とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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 たまにはこんな日常回。


 まぁ日常と書いて茶番と読むんですけども。

 プリーズかむばっくシリアス






072 蒼き学び舎の友  『9月1日』 Ⅲ

 

 

「……間に合ったか」

 

「はぁ、はぁ……結局走る事になるなんて……不幸だ……」

 

 とある高校の正門前。希望やら絶望の表情を浮かべた学生たちが賑わう新学期初日の学校の入り口にて、上条当麻は息も絶え絶えに精魂尽き果ててしまっていた。原作における、新学期初日から電車が遅れてしまうという未来の情報を生かしての、俺提案の早めの登校作戦。その道半ばにて、宿題を忘れた事を思い出した上条は全力疾走で来た道を引き返して行ったのだった。その後上条が学校に到着したのは、そのままの速度で歩いてきた俺が着いてからおよそ5分後の事である。

 

「ところで、不幸と言ってもさ。宿題忘れたのは流石に自業自得なんじゃ?」

 

「いや……途中で御坂に……追い回されて……」

 

「あー……すまん、不幸ってそっちの方か」

 

 聞けば上条の疲労困憊の要因はビリビリの電撃姫であり、彼女を撒くために通常の何倍もの遠回りを強いられたとの事。原作通りとはいえ2日連続エンカウントとは酷い遭遇率である。その原因は上条家の血筋か、幻想殺し(イマジンブレイカー)の力か、はたまた御坂美琴の乙女アンテナの為せる技なのか。もしかすると統括理事長(アレイスター)悪戯(いたずら)説もあるかもしれないな……なにかと上条に試練を与えにくるからなあの人。

 

 そんなこんなで気を取り直し、上条の息が整うのを待って俺たちは学校の敷地内へと足を踏み入れた。校門を抜けると正面には校舎、右手にはプール、左手には体育館という配置になっている。それらを最初に見た俺の感想としては、科学技術の進んだ学園都市の学び舎にしては平にして凡を極めすぎではないか、という言葉に尽きた。

 

(……現代の学校から変化が無さすぎだろ……百歩譲って校舎の造りとかは別にしても、あのかまぼこ型の体育館に直方形のプールまでそのままとは)

 

 残念半分、安心半分というか。最先端の科学技術を駆使して構築された学び舎を見てみたい気持ちもあるが、もしそれを当たり前のように提示されたところで、対応できるかと言われれば答えはNOなのである。例えば磁力やら重力やらを制御し、宙に丸く浮かび上げられた水球をプールですと言われても、はいそうですかと即座に飛び込めるような神経は持ち合わせているわけもなく。学校という毎日通う場においては、この平凡さこそが肝要であるとかなんとか……それっぽい言葉が学校のHPにも書いてあったなそういえば。

 

(……まぁ、本当にそんなプールが学園都市の何処かで開発されているかどうかは知らんが。重力制御の技術って学園都市にあったかな)

 

 重力子(グラビトン)なるモノを操る能力者はいた気がする。あとは重力子寄木板(グラビトンパネル)とかいう、宙に足場を作り出す近未来SF的な技術もあったような。爆弾になったり足場になったりと、随分と便利なモノである。

 

『重力制御装置は既に実用化されている技術ではあるものの、表向きとして発表されているモノは多くはない。よって現在学園都市において、プールに重力制御装置を採用している学校は存在していない』

 

(……あん?)

 

「どうした木原?」

 

 頭の中に突如として湧いて出た言葉に、思わず足を止めてしまった。一歩先を歩いていた上条が振り返り、訝しげにこちらを見ている。とりあえず一言「なんでもない」と上条に告げて、小走りでその背中まで追いついた。

 

(今のは……無意識に木原統一の知識を掘り返しちまったのか?)

 

 別段初めての現象というわけでは無いが、突然のことに少々面食らってしまった。まぁそもそも明確なトリガーがはっきりした技でもなく、まぁこんな事もあるのだろうと、妙な違和感を覚えつつも。ひとまず納得しかけていた所に。まるでその反応を楽しむかのような勢いでの追撃が、俺の脳内に投下された。

 

『なお、『宙に浮くプール』に似たモノを採用している学校は存在する。磁性流体を応用した技術であり、電気使い(エレクトロマスター)数人がかりでその運用が可能となる』

 

 やはり何かがおかしい。今まで何度か木原統一の知識を掘り返した事はあったが、こんな補足説明が出てくるような事は無かったはずだ。使い込み過ぎて予測変換機能でもついたのだろうか。それともあるいは……

 

「―――ってオイ! ブレーキに足届くんかい!?」

 

 思考の海に沈みかけたところで、上条の素っ頓狂な声があがった。ぎくりとして顔を上げれば、一人乗り乗用車という少々珍しい代物から降車してきた、ぷんすか怒りマーク装備のピンクの妖精の登場である。

 

「とっ、届かなくたって運転できるんですーっ!」

 

 いささかの周囲の注目を集めながら、上条とピンクの妖精こと月詠小萌先生はそのまま口論を始めてしまった。口論といっても両者共に本気というわけでもなく、更に言うなれば小萌先生の頬には若干赤みが差しているような気さえ……いや、流石にそれは気のせいだと思いたい。子供は体温が成人よりも少し高めとも聞くし……まぁ小萌先生は大人のはずだけど。

 

「おや? そこにいるのは木原ちゃんじゃないですか。上条ちゃんと一緒に登校ですか?」

 

「ええまぁそんなところです。おはようございます、先生」

 

「はい、おはようございます……そういえば、夏休み初日も二人は会ってましたね。仲良き事は良い事なのです」

 

 青春ですねぇ、と小萌先生はこくこくと頷いていた。何をそんなにしみじみとしているのかは不明である。上条もそれは同じらしく、俺と同様に呆気に取られた表情をしていた。そんな俺達を余所に小萌先生はとてとてと俺の傍に駆け寄り、なにやらちょいちょいと手招きをしてきた。どうやら内緒話があるらしく、俺が姿勢を低くすると背伸びをしながら上条に聞こえないくらいの声量で耳打ちをしてくる。

 

「……いいですか木原ちゃん。その調子で新学期は、他のみんなともちゃんと仲良くして下さいね?」

 

 ……なんだろう。この遠まわしに『これまでは仲良くなかった』事を暗に示すような証言は。なんだかそこはかとなく嫌な予感がしてきたぞ。何をやらかしやがったんだ『木原統一』

 

「決して、ゴミを見るような目なんか向けちゃ駄目ですよ?」

 

(マジで何をやらかしてんのアイツ!!?)

 

 作り笑いを浮かべながら、心配顔の小萌先生に適当に相槌を返す。どうやらそれで小萌先生は安心してくれたようなのだが、爆弾を投下されたこちらの被害は甚大と言わざるを得ない。何をどうしたら担任の先生にここまで言わせる事態になるのだろうか。入学の4月から夏休み開始の7月までのおよそ4ヶ月間、一体あの馬鹿野郎はどんな振る舞いをしてきたというのだろう。

 

(お、落ち着け、逆に考えるんだ。教室に着く前に情報が得られて良かったじゃないか……クラスメートとの距離感が想定の数十倍だって情報がなクソったれがァ!!)

 

「そして上条ちゃんは、補習の成績を見る限りやれば出来る子なのはわかってます! 2学期はもっとびしばし行くので覚悟するのです!」

 

「え゛? いやアレは木原の勉強会が───

 

「問答無用なのです!」

 

 不幸だ、と上条が肩を落としたところで、俺たち3人は教室への道を歩き出した。朝の足取りの軽さは何処へやら、足に重りが付いたのかと錯覚するほどの憂鬱さである。その後上条と小萌先生は原作通りに、AIM拡散力場について語り始めたのだが内容がまったく耳に入ってこない。そんな無自覚ヘンテコ力場なんかよりも、マイナスに振り切ってしまっている可能性のあるフレンドリー場の方が最優先である。

 

(とにかく好感度を回復するところからだな。元の『木原統一』を考えても仕方ない。とにかく開き直って明るく……上条もいるしなんとかなる! 頑張れ俺! こんなの夏休みに乗り越えてきた試練に比べたら楽勝だろうが!)

 

 楽勝とは言うものの、それはそれでこれはこれである。というか、乗り越えてきた夏休みの試練もこんな風に前フリがあって、そこから立てた予想を遥かに上回るような状況に追いやられていたような気さえする。

 

(ここからさらに状況が悪化するような事はあるのか……? いやでもいつだったか、土御門は俺のことを『吹寄の右腕』だったって言ってたような? 小萌先生だって通信簿で『あの3人と仲がいい』って……だーっもう! 一体何が正しいんだ!? 全部か? 俺の存在によって、クラス内が陰謀渦巻くサスペンス劇場に!?)

 

「……というわけで。後で木原ちゃんにも意見を伺いたいので、その時はよろしくなのです」

 

「え?」

 

 完全に二人の話を聞いていなかったせいか、自分の名前が出てきた事に驚き妙な声が出てしまった。その様子を見て小萌先生はくすくすと笑い、続く言葉を口にする。

 

「AIM拡散力場に関しては、木原ちゃんはとっても詳しかったですからね。論文の資料にお勧めの本があれば、ぜひとも教えて欲しいのですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 割と洒落にならないような案件を次々と投下していったピンクの妖精は、手を振りながら職員室の中へと入っていった。「色々と準備しなければならない事がたくさんなのです!」との事だったが……始業式とか、姫神の転入に関してだろう。もしくは、宿題を忘れてきた生徒への更なる宿題とかかもしれない。怒られるためにわざと宿題を忘れてくる猛者(バカ)もいるらしいからな。

 

「……さて、とうとうここまで来ちまったな」

 

「……おう」

 

 新校舎3階、端から2番目の教室。その入り口の前に、俺と上条は立ち尽くしていた。互いに目で語る言葉はただ一つ。「お前が開けろ」という一番槍の押し付け合いである。俺としては様式美というかなんというか、上条の前に立って教室に入るのはなんとなく躊躇われたので、さっそく先ほど小萌先生から頂いた心に突き刺さるお言葉(バンカーバスター)を有効活用させてもらう事とした。

 

「……そういえばさっき小萌先生に聞いたんだが。実は俺、クラスでかなり浮いている生徒らしい。つまり何が言いたいかって言うとだな」

 

「このタイミングでそれは卑怯じゃないか!? ……いや、もしそれがホントならご愁傷様と言わざるを得ないんだけども!」

 

 と言うのが早いか遅いかというところで。ええい、ままよ! と。上条はそのまま教室のドアを開け放ちズンズンと教室に入っていった。教室の中からはお喋りに興じる生徒達の声が聞こえてくる。エセ関西弁でテノールボイスな青髪ピアス(真)の声も混じっているのを確認しつつ、まぁどうにかなるだろうと。上条に引き続いて俺は教室に足を踏み入れた───その時である。

 

 一瞬にして教室内が静まり返った。まるで時を止めたかのように、ほぼ全員の目が木原統一に集中する。例外といえば、俺と同じく教室の様子に呆気にとられた様子の上条と、教室の後ろの壁に寄りかかり腕を組んでいる金髪のアロハシャツぐらいのものであった。お前は普通に学校に来たのか土御門……じゃなくてだな。

 

(う……そだろオイ。こんな事ってあり得るのか? あの小萌先生が担任を務めるクラスを、ここまでギスギスした雰囲気にするって……マジで一体何をしやがった木原統一!? あのイギリスの審問会(檻の中)よりも居辛い教室ってどういう事だ!?)

 

 いつまでも立ち尽くしているわけにもいかず、おそるおそる歩みを進めてみるがクラスメートたちの反応は変わらなかった。まるでスポットライトで照らされているかの如く皆の視線は外れないし、チラリと目を向けてみれば瞬時にそっぽを向かれしまう有様である。あらかじめ小萌先生に聞いていなければ、この場で泣き出してしまったかもしれない。そんな事を考えるくらいにはキツい状況だ。

 

(っ……嘆いていても仕方ない、ここから始めるんだ。少しずつでいいからこの溝を埋める努力をしよう。前の木原統一は得意分野が勉強で、不得意分野が友達作りだったんだろうたぶん。なら今の俺は隙のないパーフェクトな存在って事じゃないか!)

 

 別段、俺自身に友達作りが得意などという設定はない。が、今はその事は都合よく忘れる事にする。そうでもしないとやってられないのだ。そんな事を考えながら当ても無くただ真っ直ぐに歩いていたら、上条と青髪ピアスの元へと辿り着いた。お前一体何をしたんだよ、とでも言いたげな上条と目が合う。それは俺が聞きたいよ、という意思を込めながら視線を返した後。時を止めた青髪ピアスの方に向き直った。

 

「お、おはよう青髪ピアス。久しぶりだな」

 

 三馬鹿(デルタフォース)の一員にして唯一の一般人、青髪ピアス。当然ながら本名ではないのだが、担任の先生を含むクラス一同公認のあだ名である。そんな名前が通用してしまうくらいには、クラス内でも人気のムードメーカー的存在……というのは流石に俺の予想でしかないのだが。実は委員長だったりするし、当たらずとも遠からずだと俺は思う。そんな彼への第一声としてはこんなところかなと思いつつ、声をかけてみたのだが……

 

(あれ? ……なんかコイツ、泣いてる?)

 

「き……」

 

「き?」

 

「木ィィィィィィィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥン!!!」

 

 一瞬の出来事だった。どこかで聞いたことのある叫び声と共に、青髪ピアスが突進してきたのだ。当然というか、俺は回避どころか反応すら出来ずにそのまま押し倒され、教室に大の字で倒れこむ事となった。

 

「そんな無理してまで明るく振舞おうとせんでもええんやで! お兄さんの胸の内で、好きなだけ泣けええええー!」

 

「ご……がはァっ!?」

 

 衝撃で肺の空気が一気に吐き出された。そんな俺の様子もお構いなしに、身長180センチ超えの大男は、号泣しながら俺の身体をキリキリと締め付けてくる。息も絶え絶えに助けを求めて上条に手を伸ばしてみるも、上条はその光景に度肝を抜かれているせいか動くことすらもままならないようだ。ならば他はと首を回して辺りを見回してみても、皆目頭を押さえていたり、ハンカチを出して涙を拭いたりに忙しいようで、到底助けなぞ望めない状態である。

 

「……っ!」

 

 そして最後の頼みの綱。アロハグラサンこと土御門元春は、口元を押さえ腹を抱えて笑っていた。まさか……まさか……っ!?

 

(いや間違いない……テメェの仕業か土御門ォォォォォ!!)

 

「幼馴染のお姉さんにあんな勢いでフラれるなんて、ボクには想像もできひん地獄や! だけど自分を見失ったらアカンで木原君! さぁいつもみたいに、ゴミを見るような目でボクを───

 

「いい加減にせんかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「みねぶァ!?」

 

 謎の言葉とともに、横ではなく縦にくるりと一回転して青髪ピアスは吹き飛んでいった。ふと気が付けば目の前には……なんとも言葉にしてはいけない光景が広がっていた。酷く遠回しに言えば青髪ピアスの吹き飛んだ原因は格闘技でいうところの『前蹴り』であり、それを放ったのは長い黒髪が特徴の鉄壁の委員長(実は委員長ではない)、吹寄制理である。

 

「新学期初日からクラスメートに襲い掛かるなんて、相変わらず貴様は理解不能の獣のようね!」

 

 どうやら吹寄は登校してきたばかりのようで、カバンを片手に背負いながらの登場である。彼女はそのまま近くにいた上条を睨みつけ(上条は首をぶんぶんと振ることで無関係をアピール)た後、倒れたままの俺に手を差し伸べる。恐る恐る手を伸ばすと、なにやらとんでもない力で引っ張られその場に立たせてくれた。

 

「あ、ありがとう」

 

「礼なんていいわ。アレは避けようもない害獣だから」

 

「ち、違う! そうじゃないんや委員長! 確かに木原君なら女の子の格好もイケるかなって思ったことはあるけども───

 

 思わず青髪ピアスから距離を取るよう一歩後退る。何が違うんだそれは。というかもしかして、小萌先生の言う「ゴミを見るような目」とはこの事か? だったら先生すいません、これは無理です。

 

「聞いてないわよそんな事! というか何で私が委員長なのよ、本当の委員長はアンタでしょうが!!」

 

 顎に蹴りを食らったにも関わらず、青髪ピアスはそのまま反論を始めた。反論と言ってもその内容は支離滅裂で、なんでも夏休み半ばに悲劇を経験した傷心の俺を慰めたかっただけだ、とかなんとか……悲劇の心当たりがあり過ぎてさっぱりわからん。夏休み中は焼死したり爆散したりと忙しかったし……まてよ、そういやさっき幼馴染がどうとか言ってたか?

 

「僕は見たんや……木原君とゴスロリの子が、なにやら悲しげな雰囲気で別れる姿を! 詮索する気はなかったんやけど、アレは何があったんやろって思て、さっき土御門に聞いてみたら……アレは木原君の幼馴染で、二人は……ううっ……」

 

 そこまで言って青髪ピアスはまた涙を流し始めた。なるほどなるほど。こいつが言っているのはあの電気屋の前での一件だな。どこで見ていたか知らんが青髪ピアスはそれを目撃して、そこから話を膨らませたクソ野郎がいると。ふむ、落ち着け木原統一。ひとまず深呼吸して回れ右だ。目指すはあそこでひーひー笑ってやがるアロハ野郎だな。さて……

 

「つ、ち、み、か、どオオオオオオオオオ!!!!」

 

 こうして。クラスで浮いているらしい男、木原統一。その新学期初日は、クラスメートへの顔面飛び蹴りで幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい皆さん。そろそろ席に着いて下さ───ぬわーっ!? 何をやってますですか木原ちゃん! 土御門ちゃんの首が変な方向にイっちゃってるのですー!?」

 

 そんな声にはっと我に返ると、小萌先生が教室の入り口で口をあんぐりと開けていた。何をやっているかと言われれば、クソ野郎の首にヘッドロックをかましている所ですと答える他ない。残虐ファイトから始まる新学期生活をかましてしまうのは流石に予想外過ぎる……思わず罰の悪い顔を浮かべていると、小萌先生の声を聞きつけた土御門が俺の腕をたやすく振りほどき、颯爽と起き上がってこう叫んだ。

 

「なんでもないですにゃー先生! 木原君には……これはそう、肩を揉んでもらってただけなんだにゃー!」

 

「肩、ですか?」

 

 ガコリ、と鳴ってはいけない音を出しながら首を治す土御門。そんな様子を訝しげに見る小萌先生であったが、やがて何処か諦めたように溜息をついた。

 

「ならいいのですけど……さて、HRを始めますですよー」

 

 教壇に向かう小萌先生に続くように、俺と土御門の対決を見ていた観衆(ギャラリー)も散っていく。そんな中で土御門はさりげなく俺の側によると、周りに聞こえないような声量でこう呟いた。

 

「クラスの雰囲気は掴めたか?」

 

「……お前、まさか!?」

 

「概ね今の感覚で間違いない。それと、木原っちの細腕ならどんなにやっても俺にダメージはないから安心しろ……吹寄の方がキツイくらいだぜい」

 

 そんな事をのたまいながら、土御門は自分の席に歩いていく。もう殆どの席が埋まっている様子を見るに、いつまでもここに立ち尽くしているわけにもいかないようだ。

 

(やってくれたなあの野郎……いや、今は感動に浸ってる場合じゃない。結局自分の席を確認できてないんだった。こうなりゃみんな座って最後に残ったとこに着くしか……)

 

 気がつけば、上条も窓際後方から2番目の席に座っていた。どうやらアイツはさっきの騒動に紛れて自分の席を探し当てたらしい。上条は俺と目が合うと、ちょいちょいと自分の後ろの席を指差す。なるほど、俺の席も探しておいてくれたのか───いや違うな。もうその席には別の誰かが座っている。じゃあ上条は一体何を───

 

「木原ちゃーん? 早く席に着いて下さーい」

 

 ぴょこりと教壇のから顔を覗かせている小萌先生の言葉が、俺の耳元で木霊する。小萌先生だけじゃない、周囲の音が遠ざかっていくような感覚。それが限界まで────極限まで達した瞬間に。

 

 俺と、その人物以外の時が────止まった。

 

「……ああ、すまない。まだちょっと未練があってね。ただこの風景を……もう一度見たかっただけなんだ」

 

 木原統一。静寂が訪れた世界の中で。他でもない俺自身は、寂しそうにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 











 補足:主人公はダイヤノイドを知りません。炭素菌擬人化マスコットもです。

 小ネタに気分を害された方がいたらすいません。

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