とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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 書き終えた後で気づきました。力の入れどころを間違えているかもしれないと。
 
 そしてまた試験的に改行を混ぜました。今度は行間を空ける形で。文体もちょこっとだけ違う感じに……なんかどんどん迷走しているだけのような気がします。
 
 

 


045 A fool thinks himself to be wise. 『8月27日』 Ⅴ

 

 

 

Q1.次の空欄に当てはまる言葉を書きなさい。

 

 Ⅰ.(1)はAD67年、(2)の迫害により殉教した。彼はローマの(3)に埋葬されており、初代ローマ教皇としても扱われる。

 

 最初の問題はやはり易しいようだ。いかにも魔術業界の常識と言った感じである。イギリス清教の入門試験としてはちょっと変な感じもするが。逆にローマ正教でこんな試験が出た場合、間違えた瞬間殺されるんじゃないかな。

 

 Ⅱ.旧約において預言者(4)は、山羊と羊の幻を見る。その解釈を伝えるのが(5)である。

 

 このタイミングでこの問題は悪意しか感じない。タイムリミットは刻々と迫っている。いかん、テストに集中しなくては。

 

 Ⅲ.20世紀初頭、(6)は天界や魔界についての魔術的解釈を一新した。別名を(7)=アレキサンダー。

 

 楽勝である。問題全てがこのレベルであるなら助かるのだが。

 

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Q5.次の文中において間違っている箇所に下線を引き、正しい言葉を下に記入しなさい。

 Ⅰ.カバラにおいてノタリコンとは文字置換法の事であり、その由来は『速記』を意味するラテン語である。その他にはゲマトリア(数秘法)やテムラー(省略法)が存在する。

 

 まだ問題用紙は1枚目だ。問題数多過ぎないか? 急いで解かないと時間切れの可能性もでてきたな。加速しつつケアレスミスをしないようにしなくては。

 

 Ⅱ.似通った性質、形状の物は、互いに影響を及ぼしあう。これを『偶像の理論』といい、あらゆる魔術体系の根幹を成す。所謂聖人というのはこの理論から成る。

 

 ……うん? 何度か見直したが、これは首を捻らざるを得ない。問題になっているかも怪しいぞこれは。正しい言葉というのも、この問題はオリジナル性が求められるな。

 

 Ⅲ.生命の樹の中心とされるケテルは、太陽を象徴とする。原形世界(オーラムアツイルト)における論理的三角形、均衡の柱の一角である。

 

 普通の日本人には「日本語でお願いします」としか言えない問題である。ところでこの編入試験、一般的な魔術業界ではどれほどの難易度なのだろうか?

 

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Q10.(5-amino-1,4-phthalazdione)(Ⅲ)のhydrazineを用いた合成について、以下の問いに答えなさい。

 

 Ⅰ.(5-amino-1,4-phthalazdione)(Ⅲ)の別名及びその仕様用途を答えなさい。

 

 日本語でお願いしますとは言ったが、まさか科学……もとい化学の問題が出てくるとは思わなかった。現代の魔術師にはやはり、化学も必修事項なのだろうか?

 

 Ⅱ.合成の際に行う操作について、当てはまるものを全て選びなさい。

  1:加熱

  2:冷却(急冷)

  3:冷却(放冷)

  4:沸騰

  5:蒸留

  6:ろ過

 

 ……やり方次第じゃないだろうか? 例えばの話である。一方通行(アクセラレータ)がカ行変格活用ベクトル合成教室を開催した場合、1~6の操作は不要である……まぁ、出題者が書いて欲しい解答は、元の『木原統一』の知識のお陰でなんとなくわかる。学園都市の技術や能力を持ち出されても、外側の存在であるイギリス清教の試験作成班は困るだけだということも。納得のいかない問題だが、ここはぐっと堪えて次に行こう。

 

 Ⅲ.(5-amino-1,4-phthalazdione)(Ⅲ)を術式の構成に用いる際に挙げられる問題点を述べよ。

 

 なるほど、そういう意図だったか。なんでここで化学問題? と頭を傾げたものだが納得がいった。おそらくこれは科学側との条約に抵触するのかどうかを聞いているんだな。

 

 破滅の枝(レーヴァテイン)という、なんでもかんでも燃やしてしまうチート術式を開発した魔術師が、その機構に科学側の条約に抵触する点があるということで粛清された。具体的にはビタミンB2の霧吹きスタンプがダメだったらしい。スタンプ自体がダメなのか、それとも起動するための紫外線ライトがダメなのか。それと同じようなニュアンスでこの問題は構成されているようだ。Ⅱの合成法についても、例えばベクトルクッキングで作ってしまった場合と昔ながらの試験管合成では解答が違ってくる。つまりⅡとⅢの問題はリンクしているわけだな。

 

 解答者がどんな合成法を想定し、それを科学側との協定に照らし合わせ、どのように捉えているのかを、出題者は見たいのだ。前言を撤回しよう。実に納得のいく問題だった。そしてあえて言わせて貰おう。50分しかねえ試験でややこしい問題を出してんじゃねえぞ馬鹿野郎。

 

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 Q20.以下の議題に対し、800字以上1000文字以内で答えよ。ただし「近代魔術師」、「魔術結社」、「3大宗派」という語句を文中で使用すること。

 

 ・近代以降の魔術師達の台頭は既存の魔術結社に多大な影響を与えた。その変化について、世界3大宗派はどのように対応してきただろうか?

 

 鬼畜か。50分しか試験時間がないというのに、この問題はムリゲーすぎる。急ぎ足でここまで解いてきて本当に良かった。

 

 Q23.あなたがイギリス清教を志望した理由を答えなさい。ただし「最大主教」、「魅力的」という語句を文中で使用すること。

 

 えーと、『A.イギリス清教には、最大主教なんて比べ物にならないくらい魅力的な女性がたくさんいると、土御門君から聞いて入りました。』……次行くぞ次ィ!

 

 

 

「……なんだお前。土御門の知り合いかよ」

 

 試験も終盤であり残りは10分少々。最終問題である北欧神話と十字教の関係性についての考察(800文字)を書きなぐったところで、不意に声を掛けられた。

 

「え?」

 

「問いの23番。土御門の紹介って書いただろ。てっきり神裂の方かと思ってたが」

 

 気だるそうにしていた試験官シェリー=クロムウェルはその実、きちんとこちらの解答を見ていたらしい。てっきり寝ていると思ったのだが、思いのほか仕事熱心だなこの人。

 

「私はてっきり、あの極東宗派が前に所属してた……ナントカ式とかいう魔術集団から抜けて来たのかと思ってたんだがな。ちなみにそのふざけた解答は、私的には満点だ」

 

 ふふ、と笑いながらもどこか達観したその目。ああ、この人もあの女にはなにかしら思うところがあるんだな。大丈夫かイギリス清教……人徳なさ過ぎだろ……

 

「ありがとうございます。神裂が所属してたのはたしか天草式十字凄教ですね。俺は違いますが」

 

 ああ天草式だったなと、シェリーは思い出したように呟いた。そういえば必要悪の教会って寮制なんだよな。神裂とシェリーはそこそこ面識があるのは知っているが、その実、その距離感は如何ほどのものなのだろうか? この二人の会話がいまいち想像できないのは、俺の想像力が欠如しているせいなどとは考えたくない。神裂が自分の出自を話しているという事は、そこそこ打ち解けた仲ということだろうか。

 

「つーことはお前、オンミョウドウとかフウスイっていう魔術を使うのか」

 

「……? いえ、俺は風水魔術なんて使えませんが……」

 

「土御門とはまた違った宗派ってことか。東の魔術業界には明るくないから、こちらとしてはさっぱりだが」

 

 意外と饒舌だなこの人。きちんとこちらの解答が終わってから話しかけてくる辺りにも、なんとなく優しさを感じる。割と仲良くなれそうな気がするなぁ。

 

「土御門の野郎は今、学園都市に住んでるからな。知り合うとしたらそれより前だろうし。わざわざアイツを頼ってイギリスまで来るって事は、なんか日本にいられねえ事情でも出来たってとこか?」

 

 …………あっぶねぇ、完全に油断してた。学園都市で知り合った事がバレたら、速攻でウィンザー城が俺の墓石になるところだった。

 

「エエ、実ハソウナンデスヨー。土御門クントハ昔カラノ知リ合イデシテネー」

 

 肉体的にはおそらく今年の春に、精神的には1ヶ月前に出会いました。なんて言ったらたぶん、エリスパンチが飛んでくるんだろうなぁ。

 

「ふーん……まぁ、あれこれ詮索する気はねぇから安心しろ……実は最近、東洋の神話や術式について興味が出てきてな。その辺の石ころにも神様が宿るとか、天から神様が追い出されて地上にやって来るだとか……最初に聞いた時は、食堂の馬鹿共がとうとう小麦粉じゃない粉でパンを焼いたのかと思ったけど、話を聞くと意外といいインスピレーションになる事に気づいたわけ。せっかくだからアンタにも聞いてみようと思っただけよ」

 

 なにこの人。俺の知ってるギスギスライオン丸と違うんだけど。あれかな? 初対面の人には優しいとか? それとも芸術家モードで本能で動いてます的な? あるいはその両方?

 

「イ、イイデスヨー……デモ神裂トカ土御門ノホウガテキニンナンジャ───」

 

「あいつらは話のメインっつーか華っつーか……戦闘に使われる伝承の肝の部分を抽出して覚えてやがるからな。こっちが知りたいとこは忘れてたり曖昧だったりするのよ……アンタはそういうタイプじゃないみたいだし」

 

 俺の解答用紙をチラリと見て、シェリーは付け足したように呟いた。頭の中が絶賛大パニックなせいで何を言っているのかさっぱりわからねえ。タイプってどういう意味だ?

 

「……ソ、ソウナンデスカー」

 

「……ところで、何で片言なんだ?」

 

 怪訝な顔をしながらシェリーは首をかしげた。なんとなくデジャブを感じる。まずいぞ、いつボロが出るかもわからん。話を変えないと……!

 

「いえ、ナンデモナイデス……と、ところで話は変わりますが、編入試験って筆記だけなんですか?」

 

 第2ラウンドを始めたるわよ! とか言って最大主教が入ってきたりしねえだろうな? 入ってきたら灰も残さず燃やし尽くしてやるんだけど。どうせステイルが試しまくった後なので通じるはずもないのだが。

 

「筆記だけも何も……実技はステイルの奴が実施したって聞いてるけど」

 

「……ああ、なるほど」

 

 アレか。あの戦闘が試験扱いか。14歳を血塗れでグーパンしたら仮合格とは、まさしくイカれてやがるなイギリス清教。

 

「あと、試験中にテメェを不意打ちで襲撃しろって言われてたが忘れてた。やったことにしとけ」

 

 ……ありがとうございます。本当にありがとうございます。本当にイカれてやがるぜイギリス清教。

 

「さて、時間だ。回収するわよ」

 

 のんびり話をしていたところで時間になった。とりあえず空欄は無い。だがしかし内容として、十字教、北欧、ギリシャ神話の基礎知識関連はともかく、後半に出てきた記述問題ついては正直微妙なところだ。採点者の判断次第では、減点の可能性だってあり得るはず。合格ラインがわからない以上、安心は出来ない。

 

「採点には時間がかかるらしいから、それまでここで待っとけ」

 

「あ、はい」

 

 しばらくここで拘留のようだ。合格していなければ「しばらく」ではなく「永久」となる。それだけは勘弁して欲しいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 螺旋階段を登りながら、シェリー=クロムウェルは解答用紙をパラパラと捲っていた。周囲は薄暗く、等間隔で配置された光源を頼りに問題と解答を文字通り照らし合わせていく。日本語の読解には自信のないシェリーではあるが、その心配は無用だった。ご丁寧にもあの少年は、問題の書式に合わせて英語で解答していたからだ。

 

(なんだこの問題は……十字教の基本はまあいいとして。ギリシャにインド、北欧と、範囲が広すぎて頭痛がしてくるな。問題の内容も意識の外を突くような、意味のない内容ばかり。嫌がらせみたいな構成になってやがる)

 

 まずそもそもの問題数がおかしい。50分でこれを解答しろというのは無茶が過ぎるのだ。暗号解読班として、普段から欧州圏の資料を読み漁っているシェリーでも難しいような、重箱の隅をつつくような問題の数々。それをあの短時間で解けというのは、通常不可能であり、無意味であり、そして理不尽極まりない。正しいかどうかは別として、超高速で解答欄を全て埋めたあのクソ真面目な少年に、シェリー自身が感心してしまうくらいには異常事態だった。

 

(どうにもコイツ……Toitsu? トーイツでいいのか? この野郎をどうしても落としたい輩が、試験に細工をしやがったのか。つーことは、私を試験官に指定したのは……なるほど。最大主教も舐めた真似してくれるじゃねーか)

 

 清教派への任用試験。その問題に細工をするような輩がいるとすれば、その妨害の手を試験官に向けない保証はない。おそらく、これが同じ日本出身の土御門や神裂ならば、まず間違いなく公式・非公式を問わず介入してきた事だろう。誰だって同郷の者には甘くなるものだ。下手を打てば出来レースであると非難され、最悪の場合イギリス清教を切り崩す材料に使われるかもしれない。

 

 ならば、最初からその工作の手が回らないように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()を設定しておくことで、そのいざこざを回避できる。その者の胸先三寸で合否を決められることにすれば、間違っても妨害は入ってくるはずもない。

 

 そして結局、特に妨害も入らずに試験は行われた。その事実が意味するものは。シェリー=クロムウェルが、日本人を問答無用で不合格にしてしまうような人間であるという、そんな間違った印象を抱いている者が、今回の黒幕であるという事を示している。つまり、シェリーの過去をある程度把握しており、尚且つ彼女自身を誤解しているような距離感の組織……そんなモノは一つしかない。

 

(『騎士派』のクソ共の仕業か。ただの日本人ってだけで、ここまでアレルギーみたいに喚くのは珍しいが。あの脳筋共の思考を理解するくらいなら、まだ最大主教(クソ野郎)の靴を舐めていた方がマシってもんだ)

 

 ふと脳裏をかすめるのはあの日の記憶。20年という月日が経った今でも、あの光景は忘れることができないでいる。魔術と科学、双方の架け橋となるはずだった友は、結果として『騎士団』の手で討たれその命を散らした。

 

 ……忘れるわけがない。忘れてはいけない。あの惨劇は、この身が背負うべき業だ。あのような悲劇は、二度と起こってはいけないのだ。

 

 そう考えるのなら、この少年は不採用とするべきなのかもしれない。そんな考えがふと浮かんだシェリーだったが、即座にその考えは間違いだという事に気づく。

 

(……違う。あの時の出来事と今回の出来事はまったく別物。『騎士派』の連中の過剰反応って点では変わりはないが……チッ、私がこうやって葛藤する事も、結果としてアイツを合格にしちまうのも、最大主教(あの女)の筋書き通りって事か)

 

 騎士派の思惑に乗って、あの真面目な少年を不合格にしてしまうという選択肢。そんなモノは、シェリーに選べるはずもない。気に入らないという理由で、科学とは無縁の極東からの来訪者を不合格にする、なんてふざけた横暴を彼女が許すはずもない。

 

 『騎士派の介入』を黙って見過ごすなんて事が、このシェリー=クロムウェルにあっていいはずがないのだ。

 

(どうせ合格にしたところで、『騎士派』からは難癖を付けられるんだろうが……知るかボケ。後は勝手になんとかするだろあのクソ野郎なら)

 

 こうして結局、シェリーは気づかなかった。木原統一が科学側の住人であるという事に。そして───

 

 自らが試験官をやらざるを得なかった公的な理由。件の審問会に彼が出席し、その"難癖"を付けられる事になるとは、思いもしなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 昼を過ぎたとはいえ日はまだ高い。地下から顔を出したシェリーが、再び穴倉に戻ってしまおうかと考えるくらいには。

 

「おー、お疲れさん」

 

「……土御門か」

 

 歴史的にも芸術的にも価値あるウィンザード城。歴史上そこへ足を踏み入れた者の中で、最もその場に相応しくない格好をしているであろうアロハ男、土御門元春が待ち構えていた。別段、シェリー=クロムウェルは彼に特別な感情を抱いているわけではない。それでもこの男の名前をはっきりと記憶し、そして話しかけられた際にきちんと足を止めて対応するのは他でもなく、この男の就いている任務に原因があった。

 

 学園都市に潜入しているスパイ。科学側とイギリス清教のクッションの役割を果たす重要な仕事である。シェリー=クロムウェルの根幹を成すあの惨劇。あのような事件が繰り返されないためには、こういう人間の働きが大事なのだという事を、シェリーは理解しているつもりだ。だからこそこの男の仕事については、ある程度の敬意を持って接さなくてはならない。

 

「あのインテリをずっと待ってたのか? ご苦労な事ね、このホモ野郎」

 

 ……あくまで仕事についてである。この男自体はただのド変態だという事も、シェリーは知っていた。

 

「勘弁してくれ。地球の裏側まで来て、久しぶりの言葉がそれは結構キツイ。それに俺は義妹以外に罵られる趣味はないぜい」

 

 義妹ならいいのか、なんて野暮なツッコミはしない。答えはわかりきっているし、そんな事は聞きたくない。

 

「ハッ、義妹思いのシスコン野郎が、なんでわざわざここへ来た? 学園都市での任務とあのインテリのお守。どっちが大切なのかなんて、考えるまでもねえだろうが」

 

 ……これについても、シェリーには答えが分かっていた。土御門がやってきて、審問会が開かれる。この二つはおそらく繋がっている……と言っても、その可能性に気づいたのはついさっきの出来事なのだが。

 

 その言葉を聞いて、対する土御門は眉をひそめた。起こるであろう事態に備えていたのに、肩透かしを食らった感じだ。

 

(シェリーは木原っちの事情に気づいていない……? まぁ、場合によってはあり得る事か。こいつはついてるぜい)

 

「いやー、流石に審問会への召喚要請があったとなれば、任務も中断せざるを得ないぜよ。木原っちはまぁ、もののついでみたいなもんだにゃー」

 

「ついで? 身代わり(スケープゴート)の間違いなんじゃない? お前の報告から目を逸らすための」

 

「それを言われると立場がないぜい」

 

 適当に言葉を合わせながら、土御門の頭脳はフル回転を開始した。

 

(目を逸らす、か。シェリーはどこまで知っている? 木原っちのこと、禁書目録、そして幻想殺し(上条当麻)。全てを知ったコイツが何をしでかすかなんて考えもつかないからな……まったく、本当に厄介な事をしてくれるな最大主教(あの女)は)

 

 最大主教の行動の厄介さは、今に始まったことではない。その事は、土御門元春が一番良く知っていた。

 

 一方のシェリーと言えば、学園都市から土御門が呼び出されると言う緊急事態に、一体何があったのかという焦燥感に包まれていた。だがその前に───言っておかなくてはならない事があるとも、彼女は考えていた。

 

「あの坊やはどうでもいいが、『騎士派』の連中相手に、友人を売らなきゃいけないほどの案件なのか? 古い仲なんでしょ? アイツとは」

 

 ピクリ、と土御門のこめかみから「?」マークが飛び出しそうになる。そのわずかな表情を隠すために、土御門は質問を投げかける。

 

「俺との関係は木原っちから聞いたのか?」

 

「別に、話の流れで出てきただけ。根掘り葉掘りに事情を掘り返そうって気はねーから安心しろよ。学園都市に入る前からの友人だって言ってたぞ」

 

 シェリーの言葉の裏には、友人をないがしろにする土御門への非難の意味が込められていた。そしてここまで言えば、この変態グラサンは気づくだろう。自分が言わんとしていることに。一見して軽薄そうなこの男は、必要悪の協会(ネセサリウス)でもっとも繊細であり苦労人であり、そして察する事ができる奴なのだから。

 

 そして当の土御門と言えば。シェリーの意図を汲むことはできているものの、それ以上に降って沸いた謎に、またしても苦しめられる事になる。

 

(木原っちは学園都市の出身である事を伏せた……のか? 都合はいいが……いや、都合がよすぎる……シェリーの過去を知っていたのか……二人に面識はない。喋る可能性があるのは神裂くらいだがそれもありえん。まさかシェリーが初対面の人間に、ペラペラと自分の事を話すわけもない。どう考えても木原っちがシェリーの事情を知っているはずが……まさか───)

 

 またかあの野郎。という結論に、土御門は本能で辿り着いた。知るはずのない事を何故か知ってしまうという、あの男の謎。いつかそのカラクリを解いてやると、土御門は心に誓った。

 

「まぁお前の事だから、抜け目なくその辺りは考えているでしょうけど。少しは木原ってヤツにも気を配ってやれ。それが出来なきゃ、テメェの評価はただのド変態のクソ野郎でしかねぇからな」

 

 これ以上どうしろというのか。そんな悲鳴にも似たツッコミを、土御門はギリギリの所で飲み込んだ。夏休み初日からこの1ヶ月、気なんて配るどころかバケツでぶちまけまくっているようなものなのだ。事件があるたびに気が気ではなく、最近は殺気を振り撒き始めてしまっているのは、「気を配る」に該当するのだろうか?

 

「へいへい……せいぜい肝に銘じておくぜい。ま、木原っちがこのままイギリス清教傘下に収まれば、目も届きやすくなるってもんですたい」

 

「……どうだか。この試験の惨状じゃ、もう一悶着ありそうだけど?」

 

 ようやく本命の話題にこぎつけそうだと、土御門は安堵した。どうやら不穏な滑り出しのようだが。

 

「悪いのか?」

 

「……さてね。アンタが審問会で喋る内容を教えてくれれば、見せてやらない事もないが」

 

 こうしてシェリーも、本来知りたかった議題へと話を進めた。

 

 もし土御門が素直に喋れば、十中八九木原統一の合格はないだろう。真実をうまく隠しつつも、シェリーが納得するような情報を開示しなくては、先へは進めそうにないらしい。

 

 土御門の苦悩はまだまだ続きそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局のところ。

 

 土御門元春は、試験の問題用紙に加えられた『騎士派』の妨害工作を知った。試験の出来は想像以上に良く、不合格になる心配はなさそうだという事も確認できた。

 

 シェリー=クロムウェルは、禁書目録が学園都市に迷い込んでしまったという断片的情報を手に入れた。科学サイドの総本山に、うっかり10万3000冊の魔導書が入り込んでしまったなどという事案が発生すれば、確かに土御門が呼ばれてもおかしくないだろう。事の顛末は残念ながら聞けなかったので、審問会への公聴を希望してみようかとシェリーは考えた。

 

 

 

 ……そして全てを仕組んだ黒幕は。ウィンザード城の煌びやかな装飾に包まれた、高級スイートホテルも顔負けのとある一室に佇んでいた。

 

従う者(E N) 天上の門叩きし時(I R T H) 旧知の友は道を指し示す(I F R T T D)

 

 彼女の口から紡ぎだされたのは、とある霊装を起動させるための詠唱である。聖ジョージ大聖堂の地下から持ち出されたその一品は、世界地図に複数のコンパスが取り付けられた、一見して人生ゲームのボードのような創りをしている代物だ。

 

 『天の導き(エノクオーダー)』。十字教において、大天使とされる4者。『神の如き者(ミカエル)』、『神の薬(ラファエル)』、『神の力(ガブリエル)』、そして『神の火(ウリエル)』……その次席であるとされる『神の友(ラグエル)』のエピソードを元にした探知霊装。その効果は一応強力ではあるものの、エピソードの元となった『神の友(ラグエル)』が堕天使であるという説が浮上した際に封印され、紆余曲折を経て永い間聖ジョージ大聖堂に保管されていた。その間に『神の友(ラグエル)』の堕天使説は消滅したのだが、使い道がないという事で今日まで忘れられていた不遇の作品である。

 

 その効力は、「指定した物品へ刻まれた情報を、筆者がどこから学んだのかを表示する」という物だ。

 

 新聞の朝刊に用いれば、一面三面問わず掲載された全ての記事についての取材下が表示されるだろう。

 スパイの送ってきた手紙に用いれば、その情報の精度が把握できるはずである。

 魔道書に用いれば、それを作成した魔術師が生涯、どのようにして魔術を学んできたかがわかるはずだ。

 

 そんな便利な霊装を目指して作られたのだが、完成と同時に重大な欠陥を抱えていた事が発覚。作成した魔術師でさえ数回しか使わず、その後も起動した回数は両手で数えられる程だと言う。

 

 はてさてその欠陥とは。

 

(使用出来るのは半年に1度。読み取れる情報源は1日以内に刻まれし物のみ。複写された情報は精度が著しく劣化する……役割が明確にならざる天使の1エピソードを据えた霊装としては、このあたりが限界といふことね)

 

 たとえ今朝の朝刊に用いても、下賤なゴシップ紙レベルの情報しか判明せず。

 手紙に使ったところで当然意味はない。

 書きたてほやほやの魔導書に使うのならば、直接その魔術師の頭を切り開いた方が早いし正確である。

 

 そんな使いどころの難しい霊装であるのだが。本日行われた試験の問題用紙に用いれば、回答者がどこからその知識を得たのかが全て表示されるはずであると、ベージュ色の修道女は確信していた。

 

 盤上に突如として現れた謎の少年。その原点(ルーツ)を探ってみようと思ったのは、完全に彼女の気まぐれである。土御門の情報通りなら、知識の源は大部分が禁書目録由来となるはずだ。それ以外の名前が出てきた場合……名前次第では拷問にかけてみようかと、彼女は考えていた。

 

 さっそく、採点の終わった問題用紙を霊装にかざす。その瞬間、無数の青白い光線が用紙を突き抜け、刻まれた情報を読み取っていく。そして───

 

 

 

 

 

 バキンッ、という音と共に、霊装に取り付けられたコンパスが弾けとんだ。

 

「……………ふっ、所詮はポンコツにつき」

 

「かっこつけてる所で恐縮ですが、弁償してもらいますよ最大主教(アークビショップ)

 

 え? なんで? 私、この組織の一番偉い人なんだけど? という顔で振り返る最大主教だったが。『聖人』神裂火織は構わず言葉を続けた。

 

「当然でしょう。効力はさておき、代替の利かない由緒正しい霊装の一つです。それを私用で持ち出し、結果として壊したのですから。議論を挟む余地すらありません」

 

「ま、待つのよ神裂。かような結果は確かに無念ではありしけるのだけれど。私の取り扱いは万全につき。これは霊装自体が劣化していたという事に他ならないのだから、私の責任では───」

 

「道理としては一理ありますが、組織としてはその理屈は通用しません。諦めてください」

 

 ぐぬぬ。まさしくこの先進的擬態語通りの表情で、最大主教は霊装を睨みつけていた。

 

「何故今まで誰もこの霊装を使用しなかったのか。その理由をもう少し考えるべきでしたね」

 

「お、おかしいのよ。使用前の点検も怠らなかったといふのに……それにこの霊装の構造上、こんな故障はあろうはずが……」

 

 あたふたする最大主教を見て、神裂は思った。やっぱり、コイツは何も考えてないのかもしれないと。

 

「はっ!? まさか件の少年が、この霊装の存在を見透かして妨害術式を……」

 

「現実逃避は構いませんが、あの少年に嫌疑をかけることは私が許しません」

 

 何も考えていないのは誰なのか。

  

 そして何故霊装が壊れてしまったのか。

 

 今となっては、真相は闇の中である。

 

 

 

 

 







 試験については、深く考えないほうがいいかもしれません。だって作者も何も考えていないので。

 ……でも、かまちーなら答えられるのかもなと思ってしまうのが、鎌池先生の凄いところというかヤバいところというか。


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