7月24日を全部書けるかなと思ったらそんなことはありませんでした。
木原数多の口調なんて簡単かなと思ったらそんなことはありませんでした。
戦闘に入ればサクサク進む、そんなことを考えていた時期が一瞬だけありました。
全部幻想だったんや……
「あーあー、まったくよぉ。痕跡を残さねぇ謎の襲撃者の正体が、こんなコスプレ変態野郎とはなぁ……」
廃工場の入り口、周囲を金属の壁で覆われた空間唯一の出入り口に、純白の白衣を纏った男、木原数多が立っていた。服装は木原統一が見てきたいつもの服装とまったくかわらなかったが、背中に給水機のようなものを背負い、そこから伸びた管は木原の右手にあるバズーカのようなものに繋がっている。
「……聖職者の服装をコスプレ呼ばわりとはね……ふざけた国だなまったく」
人を丸焼けにする聖職者なぞいてたまるか、と木原統一は内心でツッコミを入れる。原作でもそういう描写は一部あるが、どう考えてもステイルの本業はソレではない。ステイルはタバコを吹かしながら、統一に背を向ける形で相対する侵入者を睨んでいた。一見して余裕の表情だが、木原数多に対しての警戒は微塵も緩めてはいない。
「聖職者だぁ? おいおい、『木原』に嫉妬したインテリちゃんの暴走かと思ったら、ただのイカれサイコ野郎が暴れてただけでしたってかぁ?」
やれやれ、といった感じでうなだれる木原数多。
「監視カメラの映像改竄、バンクの記録改竄、さらに今回は精神系能力者の人心誘導まで使っといて、単独犯でしたなんて筋書きで済むと思ってんだったら、マジでどうしようもねぇ奴だなおい」
木原数多の言葉に、ステイルは眉をひそめる。どうやらこの男とは完全に話が噛み合っていないようだ。
木原数多のいう情報操作は、確かに行われていた。だがそれは学園都市側がステイルや神裂、そして
科学側との接触はすなわち、そのまま戦争に発展してしまうかもしれない危険性をはらんでいる。直接の衝突はもちろんだが、双方の情報が漏れるような事も当然避けなければならない。幸いなことに、今回は禁書目録をこの街に逃げ込ませてしまった学園都市側の落ち度もあるということで、情報の隠蔽は学園都市側が行い、一部のVIPを除き最低限の殺しは許可、そして魔術側の人間には不干渉を貫く、という内容でイギリス清教
で、あるならば、この白衣の男がこの場に現れたのはどういうことなのか。様々なセキュリティに囲まれたこの街で、抗争の火種になりかねない人間一人を、見逃していたなんてことがあるのだろうか? 最低限の殺しは許可、というのはなにも魔術側に限った話ではない。科学側にも科学側の人間を殺す許可は下りている。あのアロハ陰陽師が、抗争の火種となるような人物を見逃すはずが無い。
(だとすれば、この男は泳がされている? いや、そんなリスクの高いことを土御門はしない。この男が殺しの許可が下りないVIPの一人……? いや、ならば手厚く保護されて、この場に来るはずもない。つまり)
(……学園都市そのもの、ということか)
ステイルは歯噛みし、すぐさま臨戦態勢へと移行する。この街には味方が数えるほどしかいない。そんな中、敵対勢力のど真ん中に禁書目録を置き去りにしている状況は、ステイルにとって由々しき事態だった。
(この場にいる二人を消し炭にしてから禁書目録を探す。いや、その前に神裂との合流が先か)
「Fortis931(我が名が最強である理由をここに証明する)」
魔法名、魔術師が魔術師である理由を表し、そして魔術師の間ではそれは
殺し名、相手を必ず殺す。その覚悟を表す言葉だった。
(……なんだコイツは)
自分の息子につけた発信機の反応をたどり、行き着いた先にはコスプレ姿の変態がいた。というのが木原数多の抱いた最初の感想だった。
(ふざけた格好している割には、修羅場は潜り抜けてきたっていう顔つきだ。こいつの
能力使用の補助に、なんらかの物を使用する能力者は確かに存在する。懐中電灯やリモコン等の、単に目印、目標を設定するために使う者もいれば、薬に頼らなければそもそも能力を使用できない者、他者の視覚情報、
と、そこまで思案しておいて木原数多は別の可能性にたどり着いた。この工場を囲むようにかけられた精神系能力者の人心誘導。もし目の前の男が、コレとは別の精神操作を受けていればどうだろうか? Level4相当の
「Fortis931」
目の前の修道服が、意味不明な言葉と数字を口にした。なにかの符号か、命令文だろうか? これはいよいよ後者の説が濃厚になってきた。
「ははっ、スゲーなオイ! ここまで舐めた真似されて、まだイラつくようなことがあるなんてよぉ……」
カチャリ、と木原数多は右手にもった武器の銃口をステイルに向けた。
「とりあえず、
文字通りの、戦いの引き金が容赦なく引かれた。
いくらステイルが科学に疎いと言っても、バズーカ砲の存在くらいは知っている。もっとも大きな銃という程度の認識でしかないのだが、この場においてはその判断で間違ってはいなかった。
木原数多が銃口を向けた瞬間、ステイルは右に走り出していたのだ。
引き金が引かれた銃口から射出された何かは、ステイルの左肩付近を視認不可能な速度で突き抜けた。そしてそれは、そのまま
(……アレは何だ?)
同じく、敵の武器の効力を確認しようとステイルも壁を振り返った。一見して凹んだ壁にはなにも見出せなかったが、統一と違い悠長に観察している暇は無い。
(すぐに第2波が来る。悠長に詠唱している時間は無い。だとしても)
目の前にいるのはおそらく科学サイドの人間。魔術に対抗する手段の無い者など、自分の敵ではない。牽制用の炎でも、防ぐ手段の無い者には致命傷にすらなり得る。ステイルが右腕を振ると同時に、オレンジ色の軌跡が描かれる。いつもの3分の1程度の勢いしかないその炎は、ただ目標を焼くために木原数多へと向かっていった。
「おいおい、こんなんじゃバーベキューにもなんねぇぞコラ」
バシュッ!というはじける音がすると同時に、霧状の物が発射され、ステイルの炎が掻き消えた。先ほどとはまったく違う射出音だが、本質的には同じものだとステイルは直感した。
(水……? いや、ただの水じゃ僕の炎は簡単には消せないはずだ)
「学園都市製の最新鋭インパルス消火システム……って言っても、わかんねーよなぁ。こんなドマイナーな機械。俺だって実物見たのはごく最近だしな」
カチャリ、と銃口を向け直し、木原数多は続けた。
「遠近対応型の消火器だよ。ま、暴動鎮圧とかにも使われるみてぇだし、おいたがすぎた
ステイルは、魔術に対抗する術の無い者は敵ではないという先ほどの評価を改めた。自らの武器が炎であることは、既に向こうに知られている。それは承知の上での戦いのはずだった。
科学者という存在。まして『木原』という存在は、畑違いではあるがその解析力と対応力は一流の魔術師にひけを取らない。Level4相当の発火能力者を死なせず、単機で捕獲するための携行可能武装、という命題に出した木原数多の答えがこの武器であった。
インパルス消火システム。背中に背負ったバックパックの中身である水と圧縮空気を、手元の砲身から撃ち出す消火装備である。初速は時速300kmを超え、霧状に発射された水はその気化熱で対象の熱を奪う。学園都市製のこの物騒な機械は通常の消火機能に加えて射撃補助機能、威力調整、発射する水の範囲調整なども自由自在。効率のいい消火法を突き詰め、学園都市独自の消化剤やらなんやらを詰め込み、ただでさえ重いバックパックの軽量化をはかり、初心者でも安全に撃てるように砲身の制御・安定化を研究しetcetc……様々な機能をつけ、あらゆる炎から人を守るという理念の下に生み出されたその消火器は、輸出されれば学園都市外の銃火器業界に革命が起きるという唯一の欠点によりあまり普及しなかった、という裏事情はステイルはもちろん木原数多も知らぬところである。
木原数多の説明を聞き流したステイルだったが、その銃口を下げた瞬間を見逃さなかった。
「
轟ッ! という音とともに、ステイルの両手から、先ほどの炎とは比べものにならないオレンジ色の爆轟が放たれる。
その火力は、離れたところで見ている統一が熱風で目を細めるほどの勢いだ。いかに学園都市製だとはいえ、霧状に散布した水では到底防ぎきれるものではない。
「焼け死ね!」
「おーおーさっきよりゃマシな火力じゃねーか! あぁ!!?」
ボンッ! という音と共に、水の塊が発射されステイルの炎は白い霧となって掻き消えた。先ほどの霧状の射撃とは異なる攻撃用の水塊での迎撃は、ステイルの詠唱有りの炎すらも一撃で消火した。
「無駄な努力だってんのがわかんねぇのか? 今すぐ使い捨てのボロ雑巾にしてやっから、黙って突っ立ってな!」
ステイルは回避に徹することしか出来なかった。ステイルの炎とは違い、消火器の方は連射がきくのだ。二度三度と連射される水弾を、ステイルは走りながらかわし、工場中の柱の影に隠れた。
(さすがに柱を貫通する威力はなさそうだ。それに、あれだけの水量を背負っているのだから小回りは利かない。まずは入り口から誘い出し、足でかく乱しながら機会を待つしか……!!?)
カチャリ、という金属音がしたと思えば、木原数多が既に柱の横へ回りこんでいた。10m以上はある距離を、おそらく20kg以上はあるであろう重装備で、一瞬で詰められるものなのか?
などという疑問を思考している場合ではない。くるりと身を反転し、柱を影にしてその銃口から身を隠して走り出す。
木原統一は先ほどまで死ぬ一歩手前だった恐ろしい心境から回復しつつあった。まだ足は動かないが、冷静に戦況をみることくらいは出来るまでになったのだ。インパルス消火器の存在こそしらなかった統一だが、目の前で木原数多が高速移動した要因は理解できた。おそらくだが、木原数多、自分の父親が使用しているのは
(肉体にかかる負荷だって当然あるはずだ。戦況が長引けば
助けなければ、という考えが頭をよぎる。だが、木原統一はなにもできなかった。
(……助ける? どちらを助ければいいんだ?)
原作にない展開、原作にないマッチング、そして
原作に存在しない、自分
親子として、木原数多を助ければいいのだろうか。
悪人だという理由で、木原数多と敵対すればいいのだろうか。
禁書目録を助ける目的で、ステイルに味方すればいいのだろうか。
自分を襲ってきたという理由で、ステイルをぶん殴ればいいのだろうか。
……そもそも、自分にできることなどあるのだろうか。
もはや自分がなにをすればいいのかがわからない。そもそもの自分の目的はなんだった? 原作の進行の確認? もうどうしようもなく、修正が可能かどうかもわからないぐらいにそれは、ズレてしまっているではないか。
各々が各々の理由で、信念で戦っている。それは、かつて文章から幾度となく視た光景と同じとも言えるし、違うとも言える。ここまで美しいとは思わなかった。ここまで残酷だとは考えなかった。ここまで神聖だとは想像もしなかった。信念ない者に、この場に立つことは許されない。ここは命をやり取りする場なのだから。
そう。彼らはいまここで、この場で、この世界でたしかに、生きているのだから。そんな彼らの戦いに、生きる意味も、戦う
当事者と傍観者、ページを刻む者とページをめくる者。その違いを、どうしようもなく、木原統一は感じていた。
水弾が柱に突き刺さる。次の2撃、3撃目を防ぐ手段はなく、射線上にまっすぐ逃げるステイルは格好の的である。木原数多はこれで仕留めたと確信した。だが、ステイルの背骨をぶち折り、昏倒させるはずの一撃は、ステイルの真横を通り過ぎた。
(……狙いが甘かったのか?いや、そんなはずはねぇ。この距離なら飛び回るハトでも肉塊に変えられるはずだ)
移動速度ならステイルに圧倒的に勝る木原数多だが、水弾を撃つときにはさすがに足を止めざるを得ない。距離を取ろうというステイルの動きは手にしている消火器の餌食だと確信していたのだが、その期待は見事に外れ、距離を開けられてしまった。
(機械は正常。俺の身体にも異常なし。となるとあとは視覚情報への干渉か弾への直接干渉……炎。熱……なるほど、そういうことか)
魔術に関する知識は無い。だが目の前で起こった現象は、夏場のコンクリートジャングルならごく一般的に見られる現象だ。蜃気楼。炎による制圧を得意とするステイルの数少ない絡め手は瞬時に看破された。木原数多の手元にあるのは学園都市製の消火器である。本来火災現場で使用されるはずのその機械は、当然温度差による屈折現象に対応するための機能もついている。
(だがこの消火器には対能力者用の計算機能はついてねぇ。自然現象の炎による屈折現象と能力者のソレとではどうしても差異がでちまう)
チラリ、とステイルが走り去った床に木原は視線を下げる。そこには一見ランダムに見えるように配置されたルーンのカードが散らばっていた。ステイルはルーンのカードを起点とし、温度差を発生させて蜃気楼を作り出したのだ。木原数多の持つ消火器の機能では、10m以上離れた標的を、通常の屈折現象ではない、能力者による視角阻害を受けながら射撃を命中させることはできない。だが、
(機械ができなきゃ俺がやるってなぁ!!)
材料はある。手元の消火器付随の計測器には今映っている景色の全てが数値で表されている。
未来において、
難しいことではない。天才の考えは天才にしかわからないし、将棋の棋士は囲碁の棋士の次の一手を読むことはできないのだ。有する知識、相対する場、そして技量。これ等が釣り合わなければ、駆け引きというものは成立しない。自然現象に対する
木原は銃口を構え直し、ステイルには到底当たらないような方向へと射撃を開始する。
バシッ! とステイルの耳にしか聞こえない音が響いた。ステイルの左肩を、木原数多の射撃が捉えたのだ。
「ッ!」
直撃ではない。だが掠めただけのその一撃は、さながら肩をバットで殴りつけたような衝撃をステイルに与えた。痛みと疑問の表情を浮かべつつ、バランスを崩したステイルは膝を突く。
「ぎゃはははは!! 一発目で命中か!? 素直ないい子で助かるねーハハハッ」
ステイルは驚愕した。蜃気楼による妨害を突破しステイルに命中させた今の一撃は偶然ではないということを直感したからだ。蜃気楼を看破されたことは多々あるものの、その術式の内容、科学側から言わせれば計算式をこれほどまでに早く見抜かれたのは初めての経験であった。
「……くっ!
「あぁ!?」
振り向きざまに一撃を放つステイルだが、木原数多の顔に焦りはない。
瞬時に銃口を合わせ、冷静に炎を打ち落とした瞬間、地面に撒かれたルーンのカードから炎が飛び出すまではだが。
初撃は
「
目の前の相手が炎に飲み込まれたにも関わらず、ステイルは呪文を唱え始める。
「
ステイルの手元からルーンのカードが大量に吹き荒れる。
(あの白衣の男がアレでやられたとは思えない。そしてこの機会を逃せば、おそらく次はない……)
それはすなわち、ステイルがそこまで追い詰められているということを示していた。
「
「あーあーあーうるせんだよ!」
バスッ、という音とともに放たれた一撃は、ステイルの顔のすぐ真横を通り過ぎた。火炎の中、木原数多は無傷で立っていたのだ。
(対火服に耐熱ジェル、消火スプレーに霧状射撃でやっとこさって感じかァ……さてと)
目の前にいるのはルーンのカードを撒き散らしながら何かをブツブツと呟く変態コスプレ男。
(能力補助のアイテムを大量に撒き散らして、どれが本命かわからなくする作戦ってやつか)
「
「無駄なんだよなぁ……まったくよー」
(奴がなにをごちゃごちゃと抜かしてんのかはわかんねぇが)
「それで誤魔化せると思ってんのかぁ?」
その瞬間、木原数多の目には、蜃気楼を展開するためのカードと
「
引き金が引かれる瞬間、ステイルは叫んだ。
「『
紅蓮の輝きを放つ炎、摂氏三〇〇〇度の炎の巨人。
木原数多「俺こんなに強いんか?」
……どうだろうか
木原(親子)語録 ステイル呼称
子:
変態
ロリコン
ホモ
クソ神父
父:
コスプレ変態野郎
イカれサイコ野郎
どうしようもねぇ奴
素直ないい子←???
誤字、脱字、作者への鞭、もしよかったらお願いします。