とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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 少し長いです。

 一部残酷な描写があります(今さら)

 一部オリジナル要素があります(本当に今さら)




 
 
 



061 さあ今ふるえ正義を 『8月28日』 Ⅵ

 

 

 薄暗いわだつみのとある一室。順調に進んだ老朽化を『風情』という前向きな形で生かした和室の窓の淵。そこに一人の男が腰かけ、携帯端末を凝視していた。

 

 まだ日は沈んでいないが、この部屋は西日が差さないような間取りをしている。故に男の持つ携帯のバックライトが唯一の光源であり、怪しく明滅するソレは男の険しい表情を不定期に照らしていた。

 

『まぁいいでしょう。俺の立場の話はこれくらいで。何かこの件に関して質問はありますか? 大臣?』

 

『い、いや。君の立場は十分に把握できた。もう結構だ』

 

 男の持つ機器からは、とある審問会の様子が映し出されている。すでにこのシーンを見るのは4回目となるのだが、男は飽きることなくその映像を凝視していた。まるで宝くじの当選ナンバーを何度も確認するように。何故なら、万に一つの見逃しも許される状況ではないのだから。

 

『───じゃが、所属する部署を間違えてはおらんかのう?』

 

『いえ、私が居るべき場所は間違いなく、イギリス清教、必要悪の教会で合ってますよ。たしかに、その出会いは衝撃的でしたがね』

 

 柄にもないような下手なはったり。イギリスと学園都市の情報格差を理解した上で、どうにか上手く凌いでいる。もしもこの映像をイギリスを脱出する前に見ていれば、友人としてはまた違った印象を受けただろう。思わずクスリと笑ってしまうようなシーンもあったのかもしれない。

 

『私にも願いはあります。神秘に頼らなければ叶えられない願いが。神に縋ってでも、助けたい人がいるのです』

 

 この言葉が終わると共に、ゴトリという鈍い音が鳴り響いた。

 

『して、満足はしたるのかしら? この私をここまでこき使って、得られしモノがあったの?』

 

 明らかに音質が変わる。映像も切り替わり、男の持つ端末には金髪の修道女が映し出された。

 

「……文句を言うならもう少し通信手段を整備しておくんだな。せっかく映像を記録しても、他の端末で見れないようでは意味がない。これなら魔術的に記録しておいた方がまだ利便性がある。録画ファイルをそのままメールで添付されたときは頭が痛かったぞ」

 

 当然、そんなモノは開けなかった。拡張子の問題以前に、容量過多でそもそも添付すら出来ていないあり様だったのだ。だからと言ってこの機械音痴相手に、地球の裏側からパソコン教室を開催するのは流石にお断りだった。

 

 結局の所、テレビ電話機能を利用しパソコンの画面を見るという、まるで映画泥棒のような方法によって先ほどの映像は再生されていた。

 

『……それで?』

 

 電話の相手は、今更そんなことを蒸し返されても困る、という顔をしていた。それは男としても同じことだった。そんな問題にかまけているほど、こちらも暇ではない。

 

「……確認するが、魔術による検閲は全て白だったんだな? 木原統一の発言は───」

 

『間違いようもなくアレの発言は全て真実。そもそも虚偽が発覚した時点で、審問は中止になりけるのよ。何故そのような事を確認しけるのかしら?』

 

「ぬかせ。騎士派をけしかけてまでアイツの実力を測ろうとしたお前が、あの場で木原統一を幽閉させるわけがない。検閲にも裏で手を入れていたはずだ。大方、魔術自体を無効化でもしていたんじゃないのか?」

 

『……さて、どうかしらね』

 

 否定はなかった。だが事の真偽を確かめる術はなくとも、男はそれが真実だと確信していた。

 

『それ以前に、かの少年ならば自らの実力で以って、検閲魔術を退ける策を講じていた可能性もなきにしも有らずだと思うのだけれど?』

 

 そんな質問に男は少し黙り、そして結論を出した。

 

「……おそらくそれは無い。木原統一には、即興で魔術を扱う時に必ずルーンを起点に構築する癖がある。何か小細工をしていたとしたら、とっくに何か手がかりが見つかっているはずだ」

 

 根拠としては弱いかもしれない。だが誰よりも彼を観察していた魔術師はそう結論付けた。その答えに修道女もさしたる不満はないらしく、何も言わずに肩をすくめる。

 

 ……考えるべき事は別にある。あの映像において最も注目するべき、木原統一のあの発言。必要悪の教会への所属を疑問視された彼が本音で答えたあの言葉。それに全ての謎が凝縮されているような気配を、男は感じていた。

 

(神秘に頼らなければ叶わない願い。神に縋ってでも、助けたい者がいる……か。この発言も真実なら、奴は一体誰を助けようとしているんだ?)

 

 木原統一の性格は把握している。普段はポカンとしていて、学力という枠組みでの賢さ以外はごく普通の高校生だ。積極性、という言葉とは無縁。あまり人と進んで関わろうという気質では無かったが、ステイルとの一件を境にその性質は変わってしまった。大切な者を守るためには形振り構わずに、問題へ特攻していくような。ともすれば上条当麻のような一面が付加されつつあるのだ。

 

(カミやんと違うところは、その情報収集能力の高さ。そして……どこまでやるか、という程度の問題だな)

 

 惚れた女のために、学園都市最強の超能力者(レベル5)の殺害を試みたのはその最たる例だろう。後の暗部組織(アイテム)との抗争の際にも、木原統一は容赦なく魔術を行使していた。結局誰も死ぬ事はなかったが、殺傷能力の高いステイルの炎を振り回した結果としては奇跡に近い。あの場において、木原統一は間違いなく、敵を殺すつもりで魔術を振るっていたのだ。

 

 目的を果たすためなら、誰でも殺す。なりふり構わず、世界を敵に回すような馬鹿も平気でやる。木原統一とはそういう人間だ。

 

(だが、いくらステイルに殺されかけたとはいえ……ここまで歪んでしまうとはな。いや、俺がアイツの本質に気づいていなかっただけか? それとも他に何か、木原統一を変えるような出来事があった……?)

 

『……ところで。この私に連絡を入れ、この映像を届けさせたる時点で、お前の中ではほぼ結論が出ているのではなくて?』

 

 思考の海に沈んでいるところで、そんな言葉が耳に刺さる。痛いところを突かれた。確かに、現時点で結論は殆ど出きってしまっている。確率が100%にならないと言うだけで、これ以上の材料集めは完全に蛇足だ。一見して確証を集めようとしているが、この行動の源流はそうではない。

 

「……そう、単純な話じゃない」

 

 自分の推測を覆すような新事実を見つけたい。何かの間違いだと思い込みたい願望の表れ。らしくない、堕落した思考の果ての産物だった。

 

『いいえ、単純な話よ───土御門』

 

 かつての柔和な表情は何処にもない。その顔を見て、電話の向こう側の修道女、ローラ=スチュアートは微笑んだ。

 

『覚悟は決めたるようね』

 

「ああ」

 

 覚悟など、この仕事に就いた時から決めている。そしてそれ以降、守る者を得てからはより一層強固になった。敵が誰であろうと、家族の平穏を脅かす者は必ず排除する。この覚悟が揺らいだ事など一度たりともあるはずがない。

 

 ……だがもしも。目的を達成しつつも、更に悲劇を回避できる手段があるのなら。義妹と自分、家族という括りよりも広い枠組みをも守れる、壊さずに済む選択肢があるのなら。それを模索する事は、自身の覚悟とは矛盾しないと土御門は考えていた。

 

『では、これ以上の相談事はありけるのかしら?』

 

「お前の思惑が知りたい」

 

 間髪入れずに土御門は答えた。

 

「"迷うな"という、あの言葉の意味。もしも、俺の考える事以上の意味があるのなら……お前が何かを掴んでいるのなら、それを聞いておきたい」

 

『何も。むしろこの状態を避けるべきための言葉なりけるのよ』

 

 土御門は何も言わなかった。望んでいた言葉ではない。もしも、土御門の予測を覆してくれる存在がいるとしたら、それはこの女以外にはいなかったというのに。

 

『あの少年に関して結論を出せるとしたら、おそらくお前しかいないのよ土御門。それがどのような結果であれ、その選択こそが最善のはず。ただ……結論を出したのなら、迷いなく動かねばね。事が天使の絡む案件だけに、手遅れになってしまっては取り返しがつかざるのよ』

 

「それだけか」

 

『それだけよ……先ほど伝えた可能性の話も、私と女王の会談のオマケのような物。重要視するかはお前次第といふところね』

 

 思わず土御門は舌打ちをした。最大主教と英国女王の会談から出た意見に、オマケなどという値札を貼れる訳がない。八方塞がりな所にこの二人の意見が飛んでくるという事は、さっぱりわからないテスト問題に直面したところに、クラス一番の優等生の回答がチラリと目に付いてしまった状態に近い。いつ時間切れを宣告されてもおかしくない時であれば、誰しもがその答えを解答欄に記入するだろう。

 

 ローラ=スチュアートから告げられた可能性。何故木原統一は、学園都市統括理事長とイギリス清教最大主教の前で本物とも取れる予言をやらかしたのか、という謎に対する最終回答(ラストアンサー)

 

「歴史の再現。権力者へと予言を告げ、的中させ、そして退ける事で予言者は認められる。その工程を再現することで、人為的に聖人を作り出す……か」

 

 時代、場所を問わずしての、社会的に予言者が認められるための最低条件。常に王の側に侍り、助言をしていた歴史上の人物へと至るための道。それを魔術でもって舗装する事で、聖人へと変質する……それが、土御門が先ほどローラ=スチュアートに聞かされた『可能性』の話である。

 

 正気の沙汰ではない。4次元ポケットの理屈を小学生に説明は出来るが、その実現には一歩も進む事が出来ないのと同じ事だ。数学的な確率論とはまた違う、天から与えられる恵みこそが聖人。聖人の作成とは即ち、奇跡の模倣と言っても過言ではない。言葉にするのは容易いが、実際には不可能に近い難題である。

 

 だが───木原統一ならやりかねない。それと似た手法は、ウィンザー城で見せられてしまっている。あの騎士団長を打倒した方法論。原初の魔術にして、魔術師を不浄のモノとせしめる要因。

 

 即ち、伝承再現魔術。伝承を切り取り再現するのではなく、伝承そのものを完全に模倣する事で成立する最古の手法。一見して実現不可能なこの魔術だが……実現させるための材料は、神の使いを地に堕した事で揃ってしまった。天使を堕落させる事が出来る以上、その先があってもおかしくはない。

 

(……木原っちが何処までの完成度を求めるかが鍵だ。このまま天使を帰還させても精々が神裂レベル……十中八九、ヤツは実際に天使の存在を世界に知覚させ、災いを起こさせてから天使を天に還すだろう。クソったれな事に、それが最低条件になっちまってる以上、木原っちの企みを見過ごすわけにはいかない……)

 

 ゆっくりと、土御門は目を瞑った。結論は出ている。いや、正確には答えが出たわけではなく、自分が何をすべきかが。

 

「  」

 

 目を瞑ったまま、土御門はそう呟いた。悲劇の開幕を告げる忌々しい言葉を。その覚悟の重みを、今一度確かめるように。

 

『盲目のまま前に進みて、崖から落ちぬようにね。土御門』

 

 彼女の言葉に、土御門は自嘲気味に笑った。

 

「修道女の台詞ではないな、それは」

 

 ある程度盲目でなくては、信仰の道は開けない。見えないモノを信じるためには、見えない部分を許容する心が必要になる。原理、理論、因果関係。人はその中で説明のつかないモノを奇跡と呼ぶ。人間には及びのつかない何者かの存在は、理解を超えた現象でこそ観測できる。

 

『信じる者は救われる……ただしそれは、神意に限った話なのだけれど』

 

 神意を騙る者は存在する。ある意味で、土御門の所属する必要悪の教会はそれを一番よく知っている場所だ。神を冒涜し、迷える子羊を地獄へと誘う悪魔を狩る。それが彼らの役割なのだ。

 

 そして……神意を騙る。その代表的なモノと言えば。

 

「予言者か、詐欺師か」

 

『いずれにせよ、答えは明白につき』

 

「……土御門!」

 

 不意に、自分の名を呼ぶ声がした。はっとして顔を上げると、部屋の入り口には見慣れた隣人が立っている。

 

 上条当麻。右手に幻想殺しを宿す少年。予想外の訪問者に、土御門は思わず笑みを浮かべた。

 

「なんてこったい。よりにもよってカミやんが無事とは……いや、カミやんだからこそか? まったく、不幸にも程があるぜよ」

 

「不幸? 何を言ってるんだよお前……いや、違う。今はそれどころじゃないんだ土御門!」

 

 焦った顔で、こちらに問い掛ける上条はそのまま言葉を続ける……最も、土御門はその先の内容を知っているのだが。

 

「父さんや母さん……竜神や旅館の人まで。みんな夕食の最中に倒れちまったみたいなんだ。救急車を呼ぼうにも旅館の電話は繋がらないし───」

 

「ああ、救急車は必要ないにゃー。みんな、単に寝ているだけだぜい」

 

 土御門は得意気に懐から小瓶を取り出した。それを手の中で弄ぶように上条にチラつかせる。

 

「夕食の鍋にそっと一振り。これもスパイの嗜みだぜい」

 

「……は?」

 

 上条の思考が真っ白になる。家族が一斉に倒れた事でパニックになっていた思考が、一直線に冷え込んでいく。その嫌な冷気は、次第に頭からつま先へと、ゆっくり上条を覆い尽くしていった。

 

 それが犯行の自白であるという事に気づくまで数秒。そして、犯人の自白は続く。

 

「にしても、まさかカミやんが夕食を口にしてないとは想定外だったぜよ。"夕食の最中に倒れちまったみたい"って事は、そもそもカミやんはその場にいなかったってことかにゃー?」

 

 へらへらと笑う土御門に対して、上条は反射的に拳を握り締めた。コレはいつもの土御門元春ではない。表面上はその通りだが、言葉では説明できないようなどす黒いイメージが滲み出てしまっている。何か、彼の中で何かが壊れてしまって。それが漏れ出しているようなイメージだ。

 

「……ああ。夕食時になってもインデックスが戻ってこないから、俺だけで探しに行ってたんだ」

 

 上条自身も驚くほどに、その応答には感情が込められていなかった。未だ考えが纏まらず、何も考えられずにただ返事をしただけの。そんな声だった。

 

「おや、そいつは一大事ぜよ。つーことはインデックスも無事って事かにゃー。夕食に仕込めば確実にアレを無力化出来ると思ってたんだが。観客(オーディエンス)の排除なんざついでなのに、肝心の本命を見逃すとは」

 

 溜息をつきながら、土御門は上条当麻の後方、部屋の隅に目を向けた。

 

「これなら、そのクソ野郎をぶちのめした時に……ついでにやっときゃよかったぜい」

 

 ぞくり、と上条の背に怖気が走った。思わず一歩後ずさり、決して見てはいけないとわかっていても恐る恐る振り返ってしまう。だがはっきりとソレを視界に捉えたところで、上条にはソレが何なのかわからなかった。

 

 いいや、わからなかったのではない。上条の脳が、本能的に理解を拒否していた。

 

 あらゆる方向にひん曲がってしまっている物が、人の指だとわかり

 

 鼻につく鉄の匂いが、大量に流された血液だと理解して

 

 小さな風の音が、呼吸音である事に気づき

 

 だらりと大きく開けられたその口が、あごの骨を砕かれているのだと把握した時点で思わず、上条は自らの口を右手で覆った。

 

「う、げぇ」

 

 せり上がる吐き気をどうにか押さえ、上条はソレから目を逸らした。どういう経緯を経てアレが壊されたかは想像がつく。だがその一手一手は、決してまともな人間が思いつく手法ではない。思いついても、実行できない。子供が動物に対して残酷な事をしてしまうよりもなお悪い。子供がその痛みを想像できないからこそやってしまうのに対し、あの作品はおそらくその痛みを最大限生かした結果の産物だ。

 

 火野神作。上条が知るはずのない殺人鬼は、友人の手によって散々に破壊された後だった。

 

「いやー、カミやんには刺激が強すぎたかにゃー。なんとかして情報を吐かせようと頑張ってみたんだが、結果はこの様だ。んでもって、次の手を打とうと動いてみたらまたまた失敗……スパイも廃業するべきなのかもにゃー」

 

 そんな、死体よりもなお最悪な光景を。土御門元春はただ"失敗"と評した。完全に上条の理解を超えている。言葉は悪いが、完全にイカれている。先ほどの土御門の言葉が無かったら、上条は直ちに背中を向け一直線に逃げ出していただろう。

 

「い、インデックスを。ついでに、やるって言ったのか? アレの、あんなののついでに……?」

 

「ああ、そうだぜい」

 

 さも当たり前のように土御門はそう答えた。それだけで、上条の身体に力が戻る。恐怖ですくんだ足に、確かな感覚が帰ってくる。そんな上条を楽しそうな目で見て、土御門は続く言葉を口にした。

 

「木原統一。あの野郎を仕留めるための、メンドクセエ下ごしらえってやつだ」

 

 その言葉が引き金だった。拳を握り締め、床を蹴り、上条はただ真っ直ぐに友人だったモノに肉薄する。

 

「つ、ち、みかどォォおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

 一方で、土御門はただただ笑いながら。歌うようにこんな一言を残した。

 

「いいぜ、カミやん。心の準備(ウォーミングアップ)には不足無しだ」

 

 軋む心を押さえつける。罪悪感を義務感で上書きする。その儀式の相手に、これほど相応しい相手はいないだろう。

 

 直後に、一閃。走りこんで来た上条の身体を押しやるように、土御門は右足を上条のどてっ腹にぶち込んだ。

 

「ごっ!?」

 

 ふすまをぶち破り、上条は廊下へと吹き飛ばされる。そんな上条を見やりながら、土御門は初めて上条に対し、重苦しいドスの利いた声を発した。

 

「悪いが、俺は手負いだ。手加減は出来ないから覚悟しろ( 、 、 、 、)

 

 薄暗い闇の中。凶兆を運ぶ金色の獣は、揺れるように上条へと襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「問一をもう一度……術者は貴方か?」

 

 再度その声が投げかけられた時、俺はようやく我に返った。全身を突き刺すような殺意が、無機質なはずの神の力(ガブリエル)の声にこれでもかと込められている。街角での聞き込みではなく、取り調べ室での尋問のような雰囲気。答えが返ってくる前から、ある程度の確信をもっている様子である。

 

(その質問はたしか、原作で上条当麻にされる質問だったはず……それが何で俺なんかに? それも、完全に俺だと決め付けて……?)

 

 とは言っても、心当たりと言えば一つしかない。俺に起きている異常、つまり御使堕しの効果に一切巻き込まれていない事だ。

 

(冗談じゃない。自分でさえよくわかってないこの状態を責められたって何も言えねえぞ。と言うか、ミーシャから見て俺はどんな立場に見えるってんだ?)

 

 入れ替わりに巻き込まれていない、というだけならそれは横に居る神裂も同様のはず。だが明らかに彼女の視線は俺に向き続けている。つまりそれ以外の動機がミーシャにはあるらしい。木原統一を御使堕し(エンゼルフォール)の術者と錯覚してしまうような何か……その正体がわからない限り、言い訳も誤魔化しもしようがない。

 

「私達はイギリス清教、必要悪の教会(ネセサリウス)所属の魔術師です。貴方がこの魔術を止めに来た魔術師であるのなら、我々は敵ではありません」

 

 簡潔に、神裂はこちらの意志を示した。だがミーシャの殺気は消えることなくこちらを捉え続けている。

 

「問一を保留……第二の質問ですが、手がかりは?」

 

「……今の所は何も」

 

 答えを聞くと、ミーシャは再び俺に視線を戻した。手がかりならここに在るではないか、とでも言いたげな表情……否、表情と言うより雰囲気である。俺の目にはどう見てもマネキンにしか見えないのでその表情を窺い知ることは出来ない。

 

 一瞬の空白。その後変化は突然訪れた。突如として、刺すような痛みが俺の頭を駆け巡ったのだ。痛覚が平衡感覚にまで影響を及ぼし、思わず膝を突く。頭を右手で抱えながらも、どうにかミーシャからは目を逸らさないようにと顔を上げた。

 

(な、なん……だコレ? 魔術?……いや、そんな予兆はまったく……ミーシャの、仕業か……?)

 

 この場において、こんなモノを仕掛けてくるのはミーシャしかいないはずだ。だが予想に反してミーシャには変化は見られない。無動作(ノーモーション)でこんな攻撃を仕掛けることが可能なのかと訝しむ所に、次の変化が訪れた。

 

『私見一。素養はあるが、未だその資格がないのか』

 

 ミーシャの声が鳴り響く。聴覚ではなく、直接頭に声を叩き込まれたような感覚だ。なにやら神裂がこちらを心配して話しかけてくるのだが、頭痛が酷過ぎて上手く聞き取れない。

 

『主の代弁者としては相応しくない。だがこの時代においては稀有な存在であるのも確か……己の罪を悔い、今一度贖罪の道を歩め、人の子よ』

 

 その時、神裂はミーシャが腰のサーベルを抜きながら、ゆっくりとこちらに歩み始めたのを見た。

 

 その時、木原統一はミーシャが天井に頭を擦りながら、地面を滑る様に迫ってくる姿を見た。

 

『……問三、御使堕しの儀式場。その場所は?』

 

「……し、知らない」

 

 その違和感に気づいたのは、迂闊にもそう答えた後の出来事であった。質問と一緒に、何かが心の中に投げ込まれたかのような感覚。たった今口を衝いて出た言葉には、その投げ込まれた何かが宿っているような気がしたのだ。そしてその正体に木原統一は瞬時に当たりを付け、そして絶望した。

 

 例えるなら、イルカやコウモリが超音波の反響を利用して、周囲の地形を把握するように。今の天使の言葉には、こちらの心の形を測るかのような意図を感じた。もしも、それが、まさか───?

 

(……天使の、魔術? 思考を……いや、嘘を……暴く術式?)

 

 『神の力(ガブリエル)』は伝令の御使い。言葉を操る大天使が、真偽を判別する術式を携えている可能性を、俺はすっかり失念していた。たとえ原作で用いられずとも、その存在が無いとは言い切れないのだ。

 

(そ、そんな事出来るわけが……いや、でも)

 

 相手は天使、人間の常識が通用する相手ではない。人間をガソリンで動く乗用車に例えるならば、天使はさしずめ子供が好き勝手に描いたヒーロー専用のマシンにも等しい。道路交通法どころか地球上のあらゆる法則をもぶち破る存在に、可能不可能の概念を定義出来るわけがない。

 

 やがて、ああだこうだと理屈を捻っている最中に、無情にも答え合わせの時間がやって来てしまった。

 

「虚偽の色を確認」

 

 ぞわり、と。悪寒が背中を走り抜ける。今まさにこちらが危惧していた存在の、その証明が為されてしまった。

 

 向けられていた敵意の形が変わる。明確に、取り返しのつかない領域へと。この感覚は覚えがある。これは丁度、ウィンザー城で騎士団長が最初に剣を抜いた時の───

 

「────p失望ld」

 

 ミーシャがゆっくりとこちらに腕を伸ばす。パキリ、という音と共に、ミーシャの方の上辺りに手の平程の氷の槍が形成された。

 

 そしてそれが何を意味するのかを、木原統一が理解する前に。

 

 音も無く。恐るべき速度で凶器が発射された。反応なんて出来るはずもない。直撃すれば、まず確実に絶命するであろう一撃。だが───

 

 ガギン、という金属音が鳴り響く。木原統一の顔面に風穴を開けるはずだった槍は粉々に砕け散り、彼の横に侍る浴衣姿の女性は、気が付けば刀を抜いていた。

 

「念のために聞きますが……木原統一。彼女は、貴方の知り合いか何かですか?」

 

「───え?」

 

 今この瞬間に殺されかけたという事実に数秒かかった。その事実に戦慄しながらも、今度は神裂の言葉の意味がわからない。そんな木原の状態を察してか、神裂は言葉を続けた。

 

「いえ、個人的な恨みでも買っているのでしたら……このような所業もまだ一考の余地はあります。貴方の能力を知っていて、且つ御使堕しの影響を免れた魔術師なら。この悪ふざけも許容の範囲内と言えるかもしれません……ですがそうでないのなら───」

 

 刀を構え直し、神裂は冷たく言い放った。

 

「少々……灸を据える必要がありそうです」

 

 そんな神裂の言葉に、ミーシャは目を細めた。無機質な表情からは何が読み取れるわけでもないが、なんとなく彼女が機嫌を損ねたらしい事はわかる。

 

(嘘だろオイ、こんなところで戦闘が始まっちまったら、この旅館は……いや、下手すれば地球丸ごと黒焦げになっちまう。上条の実家まで最短で向かっても、絶対に間に合わねえ)

 

「だ、ダメだ神裂。コイツとは……」

 

 戦ってはいけない、と言おうとして硬直した。ミーシャが明らかにこちらを殺しに来ている以上、この言葉は何ら意味を持たない。この怪物相手ではたとえ地球の裏側に逃げたところで意味を成さないだろう。

 

(ミーシャを止める当てはない……って事はつまり……地球をぶち壊される前に、術式を止めるしかない……?)

 

 もはや選択肢はない。この状況を打破するためには、最後の手段へ最速で到達するしか生き残る方法はない。その手段を想像した所で、俺は思わず呻き声を上げそうになった。術者である上条刀夜を殺すのは論外。儀式場さえ破壊すれば、ミーシャ=クロイツェフは元の位相へと帰還する。だが肝心の儀式場は、急いでもここから数時間掛かる上条家だ。1時間あれば、ミーシャは地球を2~3回は火の海に出来る。つまり残された方法は……

 

(土御門の遠距離砲撃魔術(赤 ノ 式)しかない。アイツに頼んで儀式場をぶち壊してもらうしか……土御門の体調を考えれば、用意はともかく実際に撃つのは俺……いや、その前に)

 

 未知の魔術の照準を任されるという不安がチラついたがそれ以前に、何の脈絡もなく上条家を砲撃して欲しいという要求(オーダー)を、どうアイツに飲み込んで貰うかが難問だ。どう転んでも不審な顔をされる気がするが……儀式場を俺が突き止めた事にするしかないな。天使を確認した事でその痕跡を辿ったとか、適当に誤魔化すしか方法はない。

 

(……だけど、それには)

 

 土御門の下へ向かうにはまず、ミーシャを足止めする必要がある。それが可能なのは今この場において神裂しかいないだろう。だが神裂は未だ、ミーシャの正体に気づいていない。相手が只の魔術師である、という心積もりで戦闘に望むのは危険だ。いや、天使の足止めなどという役割を任せること自体、十分危険ではあるのだが。

 

(……今回は俺だけの都合じゃない。騎士団長の時と違って、人類が滅ぶかもしれない瀬戸際だからな……だとしても。神裂に天使を押し付けちまうっていうクソったれな条件は百歩譲っても、それをノーヒントで見て見ぬ振りなんざダメに決まってる)

 

 目の前の魔術師が、実は天使であるという事実。それを知るまでの過程を一から説明するような暇は無い。つまり───

 

「神裂、頼みがある」

 

 声を掛けられた神裂は動かなかった。その眼差しは全力でミーシャへと向けられている。ただほんの少し顔を動かす事で、こちらの問い掛けに応答した。

 

「俺を……信じてくれるか?」

 

 結論を述べて、それを信じて貰うしかない。たとえどんなに怪しまれようとも。ここ数日で得たなけなしの信頼を、飛行機の中で感じた僅かな友情を犠牲にしてでも。

 

「……愚問ですね。貴方は私を信じてはくれないのですか?」

 

 ……信じているさ。親父が死にかけた時も、駆動鎧の群れに追われていた時も、騎士派に殺されかけた時だって、お前は俺を救ってくれた。そんな命の恩人を、信用しないヤツがいるはずがない。

 

「インデックスの……私の親友を救ってくれたとき。私は貴方に酷い事をしてしまった」

 

 ぽつり、と神裂はそう呟いた。

 

「あれから色々と、土御門と話し合いました。インデックスを取り巻く環境について、知るはずのない事を貴方は何故か知っていた。出所の分からない未知の情報源、その背後にいる者は想像がつかない。故に貴方が信用に値しない魔術師である、疑いを持った私の判断は正しいと、そう土御門は言っていたのです。……あの一撃に、私が負い目を感じる事はないのだと」

 

 そんな土御門の見解に、異論を挟む余地など無い。あの段階で、俺は学園都市側の怪しい奴でしかなかった。冷静に考えて、あんなタイミングで魔術を使おうとする奴がいたら誰だって止めるだろう。

 

「……その通りだ。アレはどう考えても俺の落ち度だよ。神裂が気にすることじゃ───」

 

「ですが貴方は、インデックスを救った」

 

 俺の言葉を遮るように、神裂はそう続けた。

 

「貴方と、貴方の父親は散々な目に遭ったと言うのに。自ら進んで、また私達の前に姿を現して、危険を冒してまで私達を救ってくれた。そしてあの時……インデックスの首輪が破壊された瞬間の魔術は、上条当麻を救うためであったとも聞いています」

 

 そう言って、神裂はこちらを振り返った。わざわざミーシャから目を離して、こちらに微笑みかけたのだ。

 

「貴方はインデックスを救い、私やステイルを地獄の底から救い上げてくれた。貴方を信じるのに、これ以上の理由は要りません」

 

 言葉が出なかった。神裂から、これ程までに絶対の信頼を勝ち得ているとは思ってもみなかった。人死にを嫌い、敵でさえ情けを掛けてしまう彼女だからこそ、ウィンザー城でも味方になってくれたのだと、俺は本気で考えていた。だが実際には、彼女の刃の矛先は、単なる善意の枠を越えた先にあったのだ。俺が想像していたよりもずっと前から、彼女は木原統一を受け入れてくれていた。

 

「さぁ、指示を下さい木原統一。私は貴方に従います……ですが、ウィンザー城の時のように。また自らを危険に晒すような手段を取るのなら。騎士団長同様に本気で殴りますのでそのおつもりで」

 

 ……信頼に応えなくてはならない。御使堕しを一刻も早く終結させる。そのために必要な事を伝えるのに、俺が躊躇するような事はあってはいけないのだ。

 

「……目の前にいる女は魔術師じゃない」

 

「どういう意味です?」

 

「言った通りの意味だよ。そもそもアレは人間じゃない。このふざけた魔術の最大の被害者で、『見た目』と『中身』の入れ替わり現象の元凶でもある」

 

 それを聞いて神裂は息を呑んだ。無理もない、立ち塞がる問題のスケールが、一回りも二回りも大きくなったのだ。

 

「……儀式場の場所は見当がついてる。だけど距離が開き過ぎてて、破壊するには土御門の助けが必要なんだ。だから───」

 

「私の役目はアレの足止め……という事ですか」

 

 何故儀式場の位置を知っているのか、という質問は飛んでこなかった。一切の疑問を持たずに、神裂は俺という人間の言葉を信用してくれている。

 

「……無茶な頼みなのは百も承知だ。だけど、こんな事を頼めるのはお前しかいない」

 

 一度言葉を切る。そして今再び、その願いを口にした。

 

「神裂、頼む」

 

「ええ、行って下さい。木原統一」

 

 その一言を聞き届けた瞬間。俺は廊下を飛び降りる。履物(スリッパ)を何処かへと放り捨て、靴下で地を蹴り、直線コースで『わだつみ』の本館へと駆け出した。

 

「bauo攻grln撃Jjyhb」

 

 俺の動きを追うように、ミーシャは右手を前に突き出した。振り返ると、無数の氷柱がミーシャの周辺に出現しているのが目に入る。ある程度距離が離れているとはいえ、アレを全て外すとは考えにくい。一瞬、『魔女狩りの王』を展開するべきかと考え、そして俺は頭を振ってその思考を追い出した。

 

(馬鹿野郎が。余計な心配なんざしてんじゃねえぞ木原統一。誰に背中を預けていると思ってやがるんだ、まったく)

 

 迷いなく、目線を切る。耳に入る風斬り音が、明確な死を連想させる。そして───

 

「────救われぬ者に救いの手を(S a l v e r e 0 0 0)!!」

 

 一本たりとも、氷柱がこちらに飛んでくることは無かった。そんな彼女の声に後押しされて、俺は旅館へと全力で駆けて行く。

 

 

 

 

「……あれは、すている?」

 

 そして。その光景を見つけた少女が一人、『わだつみ』の屋上に佇んでいた。莫大な『天使の力』を感じ取り、一旦木原統一の結界の外に出ようと彼女はここに至った。世界でも5指には入るであろう魔術のエキスパート。その目には、凄まじい速度で動き回る炎の魔術師という、信じられないモノが映りこんでいた。

 

 理屈に合わない。あそこにいるのは、ステイル=マグヌスではない。自分の記憶は1年以上前には遡れないのだが、少なくとも1年分の、あの魔術師に追いかけられた記憶は持ち合わせている。用いられている術式がステイルのそれではないことくらいは一目瞭然だ。その上、如何なる理屈で彼があの速度で動いているのかもわからない。

 

 ……目に映る光景の矛盾。まるで核燃料で豆電球が光ってしまっているような違和感。自らの魔術知識に疑いの余地はない。ならば歪められているのはその光景そのもの。10万3000冊の魔道書の知識でもって、インデックスはその矛盾を徹底的に洗い出す。

 

 材料はある。あれだけの速度で動いていれば、通常の人間なら爆死してもおかしくはない。それがないのは、魔術でもってその『弊害』を除去しているからだ。まるで化学変化からその物質を特定するかのように。その用いられている術式から、魔術的な流派、体格、年齢、そして性別さえも。彼女の頭脳は、その全ての逆算を可能とする。

 

(……女の人。用いられているのは隠れキシリタン、天草式十字凄教の術式をベースにしてる。聖人の力を運用するためのノウハウは、呼吸による気の運用を流用して……?)

 

 そこまで思考して、彼女はその正体に思い当たった。

 

「……かおり?」

 

 浮かび上がる輪郭(シルエット)は記憶を失う前の友人だった。ステイルと同じく、1年間自分を追い回していた魔術師である。かつて木原統一によって引き合わされた、自分のために心を痛めてくれた親友の形。そう当たりをつけた瞬間、全ての謎が氷解する。あれは間違いなく神裂火織だ。そして、その相手は―――思考するまでもない。この身に宿る知識の前では、アレの正体など推論するにも値しない。

 

(ダメ、アレには絶対に、かおりは勝てない───!)

 

 友達を救うために。10万3000冊の呪縛を背負う少女、インデックスは立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「土御門、いるか!?」

 

 全力で廊下を走りこみ、土御門が寝ているはずの部屋の前まで辿り着いた。流石に呼吸が苦しいがそうも言ってられない。何故かふすまが廊下まで吹き飛んでいるのを確認し、部屋には入らず廊下から呼びかけてみるも、返事は無かった。

 

(畜生、何処にいったんだ? というか、何でふすまが?……もしかして、俺の『魔女狩りの王(イノケンティウス)』が作動したのはここか? ……クソ、何処で出現したかくらい把握出来る機構を付けるべきだった!)

 

 部屋の中へと足を踏み入れようとした瞬間。ガタリ、と遠くの方で物音が聞こえた。その音で、目の前の空っぽの部屋を後にし、物音のする方へと足を進める。

 

 ───幸いにも。その部屋に置いてあった土御門の『作品』を、『木原統一』が目にすることは無かった。だけど、それが両者の関係性を表すのに相応しい構図だったのかもしれない。

 

(上条の家族がいる部屋……でもないな。俺たち以外に客はいないはずだけど……いかんいかん。深く考えてる場合じゃない。一秒でも早く御使堕しを止めないと)

 

 まだ息も整っていない中、小走りで音のした部屋の前まで辿り着いた。躊躇なくふすまをこじ開けると、そこにいたのは……

 

「上条!?」

 

 ───表面上では、理解できているつもりなのかもしれない。だが、その本質、その苦悩には、一片たりとも目を向けたことはない。ずけずけと懐に入り、甘い汁を吸っておいて、苦い部分には気づかない。それが『木原統一』と土御門元春の関係性だ。

 

 部屋の隅にもたれかかる様に、上条は座り込んでいた。ぐったりと脱力しきった様子で、俺の呼びかけに応える気配はない。

 

 そして。そんな上条に駆け寄ろうと部屋に入ったところで、もう一人の住人を視界に捉えた。

 

 ───だから。これは本来、『木原統一』が見えているべき結末だった。その良心を信用しきった結果。その代償。『木原統一』には見えていなかったが、これは間違いなく正義そのもの。全てを知ったつもりの愚か者が、無知の罪によって裁かれる。ただそれだけの物語。

 

「土御門!? よかった、実は……いや、その前に何で上条が───え?」

 

 

 

 

 

 

 意外そうな顔が目に付いた。まるで予期していなかったと、こちらの覚悟をぶち壊すような表情。だが、止まる気など毛頭ない。ここで前に踏み出すために、俺はこの言葉をこの身に刻んだのだから。

 

 どんな卑怯な手を使っても。誰を裏切ってでも目的を果たす。

 

 心を殺し、この身は唯の刃となる。

 

 たとえそれが、自らが信じ、自らを信じる……背中を預け合うような友だとしても。

 

 

「───背中刺す刃(F a l l e r e 8 2 5)

 

 ───これは、誰にでも訪れる友情の終わり。

 

 魔法名(殺し名)と共に、凶弾を放つ乾いた音が鳴り響く。

 

 大量に撃ち込まれる鉛弾が、その終焉を告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 







 

 
 


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