とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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 ストーリーノーガード戦法再び。

 ……シリアス成分5%未満につき、茶番に注意。

 









074 賢者謡う陽光の兆し  『9月1日』 Ⅴ

 

 

 

 

 

「……うん? ここは……?」

 

 『木原統一』と出会い、そしていつものように視界が真っ暗になってからしばらくして。目に入ってきたのは天井に煌々と輝く蛍光灯の光であった。

 

(ベッドの上……それにこの薬品っぽい匂いは……ああそうか。意識を失った俺を、土御門が保健室に運んでくれたんだったか。そう『木原統一』は言ってたっけ。そして―――

 

 そこまで思い出して、俺はまた再び目を閉じた。彼の……『木原統一』の最後の話を思い出していたのだ。それは俺の原作知識にも存在しない、まったくもって初耳となる内容であった。

 

(木原としての特性。本来発揮するはずだったそれを阻害していたのが、よりにもよってアレイスターだって? 科学と魔術を切り離すことで?)

 

 俺の記憶に間違いがなければ、彼はたしかにそう言っていた。原型制御(アーキタイプコントローラ)?と呼ばれる何かで、それを実行しているのだと。それのせいで、自分は『木原』を発現できないのだとも。彼の燃えるような瞳はそれが憎むべき真実であると、完全に信じ切っているように見えた。

 

(アレイスター……アレイスターかぁ。たしかにアイツの名前が出れば、何でもアリな気はするけども。それにしたってなぁ)

 

 当然だが、今さら『木原統一』を疑うわけではない。だがしかし、科学と魔術の分離という言葉が、あまりにも漠然とし過ぎてピンとこないのだ。確かにアレイスターは学園都市を作ったし、それより以前にはとんでもない魔術師として名を馳せていただろう。科学と魔術にこの上なく精通しているのは間違いないし、とんでもない陰謀を企んでる系のボス筆頭であるが……それでもだ。このトンでも理論に、俺は素直に首を縦に振ることはできなかった。

 

(魔術が科学から切り離され、それが要因で木原の特性を発動できない……詰まる所アイツの主張が正しいとするなら、魔術はもともと科学の一分野だって事なのか? 流石にその主張はちょっと眉唾な気がするぞ。そもそもの話、学園都市や今こうして明確な形を持った『木原』よりも、魔術の歴史の方がずっと長いはずじゃないのか?)

 

 例えば十字教一つとってみても。魔女狩りのイギリス清教、最大宗派ローマ正教、そして異端狩りのロシア成教と。この三者を見ればわかる通り、はるか昔から今日に至るまで。魔術は魔術としてあり続けたはずである。呪文を唱えたり杖をぶんぶんと振り回していた歴史と実績が彼らにはある。一方でアレイスターといえば。近代魔術師(アドバンスドウィザード)の祖と呼ばれる怪物ではあるものの、所詮彼の生誕から今日までの歴史は百年と少しに過ぎない。仮にアレイスターが科学を切り離した張本人であると言うならば、それ以前には科学と魔術は仲良しこよしな関係性であったのか? この問いにイエスと言おうものなら、ガリレオ先生に地球儀でぶん殴られる自信がある。

 

(そもそも切り離すってどういう意味だ? 表現が抽象的過ぎて想像もつかないぞ……木原統一(アイツ)の勝手な思い込み? もしくは騙されているとか? ……あり得るな。あの様を見る限り、どうにもアイツはしっかりしているようでかなり抜けてる面もあるみたいだし……それにこと『木原』に関しての入れ込みは尋常じゃないものがある。もしかしたら適当な事を吹き込んで、アレイスターへの憎悪を流し込んだ黒幕がいるんじゃないのか?)

 

 ことの真偽はさておき。そんな可能性は頭の片隅に置いておいた方がいいかもしれない。原型制御(アーキタイプコントローラ)なんていう意味深な謎名称も、きっとその黒幕の吹込みじゃないだろうか。そういえば『先生』なる人物がどうとか、前にも言っていた気がするな。犯人はそいつか?

 

(嘘かホントか、こればっかりは保留だな。今度会ったらもう少し細かく話を聞いてみないとなんとも……しかし魔術が科学の一部ねぇ……俺としては逆に、学園都市の超能力開発の方がずっと魔術(オカルト)っぽい気がするけど。それこそ、アレイスターが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか……なんて、流石に妄想が過ぎるか)

 

 考えるべきことがようやく終結を迎えた途端、急激に睡魔が俺を襲ってきた。それもそのはずで、昨日から殆ど徹夜状態の身であるのだ。その上でふかふかのベッドに横になっていれば当然の結果である。おそらく始業式はもう始まっている事だろうし、もうこのまま寝ていても問題は―――

 

「ほう。まさか、そのまま二度寝を決め込む気か?」

 

 大問題があった。不吉な殺意を孕んだその声で飛び起きた直後に。純白の枕に鋭い拳が突き刺さり、中身の羽が大量にぶち撒けられる。

 

「出血大サービスだ。全てを話すだけで許してやる」

 

「……そりゃまた、お優しいこった」

 

 穴の開いた枕にかつての自分を重ねてしまう。思わず皮肉を呟いてしまったが、心からの言葉である事に変わりはない。この男が本気で俺の頭をぶち抜くつもりなら、俺なんかが目を瞑った状態から避けられる様なノロい拳を打つはずがないのだ、と。そんな優しい計算を考慮に入れつつ、両手を上げて降参のポーズを取ると同時に、俺はベッドの上で胡坐をかきながらその襲撃者と向き合った。

 

「この期に及んで、隠し事をする気はないから安心しろよ。それに、俺も優しい陰陽師様に聞きたいことがあったからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー、ここがとうまの学校なんだね」

 

「Indeed,そして統一君の学校でもあるのだけれど……なんというか、見た目が少し古い様式の学校なのね。彼が選んだにしては意外だわ」

 

 時を同じくしてとある高校の正門前。そこにはなんともアンバランスな二人組が到着していた。片や学園都市で名門校と名高い、長点上機学園の制服の上から白衣を着こんだ少女。そしてもう一人は、ドラマか何かの撮影かと思われてしまいそうな、純白の修道服を纏った女の子である。

 

「早速とうまを探すんだよ。お昼ご飯がかかったおおいちばんってやつかも」

 

 イギリス清教所属のシスターであり、10万3000冊の魔導書を記憶した魔導書図書館。Index-Librorum-Prohibitorum、通称禁書目録(インデックス)と呼ばれる女の子は、獲物を狙うかのような眼光でそう呟く。その女の子の首輪の綱を握るかのような間合いでもって、やや後方に控えていた白衣の少女は呆れたような声を発した。

 

「ついさっきお昼のお弁当を完食した人間の言葉とは思えないのだけれど。それに『今日はどうせ始業式だから午後には帰る』って、あの二人は言ってなかったかしら」

 

 布束砥信。長点上機学園の元生徒にして生物学的精神医学の研究者。それと同時に学習装置(テスタメント)の開発者でもある。諸事情により学校を辞めてしまった身の上で、長点上機学園の制服を着ているのは正確には不適切ではあるのだが……この服装以外となると、持ち合わせていた愛用のゴスロリ服(それと最近手に入れた白ゴス含み)しか選択肢が無くなってしまい、新学期初日に彼氏の学校へゴスロリで電撃訪問する気概のない彼女は、結局この格好に落ち着いたのであった。

 

 そんな事情も相まって。彼女の憂いもどこ吹く風で、目の前のずんずん先陣を切るティーカップ風な修道服ちゃんに、布束は若干の敗北感を感じていた。あくまで自分の好みで着ているのか。はたまた想い人の好みを反映した服装であるのかはわからない。だがどちらにせよ周囲の視線を気にしない彼女の度胸が凄まじい事に変わりはなく。そして彼女と一緒に住んでいるツンツン頭の高校生は、実はとんでもない変態なのかもしれないと。布束は頭の片隅にそんなメモを書き留めた。

 

「うん、ちゃんと覚えてるよ。でもとうまのことだからまた何かトラブルに巻き込まれて、時間通りに帰ってこない可能性の方が高いかも。それでお腹を空かせて待ってたら、遅い時間に別の女の子と一緒に帰ってきたりするんだよガルル」

 

 実際にはまだ何もしていない家主を仮想敵とみなし、ガチンガチンと歯を鳴らす。そんなインデックスを見て、布束はなるほどと嘆息した。

 

(ご飯は口実で、実際は浮気性の彼への牽制が目的……この子、こう見えて意外としたたかなのね。事後ではなく現場を押さえるのが有効、か。あのメイドさんもそうだけど、今日は学ぶことがとても多い日だわ……そして上条君は要注意人物ね。友達としてよろしくとお願いはしたけど、彼に変な事を吹き込まないように見張っておかないと)

 

 本人のいないところで株の大暴落が止まらない。新学期初日の体育館で、ツンツン頭の高校生は盛大にくしゃみを炸裂させていた。

 

「ま、その件に関しての詳細は後で問い詰めるとして……Well,ひとまずこの大冒険はここまでね。これ以上は学校のセキュリティに引っかかるし、これ以上は―――」

 

 そう言いかけて布束がふと顔を上げると、話しかけていたインデックスの姿が無い。慌てて辺りを見回してみれば、とてとてと校舎に入り込もうとしている白い猛獣の姿があった。急いで追いかけるも時既に遅く。白地のひらひらを追って、閉じかけたドアに滑り込む形で布束も校舎へと入り込む。ずらりと並ぶげた箱を一足飛びですっ飛ばすと、ふらふらと廊下をうろつくインデックスを視界に捉えた。

 

「ちょっと! これ以上進んだら本当に捕まるわよ。すぐにでも侵入者対策の警報が……?」

 

 だがしかし、布束の予想に反してそんな警報は鳴り出さなかった。校舎のドアどころか、本来であれば敷地に入り込んだ時点で鳴ってもおかしくないはずであるのだが、その兆候はまったく見られず。それどころか駆けつけてくる風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)の姿さえ現れない。そんな現状を前に、布束砥信の優秀な頭脳は大混乱に陥っていた。

 

(まさか、そんなはずが……統一君の強度(レベル)が上がったのはつい最近、それでも大能力者(レベル4)を有していたのは間違いないはずなのに……? この学校のセキュリティはどうなってるの?)

 

 不肖、布束砥信。研究者にして優秀な学生たる彼女であっても、やはり無知な分野というものは存在する。この場合の無知とは、木原統一が置かれている『木原』のはみ出し者という特殊な立場。そして木原統一以前に、幻想殺し(イマジンブレイカー)吸血殺し(ディープブラッド)、学園都市統括理事会の頭脳(ブレイン)を務める少女が在籍するという、魔境のようなこの学校のステータスについてである。

 

 秘匿自体はされている。だがその種別は超能力者(レベル5)を有する有名校よりさらに上。守られている事自体を誰にも悟らせないような、周囲の風景に完全に溶け込むことを目的とした防衛網である。

 

「しのぶ、大丈夫?」

 

 インデックスが声をかけると、布束はハッと気がついた。常識外な警備体制の学校に驚いている場合ではない。捕まる気など毛頭なく、鳴らないのであればそれでいいのだ。今は一秒でも早く、とっととこの爆走ティーカップ風少女を連れて脱出しなくてはならない。

 

「さ、早くここを出ましょう。警報装置が動いてなくても、巡回くらいは流石にあるでしょうし。始業式が終われば、生徒達も戻ってくるかもしれないわ」

 

「むー、せっかくここまで来たのに……」

 

 頬を膨らませながらも、渋々と従うインデックスに布束は胸を撫で下ろした。万が一にもここで駄々を捏ねられてはたまらない。気が変わる前に早く行こうとインデックスの手を取り、校舎のドアに手をかけた……のだが。

 

「あれ? 門の前に誰かいるかも」

 

「……」

 

 ドアに備え付けられた窓越しに、布束とインデックスはジャージ姿の二人組の姿を校門前に捉えた。一人はジャージの上からでも筋肉が自己主張してしまっているような、長身の男性。そしてもう一人は……ジャージの上からでも女性的な部分が自己主張してしまっているような、ポニーテールの女性である。

 

「あの人たちならとうまの居場所を知っているかな? ちょっと聞いてみムゴッ!?」

 

 ドアを開け駆け寄ろうとしたインデックスの口元を、布束は凄まじい速度で塞ぎにかかった。そのままずるずると引きずり、げた箱を越え廊下の陰まで引きずり込む。

 

警備員(アンチスキル)……まずいわね、このままだと……)

 

 布束の脳裏に描かれるのは明日のニュースサイトの最初の一行。『長点上機学園の元生徒 修道服の少女と共にとある高校へ不法侵入』である。自身の名誉だけではない。事と次第によっては木原統一にまで飛び火しかねない失態。それを考えただけで、妹達(シスターズ)を擁する研究所へ破壊工作を仕掛けた時以上の緊張感が彼女を包み込む。内部構造の不明な学校からの脱出、校舎の入り口への警戒。もはやそれ以外の事は彼女の意識にはなく、青い顔をしてバタつくインデックスを、布束は無意識に拘束し続けていた。そして―――

 

「あの……そろそろ手を離してあげた方がいいんじゃないかな?」

 

 不意に聞こえてきた、透き通るようなか細い声。思わずインデックスを拘束していた手を離し、布束が振り返るとそこには。

 

 3人目の侵入者。見慣れない高校の制服を着た女の子が、布束達の前に佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不意のアクシデントによる気絶。そしてもう一人の自分との邂逅、か」

 

 およそ10分にも満たない自白により、土御門への説明は終了した。とはいえ、木原数多を救うために『木原統一』と交わした約束、そして聞かされた『木原』や魔術に関する与太話などを適当に省いた結果。まともに話せるのは「うっかりミスで気絶しちゃったぜ、ごめんね」という内容しか残らなかったのだが。そんなふざけた報告がもたらしたものは、丸椅子に座り某有名な彫像のごとく思い悩む陰陽師の爆誕である。

 

「あのー土御門さん? 今の話を聞いて、何をそんなに思い悩んでいらっしゃります? まさかまた俺の話の疑わしい点があるとかないとか……?」

 

 もしそうであるならば、疑惑の芽は最優先で摘み取っておかなくてはならない。なにしろこの陰陽師、色々と抱え込んだ果てに一気に爆発する口なのである。まぁ土御門自身は本気で世界を守るために動いているだけであり、原因は100%俺にあるわけなのだが。俺自身が無自覚で爆弾の導火線に火を点け、土御門自身が極限まで爆発の予兆を表に出さない性質である以上、導火線の小まめな確認のみが、爆発を回避する唯一の方法なのである。

 

「疑わしい……? いや、そうじゃない。俺が気になっているのは、今の木原っちの現状についてだ」

 

 どうやら俺の脳天はまだ平穏無事に過ごせるらしい。その事実に安堵しつつも、俺は土御門の言葉に首を傾げた。

 

「俺の現状? というと……始業式をサボって保健室で寝てる今の状況の事か? いやそりゃ悪いとは思ってるけどさ」

 

「……まったく。木原っちと話してると、自分がここまで頭を巡らせてるのが馬鹿みたいに思えて来るぜよ」

 

 見つけ次第殺せ(サーチアンドデストロイ)の如き殺気マシマシモードが終息したと思えば、盛大にため息をつき、小馬鹿にしたような呆れ顔を土御門は向けてきた。結構気にしているんだけどな、始業式をぶっちぎって保健室でサボっているこの現状……まぁ二度寝を試みようと思う程度には開き直っているのも事実だが。

 

「木原っちともう一人の『木原統一』……多重人格とは違う、二つの意識の混在する状態。それが一体どういう原理で成り立っているのか、心当たりはあるのか?」

 

「……うん? 何かと思えばそんな事か。そういえば考えたこともなかった……ってのは流石に冗談だが。考えても仕方なさそうってのが正解だな。それって重要な事なのか?」

 

「当たり前ぜよ。こちとらぶっ倒れた木原っちから、いつアイツが飛び出してくるかとひやひやしてたんだぜい。そんな爆弾みたいなもん抱えて保健室に走った俺の気持ちにもなってみろってんですたい」

 

「お前な……さっきその爆弾の脳天をぶち抜こうとした事忘れてねえか?」

 

 と苦し紛れに返したものの。土御門の意見はぐうの音も出ないほどの正論であった。どうやら爆弾は土御門ではなく俺の方だったらしい。

 

(しかし原理と言われてもなー……AIM拡散力場が関係しているってのは、以前にアイツが土御門をボコりながら呟いてたっけ。正直この時点で何でもアリな気がするんだよなぁ。幻想猛獣(AIMバースト)とか、風斬とかエイワスみたいな天使を構成、現出しちゃうようなトンでも力場。一方通行(アクセラレータ)は能力で黒かったり白かったりする翼を噴出するし。挙句の果てにはその力場に意識を……っ!?)

 

 あった。一度閃けば、何故この結論にここまで至らなかったのかと小一時間問い詰めたくなるような答え。詳しい原理などは知らない。実際にそれを目にしたことも無い。だがそれを成し遂げた事例だけは知っている。いいや、正確には成し遂げるはずの、悲運な結末を迎える人物。

 

人的資源(アジテートハレーション)プロジェクト。AIM拡散力場を濃淡コンピュータの原理に当て嵌め、人間の意識をOSとしてインストールする技術……統括理事会の一角、薬味久子が引き起こすはずの事件。そしてあの事件の真の黒幕は……木原唯一!)

 

 計画の実行犯は薬味久子だが、そこまで彼女を誘導したのは木原唯一だ。どこまでが木原唯一の計画(プラン)で、どこからが薬味久子の計画(プロジェクト)なのかはわからない。だが重要なのはそこではなく―――

 

(俺自身の存在を除けば、この技術で今の状況に一応の説明はつく……だけど、そもそもAIM拡散力場自体がヤバイ代物な上に、そこに手を加える応用技術(ノウハウ)となると学園都市の中でもトップクラスの機密情報になるはずだ。そんな技術を木原一族の外れ者がそう簡単に入手できるとも思えない……つまり、木原統一(コイツ)にその知識を吹き込んだ人物は……)

 

「……どうやら心当たりがあったみたいだにゃー」

 

 土御門の声に、俺ははっと我に返った。どうやら傍目から見てもわかるぐらい思索に耽ってしまっていたらしい。

 

「……まぁ、な」

 

「なるほどなるほど……その雰囲気から察するに、あるにはあったが俺には言えないパターンの訳アリ話ってとこぜよ?」

 

 たしかに土御門の言う通り、俺が話せる事は何もない。殆ど確証がない与太話な上に、『人的資源(アジテートハレーション)』に至っては、原作において土御門元春が過去最大級に窮地に追いつめられるNGワードであるのだ。『AIM入門編~色々すっとばして天使光臨~』な旧約6巻の世界に、『ウルトラAIM応用編~英雄撲滅キャンペーン開催~』な新約7巻を到来させる気は俺にはない。魔術サイド代表ゴーレムエリスの前に、科学サイド最強ゴーレム恋査出動のフラグは、たとえ土御門に怒られようとも全力でへし折らせてもらう他ないのだ。

 

「……わかってると思うけど、銃を向けて吐かせるってのは無しで頼むぜ」

 

「当然。まさか、俺がクラスメートにそんな酷い事する奴に見えるのかにゃー?」

 

初対面(こんにちは)からそうだったよクソ野郎!」

 

 あの路地裏デート(保護者(ローラ)同伴)の件は今でも忘れない。そんな俺のツッコミに対し「そういえばそうだったにゃー」と土御門はとぼけて見せた。

 

「さてさて、木原っちの安否も確認出来たことだし……俺は仕事に戻るとするかにゃー。今更始業式に戻る気もなし、このままフケるとするぜよ」

 

「仕事?……まさかその仕事ってシェリーの件か? やっぱりアイツは学園都市に?」

 

 学校に到着してからというもの、ごたごた続きでシェリー襲撃の件がすっかり頭から吹っ飛んでしまっていた。いくら土御門に相談済みと言っても、本来であれば教室で土御門に会った際に真っ先に聞くべき案件のはずである。

 

「いーや、ただのちょっとした情報収集だにゃー。木原っちに頼まれてたシェリー=クロムウェル離反については……今のところその兆候は無いみたいぜよ。なんでも極秘の任務に就いているとかなんとかで、絶賛仕事中のようですたい。ちなみにこれは、イギリスにいるねーちんから聞いた情報だにゃー」

 

 俺の不安をよそに、土御門がら帰ってきた返事は意外にも「NO」であった。これが「最大主教(アークビショップ)からの情報だよ」と言われればまだ疑いの余地はあったのだが(というかその場合、むしろ襲撃の線が濃厚だと判断するが)神裂からと言われればケチをつける余地もない。

 

「神裂の……そう、か。それならいいんだが……」

 

 予知は外れた。別段、未来を当てられなかった事を無念だと思う気持ちはない。来ないならばそれに越したことはないし、警備員(アンチスキル)変態淑女(ジャッジメント)、上条にインデックス、そして風斬氷華……原作において、シェリーの襲撃に被害を受ける人たちは少なくはないのだ。その悲劇がないというのは、諸手を挙げて喜ぶべき事柄であるはずなのに。それが出来ないのは、俺自身がまだこの世界の住人に成り切れていない証拠なのだろうか。

 

(風斬とインデックスの絆が深まるエピソードであったことは間違いない。だけどそこに、必ずしも悲劇がある必要はないはずだ。普通に出会って、普通に笑って、そうやって過ごすだけでも仲良くなれるはずなんだ。出会いや別れ、始まりと結末。その分岐に俺が罪悪感を抱く権利は無いと、アウレオルスが死んだときにそう結論付けたはずだ)

 

 つまるところ、俺の抱く違和感の正体はそこではない。ではこの身に湧き上がる違和感の正体、それは何なのかと考えた途端。思わず口から「ああ」と感嘆の言葉が漏れた。

 

「……木原っち?」

 

「いやスマン。大した事じゃないんだが……いや、それは嘘だな。個人的には大事だが、俺の問題だ。気にしないでくれ」

 

「……このタイミングでそれが通用すると、本気で思ってるのか?」

 

「思ってねえよ。だからスマンと謝ったじゃねえか」

 

 ほんのり怒気を孕んだような声。どうやら意図せずして土御門を不機嫌にさせてしまたらしい。まぁ別段隠すような事でもない。少なくとも、土御門には既に俺の事情を話してあるわけだし。言ったところで、何かが変わるわけでもないだろう。

 

「ただ……いよいよ以て、俺の知識(予知)があてにならなくなってきたなって思っただけだよ。先が見えない不安もあるけど、登場人物(一般人)に近づいてきた嬉しさもあって……その、なんだ。とにかく複雑なんだ」

 

 そう告げると、土御門は偉く神妙な顔つきになった。今までにないパターンだな。真面目、不機嫌、ご機嫌、悲哀、歓喜……どれにも当てはまらない顔だ。

 

超能力者(レベル5)で魔術師で、二重人格もどきな木原っちが一般人……?」

 

「……いや、そういう意味ではなくてだな……あーわかった。頼むから真面目に困惑するのはやめてくれ」

 

 改めて聞くと酷いプロフィールだ。実際は超能力者(レベル5)(暫定且つ最下位)だし、魔術師と言ってもインデックス基準なら魔術師見習いなんだが……さらに言うなら二重人格の方はもどきではなくパーフェクトだったりする。畜生、どう転んでも一般人には程遠いか。

 

 そんなこんなで、現実の酷さに俺が軽くうなだれていると。急に土御門が保健室の丸椅子から弾かれた様に立ち上がった。壁を見つめること数秒、その後携帯を取り出し画面をチラリと見た後で。俺のベッドの周囲に医療用カーテンをかけながら、おもむろに窓際へと近づいていく。

 

「……なんだ? どうした土御門?」

 

「いやー、ちょいと長居しすぎたみたいでにゃー。どうやら時間切れのようですたい。それじゃ、裏切り大好きな土御門さんは、ここいらでおさらばするとするぜよ。あばよ木原っち」

 

「あん? おさらばするってお前、何でわざわざ窓から……ってマジかよアイツ……」

 

 静止も質問も間に合わず。土御門は二本指で軽い敬礼のような動きを見せ、窓を飛び越えて姿を消してしまった。窓からと言ってもここは1階なので、特に何か危険があるわけではない。だが、自分の所属している学校で、あそこまでそそくさと立ち去る理由が不明である。方角的に考えても、下駄箱への移動ならドアから出て行った方が早いはずなのだが。

 

(何やら只ならぬ雰囲気だったけど、何も言わないって事は俺が知らなくても良いことなんだろう……考えるだけ無駄か。アイツの場合『不良っぽい方がモテるかもしれない』なんて理由で髪を染めてるし、わざわざ窓から脱出するのもアイツなりの不良擬態(ロールプレイ)だったりするのかもしれない)

 

 嘘か真か、どちらに転んでもスパイはつらいよといったところか。ひとまず強引に納得すると、俺は穴の開いた枕へと勢いよく倒れこんだ。魔術師(シェリー)の襲撃が無いとわかり、ようやく胸のつかえが取れた気分である。何度か忘れかけていた瞬間こそあったが、やはり完全に『無い』と告げられるのとは安心感が違う。とある魔術の禁書目録(原作知識)における事件簿の中で、完全に回避できた事件ではこれが初めてではないだろうか。

 

(その分、今後どうなるか予測がつかなくなってくる懸念はあるが……ま、シェリーの件はぶっちゃけイギリス清教内で完結している事件だからな。本命のローマ正教との軋轢にはそこまで干渉しないだろう……そういう意味ではむしろ気にするべきは、ウィンザー城での一件の方だしな)

 

 当然というか、横になった俺に再び睡魔が襲い掛かってきていた。もはや爆睡を妨げる要因は存在しない。シェリーの件は解決、土御門への弁明も済んだわけだし……それにインデックスの学校襲撃フラグだって「昼には帰る」とあらかじめ告げることでへし折っている。

 

(想像以上に……完璧な状態だ……俺も、成長したって……事、な……)

 

 

 

 

 

 

 ―――そして。木原統一が眠りについたその5分後に。

 

 土御門元春が窓から脱出しなくてはならなくなった要因。とある3人組が保健室の前へとたどり着いた。

 

 

 







 お察しの通り、次回も茶番です。



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