とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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※オリキャラ注意報……新規ではなく既出のキャラです。

※三下警報……既出ではなく新規の方向性です。


 お話の方向性もまたノーガード戦法。大体予測がつくかもしれませんが、ご容赦下さいまし。







第6章 純白のキャンバス
071 淵より昇る始源の紅  『9月1日』 Ⅱ


 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛ー死ぬかと思った……まさか能力テストの時よりキツイのが来るとは思わなんだ。……不本意ながらつい最近拷問されたばっかりだったし、そこの床の染みになった時ほどキツくはなかったけど」

 

「なぜ冷静に惨劇具合を批評してるのかしら……そもそも、私の知る肉体再生(オートリバース)の能力テストはこんな物騒なはずじゃないんだけど?」

 

 学園都市からの大脱走を咎められ、父親に夜通し拷問された果てに。女性の悲鳴で目を覚まし、新学期を迎える高校生。そんな奇想天外なステータスを得た俺こと木原統一は布束砥信から介抱の末、どうにか口がきける状態にまで回復していた。現在位置は自宅の居間。何か色々と口では言い表せない状態の風呂場を封印し、布束とテーブルを挟むような形で、どうにか腰を落ち着けたところである。

 

「そうなのか? 身体を回復させるんだから、どうやっても血を見る方向性しかないんじゃ?」

 

「Well、場合によってはそうだけど。少なくともあんなバケツをひっくり返したような事にはならないわ。そもそも人の手で行うものじゃないもの。手術用ロボットで薄皮一枚を傷つけたり、弱めた酸性の溶液を垂らしたりして、反応を観察するのが正しい能力テストよ」

 

「……チェーンソーとかバールのような物は?」

 

「……なんの話かしら?」

 

 頭に疑問符を浮かべた彼女がとても可愛らしいのはさておき。どうやらあの拷問は能力テストではないというのが布束の見解らしかった。能力テスト、能力テストと……久々に『木原統一』の頭に働きかけて、知識を掘り起こしてみる。もっとも、本人登場という大事件があった後で、素直に答えが出てくるかどうかは未知数だが───

 

『肉体再生の能力テストは、傷の種類や負荷の程度によって変化する再生速度を記録し、また脳波の動きを適宜観察して行う必要があるため、繊細な動きと正確な記録が可能な機材を利用するのが一般的である』

 

 予想に反して、素直に答えが返ってきた。じゃああの無限煉獄(ブラッディカーニバル)はなんだったんだろうか。てっきり俺の自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を解析した上での能力テストだと思っていたのだが……と疑問に思ったところで、真相を知っているのは木原数多(父親)しかいないわけで。直接尋ねる選択肢がない以上はこの件は迷宮入りとなる……と、何だか前にもこんな事があったような気がするがそれはさておき。

 

 いつの間にか迎えた9月1日。こうして登った朝日を前にすれば、否が応でも認識するしかなく。上条がなにやらびくびくしていた新学期初日の到来である。父親の拷問の謎よりも、まずは迫り来る二つの脅威についての対策の方が重要だ。

 

(記憶のないままクラスメート達の待つ学校へ……まぁ、神の力(ガブリエル)とか騎士団長(ナイトリーダー)に立ち向かうのとはまた別種のハードルだな。対策のしようがないし、これは当たって砕けるしかないか)

 

 そこそこに高そうな壁ではあるものの、懸念すべき事は他にある。場合によっては登校を見合わせる必要があるかもしれないぐらいの。学生というスケールの数段階上の懸念事項。

 

 シェリー=クロムウェル。イギリス清教第0聖堂区、必要悪の教会(ネセサリウス)所属の魔術師の襲撃。当たって砕けては洒落にならない方の案件である。

 

(何よりもまずは土御門へ連絡を……襲撃タイミングもそうだが、何が起こるかを伝えておけば、アイツは俺なんかよりも最善手を打てるだろうし……というか、この期に及んで黙ってたらまた眉間に一撃食らいかねない)

 

 善は急げだ。布束に「ちょっとごめん」と一言かけて、家の電話へと向かう。携帯こそ壊されてしまったが、土御門の携帯番号は覚えているので問題ない。こういう細かな所まで記憶出来ているのは、流石は『木原統一』の頭脳といったところか。

 

(出てくれればいいんだが……アイツって確かこの後、『窓のないビル』に閉じ込められるんだよな。史実と違って、土御門とアレイスターの距離感も変わってるだろうし、絶対とは言えないけど……)

 

 まさに命知らずといってもいい所業だが、警備の手を抜いている事をアレイスターに問い詰めるために、土御門は『窓のないビル』へと特攻をかける。その後上条達が襲われるのが昼過ぎなのだから、シェリーの侵入は少なくともこんな朝っぱらではないはず……たぶん。

 

『……何だ?』

 

 希望通りに土御門は電話に出てくれた。だがこの声のトーンは少々予想外だ。何故電話一つ取るだけで殺意マシマシのマジモードなんだお前は。

 

「よかった、出てくれたか土御門。俺だよ、木原統一だ。自宅の電話からかけてるからわからんと思うが……」

 

『いや、木原っちの家の番号であることは把握している』

 

 やはりおかしい。いつものにゃーにゃー口調は無く、この声は完全にスイッチの入っちゃってる土御門の声である。何だ? まさかもうシェリーが学園都市に入ってきている? ……いや、だとしたらこんな悠長な会話などしているわけもないか。まさかまだ義妹(まいか)を名前呼びした事を根に持ってるとか?

 

「……電話しておいてなんだが、何かあったのか? お前にしてはなんというか、朝っぱらから余裕がないというか……」

 

『そうだな……例えば木原統一が突然姿をくらませたとして、その行方を知りたがるのは誰だと思う? あらゆる破壊の限りを尽くして、お前を追いかけていきそうな獣二匹に心当たりは?』

 

「……」

 

『そいつらを説得してその部屋に押し込めておいて、一晩見張っていたのは一体だれだと───

 

「すいませんでしたァ!!」

 

 なんというか、原因は結局のところ俺だった。あの二人を呼び止め、説得するという荒業を敢行。そのまま徹夜で見張りとは恐れ入る。ようやく事態が収束しかけた所に、その元凶たる人物が呑気にモーニングコールか……眉間に一発どころか二、三発ぶちこまれても文句は言えないくらいの蛮行である。

 

(……というか、あの二人の木原と土御門っていつの間に知り合ったんだ? 木原数多(親父)はまだわかるけど、木原病理は出会いがさっぱりわからん。説得が出来るならそこまで知らん仲ではない……のか?)

 

『……まぁいい。それで、用件は何だ木原っち?』

 

 割と重要っぽい疑問が浮かんだところへ、土御門からの問いが割り込んできた。怒りはある程度収束したようだが、その息遣いや声の調子からは疲れの色が窺える。あの土御門元春が徹夜の一つや二つ如きでこうはならないはずだが……詳しい仕事内容はわからんが、昨日の海原(エツァリ)襲撃の後処理も色々あったのだろう。

 

「あー……いや、その。なんというか……」

 

 ほんの少しの逡巡があった。そもそもの話、これは擦り切れる一歩手前の陰陽師に頼らなければならないような案件なのだろうか。現れるかもしれない魔術師は、土や大地に関する魔術を操る事がわかっている。音速を超えたり、山を切り裂いたり、空気を圧縮してプラズマを作ったりはしない。戦う場所もイギリス(アウェー)ではなく学園都市(ホーム)なのだから、ドッカンドッカンと甲冑騎士の増援も来るはずはなく……負ける方が難しい気がしてきたな。流石にこれは慢心ではなく事実だと思いたい。

 

「いや、新学期初日だし? 一緒に登校しようぜーって、用件はそれだけ───

 

『もし何か隠している事があるなら早く言え。でないとあの二人をお前の部屋に呼び戻すぞ』

 

「お前それマジで洒落にならねえからな!?」

 

 ここまで酷い脅し文句がこの世にあるとは思わなかった。ハッタリかも、という考えが一瞬浮かんだがおそらくそれはないだろう。なにしろコイツには、ステイル(クソ野郎)妹達(シスターズ)の9982号、布束砥信をピンポイントで召喚しやがった実績がある。木原二人を二重召喚(デュアルサモン)するくらいの事は、この陰陽師なら本当にやりかねない。

 

「はぁ……ホント、一体どうやってあの二人と繋がりを持ったんだよお前」

 

『木原っちが隠していることを全て吐いたら、今度教えてやる』

 

 この口振りから察するに、どうやら先ほどの発言はハッタリではなく事実らしい。これでもう選択肢は無くなったが……まぁいい。元々話すために電話をかけたんだからな。

 

「わかった、言うから肉食獣を呼び寄せるのは無しにしてくれよ……実は……今日、学園都市に魔術師がやってくるかもしれないんだが」

 

 流石に自信を持って絶対とは言い切れない。俺がイギリス事情を深く引っ掻き回しちまった弊害なのだから、仕方ない事ではあるが。

 

『昨日の二人の関係者か?』

 

「違う違う。魔術結社の構成員やはぐれ魔術師ではなく、その……イギリス清教の」

 

『……一体誰だ? 何が目的で?』

 

 ……なんだかまどろっこしくなってきたな。そろそろ登校時間も迫ってきたし、一気にぶちまけるか。

 

「シェリー=クロムウェル。イギリス清教と学園都市の急接近を懸念して、彼女が殴りこみに来る。狙いは幻想殺し(イマジンブレイカー)禁書目録(インデックス)……そして、虚数学区の鍵だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれやこれやと土御門にぶちまけた後で、俺は受話器を置いた。ひとまず土御門は学園都市の警備状況の確認と、イギリスへ連絡をしてみるらしい。これでシェリーに動きがあれば、まず間違いなく土御門は気づけるはずである。

 

(窓のないビルには行くなとも言ったし……いざとなれば、イギリス清教の人間として俺も戦えるから無茶をするなとも釘は刺した。そして───

 

 最後の懸念事項。上条ではなく、土御門の手でシェリーが倒されてしまった場合に起こり得る最悪の結末。それは戦争の火種たる彼女を、土御門が殺害するかもしれないという事だ。イギリス清教の一員たる俺と土御門が止めれば戦争なんて絶対に起こらない。だから彼女を殺すのは待ってほしいと、俺は土御門に伝えたのだ。

 

(シェリーと話したのはほんの少しの時間だけど……彼女は決して悪人なんかじゃない。土御門とシェリー、世界の平和を願う二人が殺し合うなんて馬鹿げた状況は、絶対に起こさせやしない)

 

「……よし。やれる事は全部やったな」

 

「随分と長電話だったわね」

 

 ふと背後でそんな声が聞こえた。ぎょっとして振り返ると、腕を組み若干眉を吊り上げた不機嫌そうな布束の姿がある。

 

「土御門、と聞こえたのだけれど。Well, それはあのメイドさんの苗字ではなかったかしら?」

 

「……うん? たしかにそれはそうなんだが……あれ? 布束って知らなかったっけ? あのアロハグラサン」

 

「Of course,知ってるわ。電話の相手はお兄さんの方だったのね……ならいいわ」

 

 そんな事を言いつつ、布束はそのまま台所の方に引っ込んでいった。一体何がいいのだろうか。今の会話で布束は何を確認したんだ? ……駄目だ、わからん。なんとなく布束と心の距離を感じるようなそうでないような。そんな胸騒ぎがする。

 

「そういえば統一君。貴方、携帯はどうしたの?」

 

 姿も見えないままに、台所からそんな声が聞こえてきた。

 

「あー……それがその、つい最近ぺしゃんこになった」

 

 そう伝えると、心配そうな顔がぴょこりと出てきた。何だあれ可愛いぞ。

 

「ぺしゃんこって……車にでも轢かれたの?」

 

「まぁ似たようなものかな」

 

 駆動鎧(パワードスーツ)だったけど、まぁそうさして違いはあるまいて。適当に答えると布束は「そう」と呟いてまた引っ込んでしまった……なんだろう。胸騒ぎが晴れる気配もなく、モヤモヤは継続中である。

 

(しかし……なるべく早めに携帯買いに行かないとな。このままだと不便だし、今度はもう少し頑丈そうなのを……あ)

 

 そういえば。ちょっとだけ遠い未来において実施されていたハンディアンテナサービス。あれってもう開始されてるのだろうか? もし始まってるなら試してみたいな。それぞれの携帯が中継基地の役割を果たすというギミックは、無駄は多くともなかなか面白いというか。せっかくなら最新技術に触れてみたいというのが男ではなかろうか。

 

(前回はあえてスマホ型推しの物を買ったが、次は思いっきり学園都市っぽいやつがいいな……たしか男女のペア契約なら安くなるんだっけ……よし)

 

「あのー、布束さん?」

 

「なにかしら?」

 

「今度携帯を買いに行こうと思うんだけどさ、一緒に行ってくれませんか?」

 

 ……無音だった。返事どころか、台所の向こう側から物音一つしなくなってしまった……というか。布束はさっきから向こうで何をやっているのだろうか?

 

「もし出来ればその時に、男女のペア契約もしたいなーって思ってるんですけど……」

 

 ガタリ、と反応アリ。どうやら聞こえているようだが、物音でしか存在を感知できないというのは……本当に大丈夫か?

 

「いっ……いいわよ?」

 

 しばらくして。何故か疑問系で、何故か顔を真っ赤にした布束が出てきた。これはまずいな。早いうちに姫神教会に相談に行った方がいいだろう。詳しい原理はわからないが、知らぬうちに地雷を踏み抜いてるのは間違いない。まさか携帯一つでここまで怒らせてしまうとは……これ以上事態を悪化させる前に手を打たないと、大変なことになる。

 

 そんな決意を新たにした所で、コトリと目の前に皿が出てきた。置いたのは当然布束で、皿の上にはサンドイッチ……だと……?

 

「……そんなに身構えなくても、コレを作ったのは私じゃないわ。二つ隣のメイドさん作よ」

 

 まだ火照りの残る表情で、布束はそう呟いた。別段気にしているような素振りも見えず、ごめんなさいとありがとう、どっちを言ったらいいか迷った挙句の果てに。すまんと一言告げて、俺はサンドイッチを掴み取った。

 

 ……今日中に姫神寺に駆け込もう。そう決意を固めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後。何故か会話が途切れてしまった中で、サンドイッチを適当に流し込み(滅茶苦茶に美味かったのは流石は超メイド製といった所か)お昼用に残りを弁当箱へ詰めて貰っての出発である。上条家のチャイムを鳴らし、未だ眠そうな上条を引き摺り出して、インデックスと布束に見送られながら学校への道を歩き出した。

 

「いくらなんでも早すぎないか。まだ登校時刻まで1時間近くあったはずだろ?」

 

「電車が止まっちまってるんだよ。走って行きたかったらもう30分は寝ててもいいぞ」

 

「……もう走るのは嫌でごんす」

 

 距離にして駅二つ分。徒歩30分強といった道のりを歩きながら、俺と上条は学校へと向かう。電車は止まっているが、バスは平常運行中なので、本来であればそっちを利用してもいいのだが……よくよく見比べてみればバスの運賃は電車の3倍高い料金設定になっているのだ。そのくせ時間は電車の倍かかるとくれば、そんなモノに上条がイエスと首を縦に振るわけもなく。

 

(……と、ここまでが原作の設定で。それを見越してのこの出発時刻設定……なんだか先を見据えて行動して、久しぶりにうまくいっている気がするなぁ)

 

 土御門への事前連絡も済ませたし、父親からの折檻もどうにか乗り切った。唯一懸念すべき布束との距離感も、乙女代表の姫神に相談すれば光明が見えるんじゃないかなと思う。

 

「しかし新学期か……うまくやっていけるかな……?」

 

「俺も土御門も青髪ピアスもいるし大丈夫だろ。担任だって小萌先生だし……そんなに怯えなさんなって」

 

 全てが順調である。雲ひとつない快晴の空を眺めながら、俺はため息をついた。

 

 どうかこの平穏が、ずっと続いてくれますようにと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「極秘任務?」

 

『ええ。最大主教(アークビショップ)の命を受けて、シェリー=クロムウェルは数日前からイギリスを離れているそうです』

 

 木原統一の電話を受けた数分後。土御門はイギリスに滞在している神裂火熾へと連絡を取っていた。

 

「ねーちん、その任務の概要はわかるか? 極秘といっても同じイギリス清教なんだ、ある程度の情報は入っているだろう?」

 

 土御門の問いかけに神裂はしばし沈黙した。その間が、答えはイエスだと物語っている。

 

『それが……例の騎士派に紛れ込んでいたスパイ、それと連絡を取っていた組織を突き止める事、と聞いています』

 

「連絡を取っていた組織……フランスの諜報部隊を突き止める気か……? 暗号を扱うのであれば、シェリーの領分ではあるが……」

 

『いえ、追っているのはその仲介役を果たした組織のようですが……すみません土御門。これ以上は……』

 

「いや、こっちこそ無理を言って悪かった。助かったぜねーちん」

 

 そう言って土御門は電話を切った。確認した学園都市の警戒網には何も引っかからず、肝心のシェリーは任務で出動中。現状を端的に言うのであれば、木原統一直々の警告は見事に大外れ、といった具合である。

 

(シェリー=クロムウェルが来るかもしれない……だったか? あの口ぶりから察するに、木原っちも自信を持っての発言ではなかったが……)

 

 こめかみに手を当てて、土御門は思考の海へと埋没する。木原統一の予言の源泉。『限定的な未来の知識』……その概要は。

 

『俺には、限定的だが未来の知識があった。『木原統一』が関わらなかった場合の未来……それを利用して、試行錯誤して……あの日以降、俺は『木原統一』を演じ続けた……自分に関する未来はさっぱりで、ヘマばっかりしてたけどな』

 

(木原っちが関わらなかった場合の未来……か。なるほど、奴はイギリスでシェリーに会っちまってる。今回のスパイ騒動も、アイツの必要悪の教会(ネセサリウス)編入がトリガーになっているのだから……関わってなかった天使の墜落は当てられるが、知っている魔術師の行動は読めないと)

 

「外れた、か……」

 

 たまにはそういう事もあるのだろう。そう結論付けると、土御門もまた、学校への道を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「世界を手中に収めつつある、科学側の総本山……って聞いてたんだが? 学園都市の警備ってのは随分と甘いんだな」

 

 第11学区。学園都市の外周に位置する、陸路最大の物資搬入窓口。あらゆる作業行程を機械制御で賄うという、工場からはみ出したベルトコンベアーの如き施設である。

 

 その一角、山のように積み上げられたコンテナに座り込みながら、荒々しい口調で女性はそう吐き捨てた。見た目はぼろぼろの擦り切れたゴシック調の服に、ぼさぼさの長い金髪。褐色の肌をもち、歳は20代後半といったところである。

 

「……魔術サイドと違って、科学の敵は同じ科学サイドの中にしかない。まして、ここまで究極的に人の手を取り除いた施設だ。少し魔術に覚えのある者なら、極々簡単に潜り込める」

 

 一方で、目下でもなければ目上でもなく、はたまた対等でもないくらいの距離感を感じさせる口調で、男は機械的にそう答えた。金髪の頭に、女性とは対象的な白人の男性。灰色のスーツを着込んではいるが、体格が良いせいか絶望的に似合ってはおらず。要所要所で、鍛え上げられた肉体が自己主張をしてしまっている。そんな彼は、子供のようにコンテナに登っている女性を視界の端に捉えつつ、周囲を警戒していた。

 

「はっ、偉そうに。実際に細工をしたのはアンタじゃなくて私だろうが」

 

「そうだな。手間をかけさせた、すまない」

 

 男がそう答えると、女はますます不機嫌になった。思っていた答えではなかったのか、はたまた男の態度が気に入らなかったのか。その答えを男は知らず、また知ろうとも思わなかった。

 

「チッ……まぁいい。ここで足踏みしてる暇なんざねえし、さっさと行くわよ」

 

「ああ」

 

 コンテナから飛び降り、女性……シェリー=クロムウェルは歩き出す。その傍らに、とある騎士崩れを侍らせて。彼女なりの答えを探しに。

 

「その前に、確認しておきたい事がある」

 

 そして、そこへ……3人目(・・・)の声がした。

 

「ああ? 今さら何だってのよ? 言っとくが、ここで時間を食って縄につくような趣味はねえぞ」

 

「歩きながらで構わないし、そこまで時間は取らせんよ」

 

 声の主は歌うように呟いた。そして、まるでプレゼントを配られる寸前の子供のような口調でもって、恐るべき言葉を口にする。

 

「我々の目的は例の魔術師だ。君たちが他を抑えている間に、私たち2人があの魔術師を引き剥がす。その後、互いに互いの邪魔はしない……そうだったな?」

 

「そうよ……あいつらが固まってるか、ばらけてるかまでは知らねえけどな。何回繰り返すんだ? このやり取り」

 

何回繰り返した(・・・・・・・)っていいくらいだよ。なにせ手を組んだ相手はイギリス清教必要悪の教会(ネセサリウス)……長年仮想敵として見据えていた相手だ。慎重になるのもわかるだろう?」

 

 そう言って、シェリーたちを追いかけるように更に2人。計4人の侵略者は歩き出す。

 

 目標の待つ第7学区へと、ひどく静かな足取りで。

 

 

 

 

 

 

 









 第11学区についてはオリジナルではなく原作からです。聖人雷神とかが納品されたり出荷されたり、溶断ブレードで暴れたりします。

 
 
 

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