小萌先生の家の住所はすぐ見つかった。連絡網にきっちり書いてあり、横に『なにかあったらいつでも訪ねてきてくださいね!』と追記されていたのはちょっと驚いたが。
「ほんと、小萌せんせーっていい人なんだろうなー。家出少女とか匿うのが趣味って設定……いや、もう現実にいるから設定とかじゃないんだったか。でも学園都市で家出ってどうなんだ? 家族で暮らしてるキャラなんて聞いたことないし、一人暮らしが基本なんじゃないか? いやでもちっちゃい子とかいるからそんなこともない……」
ぶつぶつ言いながら夏の暑いコンクリートジャングルを歩く木原統一。手には2つ折の携帯を持ち、画面にはGPS機能を使ったルート検索機能が表示されている。
「住所がわかっても土地勘がなきゃ意味無いからなー。携帯が燃やされなくてよかった……お、ここだな」
そんなこんなで15分後、景観にそぐわないボロアパートの前についた。建物が声を出すことができるなら、『もうゴールしてもいいよね……』と今にも訴えてきそうなオンボロ具合である。後にこのアパートの1室から
ぴんぽーんと一度チャイムを鳴らす。
(やっぱ知らない人の家を訪ねるのは緊張するな……いや、たとえ知ってても担任の先生の家ってのはアレか。あとは親父にも言われた『らしくない』ってのをうまくごまかさなきゃな)
ドアががちゃりと開いて、ツンツン頭の少年が顔を出した。
ぴんぽーん、と小萌先生宅のチャイムが鳴った。
今現在、この部屋には家主がいない。半死半生の傷から生還したシスターと、ツンツン頭の少年、上条当麻の二人だけである。
(小萌先生は特に来客予定はないって言ってたけど……やっぱ出なきゃだめだよな)
昨日襲われたばかりの身としては、このまま居留守をつかってやり過ごすのもアリかもしれない。だがそれでは、留守と判断されて逆に押し入られる可能性もあり、それによりこちらが今動けないこと、こちらの戦力が
実際には前半部分はもうバレてしまっているのだが。
「ど、どちらさまでせうかー?」
ドアをがちゃりと開けるとそこには、死んだはずの隣人が立っていた。
「───へっ?」
「よ、よう。元気かー?」
目の前で消し炭になっていた姿を見たのが最後だった。そんな人間が生きているはずがない。つまり目の前にいるのは。という思考にいたるのに1秒ほどかかり、そして――
「んぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!」
上条当麻の大絶叫が木霊した。
「ちょ、ここアパートだろ!? 静かにしろって!」
と口を押さえようとするが。
「く、くるな! いや来ないで下さいお願いします!! まだそっちの世界には行く気は無いんだぁぁぁ!!」
上条は部屋の奥へと逃げるようにゴロゴロ転がっていく。
「うるさいんだよとーま! 私は怪我人なんだから、もっといたわらないとダメなんだからね!」
「ぎゃぁぁぁぁ!!幽霊の次は暴食シスター!!?もうダメです!!上条さんのSAN値は限界なんですぅぅぅ……」
「サン値?なんのことかわからないかも?それより暴食シスターって」
「おじゃましまーす」
「入ってきたぁぁぁぁぁぁぁ!! やめてぇ! 守れなくて本当にごめんなさい!! 頼むから許してぇぇぇぇ!!! そして成仏してぇぇぇ」
「むっ、あなたは誰なのかな? とーまになにしたの? なにしにきたの?」
警戒心MAXの
(うわー、銀髪シスターって直に見るとやっぱ違うなー)
観光にきた外国人を見たときのような感想だった。
「なにしにきたのって言われてもなー……はいこれお土産のハンバーガー」
「ごはん! ありがとうあなたいい人いただきます!!」
「ちょっとまてインデックスさん!!? 上条サンへの心配はハンバーガー1個で終わってしまうんでせう!?」
「でもこれ10個は入ってるかも」
「数の問題じゃありません!!ダメです!知らない人?から食べ物をもらっちゃいけません!!これは上条さんが責任をもって没収んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「おお、これが生で見る噛みつきかー」
観光にきた外国人のような木原統一だった。
その後、ファーストフードを食べるのに戻ったシスターは放置しておき、やっとこさ正気度を取り戻した上条当麻との会話が成立した。
「
「あー……まぁ逆の立場だったら俺も信じないな。正直、俺もあそこから生き永らえるなんて想像もつかなかった」
ちょっと前の木原統一なら違うかもしれない。だがここはそういうことにしておいた方が無難だろう。
「それでも……生きててよかった。本当に」
上条当麻はそういって、右手を差し出してくる。木原は「何故ここで握手?」とも思ったが、とりあえず応じておいた。
「右手が反応しない、ってことはやっぱり本物か!」
「まだ疑ってたんかい!!」
なんのことはない、上条は未だに木原のことを疑っていたのだ。
「……まぁいい、本題に移ろう。昨日、なにがあったかを教えてくれ」
上条当麻の現状を知ること、それが木原統一の目的だ。ここまでは状況を見る限り、原作通りの展開だろうという予測はつく。だがやはり、本人からの言葉を聞いておきたいというのが木原の本音だった。自分の中にある記憶・知識が、すべてまやかしでないという確かな証明が欲しいのと、その
「……いや、言ったら巻き込むことになる。だから言えない」
正直、この展開は予想していた。巻き込まれてしまったがためにこんがり上手に焼かれてしまったクラスメートを、これ以上深入りさせるわけにはいかない。そんなことをしてしまうほど、上条当麻はバカではないのだ。
「巻き込む……か」
「そうだ。だから言えないんだ。すまん!」
頭を下げる上条に対し、木原は冷静に次の一手を考えていた。
(おそらくこの会話は
これは予想でしかないが、もしここで「実は昨日のことは本で読んだから知っている。念のため確認したいから話を聞かせてくれないか」などと言おうものなら、
「そうか、
「わかってくれたか!」
ガバッっと顔を上げる上条当麻。目の前には笑顔を浮かべる木原がいた。
「ああ、
と言って、携帯を開く。
「おまっ」
焦りだす上条に木原はこう続ける。
「さて、そこの暴食シスターと一緒に警備員に突き出されたくなかったら、洗いざらい話すんだな!」
「ちょっと待て!? 俺は本気でお前のことを心配してるんだって! いやもうマジで勘弁してくれよ!」
「あーもしもし? 警備員ですかー? 実は幼女を監禁してる男の人がですねー」
「その冤罪はシャレになりません!! はいはいはい喋ります喋りますから通報はやめてー!!!」
勝った、そう確信した木原だった。