癒した方法も気になるな……病院に駆け込まれなかったのはいいが、それはつまり
「最悪、組織的な魔術戦に発展すると仮定しましょう。ステイル、指摘されたルーンの弱点に関しては……」
「ぬかりはないさ。
(相手の勢力は未知数。最悪あの右手のような能力が、星の数ほど沸いてくるような展開だってあるかもしれない。だが僕には退けない理由がある。
とある高校 1年7組
成績はクラストップ、能力は
先生の返信欄
『最初はクラスで浮き気味で心配でしたが、最近は仲がよさそうな子も増えてきたので先生は安心なのです。その調子で友達を増やして下さいねー? アドバイスとしては木原ちゃんはお勉強ができるようなので、そこを生かしてみんなを引っ張っていくのが近道だと思いますよ。木原ちゃんは特にあの3人と仲がいいみたいなので、力を貸してもらいたいのです。上条ちゃんと土御門ちゃんはおうちも近いみたいなので、ぜひぜひ勉強を教えてあげてほしいのですよー。夏休みの補修にはあの3人は参加大決定ー! なわけなのですが、課題のプリントや夏休みの宿題の内容についてこれるかが心配で……(以下、教材内容の相談やプライベートでの3人のサポート、遊びほうけていたら注意してくれ、等の内容が続く)
……ということで、夏は暑いですからねー。暑さに負けないように気をつけて下さいねー。あと、先生はあまり大きな事は言えませんが、顔に刺青を入れたくなったりしたらその前に、先生に相談してくださいねー? それでは夏休み明けに会いましょー』
以上、成績表より抜粋
木原統一 14歳
『頭脳及び能力に関しては、他の木原の平均以上のものが見られるが、未だに『木原』としての特性は確認できない。科学への執着心や特化した知識、技術、思考等の傾向は、教育やパーソナルリアリティからの影響を受けないことから、彼の保有する知識量は木原には起因しない。そしてこれまで確認されている『木原』の最長発現記録は10歳であることから、彼が今後『木原』としての能力を発揮する可能性は低いと思われる。近年木原の家系においての科学特異点発現率は下降の一途をたどっており(科学特異点とその発現率については別資料を参考にされたし)特に珍しいケースではないことから、最低限『木原』についての守秘義務を課した上で一般的な生活を送ってもらうこととする。(能力開発下における科学特異点の強度について B8参照)』
以上、木原統一に関する最終報告レポートより抜粋
「……俺、木原の中じゃ落ちこぼれなのか」
あの人外集団の外れ者、と聞いて嬉しいような悲しいような。
エアコンの入らないうだるような暑さの部屋で、木原統一は資料から目を離した。先日の停電の影響か、故障したエアコンを見て「学園都市製なのになんでこんくらいで壊れるのさ!」とマジギレした統一だったが、そういえばこれは
「パソコンと冷蔵庫が無事だったのが救いか……パソコンはデータ保存用に丈夫にしてあるんだろうけど、冷蔵庫が無事なのはすげぇな。
パタンッ、と本を閉じながら無意味な商業戦略を却下した。
木原統一の部屋には本、それもおそらく高校生には解読不能であろう学術書が、大量に陳列されていた。その内容に統一性は無く、ありとあらゆる分野に関しての本がそろっているようだ。
(いまのところだけど、なぜか理解できない内容はまったく無かった。悲しい事に前世? の俺は下から数えたほうが早い高校生だったし、今の俺は知識だけは木原統一のものを持っているってことになるのかな。木原としては落第ものだけど、学生としてはかなりいい線いくんじゃないだろうか)
読んだことのないような専門書でも、読むだけで関連する知識が沸いてくるのには驚かされた。どうやら数日前の木原統一は、ここにある本を全て読み尽くし、なおかつ完璧に理解しているらしい。まったくもってトンデモ高校生である。……それでも『木原』ではないと言われると、逆に『木原』とはなんなのか逆に聞きたくなってくる。哲学かな?
そんなことよりも、だ。知識に関する記憶はあるが、思い出の部分的な記憶喪失、と聞いて当然思うところがないわけでもない。
(上条さんのような思い出だけの喪失ってことなのか? でも上条さんのと同質とは言い切れないか。思い出の損失ってより、思い出が別人のものにすり替わって……)
別人? はて? と自分で言ってから頭をかしげる。
俺は……誰だ?
この『木原統一』は今まで、自分は元は現実世界の住人であり、
だが俺は今、まったく違う可能性に気づいてしまった。
もしかしたら、この
父親も、母親も、友人も親戚も生まれも全てが、無かったことになるのなら。
(……いや、ままままままて、おおおおお落ち着け俺、いや僕? 私は誰? ココハドコ? いや違う、とにかく落ちつけ!)
頭を抱えながら冷静な思考を取り戻そうと躍起になるたびに、この思考は誰のものなのかという無限ループに陥ってしまう。
(ま、まて、この仮説の鍵は……)
ライトノベル 『とある魔術の禁書目録』に関する知識
この世界が、このライトノベルと同じような筋書き、登場人物で進行するのなら、後者の理論が正しい可能性は限りなく低くなると言えるのではないだろうか。なにせ魔術サイドと上条当麻の抗争、第三次世界大戦の勃発、ついでに言えば魔神に世界がくしゃくしゃに丸められ、幾度と無く
誰も知りえない未来の知識、その答え合わせこそが自分の存在を確認する唯一の手段ではないだろうか。
もっとも、他宗教魔神や守護天使なんていう正真正銘の人外の仕業だという可能性は否定できないのだが。あいつらが時間を超越した存在ならお手上げである。
(となると、まずは原作進行度の確認をしないと。そういえば俺(焼死体)を見て通報したのは上条さんだったか。まずいぞ、アレ見た上条さんの心境が、原作にどう影響するかなんてまったくわからねえ! とっとと小萌せんせーの家に向かって……)
後に、この行動によってあの魔術師二人組に生存がバレてしまい、死んだはずのただの高校生から敵対勢力の1員として格上げされてしまう事を、彼はまだ知らない。