とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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 久しぶりの投稿です。お待ちしていた方には(もしいればですが……)ごめんなさい。


・いつも通りの茶番です。
・原作的には5巻の時系列となります。
・やはり女の子を描くのは難しい(特に御坂さん)
・なよっとした上条さんが苦手な方は注意が必要です。
・超見直したはずですが、誤字などありましたら超すいません(前歴がありすぎる)





 そして本編とはまったく関係ないですがとりあえず一言。

 禁書3期ヤッター!











第5章 獣の法
067 全ての男女は星である 『8月31日』


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……不幸だ」

 

 とあるスーパーにて買い物を済ませ、横断歩道で信号待ちをしていた高校生。上条当麻はそう呟いた。

 

 時刻は午後2時過ぎ。普段の上条であればこんな時間帯の買い物はご法度である。夕方の特売に焦点を合わせ、自宅に待機しているのが本来のルーティンであるのだが……一身上の都合により、家に居づらさを感じた上条は無計画にも外へと飛び出し、特にやる事もなく気がついたら買い物を済ませてしまったというのが実情である。

 

(いつもと時間帯は違うはずなんだけどなー……畜生、何でお嬢様のアイツがこんな寂れた商店街にいるんだ?)

 

 買い物の半数は食材だ。すぐに傷むという事は無いだろうが、この暑さを鑑みれば長居は無用だろう。そんな事を考えていた矢先、上条が漠然と眺めていた道路の反対側にとある知り合いの姿があった。

 

 常盤台の制服に身を包んだ少女、御坂美琴。学園都市に存在する超能力者(レベル5)の第3位、超電磁砲(レールガン)の異名を持つ電撃ビリビリ娘である。上条と向い合せになるように信号待ちをしている彼女は、熱心に携帯電話の画面を凝視していた。見たところまだ上条には気づいていないようだが、それも時間の問題だろう。

 

(このままやり過ごすのは……無理か。この状況で襲い掛かってこられたら、最悪この食材達を失いかねない。即刻退散……でももし向こうが俺に気づいているとしたら「何で逃げるのよ!?」ってな感じで問答無用電撃ビリビリコースな気がする!)

 

 この間、わずか1秒弱。生命と家計の危機をトリガーに、上条の頭脳は大回転を開始する。

 

(……スーパーに戻ろう。流石にアイツも店の中では暴れないはず……暴れないよな? そういやこの前は病院ですらビリビリしていたような?)

 

 知り合いを露骨に避けて通るというのはあまりよろしくない選択肢かもしれない、くらいの考えはある。だが特売ではない高級新鮮食材(上条家調べ)の命と、なけなしの優しさ的な何かを天秤にかけた結果、天秤の芯は見事にへし折れてしまった。そのついでに『思いやり』とやらは都合よく目に見えない領域へと転がっていき、やれ幸いと上条は横断歩道に背を向けスーパーへと逆走を開始する。

 

(別にビリビリの事が嫌いってわけじゃねえんだけどなぁ。まったく、なんでいつもいつも出会い頭に電撃を飛ばしてくるんだか……)

 

 その答えを、この『上条当麻』は知らない。心当たりがないという事ではなく、思い出すことができない。とある事情により上条当麻は記憶を失っているのだ。具体的には今年の7月25日より以前の思い出が、脳細胞ごと破壊されている。御坂美琴に限らず、周囲の人間との関係性は一切不明。更にその事実を隠したままに、上条当麻は日常を過ごしていた。

 

(……記憶を失う前の俺なら、こういう時どうしたんだろうな)

 

 始まりはインデックスの悲しい表情だった。悲しませないように嘘をついた。彼女が笑ってくれるなら、それで何の問題もないはずだと。記憶を失ったからと言って、人が変わったわけではないのだからと。そう思って納得して、前に進んできたというのに。

 

『初めまして上条当麻。クラスメートで、お前の寮の部屋の隣に住んでる。木原統一だ。よろしくな』

 

 上条当麻の記憶喪失を知る数少ない人物。この苦悩に同情し、助けてくれていた友人がいた。今にして思えば、彼という理解者がいたからこそ自分はここまで開き直れたのだろう。インデックスを騙し続ける共犯者がいてくれた事、それ自体が救いだったのだ。

 

『お前も、上条も……布束も。みんなを騙し続けてきた』

 

 だがそんな幻想は、つい先日粉々に打ち砕かれる。彼もまた上条と同じく周囲を騙していたのだ。それも上条とは違い、彼は真に誰にも打ち明けることはなく。理解者だと思っていた友人は自分以上のペテン師で、自分と同じ闇の中を彷徨っていた。そんな彼へと告げられた審判の声は、今でも上条の胸の奥深くに突き刺さっている。

 

『他の奴らがどう思うかは、わからないがな』

 

 こうして、暗い罪科の道のりに上条当麻はたった一人で取り残されてしまった。自分の選択を、インデックスを悲しませないという覚悟を肯定してくれた言葉は遥か遠く。状況は何も変わってはいないというのに、彼女と笑いあっていた日常が、もう何年も昔のような事の気がしてならない。

 

「……何やってんだ、俺」

 

 辿り着いたスーパーの入り口近くで、上条は足を止めた。自分の情けなさに思わず出た言葉だった。

 

(問題は進むか留まるかの2択……こんなどっちつかずな状態じゃ、無駄にインデックスの不安を煽るだけだ。木原は……いや、土御門だって。あいつらはあいつらなりに折り合いをつけてるはずなんだ。俺だけがここで立ち止まっていい理由なんざどこにもねえじゃねえか!)

 

 答えは出ない。だがたとえ何を選ぼうが、その過程で彼女を悲しませていては本末転倒であると。上条はそう結論付けた。この先どうすればいいかは知らない。それでも、今この瞬間だけは。インデックスを悲しませない努力をすることは間違いじゃないはずだ、と。

 

 問題の本質はそこではないと自覚しつつも、その気づきを心の奥に大事に隠して。吹っ切れた上条は手元の買い物袋の中身を眺め、無意識に買い物かごへと放り込んだ食材達で本日の献立を組み立てていく。

 

(あーあ、完全にうわの空で買い物してたせいか袋の中身が適当過ぎる……ま、せっかく色々と買ったんだし。開き直って夕飯は豪勢にいくか。というか、定価で買った食材を料理もせずにそのまま食われちまうのはもったいないし)

 

「まよねーずさえあればなんでもいけるんだよ!」という可愛らしくも残酷な白い悪魔の声が、上条当麻の脳内に響き渡る。目を離せば生肉以外は大抵やられると考えたほうがいい。どうせ食われるなら美味しく調理してからのほうがいいに決まっているのだ。

 

 で、あれば。調理中の食材を守るための生け贄(スケープゴート)もあったほうがいいだろう。そんな事を考えていると、スーパーの前に止まっている屋台が目についた。屋根には大きな鯛が描かれた看板が掲げられている。

 

(たいやきか……夏にたいやきってどうなんだろうか。まぁインデックスなら喜んで食べるだろうけども)

 

 飼い猫(スフィンクス)に与えないように見張っていれば大丈夫だろう。そんな事を考えながら甘い匂いに釣られるように、上条はたいやきの屋台へと足を延ばした。

 

 そして、そこには。

 

「あら、貴方は……」

 

「…………?」

 

 ウェーブのかかった髪に、少々眠そうな目つき。なにやらフリフリとした飾りのついた、黒を基調としたドレスのような服を身に纏った女性がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア、アイツ……何で買い物袋引っ提げてあんなに速いのよ」

 

 上条当麻がボーイミーツガールを果たしている中。息を切らした御坂美琴はとあるスーパーの裏手で途方に暮れていた。 ツンツン頭の少年がとぼとぼと歩いているのを見かけ、声をかけようかいやでもだってという乙女的逡巡をしていたのもつかの間。思いの外速かった彼の足取りに翻弄され、最後には全力疾走を敢行したのにも関わらず見失ってしまったのである。

 

(一体何処に行ったんだか。このスーパーの中? でも買い物は済ませてたみたいだし……やっぱりこっちには来てない?)

 

 もうとっくに家路に着いたのだろうかと御坂は軽くため息をついた。実際には上条の家は正反対、辿ってきたルートはちょうど逆走であるのだが、上条の住む学生寮を知らない彼女には知る由もない。諦めの感情が御坂の心の大部分を占めたところで「そもそも何故自分は残念がっているのだろうか?」という問いが、御坂の思考を一瞬停止させた。

 

(が、がっかりなんかしてないわよ! ちょっと用事が……頼みたいことがあったってだけで、別にアイツと話したかったとかそういうわけじゃ……!)

 

 そんなこんなで、顔を赤く染め首を猛然と振りながら火花をぶちまける静電気擬人化マスコットの爆誕である。幸いにも場所はスーパーの裏手、駐輪スペースの一角であったため人気は少なかった。だが買い物客がペットを繋いでおくための専用ポールも併設されていたために、主人の帰りを待つ番犬たちが、びくびくと火花の中心点からなるべく遠ざかろうとざわつき始めている。

 

 『ほ、吠えないっすよ? これしきの事では吠えないっすからね!? でももうやめてくれてもいいかなーって……』というワンちゃんズの願いも虚しく、御坂の思考の混迷はなかなか収まらない。そんな中───

 

「おい、そこのビリビリ中学生。なんだかよくわからんがとりあえず落ち着け。じゃないと……みんなの迷惑だろうが」

 

 そんな声にはっとし、御坂はぎゅっと瞑っていた(まぶた)をあけた。『ビリビリ中学生』という、件のツンツン頭によって付けられた不名誉な呼び名。それをよりにもよってこのタイミングで上条ではない第3者から呼ばれ、苛つきながら御坂は顔を向ける。

 

「……アンタ、こんなとこで何やってるのよ」

 

「見ての通り、買い物してるツレを待っているところだが?」

 

 その人物の名を御坂美琴は知っていた。かつて、学園都市最強に勝負を挑んだ猛者。それもほぼ引き分けに持ち込み、最近では暫定的に超能力者(レベル5)の末席にまで滑り込んだ男。そこまで親しい間柄ではないものの、彼女が一目置く数少ない人物。

 

 木原統一。そんな彼が、当たり前のように御坂美琴に話しかけていた。

 

 

 ……ペット用のポールに、首輪を繋がれた状態で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと……?」

 

「……well、初対面ではないのだけれど、場所が場所だったものね。because、まぁその反応が正常と言えるかしら。それでも、異性の記憶に残らない自分のステータスを実感させられるのは、あまり気のいい話ではないのだけれど」

 

 目の前の女の子に初対面ではないと告げられ、上条は一瞬身構えた。記憶喪失を隠している身としては、これほどドキリとする言葉もないだろう。なんとなくまごまごとした雰囲気の上条に対し、彼女は少々悲しげに言葉を継いだ。

 

「布束砥信よ。統一君の病室の前で会ってたと思うのだけれど……恥ずかしいから、あの時の事はあまり思いださないでくれるとありがたいわ」

 

 思考することおよそ3秒。制服の上に白衣を纏い、泣きながら走り去ったヒロイン風少女と、ゴスロリ系ドレスでたい焼きを買いに来ている不思議ちゃんの姿が、ようやく上条の脳内で一致した。

 

「ってわかるか!! なんか思い出さない方が悪いみたいな空気出してるけど、あんなシリアスムードですれ違った悲劇のヒロインとたい焼きゴスロリが一瞬で一致するほど、上条さんの記憶の本棚はそこまで乱雑に放り込まれていないっつーの!!」

 

 と上条が言い切ったところで、布束の動きがピクリと止まった。正確には止まったと言うより、何かを押し留めたという方が正しいかもしれない。そんな少女の挙動を見て、上条の頭には疑問符が浮かんでいた。

 

「長幼の序は、とも思ったけど……whereas、危なく浮気をしてしまうところだったわ」

 

「浮気? ……なんだかわけわからん事言い出しやがったなこのゴスロリ。念のため聞くけど、一体上条さんが何をしたって?」

 

「貴方じゃなくて私なのだけれどね。indeed、ハイキックを少々」

 

「どうしよう聞いても理解できない!」

 

 上条が頭を抱えたところでたい焼き屋の列は前進。まるで何事もなかったかのように財布を取り出し、布束はたい焼きを購入していく。

 

「さて、そこの……誰だったかしら」

 

「……上条当麻、です」

 

「そう。上条君、貴方の番よ」

 

 なんとも解せない流れではあるが、このまま屋台のおじさんを困らせるのは忍びない。ハイキック未遂犯に促されるままに、上条もたい焼きを4つ購入した。1つくらいは食べれるといいなぁとか、そんな益体もない事を考えながら振り返ると、例の黒い彼女は空をぼんやりと見上げつつ、何かブツブツと呟いている。

 

「上条……そういえば統一君のお隣も、そんな名前だったわね。もしかしなくても、隣人さんという事でいいのかしら?」

 

「ああ、まぁそうだな。なんだかんだで結構仲はいいほう……」

 

 と、ここまで考えて。上条の頭に1つの疑問が浮かんできた。

 

(あれ、そういやこの人と木原ってどんな関係なんだっけ? ちょっと前に木原がフラれたとかなんとか土御門妹が言ってたような? 木原も否定はしてなかったし、間違いではないはずだよな。でも病室に見舞いに来てるって事は、実はそこまで仲は悪くなくて……いや、というかそれよりも。病院でこの人は泣いて走り去って、それを木原は知らなくて!?)

 

 記憶喪失(のようなもの)がバレた友人の、友達以上恋人未満みたいな女性。そんな微妙な距離感の、実はとってもデリケートな人物なんじゃないかと思い当たった瞬間、上条の顔にどっと冷や汗が浮かび上がる。

 

(しかも浮気がどうとか言ってやがったよな? なんだか複雑な人間関係の匂いしかしないんですけど!? 畜生、そういうドロドロしたやつは上条さん家ではなく、もう一つお隣のメイドさん宛の案件だろうが!!)

 

 ドラム型掃除機の上に乗り、くるくると回りながら義理と愛情に塗れたメイドの姿が、上条の頭をスライド移動で横切っていく。実際には昨日既にお届け済みであり、それも血塗れな方向でドロドロであるのだが……当然というか、上条には知る由もない。

 

「そう。だったら1つ、お願いがあるのだけれど。あの時、あの場所で。彼の抱えた事情を聞いた貴方に」

 

「な、なんでせうか? 一言言っておくと、上条さんにはあまり期待はしないほうがいいですのことよ!?」

 

「別に、そこまで大層な事ではないわ。その……」

 

 そこで一旦言葉を区切り、そっと壊れ物を扱うように、彼女はこんな言葉を口にした。

 

「彼を……許してあげて」

 

「……へ?」

 

 上条の思考が止まった。思いもよらない言葉に、自分でも間抜けだなと思うような声が出てしまう。

 

「記憶喪失……いいえ、彼が言うには自分は別人という事らしいのだけれど。それを黙って、騙していた事に、彼は酷く罪悪感を抱いていたわ。彼の話が本当なら、私たちとは1か月も満たない間柄だというのに、ね」

 

 その感情を上条当麻は痛いほど知っている。記憶のない身にはその1か月こそが全てなのだ。右も左もわからない、真っ暗闇に放り出されて。そんな自分と共に歩んでくれた存在のありがたみを、上条は誰よりも理解しているつもりだった。

 

「たったの1か月だと思うかもしれないけど、彼にとっては違う。彼にとってはそれが全てなの。彼の罪の告白に、貴方の名前があったのは……貴方への深い信頼の証だと、私は思う」

 

 だから、上条当麻にとって目の前の少女の存在は殊更に意外だった。自分と同じくらいに木原統一の境遇を理解して、そして並んで歩んでくれる者がいる。全ての罪を受け入れて、許してくれる人がいる。そんな彼女の言葉は、まるで暖かい日差しのように、上条の心をじんわりと暖めてくれていた。

 

「私じゃ、友達役は務まらない……だから、その……お願い、します」

 

 そう言って、布束はぺこりと頭を下げた。想像もしていなかった申し出を制止する間もなく、上条はぼんやりとその光景を眺めることしかできなかった。

 

「アンタは……許したのか?」

 

 ただぽつりと、思っていた疑問を口にする。その疑問に対し、布束は上条の顔をまっすぐ見据えて応えた。

 

「もちろんよ」

 

 短い回答だった。でもその言葉には確かなモノが宿っている。心からの本音であると確信できるような、そんな意志が。

 

 何故だ、と上条は問いかけたかった。だが布束はそれを先回りするかのように、こう告げたのだ。

 

「だって私は、他でもない彼に救われたんだもの」

 

 その笑顔には一片の曇りもなく、それどころか。

 

 上条当麻の心の迷いを吹き飛ばすほどに輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、いい加減この忠犬たちに親近感が持ててきたっていうのに、お前のビリビリでこの有様だ。まぁどうせ上条絡みなんだろうが……っておい。何でじわじわ俺から離れて行くんだよ。なんだ、その不審者を見るような目は?」

 

「いや、不審者代表の自覚くらい持ちなさいよ。自然体でそれって相当ヤバいわよアンタ」

 

 とある高校の学生服を身に纏った、学園都市最強の超能力者の第8位。それが大型スーパーの裏手で犬と同等の扱いを受け首輪に繋がれてる光景に、御坂は少し眩暈を覚えた。これが同じ超能力者なのかとか、そもそもどうしてそうなったという疑問とか。そしてそんな経緯は知りたくはないという生理的嫌悪が一気に噴き出してきたのだ。

 

「……一応言っとくと、俺は自分の意思でコレを付けているわけではないからな」

 

「何の報告よそれ。そんなモノ付けてる時点でアンタの信用は底の底よ。というか、だったらとっとと外しなさいよね」

 

「それが出来たらとっくにやってるっつーの。無駄に火に強い設計になってやがるから、コイツが燃える前に俺の首が炭になっちまうんだ。流石の俺も首をぶった切るわけにはいかないんだよ」

 

 コンコンと首輪を叩き、木原統一はため息をついた。その首輪には『Made_in_KIHARA.』の文字が燦然と輝いている。その文字を見て御坂が思い出したのは、『スタディ』壊滅時に超電磁砲(レールガン)にてぶち壊した車椅子だった。そして『木原』と言えば彼女自身、思うところがないわけでもない。

 

(あのトンでも車椅子と同系統……”木原”って言えばテレスティーナや木原幻生が出てくるけど、あいつらと何か関係があるのかしら)

 

 能力体結晶を利用した元祖絶対能力進化(レベル6シフト)計画の提唱者たる木原幻生。そして先進状況救助隊の隊長だったテレスティーナ=木原=ライフライン。前者とは直接の面識こそ無いものの、幻想御手(レベルアッパー)事件において諸悪の根源とも言える人物。テレスティーナに至っては三度に渡り激戦を繰り広げ、幾度となく辛酸を舐めさせられた相手である。

 

(コイツ自身悪いやつじゃないとは思うけど、無関係とも思えないのよね……暗部の情報をポンポンと持ってきたりするし、得体が知れないというか。というか、そもそもコイツの能力って何なの?)

 

 肉体再生(オートリバース)が使えるらしい、という情報は御坂も知っている。だが先日の一方通行とのいざこざの際には、炎を操っていた姿を確認してもいるのだ。能力者の所持出来る能力は一つのみのはず。御坂のように様々な側面を持つ電気使い(エレクトロマスター)ならいざ知らず、身体の回復と炎の操作ではどう考えても関連性を見出せそうにない。

 

「というわけで、ここでお前と出会えたのは僥倖だった。なぁ御坂、お前の能力でコイツのロックを解除してくれないか? 見た目と違って結構デジタルな造りになってるし、たぶんお前ならいけると思うんだけど」

 

「……ふぇ?」

 

 思考の海に沈もうとしていた所に、思わぬ提案が飛んできた。たしかによくよく見れば鍵穴などどこにもなく、継ぎ目の部分には赤色のランプが点灯しているのがわかる。電子制御されているのは間違いないようだ。ぱっと見て、電気使い(エレクトロマスター)としての能力を駆使すれば割と簡単に開きそうな気配はある。

 

「……ただの首輪ならいいけど。それってアレでしょ? この前私がぶっ壊した車椅子と……」

 

「ああ、製作者は一緒だな。今回は親父の手は入ってないけど。それがどうした?」

 

 製作者は一緒と聞いて、御坂の脳裏に思い浮かんだのはただ一つ。暗部組織『スタディ』の首領(ボス)に対して、うねうねと人形遊びよろしく逆関節の刑を実行していた無数のアームの姿である。

 

「私が触れた瞬間に、変な触手とか生えてこないでしょうね。こう、安全装置的な機構とかなんとかで」

 

「………………あ」

 

「生えてくるのか!! そんな物騒なモノに何させようっていうのよアンタは!?」

 

「いや、俺だって確証はねえよ!? 容積的にもそんな余裕は多分無いはず! でも、あの人ならやりかねないなって一瞬……と、とにかくコレを外してくれー!!」

 

 鎖を最大限に引っ張りながら近づいてきた木原統一に対し、御坂はわずかに後退りした。ただでさえ首輪の繋がった男になんて近づきたくないというのに。その首輪がゲテモノ車椅子の親戚とくればその怪しさは何倍にも跳ね上がる。それも今回は場所が場所なだけに、超電磁砲(レールガン)や電撃を下手に撃ち込む事も出来ない。切り札である『とりあえずぶち壊す』という選択肢が選べない以上、易々と近寄っていいモノではない事は明白だ。

 

「……ほ、他を当たってくれるかしら。私はちょっと用事を思い出したから」

 

「おいおいおいおい、人の不安煽るだけ煽って放置!? お前以上の適任なんているわけねーだろっての! つーか、今さっきまで上条追っかけてたヤツが今さら用事なんざあるわけねぇだろうが!!」

 

「お、追いかけてなんかないわよ!!? ちょ、ちょっと切羽詰まってるからって、変な言いがかりは止めなさいよね!」

 

「ちょっとじゃねーよ! こちとらお前のせいで首元にエイリアン寄生させられた気分になっちまってんだよ!! キラキラ乙女心ラビリンスより目の前のSFホラーをなんとかしてくれ!」

 

「乙女心なんかじゃ……ッ! というか、私の目の前にいるのはただのド変態クソ野郎じゃゴルァ!!」

 

 御坂が怒りの電撃を発し始めたところで、木原統一は思わず後方へと飛び退いた。その動きに連動するように、周りの飼い主の帰還を待つ忠犬達もざわつき始める。

 

「ど、どぅどぅ。よし、俺が悪かったから電撃はちょっと待───

 

「帰る」

 

「その選択肢もちょっと待って!!?」

 

 木原統一の言葉も無視して、御坂はスタスタと歩き出す。いくら妹達(シスターズ)の件で世話になったとはいえ、ここで足を止める理由はない。ここにいるのは恩人たる超能力者(レベル5)の第8位ではなく只の変質者なのだと、そう御坂は割り切った。

 

(アイツには逃げられるし、結局あの件は解決しないまま……他に相談できるような人はいないしなぁ。あー、もう。いっその事軽く焼っちゃう? いや流石にそれはマズいか……)

 

 苛ついているせいか、自分が正常な判断が出来ていない事に御坂は気が付いた。このままでは常盤台中学の理事長の孫に、電撃の一発や二発は炸裂させかねない。というか、何処かでストレスを発散してこないと確実にヤる自信がある。まだ日も高く、学生寮周辺なら遭遇する可能性は大だ。瞬間移動(裏ルート)を後輩に頼もうかなとも考えたのだが、それはそれでストーカーがもう一人増えるだけなので意味がない。

 

(ゲーセンにでも行こうかなー……あそこなら理事長の孫は来れないし、なによりこのストレスを何かにぶつけたいっ!)

 

「わかった! タダとは言わないから!! だから御坂さんカムバーック!?」

 

 聞く耳持たず、今さら何を言われたところで御坂が戻るはずもない。あのド変態の事は忘却の彼方へと消し去り、さてゲーセンで何をしようかなと考えを巡らせ始めた瞬間───

 

「上条の連絡先を教える!! これでどうだ!?」

 

 木原統一の口から紡がれた魔法の呪文(最低の一言)が、御坂の足を完全に停止させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「許すも何も、別に俺は木原を恨んでなんかいないよ」

 

 彼女の本音に呼応するかのように。その言葉は自然と口を衝いて出てきた。

 

「俺も木原と似たような悩みを抱えてる。確かに、秘密を知ったときはショックだったけどさ。それ以上に、俺はアイツに自分を重ねちまってたんだ。俺の抱える悩みが、大切な人に知られちまったらどうしようかって。今日まで誤魔化してきたけど、それはいつまでも続くはずがないって。そんな事実を目の前に突き付けられたような、そんな気になってたんだ」

 

 無理矢理聞き出されたわけでも、必要に駆られたわけでもない。偽りなき心情が上条当麻の口から紡がれる。そんな告白を布束は無言で聞き届けていた。

 

「だから、アンタが木原を許したって聞いてちょっとだけ救われたよ。別に俺が許されたわけじゃないけど、それでも希望はあるってわかったからさ」

 

 訪れる失敗が必然ではないのなら、希望はある。

 

 目の前の道が袋小路ではないのなら、上条当麻は前に進める。

 

「それと……俺とアイツは友達だよ。これまでもこれからも。いままで世話になりっぱなしだったし、俺もアイツを助けていきたいと思ってる。こんな俺でも、少しでも力になれるのなら」

 

 そう言って、上条は肩をすくめた。ここまで言って、何だか少々気恥しい気持ちになってしまったのだ。でも後悔はしていない。溜め込んでいたモノが吐き出せたお陰か、上条の心はこれまでにないくらい晴れやかな気持ちになっていた。

 

「……そう。その言葉を聞けて、安心したわ。ありがとう、上条君」

 

 上条の言葉を聞き終え、布束はそう呟いた。彼女は上条の抱える事情を知らない。だけど、上条の表情からそれが本心であることを悟ったのだ。

 

「礼を言われるような事でもねえって。というか、礼を言うのは俺のほうだ。アンタのお陰で、前に進む勇気を貰えたからさ」

 

「……貴方の方も、上手く行くといいわね」

 

「……ああ」

 

 そう言って、布束砥信は去って行った。その後ろ姿を上条はぼんやりと見送り。そして。

 

「……よし」

 

 受け取った勇気と希望を手に、上条当麻もまた歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃー……ようやく自由になれた」

 

 長らく装着されていた首輪が外れ、思わずそんな独り言が口をついて出てくる。結局のところ、首輪には安全装置のような機構は一切なく、御坂が指をちょこんと触れるだけで外れてしまったのだった。そして契約通りに御坂には上条の携帯番号を教え、彼女はその番号とにらめっこしながら帰還して行った。

 

(ホント、御坂には感謝しかないな……それとすまん上条。番号勝手に教えちまったわ)

 

 上条と御坂が連絡先を交換するのは、本来であればもう少し先……確か携帯のペア契約の時だったかな。別段仲の悪い二人でもないが、やはり勝手に教えるのはマズかった気もする。

 

(というか、俺が偽物だって件についてもまだ上条とは話し合ってなかったな……もうバレちまってるらしいけど、上条と実際に顔を合わせたのは海の家以来か)

 

 俺が本来の木原統一とは別人格であるという事は、上条にはもう知られてしまっている……らしい。何でも土御門にこの件を暴露した際、それを立ち聞きしていた布束の側には上条もいたという話だ。これまで騙していたという事を謝罪する前に、更に罪を重ねてしまったのはどうにも居心地が悪い。

 

「……マズったよなぁ。とりあえず、会ったら土下座確定で……許して貰えるかなぁ」

 

 殴られるだけで済めばいいなと、そんな事を考えながら、外れた首輪をクルクルと手の中で弄ぶ。現在地は先程と変わらず、ペット用区画の一角である。首輪こそ外れたものの、別段逃走を図る気はさらさらない。待ち合わせ場所はあくまでもこの場所なのだ。ポールが一杯にならない限りは、とりあえずこの場で待たせてもらおうかなと、そんな事を考えていた……その矢先。

 

「お隣り、失礼しますね?」

 

「へ? ……はぁ、どうも」

 

 気がつくと、トレーニングウェアを着たサングラスの女性がすぐ近くにまで来ていた。何事かと思って見てみれば、その女性は俺のいる区画のすぐ隣のポールに、飼い犬を繋いでいる最中だったのだ。

 

「それでは先生、また後で」

 

 そんな事を言い残しながら、さっとポールにリードを繋ぎ終えた女性は忠犬を一撫ですると、足早に裏口からスーパーの中へと入っていった……ってちょっと待て。今あの女何て言───

 

「ふむ。その表情を見るに、私の事も『()っている』か。君の知識の偏りは今に始まった事ではないが、この私にスポットが当たる程のイレギュラーとなると……ああアレイスター。君はこれからも、まだまだ無数の失敗を重ねていくようだな」

 

 そう言って、声の主は背負っていたカバンから飛び出たアームに差し出された葉巻を咥えた。そんな堂々とした姿に呆気に取られ、俺は声を発することも出来なかった。

 

「そう構える事はない。今日は私の独断専行なのでね。私の役割はひとまず忘れて、同じ『木原』として話そうじゃないか」

 

 俺はこの人物を……いや、この存在を知っている。知っていて何故ここまでの接近を許したのかと問うならば、それは彼の在り方そのものに問題があるだろう。どう見ても、カバンを背負っている以外は普通のゴールデンレトリバーなのだから。

 

「さて……火をくれるかね? 木原統一君」

 

 木原脳幹。木原の中でもぶっちぎりのイレギュラーは、まるでニヤリと笑いかけるようにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 





 
 そわそわしながら禁書3期を待っています。





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